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四百一話 一足違い

 明日、楽園に帰るので、メルやマリーさんに挨拶したり、シルフィ達の家の建築状況を確認したりしたあと、リーさんに挨拶するために冒険者ギルドに向かった。訓練場に到着すると、キッカがリーさんと組手?をしていて、マルコは訓練場の端っこで体力を搾り取られて倒れていた。


「キッカ、大丈夫?」


「……うん」


 リーさんとの組手で疲れ果てたキッカに声を掛けると、荒い息の合間に、なんとかか細い声で返事を返してくれた。本当に体力の限界まで挑んでいたんだな。でも、肉付きもよくなったし、これだけ限界まで動けるようになったのはいいことだよな。スラムにいた頃はガリガリだったけど、子供の回復力は凄い。


「それならよかった。俺は少しリーさんとお話をするから、マルコと一緒に休んでおいてね」


 キッカを抱っこして、マルコの隣に横たえる。マルコもだいぶ回復しているし、キッカのことは大丈夫だろう。


 さて、マルコとキッカ、あと、いずれはジーナとサラも訓練に合流する予定だし、リーさんとこれからの訓練について話し合っておかないとな。ちゃんとしておかないと、迷宮都市でのジーナ達の予定が、訓練で埋まってしまう気がする。




「ふむ……そうなると、迷宮都市に居る間に、1日から2日程度しか訓練の時間が取れんな。それでは訓練時間が足りんのじゃが?」


 だよね。でも、ジーナ達も迷宮の40層近くまで進めるから、奥まで行くと、時間がなくなるんだよな。迷宮都市の滞在日数を伸ばすことも可能だけど、10日くらいで交互に行き来する感じが丁度いい気もするんだよね。


「では、迷宮都市に訪問する時に、迷宮探索に力を入れるのと、訓練に力を入れるのを交互にするのはどうですか? 色々と予定外のこともありますので、おおまかにって感覚になると思いますけど……」


「むぅ……集中したほうがいい訓練になるんじゃが、まあ、今のところ精霊術師が本分じゃし、儂がわがままを言う訳にもいかんか。じゃが、迷宮都市に居ない場合でも、体術の訓練をする時間は確保してほしいぞ」


「分かりました。迷宮探索中はお約束できませんが、それ以外ではしっかりと訓練の時間を確保します」


 楽園に居る間は、結構自由な時間はあるから、余裕をもって訓練できるだろう。


「うむ。それで結構じゃ。ならば、ここにおらぬ間の訓練方法もしっかり仕込んでおかんとな。今日はまだ儂が鍛えてもええんじゃよな?」


 まだ続けるの? いや、最近は暗くなる前まで訓練して帰ってきているから、普段通りなんだろうな。キッカも、話している間に落ち着いたみたいだし、ヴィータもついている。大丈夫だろう。


「はい。ですが、程々にお願いしますね」


「分かっておる。まだまだ子供なんじゃ。十分に注意しておる。ではな!」


 颯爽と手を振ってマルコとキッカのところに向かうリーさん。やる気満々だな。まあ、なんとか、お互いに落としどころが見つかってよかった。


 迷宮を契約精霊と攻略するのも、体術の訓練も、ジーナ達にはいい経験になるから、頑張ってもらおう。あとは、2つがどっちつかずになって、中途半端にならないように注意しないとな。


 あとやることは……トルクさんのところで料理を受け取るのは明日の朝だし、いま泊まっている高級宿の料理を受け取るのは今晩だから、もうやることはないな。なら、今日は夕食までベル達と一緒に迷宮都市をお散歩するか。たぶん屋台巡りになるんだろうけど、それはそれで楽しいよな。


 ***


「女将。精霊術師の裕太という人物が、ここを定宿にしているはずだが、今、ここに泊まっているのだろうか?」


「ん? なんだいあんた。裕太の知り合いかい? あの子は色々と面倒な事情があるから、簡単に行動を教える訳にはいかないよ」


 裕太殿は宿の女将にまで、面倒な事情を抱えていることを知られているのか? いや、王都での騒ぎの前に、迷宮都市で騒ぎを起こしていたんだったな。


「むっ、そうだったな。私は国家精霊術師のバロッタという者だ。裕太殿とは一度面識がある程度だが、今回は王の勅命により、裕太殿に会いにきた。ここに泊まっているのなら、呼んできてほしい」


「王様の勅命だって! ちょ、ちょっと、裕太は何をやらかしたんだい!」


 王の勅命と伝えただけで、裕太殿がやらかしたと判断するとは……裕太殿の普段の生活はどうなっているのだ? 前回会った時に、くれぐれも挑発的な行動は慎むように伝えたが、無駄だったようだ。


 いや、ちゃんと伝わっていたのなら、いくら弟子が狙われたからといって、王都の貴族街であれほどの騒ぎを起こすことなどないな。そして、私が派遣されることもなかっただろう。


「すまぬが、王の勅命に関係する話だ。話す訳にはいかぬ。それで、裕太殿は泊っているのか?」


「あー、そうだったね。ぶしつけな質問をして悪かったよ。……いえ、王様の使者様に失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした」


「うむ、今回は内密での勅使ゆえ、気にせずともいい。ただし、貴族の中には無礼だと騒ぎたてる者もいるだろう。偉そうな者には、できるだけ気をつけることだ」


 この人のよさそうな女将に、恐縮させるのは心が痛むが、もし、勘違いをした貴族が、裕太殿の定宿の女将を傷つけたら、再び王都が混乱するかもしれぬ。忠告だけはしておくべきだろう。


 まあ、現在、陛下が大ナタを振るわれ、大混乱の真っ只中だが、これでしばらくは裕太殿に余計なちょっかいを出すものは現れないだろう。しばらくの間で、永遠にと断言できないのが頭が痛い話だな。


「はい。申し訳ありませんでした」


「うむ。それで、裕太殿は泊っているのか?」


「いえ、今回は宿が満室で、裕太は別の宿に泊まっていました。それで、今朝早くにうちの宿で料理を受け取って、迷宮都市を発ちました」


 今朝早く、迷宮都市を発った?


