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三百九十四話 マリーさんの欲しい物

 ジーナとサラはトルクさんのお手伝いに、マルコとキッカは朝食を食べたあとに、訓練のために冒険者ギルドに出かけていった。リーさんが早朝訓練を提案してきた時は断ったが、マルコがやる気満々で受けちゃったんだよな。


 ジーナとサラにはディーネ。マルコとキッカにはヴィータに護衛を頼んだから大丈夫だろうが、普段よりも心配が増している。リーさん、無茶しないでほしいな。


 さて、ジーナ達には俺が3日ほど戻らないのを伝えているから、俺もサックリ迷宮に入ってコアに会ってくるか。その前にマリーさんに会いに行ってこよう。話し合いの間は暇だろうし、ベル達は遊びに行かせるか。




「チッ」


 うわー、前回驚かされたから、警戒心丸出しで雑貨屋に入ったら、ソニアさんが舌打ちしちゃったよ。……俺はいつまでソニアさんとこの争いを繰り返すんだろう?


「いらっしゃいませ、裕太様。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「いや、いま舌打ちしたよね?」


 なんで何事もなかったかのように、笑顔で会話を始めてるの?


「いらっしゃいませ、裕太様。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 なかったことにする気か。


「……マリーさんに会うことはできますか?」


「畏まりました。どうぞこちらに」


 俺が諦めると、いつもどおり奥の部屋に通された。なんだろう、なんか納得がいかない。




「裕太さん、準備はちゃくちゃくと進んでいますよ」


 ソニアさんの報告を受けたマリーさんが、部屋に入ってきてそうそう、宣った。なんというか、充実した表情だな。忙しいほどに輝くのが、マリーさんなのかもしれない。

 まあ、こっそりヴィータが体調管理をしているのも、効果があるはずだ。ヴィータから話を聞くと、毎回、健康そのものって言われるけど……。


「裕太、お酒部門がどれくらい進んだか聞いてちょうだい」


 シルフィが食いついた。まあ、しょうがないよな。


「それはよかったです。お酒部門の方はどのような状況ですか?」


「お酒部門ですか? お酒部門はポルリウス商会の伝手を使って、各地に依頼を出しました。これから続々と迷宮都市にお酒が運ばれてくることになると思います。国内のお酒なら、裕太さんが迷宮都市を出るまでに、ある程度集まると思います」


 キョトンとした表情をしながらも、マリーさんがお酒部門について説明してくれる。たぶん、マリーさんの心情としては、ドラゴンや財宝のことよりもお酒なの?って感じなんだろう。


「ふふ、いい感じね。まずはこの国のお酒をしっかり味わうわよ」


 満足気なシルフィ。ドラゴンや財宝よりも、シルフィの機嫌が大切だよね。シルフィが満足するお酒なら、他の大精霊達も満足するだろうし、俺の未来は明るい。


 お酒の話を聞いて満足していると、他の話も聞いてくださいと言いたげに、宝石部門や俺が卸した素材関連の話をしだした。


 聞いた話をまとめると、マリーさんのお父さんとお兄さんを総動員して、宝石関連の根回しに奔走しているらしい。

 宝石関連は縄張りがうるさいらしいが、俺が卸したドラゴン関連の素材を上手に使って、上層部を骨抜きにしていると高笑いしている。上層部ってどこの上層部だよってツッコミそうになったが、心の平穏が崩れそうなので聞かないでおこう。


 しかし、ポルリウス商会全体で突っ走っている印象を受ける。冗談で大陸を経済で支配とか言ったことがあるけど、そこまでいかないにしても、化け物みたいな商会に成長する可能性は感じるな。


 俺がいなくなったらどうなるんだろうとも考えるが、魔法の鞄の中で死蔵している財宝や各種素材の量を考えると、問題ない気がする。別の場所に移動する時に大量に渡せば、どうとでもなるだろう。


「そういえばマリーさん。俺に結構な量の貨幣が集まっていますが、大丈夫でしょうか?」


 たしか貨幣が一極集中するのはよくないって、学校で習った気がする。とくにこの世界は紙幣じゃないから問題も大きそうだ。これから財宝を換金するとしたら、更にお金が集まってくるよな。


「そうですね……ポルリウス商会から裕太さんにお支払いした額も、相当な金額になります。いまは大丈夫ですが、このままだといずれ問題になるかもしれませんね」


 気持ちよく話していたマリーさんに質問すると、真面目な顔になって答えてくれた。やっぱりか。


「ポルリウス商会にも大金が集まっていますよね? どうしているんですか?」


「もちろん、現金もある程度確保していますが、今はポルリウス商会の拡張に力を入れていますので、各地に投資していますね。安定期に入ると、また違う運用方法になりますが、今は資金を回して、回して、回すのが正解なんです」


