表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
404/755

四百二話 バー

 迷宮都市で用事を済ませて、楽園に戻ってきた。今回の迷宮都市訪問はガッリ親子との決着をつけたし、マルコとキッカに体術の先生ができた。マリーさんに沢山のお酒を集めてもらう約束もした。トルクさんの宿屋がどうなるのか少し気になるけど、後半はのんびりできたし、いい感じだったな。


「それで裕太、帰ってきた早々で悪いんじゃが、酒島のことで相談がある」


 楽園に到着し、ディーネ達とルビー達に帰還の挨拶をしたら、即行でノモスが話しかけてきた。なんだか帰ってくるのを待ち構えていた雰囲気だけど、何か進展でもあったのかな?


「えーっと、ちょっと待ってくれ。ジーナ達は自由にしていていいよ。それと、ルビー達には迷宮都市で沢山食材を仕入れてきたから、あとで渡すね」


「分かった。じゃあ、あたしはシバと夕食まで部屋でのんびりさせてもらおうかな。サラ達はどうする?」


「そうですね、私もフクちゃんとプルちゃんと一緒に部屋でゆっくりします」


「おれはこうえんであそぶ」


「キッカも!」


 弟子達は簡単に予定が決まったようだ。のんびりと飛んで帰ってきたとはいえ、マルコとキッカは元気だな。


「裕太の兄貴! 食材って何を買ってきたんだぞ!」


 ルビーがキラキラした目で聞いてくる。後ろではエメ達も興味津々な様子だし、なんかプレッシャーが。


「ああ、えーっと、悪いけど特に目新しい食材はないよ。でも、沢山買ってきたから、あとで渡すね」


「ありがとう。楽しみなんだぞ!」


 目新しい物が無くても喜んでくれてよかった。帰ってくる度に、ルビー達が喜ぶ珍しい食材をお土産にするのは無理だもんな。


「ベルたちはー」


 何かを期待する眼差しで俺を見るベル達。……お手伝いがしたいのかな?


「うーん、そうだね。じゃあ、楽園の見回りと、家の掃除をお願いしようかな。できる?」


「できるー」「キュー」「がんばる」「ククー」「まかせろだぜ!」「……」


 大喜びで請け負ってくれるベル達。お手伝いがしたいってことで、間違いなかったらしい。


「じゃあ、よろしくね」


 魔法の箒を渡すと、頭を寄せ合って相談をしたあと、楽しそうに家に向かって飛んでいった。見回りは掃除のあとにすると決めたようだ。意思の統一が早くなって、集団行動が上手になっている気がする。


「ノモス、お待たせ。それで、酒島の相談って何?」


 俺としては、ようやく仲良くなれたモフモフキングダムの玉兎達に、美味しい物を貢いでモフらせてもらいたいから、簡単な相談であってほしい。


「うむ。まあ、直接見て話した方が早いじゃろう。シルフィ。裕太を酒島まで頼む」


「分かったわ。じゃあ、行きましょうか」


「えっ?」


 なんだか分からない間に体が浮かび上がり、あっという間に酒島に到着する。せめて俺が返事をするまで待ってほしいな。あっ、もう酒島にお店が……。


「もうお店を作ったんだ」


「うむ。普通の飲み屋を3軒と、裕太が言っておったバーという店。それと宿屋じゃな」


 ああ、だからオニキスも一緒に来たのか。バーに興味津々だったもんな。


「それで、相談って言うのは、このお店について?」


「うむ。普通の飲み屋の方は、問題ない。まあ、出せるのは儂等が作ったエールだけじゃがな。問題はバーと宿屋の家具なんじゃ。バーは聞いた話を再現してみたんじゃが、よく分からん。それと木製の物や食器の類は問題ないんじゃが、布が関係するベッドやソファーは、儂等が作るよりも人が作った方が物がいいでな」