「それでは、裕太殿は迷宮都市におらぬと? どこかに寄って、まだ迷宮都市に居る可能性はないか?」


「そこまでは分かりません。ですが、もう昼を過ぎていますし、迷宮都市に居る可能性は低いと思います」


 馬を飛ばしてきたのだが、一足違いだったか。ガッリ侯爵家の跡地に、なぜか泉が湧き、花が咲き誇っていなければ、もう少し早く来られた。精霊術が使われた可能性が高いと、調査に駆り出されたのは、裕太殿の時間稼ぎか?


 いや、さすがにそれはないだろう。逃げるのであれば、王都での騒ぎのあとに、素早く身を隠せば済む話だ。わざわざ今朝出発する必要はない。


「次にいつ迷宮都市にくるか、裕太殿から聞いているか?」


「いえ、ただ料理を受け取っただけで、いつ来るかまでは聞いていません」


「そうか。だが、裕太殿は定期的に迷宮都市を訪れると聞いている。だいたい10日前後で再び迷宮都市に戻ると聞いているが、それで間違いはないか? なに、女将の心配は分かるが、問題が起こるようなことはないゆえ、心配する必要はないぞ」


 ただ、下賜された短剣の使い方と、陛下からの小言を伝えるだけだ。こちらから罰を与え、裕太殿に国を去られては、どれだけの損害がでるか……。


 小言を伝えるにしても、細心の注意を払わねばならぬのが厄介だ。だからと言って、こちらがなにも言わない訳にはいかない。静観して、次に王都が滅びでもしたら……。短剣の使い方を伝えるだけであれば、どれほど気が楽だったか。


「……はい。ですが、確実に10日後に来るとは……何日もズレると言うこともよくありますので……」


「ああ、そこら辺は大丈夫だ。では、部屋を1部屋用意してくれ。裕太殿が来るまで宿泊する」


「あの、この宿は中級の宿屋ですので、王様の使者様の格式にあった部屋をご用意するのは……」


 ふむ、たしかに陛下の使者である私が、中級の宿に泊まるのは外聞が悪いし、この宿にも迷惑をかけてしまうが、今回の場合はここに泊まるべきだろう。


 普通なら別の宿に泊まり、裕太殿が迷宮都市に来た時に会えばいいのだが、裕太殿の場合は、私が来ていると知ったら、面倒に思って迷宮都市から逃げ出す可能性がある。だが、ここに泊まっていれば、宿にとっても迷惑であるし、裕太殿も逃げることはないだろう。


「なに、今回は内密の使者ゆえ、部屋のランクなど気にしなくていい。それと、裕太殿が来るまでは、私を使者として遇する必要もない。今から一般客と同じ扱いにしてくれ」


 と言っても簡単に切り替えるのは無理であろうな。難しいことを頼むが、こらえてほしい。


「そうかい? まあ、それでいいなら助かるよ。堅苦しいと肩がこっちまうからね。でも、あいにく今は部屋が空いてないんだ。明後日の朝、1部屋空くから、それでいいかい?」


「あ、ああ、では、明後日、よろしく頼む」


 ……普通に切り替えられたな。こういう場合はもっと躊躇うのではないか? なるほど、裕太殿のようなトラブルメイカーを受け入れるだけあって、この女将も普通ではないのかもしれぬ。


 まあいい、明後日からはここで厄介になるのだ。変にぎこちなくなってしまっては、他の客に迷惑を掛けることになる。


 さて、伝えることは伝えた。王都から急いだので疲れも酷い。早く宿を取ってゆっくり休むか。しかし、できればすぐに裕太殿に会いたかった。裕太殿に会うまでに、時間が掛かれば掛かるほど、憂鬱な任務で私の胃にダメージが……。


 ***


 裕太、今度は何をやったんだい? 冒険者用の宿屋に王様の使者が泊まるって尋常じゃないよ。


 こういう場合はどうしたらいいんだろうね。うちの旦那も、さすがにお貴族様が相手じゃあ分が悪いだろうし、ポルリウス商会のお嬢さんか、冒険者ギルドにでも相談しておくかね?


 あっ、内密の使者だって言っていたね。そうなると、簡単に事情を説明して相談ってのも問題があるかもしれないね。冒険者ギルドだと大事になりそうだし、ポルリウス商会のお嬢さんに、裕太が何をしたのか聞くだけにしようか。


 それでも、あのお嬢さんなら、なにかが起こっているかくらいは感じ取るさ。裕太のおかげで大儲けしているらしいし、たぶん、裕太を守ってくれるはずだよ。ふう、宿屋の増築の件もあるのに、また忙しくなりそうだね。


大変ありがたい事に、精霊達の楽園と理想の異世界生活の、書籍とコミックの2巻を出して頂ける事になりました

コミックスが5月24日の金曜日に、書籍が5月30日の木曜日に発売予定となっております。

詳しい話が分かりましたら、改めて活動報告等で報告させて頂けたらと思います。

書籍やコミックを購入してくださった皆様、応援してくださっている読者の皆様ののおかげで続きを出すことができました。

本当にありがとうございます。


読んでくださってありがとうございます。

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