三十八話 確認作業
何となく始まったジェネラルゾンビとの議論。生きている人間として、知性があるとはいえ脳ミソが腐ったゾンビに負ける訳にはいかない。必ず勝つ。
「お前はこの地が死んでいると言ったな。確かに現在はその通りだ。だが、だからと言って蘇らない訳じゃない。大地は不滅なのだ。その大地を汚し復活を妨げているお前達が、この地を正常に戻そうと活動する俺に対して意見を言うなど百年はやい。生まれ変わって出直してこい」
完璧だ。しかもゾンビに対して生まれ変わって出直して来いとか、秀逸な事を言っちゃったよ。反論できまい。
「レベル上げの為に来たって言ったよな? いつの間にこの地を正常に戻す為になったんだ?」
……言った気がする。受け身になったら駄目だ。強気で相手を追い詰めないと不利になるだけだ。
「レベルを上げてこの地を正常に戻さねばならんからな。スケルトンキング。リッチ。キングゾンビ。様々な強敵がいる。レベル上げは当然の行為だ。そもそもお前は俺に知性が芽生える可能性を摘むのかと言ったな?」
「ああ、長い時を共に過ごし、進化を待っていた仲間をお前は無残に叩き潰した。誰にも迷惑を掛けずジッとこの洞窟に籠っていたあいつらを、お前は叩き潰したのだ」
「ふはははは。しょせんお前は魔物だという事だ。お前はその知性が芽生えるかもしれない仲間を肉壁にして、自分の身を守ろうとした。仲間だなんだと言いながらも、お前は結局仲間の事なんてどうでも良かったんだ。自分が一番大事だった、そうだな?」
「違う。あいつらは俺を守る為に自ら犠牲になったのだ。勇敢な者達だった」
「敵だ。防げ。俺が攻め入った時、貴様はそう言った。そして肉壁が無くなりかけるまで、貴様はただ様子を見ていただけだ。自分の身が危うくなったから慌てて声を出したんだ。そうだろ?」
「そんな事は無い。私は勝てると信じていたのだ。仲間を信じていたのだ」
なんかだいぶ優勢になった気がする。このまま力尽くで押し通そう。細かい理論よりも勢いだ。
「それにしては判断が遅すぎるんじゃないのか? 簡単に仲間が吹き飛ばされていたんだ。どうしようもないのは直ぐに分かったはずだ。普通ならもう少し早く止めるか。自分の身を犠牲にしてでも助けようとしたはずだ。仲間なんかどうでも良かったんだな? 良かったなまだ生きていて。いや、お前はもう死んでいるんだったな」
「違う。俺は間違っていない。俺が倒されれば誰があいつらを導くんだ」
もしかして、ちゃんと仲間の事を考えて導いてたりしたのかな? ……いや、駄目だ。惑わされるな。相手はゾンビ。絶対に負けられない。
「違わない。お前は間違った。未だに仲間の陰に隠れて姿も見せないお前が仲間の為? 導く? お前一人になって誰を導くんだ? ぷぷ。妄想ですか?」
「違う。違う。違う違う違うーーー。お前達、あいつを殺せーーー」
あっ、切れた。これで俺の勝ちだよな。切れたジェネラルゾンビの命令で、バラバラに突っ込んで来たゾンビ達を薙ぎ払い、一気に接近してゾンビメイジとゾンビアーチャーを潰す。
最後に切れたジェネラルゾンビが、剣を振りかぶって突進して来たので叩き潰す。これで俺の完全勝利だ。残りのゾンビ達を倒して、我慢してジェネラルゾンビから魔石を取る。
嫌悪感に何度も洗浄を繰り返す。ふー、他の魔石に比べると結構大きいな。知性に目覚めたからか? まあ、見ていて気持ちの良い物じゃない、さっさと収納して外に出よう。臭いを我慢するのももう限界だ。
***
外に出て、自分の体に洗浄を連打する。何時まで経ってもこの臭いには慣れないな。
「裕太。何してるのよ。まるであなたの方が悪役だったわよ」
「あくやくー」
「キュー」
「ちょっと、ひどい」
ベル達がメッって感じで叱って来る。シルフィはともかくベル達の言葉に心底焦る。言い訳しないと。
「良いかい。ベル。レイン。トゥル。よく聞いて。あの戦いは人間の尊厳を掛けた戦いだったんだ。酷い事なんて無いんだよ」
「そんげんー?」
「キュー?」
「ひどくない?」
良く分からないのか、コテンと首を傾げている。可愛い。
「そう。尊厳だよ。人間がゾンビに言葉の応酬で負ける訳にはいかないのは分かるね。だから俺は全力で戦った。相手も全力で戦った。これは対等な勝負で酷い事なんて何もないんだよ。わかった?」
……ウンウンと腕を組んで考え込んでいるベル達を固唾を呑んで見守る。って言うかレインはどうやってヒレを組んでるんだ?