 ようするに、バーの確認をするのと、ベッドとかを仕入れてくればいいってことだな。ベッドやソファーに関しては、シルフィ達の家具を注文した時に一緒に注文しておけば、手間が省けたから、ちょっと残念だ。


「分かった。家具は俺がなんとかするよ。次に迷宮都市に行った時でいいよね?」


「うむ、それで問題ない。では、バーを確認してくれ」


「分かった」


 お店の材質は、楽園でノモスやシトリンに作ってもらった家と変わらない。おそらく土や岩を固めて作ったんだろうな。


 バーの外観は飲み屋と違って窓がほとんどない。俺が薄暗い雰囲気って言ったから、その影響だろう。あとは、重力石の酒島に土やら岩は無いのに、どうやってここに店を建てたのかが気になる。

 

「ねえ、ノモス。このお店を作った素材はどこから持ってきたの。わざわざ下から運んできた?」


「ん? ああ、下で店を作って、ここに持ってきたぞ」


 なんてことないように言っているけど、人がやろうとしたらかなり大変なことだよね。精霊ってハンパない。まあ、今更驚くようなことでもないので、バーの扉を開けて中に入る。


 ……普通に扉を開けたけど、木の扉がスルっと軋み一つなく開いた。作ってくれたシドさん達には悪いが、俺の家の扉も、ノモス達に作ってもらおうかな?


「裕太、どうしたんじゃ?」


「いや、なんでもないよ」


 今でも不便って訳じゃないし、壊れたら作ってもらう感じでいいか。さて、中を確認しよう。


 ……明らかに拘りが違う。重厚な木製のバーカウンターや木製の椅子は、高貴さすら感じるんだけど、どういうことなの?


「ねえ、ノモス。バーカウンターや椅子に使われている木って、普通じゃないよね?」


「おお、よく分かったな。裕太がバーカウンターは店の顔だって言っておったじゃろ。じゃから、ちょいと拘ってみたんじゃ。いい出来じゃろ?」


 拘り過ぎなんじゃなかろうか? たしかにバーの漫画でそんな言葉が書いてあったから伝えたけど、俺が思っていたのと違う。


「なんの木を使っているの? 普通の木じゃないよね?」


「うむ。凄いんじゃぞ。元々は特別な木ではなく、そこら辺に生えている普通の木じゃったが、聖域で万の時を重ねたことで、自らの格を上げた大樹じゃ」


 普通の木だったんだけど、万の時を生きたから、凄い木になったんだよってことか。たしか縄文杉とかでも何千年だったよな。テレビでしか見たことがないけど、凄そうな雰囲気を漂わせていた。


 その縄文杉でさえ何千年なのに、このバーカウンターに使われている木は万の時を重ねているらしい。バカじゃないの? 常識って大事なんだよ?


「そんなすごい木を材料にしたら駄目じゃないのか?」


「ん? まあ、すごい木ではあるが、長生きしておるから大きいんじゃ。手入れの時に落とした枝で作ったんじゃが、まだまだ腐るほど残っておる。家具に使う分には問題ないわい。実際に手入れをした後の木は、大半が土に還っておるしな」


 ……そっか、大樹だもんね。大きいよね。剪定しただけで腐るほどの木材が手に入って、実際に腐らせているんだね。ドリーも微笑んでいるし、本当に問題はないんだろう。でも、マリーさんが聞いたら、血の涙を流しそうな話だな。


 ノモスと話していると、クスクスとディーネの笑い声が聞こえた。


「ディーネ、どうしたの?」


「ぷふっ、だってノモスちゃんが自慢げなのが、お姉ちゃん、面白くって……」


「何が面白いんだ?」


「だって、ノモスちゃんがバーを作って、駄目だしされて、結局内装はドリーちゃんが作ったのよー。なのに、ものすごく自慢げなんだものー」


 ……あぁ、ノモスに美的センスを期待したら駄目だったな。でもディーネ、そこは触れないのが優しさだと俺は思うよ? まあ、ディーネにノモスをからかうような悪意はまったくなさそうだけど……悪意が無くてズバッと言っちゃうから厄介でもあるよね。


