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三百九十七話 強気なマリーさん

「ソニア! 行くわよ!」


「マリー、張り切りすぎよ。もうすぐ使いに出した従業員が戻ってくるから、それまでは、なにをどうするか考えてなさい」


 うーん、まどろっこしいわ。直接乗り込んだら駄目なのかしら? いえ、さすがに薬師ギルドのギルドマスターに、失礼はできないわね。こちらが有利であるからこそ、優雅に礼節をもって、最大限の利益を手に入れなければならないわ。


 とくに今回の話は、魔力草、万能草、神力草とは違う方向で影響力が大きいわ。王侯貴族、大商人、お金がある女性にとっては喉から手が出るほど欲しい商品が生まれる。


 ちゃんと根回しをしておかないと、国にすべてを持っていかれる可能性すらあるわ。お父様が素早く王都に根回しに向かってくれたから、大丈夫だとは思うけど、こちらも細心の注意を払っておきましょう。


 それに、裕太さんの動向がポルリウス商会の今後に大きく影響するわ。今回、ちょっと調子に乗って迷惑をかけてしまったし……。


「ねえ、ソニア。裕太さんの前で喧嘩しちゃったのは不味かったわよね?」


「ええ、不味かったわね。はしたない女って思われた可能性が高いわ」


 そうよね。ソニアとの言い合いの中で、最重要機密まで話しちゃったし……本来なら、もっと、こう、なんて言うのかしら? 大人同士の大人な関係の雰囲気が私達にはふさわしかったはずよね? なのに、あの人は可哀相な子供を見るような目で……。


「……もしかして、他に卸し先を探したりしないかしら?」


「その可能性はなくもないけど……たぶん大丈夫だと思うわ。今までの経緯から考えると、切り捨てられる時は冒険者ギルドのようにハッキリ言われると思うもの」


 ソニアの言う通り、裕太さんは敵対した相手にはハッキリとNOを突き付けるタイプだし、若返り草を卸してもらえたことを考えると、今回はまだ大丈夫と考えてもいいわよね。


「でも、ソニア……今回許されたからと言って、次も許されるとは限らないわ。より親密になるために、積極的に攻めながらも、調子に乗らないように気を付けましょう。とくに、私とソニアで争うのは禁止よ。今回は冷や汗を掻いたわ」


「そうね……親しみを持ってもらうのは大切だけれど、わずらわしく思われては駄目ね。ちょっと作戦を考え直すべきかもね」


「ええ。あら、使いが戻ってきたわね。まずは薬師ギルドで商談をまとめて、今晩、裕太さんのことを含めて、話し合いましょう」


 色々と、裕太さんに探りを入れているんだけど、あんまり欲望を表に出さないから難しいわ。


 ***


「やあ、ポルリウス商会のお嬢様が、急にどうしたんだい? もしかして、薬草を安くしてくれるのかな?」


「急な訪問を快く迎えてくださってありがとうございます。今回は薬草の値段とは、別のお話ですわ」


「そうか、それは残念だ。でも、冒険者ギルドからも薬草が卸されるようになっているんだ。少し考えてもらえると、僕は嬉しいな」


 またこの話? 相変わらずヘラヘラしながら、しつこいわね。でも、今回に限っては、その話題で入ってくれた方が、助かるわね。こんなに有利な商談はなかなかないんだから、踊らせるだけ踊らせて、あとでキッチリ首根っこを掴んでやるわ。


「あら? 冒険者ギルドも神力草に手が届きましたの? それに、品質を考えると、適正価格だと認識しているのですが?」


 冒険者ギルドの魔力草と万能草を確認したけど、裕太さんが持ってくる、高品質の薬草には到底及ばないわ。


「いや、もう少しだと聞いてはいるけど、神力草はまだだね。でも、万能草は供給が追い付いてきているし、品質に関しても効果が高い薬だから、薬草の質が多少劣っていてもなんとかなっちゃうんだよね」


 たしかに万能草はいずれ値を下げないと駄目でしょうね。でも、それは今ではないわ。神力草に関しても、冒険者ギルドが実際に手に入れるまでは強気で大丈夫ね。


「ふふ、でしたら冒険者ギルドから購入されて、足りなければポルリウス商会からお買い上げいただけましたら幸いですわ。私共も、他のお客様からも薬草を売ってくれと頼まれて大変でしたので、そちらに数を卸せるのなら、みんなが喜んで幸せですわね」


 薬師達が、冒険者ギルドの薬草に不満をもっているのは確認済みよ。まあ、冒険者ギルドが悪いんじゃなくて、裕太さんの方が異常なんだけどね。


「あはは、それは困るなー。まいった、僕の負けだ。でも、万能草に関しては、いずれ値下げしてもらわないと買えなくなるよ。あまり頻繁に使われる薬じゃないからね」


「はい、その時になったら相談させていただきます」


「うん、よろしくね。それで、今日の話はなんなのかな? 急いでいるみたいだけど、いい話だったら嬉しいな」


 ようやく本題に入れるわ。でも、今回は普通の商談をするつもりはないわ。ポルリウス商会と薬師ギルドの力関係をはっきりさせるわよ。覚悟しなさい。


「ええ、いい話だと思ってきたのですが、私共ポルリウス商会が提供する薬草の価格が折り合わなくなっているようですし、あらたな商談をお願いするのも、気が引けてしまいましたわ。残念ですが、今回は薬師ギルドではなく、国の方に相談させていただこうかと思います。薬師ギルドでも興味がおありでしたら、国からお買い求めください」


 まあ、国が簡単に手放すかどうかは疑問だけどね。国に独占させないために、お父様が動いているんだし、なかなか手放さない可能性の方が高いわね。


「ちょっと、値段交渉はいつものことでしょ。挨拶みたいなものなんだから、そんなこと言わないでよ。なに? 貴重な薬草が手に入ったの?」


「あら? 挨拶みたいなものでしたの? 私共は薬師ギルドのギルドマスターに、何度も値下げを要求されて戦々恐々としていましたのに……やはり帰らせていただきますわ」


「だから待ちなよ。君、そんなんで傷つく玉じゃないでしょ。それだけ強気ってことは、よっぽどの物を仕入れたんだね。見せてよ」


 酷い言い草だわ。この人、私のことをどう思っているのかしら?


