二話 チートっぽい!
シルフィさんに何とかこの岩山から下ろしてもらって、人里に連れていってほしい。
「あの、シルフィ様。この子に教えて貰ったんですが。ここって死の大地と言われているんですよね。申し訳ないのですが人里まで連れていってもらえませんか?」
「様付けも堅苦しい話し方も面倒だから必要無いわよ。精霊は堅苦しいのが嫌いなの」
パタパタと手を振りながらシルフィさんが言う。なんか雰囲気が柔らかくなったな。でも馴れ馴れしくして機嫌を損ねたら最悪だ。でも堅苦しくして嫌われてもダメだ。難しい。
「ではシルフィさん。人里までお願い出来る?」
「さんもいらないわ。それで、人里まで連れて行くって話だけど難しいわ。私達は契約する事で契約者に力を貸す事が出来るの。気に入った人間にこっそりと間接的に力を貸すぐらいが限界ね。それ以外は自分達の領域を守る時ぐらいしか自由に力を使えないのよ」
あれ? じゃあ現状まだ詰んだままって事じゃん。全然ピンチから抜け出せてない。あと幼女精霊がよだれを垂らして寝ているのが気になる。
「なら俺の事は裕太と呼んでくれ。しかし魔力が足りないから契約が出来ない。契約が出来ないから力が借りられない。シルフィ、脱出するいい方法は無いのか?」
ちょっと馴れ馴れし過ぎるか?
「そもそも裕太のレベルは幾つなの? 使えそうなスキルは?」
怒ってはいないみたいだ。こんな感じで気楽に話せるのなら助かる。
「レベル? スキル? どうやって確認するの?」
シルフィが呆れた視線を向けてくる。何かおかしな事を言ったのか?
「ステータスを見れば分かるでしょ? あなたいったいどんな生活をしていたの?」
ステータス……おうふ。一番のテンプレを忘れていた。まっさきに確認しないとダメだよね。
「あー。自分のステータスを見た事が無いんだ。気が付いたらここに居たんだけど、違う世界から転移して来たんだと思う。俺がいた世界にはステータスやレベル、スキルとか無いんだ」
「あら……あなた迷い人だったの。本当に珍しいわね」
興味津々で見つめてくる。風の精霊は好奇心が旺盛っぽい。
「やっぱり珍しいんだ。ちなみにだけど戻る方法が分かったりする?」
正直異世界での冒険にもワクワクしているけど、心配をかける人達が居る。理想を言えば自由に日本と異世界を行き来したい。
「ごめんなさい。迷い込む人が居るのは知っているけど、どうして迷い込むのか、元の世界に戻れるのかは全く分からないわ。それに残念だけど元の世界に戻れたって話も聞いた事が無いわね」
やっぱり簡単には戻れそうにない。両親には心配を掛けてしまうな。兄貴と姉がカバーしてくれると良いんだけど。
会社は無断欠勤でクビ。家族や友人にも二度と会えないかもしれない……いかん深く考えると泣きそうだ。どうしようもないんだ。深く考えずに先送りにしよう。考えるだけ辛いだけだ。……でも戻れないのは俺のせいじゃないし、精霊が居るファンタジー世界。楽しむしかないんじゃなかろうか。
「しょうがないか何となくそんな気はしてたんだ。それで、ステータスはどうやって見るの?」
「自分の能力を確認したいと思いながらステータスって言ってみて。それで自分の能力を確認出来るわ。アドバイスが欲しいなら私にも見えるように許可を出せば良いわ」
「了解。なんか恥ずかしい事が書いてあったら嫌だから、まずは自分だけで見てみるよ」
「ステータスに恥ずかしい事なんて書いてないと思うけど、まあ分かったわ」
能力を確認したいと思いながらステータスと呟く。目の前にステータス画面が……ゲームの世界だな。
名前 森園 裕太
レベル 1
体力 F
魔力 F
力 E
知力 C
器用 C
運 B
ユニークスキル
言語理解
開拓ツール
スキル
生活魔法
なんだこれ、良いのか悪いのかさっぱり分からん。運が一番高いのか? ユニークスキルは良いスキルだよな。普通のスキルは生活魔法か。生活って付いているから強力な魔法ではなさそうだけど、魔法が使えるってだけでテンションが上がるな。
ユニークスキルの言語理解は分かるけど、この開拓ツールってなんだ? 開拓ツールの所をポチっと押してみる。あっ開いた。ステータス画面って触れるんだ。
開拓ツール
魔法の鞄 魔法のオノ 魔法のノコギリ 魔法のシャベル 魔法のハンマー 魔法のトンカチ 魔法のバールのようなもの 魔法のサバイバルナイフ 魔法のカンナ 魔法のノミ 魔法のハンドオーガー 魔法のクワ 魔法のスキ etc.
ズラズラっと出て来たな。全部確認するのも大変そうだな。取り敢えず魔法の鞄を押してみる。
魔法の鞄
どんな荷物もこれにお任せ。重たい荷物も手を触れるだけで瞬間収納。容量無限・時間停止機能付き! 持ち手に重さを感じさせません。
おお、チートっぽい。ゲームのアイテムボックスみたいな奴か。説明文が深夜の通販番組みたいだな。あれ? これを使えば冷凍食品が助かる。どうやって使うんだ? えーっと、意識して取り出そうとすれば出てくるのか。しまうのは逆だな。
魔法の鞄を取り出すように意識すると、肩掛け鞄が装着状態で出てきた。うーん便利なのか? いや詳しい事は後だまずは冷凍食品を救わなければ。
「どうしたの?」
突然動き出した俺にシルフィが声を掛けてくる。彼女の指先が眠っている幼女精霊のホッペをつついたままなのが何かシュールだ。
「ちょっと待ってて。取り敢えずあの荷物が収納できるみたいだから収納してみる」
いうだけいってカートに近寄り手を触れる。収納と念じると一瞬でカートが消えた……収納できたらしい。鞄に触れると中に入っている荷物の一覧が、ステータス画面のように目の前に出てくる。便利だな。
スマホとタブレットも入れておくか。時間停止しているなら充電も減らないだろう。なんとか充電する方法を見つけたい。そうすればスマホやタブレットに入っている電子書籍やアニメ、映画、音楽が楽しめるようになる。ネットにつながれば最強なんだけどな。
鞄は何の皮か分からないが、頑丈そうな茶色の皮の肩掛け鞄だ。結構好きなデザインで良い感じだ。俺の好みに合わせてあるのか?