「ま、まあ、木の話は後でいいじゃろ。それよりもバーとはこれでいいのか?」


 ノモスがディーネを無視して話を続ける。大丈夫。俺も美的センスには苦労しているから、ツッコんだりしないよ。


 しかし、バーとはこれでいいのかって言われても……もうすでに、バーカウンターの時点で、俺が知っているバーとは違うよ。日本にある最高級のバーでも、これだけのバーカウンターは使われてないんじゃないか?


「……えーっと、内装に関しては大体がバーっぽいかな? でも、光がちょっと違うね」


 バーカウンターに気を取られていたけど、内装を確認すると、古くて渋いタイプのバーが結構忠実に再現されている。俺の話でここまで再現できるのは素直に凄いと思う。


「む、しかしこれ以上光量を下げてしまっては、暗過ぎるんじゃないか?」


「あー、なんて言えばいいのか、間接照明?」


「間接照明?」


 間接照明ってどう説明すればいいんだろう?




「ふむ。直接光を当てるのではなく、壁などに光を反射させ、柔らかな光を作り出すんじゃな。なかなか面白そうな発想じゃわい。こんな感じか?」


 さっそくノモスが板を手に取り、光球を間接照明風にアレンジする。一生懸命に説明したけど、ちゃんと伝わったようでよかった。ノモスも美的センスはなくても、こういう感覚を掴むのは上手だよな。


「うん、そんな感じだね。それをもっと目立たない場所でやって、雰囲気をよくするんだ」


「なるほど、たしかに直接光が当たるよりも、暗い雰囲気を生かすにはピッタリじゃわい。さっそく……まあ、あれじゃ、だれか間接照明の配置をやってみるか?」


 ノモス、さっそく自分で改修しようとして、あきらめたんだな。偉いよ。今晩は沢山飲もうな。


「ふふ、じゃあ私が。闇と光の新たな可能性だから、とっても興味深いわ。光源を隠しつつ、ある程度の明るさを確保するのよね」


「うむ、それならお主に頼む」


 オニキスは間接照明に興味を引かれたようだ。新たな可能性って言っていたけど、間接照明の考え方が無いのなら、たしかに新たな可能性だよな。思ってもみないところで知識チートをしてしまった。


 オニキスは今から間接照明に取り掛かるようなので、邪魔にならないように外にでる。意見を求められても困るから、速やかに脱出するのが正解だろう。


「裕太ちゃん、これからどうするのー?」


「ん? 残りの飲み屋は確認しなくてもいいのか?」


「んー? ノモスちゃん、どうなの?」


「飲み屋は、この世界の一般的な飲み屋から作る予定じゃから、内装の確認はいらん。バー以外の裕太の世界の飲み屋は、あとのお楽しみじゃな」


「だそうよー」


 だそうよーって言われても、あとのお楽しみとか言われると、結構プレッシャーなんだけど。……キャバレーとか駄目だよね?


「分かった。考えておくけど、あんまり期待しないでね」


「それで、裕太ちゃん、どうするのー」


 そういえばこれからどうするかだったな。夕食まではまだ結構な時間があるし、少し休憩したいな。


「ちょっと休憩したいね。ああ、そういえば浮島でお茶会ができるように家具を買ってきたから、のんびりお茶会をしようか。ローズガーデンの方はジーナ達が居る時がいいから、精霊樹の方でお茶を飲もう」


(ふふ、それだと大喜びしますね)


「ん? ドリー、何か言った?」


「いえ、なんでもありません。浮島でのお茶会、楽しみです」


 ドリーが何か言っていた気がしたけど、勘違いかな? まあ、ドリーが変なことを言う訳もないし問題ないか。


読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ついに精霊樹の精霊が!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