「わかったー」
「キュー」
「うん」
ふいー、なんとかなった。この子達が戦いを見ている事を忘れないようにしないと。いずれ嫌われてしまいそうだ。冷汗を拭っているとシルフィが呆れた顔で近づいて来た。
「裕太。今度から、アンデッドと言い合いをしないで、問答無用で戦いなさい。ちょっと言いくるめられそうになってたでしょ」
うぅ。見抜かれてるな。あの状況で相手がゾンビじゃ無かったら、納得して帰って来てた気がする。なんか俺が悪いのかもとか思ったもん。
「今度からそうするよ。でも、良い魔物とか居ないのかな? 途中までは本当に話せば分かる相手かもって思ってたんだけど」
「魔物を従える人もいるし、スキルもあるわ。だから全ての魔物を問答無用って訳にはいかないけれど、今回みたいにいちいち話を聞いてたらいずれ命を落とすわよ。基本的に魔物は殲滅。良いわね」
「分かったよ。今後は問答無用で魔物と戦うよ」
「それが良いわ。それで少しは移動する時間があるけど、今日はもうここで休む?」
「んー、そうだな。ちょっと疲れたから今日はもうここで休むよ。あの穴をトゥルに潰してもらってからご飯だな。トゥル。いつもより大きい空間だけど潰せるか?」
「……だいじょうぶ。できる」
「それじゃあ頼む」
トゥルが穴に近づき魔法を使うとモコモコ土が動き出し、穴に流れ込んで行く。魔法って便利だよね。最初に巣穴を埋める事にした時は、何も考えずにハンマーで叩いて崩落させたりしてたんだけど、トゥルがやってくれるようになってから、綺麗に始末できるようになった。
「トゥル。ありがとう」
頭を撫でると目を細めて喜ぶトゥル。寡黙な少年も皆と居る事に慣れたのか、少し表情が豊かになっている。良い事だ。
まあ、一番の功労者は此処に居ないタマモなんだけどね。タマモの魅惑の毛並みはトゥルの心をとらえて離さないようだ。タマモを抱えて優しく撫でている姿を見ると、何だかホッコリするんだよね。
魔物の巣を潰した後、移動拠点を出して早めの夕食にする。夕食はいつもの魚介類だが、昨日から増えたオイルリーフの存在がありがたい。
ベル達の口には合わないようで、俺だけしか食べていない。健康の為にお野菜も食べなさいは、精霊に通用しないからな。
「ゆーた。おやさいおいしい?」
俺がニコニコしながらオイルリーフを摘まんでいると、興味を持ったのかベルが聞いて来た。本当に美味しいと思っているのか疑問の様だ。苦いって嫌ってたからな。
「美味しいぞ。俺も野菜はそんなに好きじゃ無かったんだが、いつの間にか好きになってた。ベルも大きくなったら好きになるかもな」
魚を片手に首を捻っているベル。本当に好きになるのかが心底疑問のようだ。レインもトゥルも野菜に見向きもしない。外見が幼いと舌も子供なんだろう。
夕食を終えて、シルフィと今後の予定を話し合いながら、夜の空を飛びまわっているベル達を見つめる。暗闇の中、月明かりに照らされた幼女とイルカと少年が楽しそうに空中で鬼ごっこをしている。ファンタジーだ。
「シルフィ。リッチはどんな相手なんだ?」
ジェネラルゾンビを倒した事でようやくリッチに意識が向いた。テンプレ通りの存在なのかな?
「うーん。魔法に強い執着をもった実力がある魔術師が、アンデッドになるとリッチになる事があるわね。知性もあるし、魔法に拘りが強いからいろんな魔術を使って来ると思うわ」
物理特化の俺に対して、あまり嬉しくない相手だな。
「俺がそのまま突っ込んで行って勝てるか?」
「当たれば一撃でしょうけど、当たらないと厳しいわね」
ヤバくね? 知性がある相手には、ただハンマーを振り回していても駄目だって今日の戦いで分かった。しかも魔法が得意って面倒だよね。
「今のままでの戦い方では駄目って事だよな。何かアドバイスを貰えるか?」
「裕太は精霊と契約を結んでいるのよ。精霊に頼り過ぎないって気持ちは大事だけど、ちゃんと精霊の力も生かしなさい。そうすれば十分に余裕をもって勝つ事が出来るわ」
ベル達に力を借りるのか。……要所要所でベル達の力を借りる……上手く行くかな?
「うーん。どうすれば良いのか……」
「もっとベル達に色々話を聞いて見なさい。あの子達はまだまだ色々な事が出来るわよ」
ふむ。コミュニケーションは十分に取ってたつもりだけど……よく考えたら戦いに関しては戦闘の時に、簡単な魔法を見せて貰っただけだな。ベル達と色々話をして戦いの幅を広げる事が重要か。
「シルフィ、ありがとう。色々と話し合ってみるよ」
まずは今回の戦いでステータスがどうなったのかを把握しよう。出来る事を確認して作戦会議だ。
名前 森園 裕太
レベル 36
体力 B
魔力 C
力 C
知力 B
器用 A
運 B
ユニークスキル
言語理解
開拓ツール
スキル
生活魔法
ハンマー術
夜目
……おっ。レベルが三十六になってる。コツコツと魔物の巣を潰して、三十三になってたから、三レベルアップ。ジェネラルゾンビを倒したうえに、大量にゾンビナイトやゾンビソルジャーを倒したからな。
小さい巣だとゾンビナイトとか殆どいない。シルフィが言った通り大きな巣は効率が良いんだな。でも魔力ランクは上がってない。ここで上がっていたら楽だったんだけど……。スキルも増えていないし。まだまだだな。
ベル達を呼び寄せて、出来る事を確認する。あんまり詳しく聞いてもよく理解していないようで、おおまかなイメージを伝えて、出来るか出来ないかの確認作業になった。
なかなか難しいな。漫画やアニメで見た魔法や技を伝えてみたが、一つ伝えるのに結構な時間が掛かる。正直大変です。
読んでくださってありがとうございます。