「まあ、私、気弱でどうしようもなく震えていますのに、そんな風に思われていたなんて……もう、お嫁にいけませんわ。ソニア、帰りましょう。とっても素晴らしい商談になるはずでしたのに、残念です」


「お嬢様、お気をたしかにお持ちください。お嬢様は素晴らしい淑女です。きっと素敵な旦那様が現れるに決まっています」


 言われなくても分かっているわ。絶対に素敵なお金持ちの旦那様を捕まえるんだから。第一候補は裕太さんね。


「あーもう! そういう三文芝居はいいから、要求を言いなよ。持ってきた品物によっては、薬師ギルドがポルリウス商会の力になるから。それが目的なんでしょ。ただし、そこまで臭い芝居をしたんだ。僕が満足できる物じゃなかったら、それなりのペナルティは覚悟することだね」


「ソニア、ペナルティなどと言われてしまいましたわ。怖いですわ。どうしましょう?」


「そうですね……今回の商談は重要ですので、薬師ギルドのマスターが交代になってから、改めて商談したほうがいいと思います」


 ソニア、アドリブだからしょうがないにしても、えげつない攻め方をするわね。頼もしいわ。


「……君達、ギルドマスターの交代だなんて、ちょっと調子に乗りすぎてないかい? 僕も怒っちゃうよ?」


 いい具合にカチンときているわ。普段ならこんな商談はできないけど、今回に限ってはこれが正解よ。そろそろ仕上げましょうか。


「では、交渉は決裂ということで……残念ですわ。十分な量の若返り草が手に入ったので、商談にきたのですが、あきらめることにします。ギルドマスターの人望が、若返り草よりも勝っていること、心の底からお祈りしております」


 薬師ギルドの薬師達は研究狂い。若返り草を手に入れ損ねたって分かったら、暴動が起きるでしょうね。どうするの? このままだと、本当にギルドマスターを交代させられちゃうわよ。


「「若返り草!」」


 怒りを忘れて立ち上がるギルドマスターと、黙って部屋の隅で控えていた秘書が声を上げる。そうよね、若返り草なんて聞かされたら、そういう反応をしちゃうわよね。裕太さんに頼んだら、あっさり手に入っちゃったけど……。


「では、失礼します」


「いやいやいや、ちょっと待ちなよ。本当に十分な量の若返り草があるの?」


「あら? 交渉は決裂してしまったのに、興味がおありですの?」


「交渉が決裂したんじゃなくて、君達が決裂させようとしてるんだよね。さすがにそれはずるいんじゃないかな? 本当にギルドマスターを交代させられちゃうよ」


「若返り草がギルドマスターのせいで手に入らないのであれば、それなりの対応をすることになりますね」


「ちょっと、今の君は薬師じゃなくて秘書なんだから交渉に口出ししないでくれる」


「冒険者ギルドのギルドマスターも交代されましたし、そろそろ薬師ギルドも新しい風が必要かもしれません」


 秘書だったはずの男性が、こちらの味方になった。秘書であり、薬師でもあるのかしら?


「大丈夫。新しい風なんて必要ないから。ねっ、マリーお嬢様」


「私、ずいぶんと酷いことを言われて心が傷ついて……」


「それはもういいから! 要求はなに! 本当に若返り草があるなら、大抵のことは力になるから見せて!」


 まあ、そろそろいいわよね。


「これは見本ですわ」


「これは……本で見た通りの特徴……本当に若返り草だ! どうやって手に入れたの? 迷宮? 裕太って精霊術師?」


「ふふ、裕太さんで間違いありませんわ。ただし、今までの薬草とは違い、普通の方法では手に入らないとおっしゃっていましたわ」


 迷宮の踏破が最低条件とか、意味が分からないわよね。


「量は? 量はどれくらいあるの?」


「そうですね、当然、国にも卸すことになりますが、ある程度の量は薬師ギルドに卸せるように考えておりました。魔力草と同じくらいの量はなんとかなるはずです」


「買った!」


「あら、お売りするとは一言も言っておりませんわ。たいそう悲しい思いもしましたし、それなりの誠意を見せて頂けませんと、商談に戻りかねます」


 さすがに若返り草そのものは、不老不死の妙薬なんてくだらない妄想のせいで輸出できないけど、魔力草、万能草、神力草の戦略物資になりうる薬草とは違い、加工した薬液としてなら他国にもバンバン売れる商品ですもの。


 うふふふふ、搾り取るわよ。高値を付けるのも当然として、薬師ギルドの利権にも食い込ませてもらうわね。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
読み直してるけどここからマリーさんが調子に乗り始めた、というか読者のマリーさんへのヘイトが溜まり始めたんだろうな。 普通にマリーさんの話術スゲー感無いし、嫌な女性筆頭な話し方だし。主人公がこの場にいた…
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