「へー。収納できるスキルがあったのね。結構レアなのよ。良かったわね」
「ああ、食料が悪くなりそうだったから、時間停止機能も付いていてかなり助かったよ」
「時間停止……裕太、時間停止の事は内緒にしておきなさい。人の国では同様の魔道具で時間の流れが緩やかになるだけで国宝クラスよ」
……チートだとは思っていたけど、予想以上のチート機能らしい。
「分かった。ちなみに容量無限らしいんだが、そっちはどうなんだ?」
「そうね時間停止と容量無限の二つを合わせると、おとぎ話の世界ね。ばれたら大変だから考えて使いなさい」
おとぎ話の世界……ファンタジーな世界のおとぎ話って凄そうだな。
「気を付けるよ。まあ、気を付ける相手がいる人里に辿り着けないと意味が無いけどね」
鞄の能力なんて普通に少し注意していればバレっこないんだ。大丈夫だろう。
「そうだったわね。それで人里に辿り着けそうなスキルは有ったの?」
「あっ、まだ全部確認してないんだ。もう少し待ってもらえる?」
「うーん。ちょっと退屈だから急いでね」
「了解。恥ずかしい事は書いてなさそうだったから、アドバイスも欲しいし一緒に見てみる?」
「良いわね。異世界人のステータス、面白そうだわ。さっそく確認しましょ。アドバイスは任せなさい」
風の大精霊シルフィ。最初は綺麗でカッコいい女性だと思ったけど、イメージが段々崩れてきたな。中身は少し子供っぽい気がする。
「レベル1……本当に異世界人なのね」
「疑ってたの?」
「疑ってた訳じゃないけど、実際に見ると驚きなのよ。この世界だと小さな子供でもレベル三はあるのよ。大人の裕太がレベル一。人里に行ったらステータスが確認されるから、少しはレベルを上げておかないと怪しまれるわね」
小さな子供でもレベル3なのに、二十五歳な俺がレベル1。怪しさ満載だな。
「レベルってどうやって上げるんだ? あと俺のステータスって実際のところどうなの?」
「レベルは魔物を倒せば上がるわ。でもスキルを覚える為には訓練が必要だから、両極端にならない方が良いみたいね。裕太のステータスは……運は別として知力と器用以外はお子様並ね。まあレベルを上げるとある程度は上がるから大丈夫でしょう」
魔物も居るのか。俺のステータスだとかなり危険な気がする。何せ小さなお子様クラスだからな。生き残れるか不安になってきた。
「能力の上昇が途中で止まったりするのか?」
シルフィに聞いた話を纏めると。苦手な項目は上昇が緩やかだったり、成長が止まったりする事もあるらしい。表示されるランクはFが最低でSSSが最高らしい。
ちなみにシルフィと契約するには最低でも魔力がBランクは必要らしい。最低限までおまけしてもらってもBランクが必要らしいので、大精霊って凄いっぽい。
幼女精霊と契約するなら、魔力Dでも何とかなるらしい。精霊との親和性が低く気配を感じられるぐらいの状態だと、魔力Bでも下級精霊との契約に苦労するらしい。なんか調子に乗ってしまいそうだ。
「なあ、ユニークスキルはどうなんだ? 俺の中では珍しい印象なんだが」
「そうね。言語理解の方は学者でも似たようなスキルを獲得できるけど、この開拓ツールっていうユニークスキルは凄いわね。一つのスキルにこんなに不思議な道具が詰め込まれているなんて聞いた事無いわ」
だよね。いくつか確認してみたけどふざけた性能だった。
魔法のオノ
どんなに固く大きな木でも大丈夫。こつんと当てるとスパっと伐採! 2メートルまで自由自在にサイズ変更。持ち手に重さを感じさせません。
魔法のノコギリ
石材・木材の加工はこれにお任せ。固い石も木材もまるでお豆腐。金属だってスッパスパ! 2メートルまで自由自在にサイズ変更。持ち手に重さを感じさせません。
魔法のシャベル
土も岩盤も何のその。どんな障害物もプリンのようにサクサク掘れる。2メートルまで自由自在にサイズ変更。持ち手に重さを感じさせません。
魔法のハンマー
破壊出来ない物は何もない、超強力なスーパーハンマー。2メートルまで自由自在にサイズ変更。持ち手に重さを感じさせません。
魔法のオノは木が無いので試せなかったが、他の道具は説明どおりの効果を発揮した。岩山が確かに豆腐やプリンのようでした。
あと持ち手に重さを感じさせません。も何気にチート性能だった。魔法のハンマーを最大の大きさにしても、何も持っていないように軽々と振り回せる。魔法のノコギリも何でもスパスパ切れるから、今なら大抵の魔物に負ける気がしない。
見た目の問題はさておき、なかなか良いスキルを手に入れた気がする。チート万歳。
読んで下さってありがとうございます。