 3回も回すって言った。どれだけ高回転で回しているのか少し気になる。


「俺の場合はどうしたらいいですか?」


「裕太さんは別に商会を経営している訳でもありませんし、大きなお買い物したり、どこかの商会に投資するのもいいですね。目の前に急成長中のポルリウス商会がありますよ?」


 大きな買い物か……今、シルフィ達の家を注文しているけど、それだけじゃあ全然消費しきれないんだろうな。


 んー……冒険者ギルドとの関係もある程度改善したし、美味しい料理やデザートも増えた。今回のガッリ一族との確執も、国に与える利益を考えると、酷いことになるとは考え辛い。

 ポルリウス商会との関係を考えると、土地付きの大きな家を迷宮都市に買うのもありな気がしてきた。今後の選択肢に入れておこう。


 あとは……目の前で投資しなよって目をしているマリーさんなんだが……失敗しない限り、投資したらお金が増えて戻ってくるんだよな。


 ポルリウス商会は現在独占企業みたいなものだし、成功する可能性がかなり高い気がする。権力者の怒りを買って破滅ってパターンもあるけど、そこら辺は抜け目なさそうだから、大丈夫っぽいよな。


 問題は今でも手に余っている資金を、更に増やす必要があるのかってことだな。普通にやっていても増えそうなのに、個人でそんな資金が必要なのか?


 うーん、ないよりはあった方がいいに決まっているんだけど、使い道が……こっそりと豪邸を建てて、各国の美女を住まわせたハーレムを建設。胸がワクワクするが、精霊達や子供達にバレた時のことを考えると怖くてできない。


 あっ、今のところ全然目処が立ってないけど、教育システムと、精霊術師が戦争に投入されない仕組みができたら、精霊術師の学校がつくれるもんな。

 その時のために、お金は沢山あった方がいいよ。すべてを失う可能性を考えて、今、魔法の鞄に入っている資金は手を付けないで、これから入ってくる利益を投資に回そう。


「マリーさん。投資の話を詳しく教えてもらえますか?」


「もちろんです。手とり足とり隅々までお教えします。お任せください!」


 ……普通、その言葉はセクハラになるんだけどな。ここにくると、たびたび性別が逆になった気がする。


「手とり足とりは必要ないので、普通に教えてください」


 ……不満そうなマリーさんに、投資について教えてもらう。

 マリーさんが言うには、年間1割の利回りを約束してくれるらしい。社会人ではあったが、投資なんてやったことがないし、高いのか安いのか分からないな。


 利息で考えるとかなり高い気もするが……んー、こういう時にこの世界の常識がないのが困る。

 一応、シルフィに確認の視線を向けてみるが、大精霊のシルフィが投資について興味がある訳もなく、首を左右に振られてあきらめる。

 まあ、マリーさんといえど、お得意様に対してボッタクリはしないだろうし、ちょっと感謝する感じでいいか。マリーさんもニコニコだからお互いにとって得なんだろう。


 投資について色々と聞いて、なんとなく頑張った気になって帰ろうとして思いだす。俺、ここに来た目的を果たしてないよね。


「えーっと、マリーさん。前に話した通り、迷宮のコアに会いに行こうかと思っているんですが、なにか手に入れたい物とか思いつきました?」


「そうでした。裕太さん、欲しい物は沢山あるんですが、まずは特殊な薬草をお願いしたいです」


「は? ……薬草ですか?」


 魔力草、万能草、神力草があれば大概、なんとかなるよな? あとは重病に対する精霊樹の果実があれば完璧に思える。


「はい、薬草です。若返り草が欲しいのです」


 ダジャレか? いや、日本にも似たような名前の野草があったな。あれは、体にいいとかそんな感じだったけど、ファンタジーの世界でそんな生易しい効果なはずないよな。


「どんな効果が?」


「よくぞ聞いてくれました。なんと若返り草は、特殊な製法で成分を抽出。その成分を肌に塗り込めば、お肌が赤ん坊のようにプルプルになると言われているんです!」


 なるほど、次は美容関係に手を出すつもりなのか。男だって若く見られる方が嬉しいし、女性は特にそこらへんに敏感だから、いい商品になるだろうな。……ん?


「言われている? 効果は確認されていないんですか?」


「はい。若返り草は、その効果から不老不死の妙薬に通じるのではないかと考えられ、元々が貴重な薬草だったのですが、どこもかしこも根こそぎ採取されてしまいました。今や、人が入れる場所では絶滅したと言われています」


 あー、こっちの世界でも、乱獲からの絶滅みたいな話があるのか。人間、不死やお金がかかると、すさまじい執念を発揮するもんね。


「なるほど。それで、不老不死の妙薬は作れたんですか?」


「さあ? ですが、若返り草が手に入らなくなって、その時代の高貴な女性が本気で怒った記録が残っています。美肌効果は確実なはずです」


 なんかふわっとしているけど、すごい自信だな。でも、絶滅した貴重な薬草が手に入るなら、儲かるだろうな。


「うーん、コアに聞いてみますけど、上手く説明できるか分かりませんね」


「御心配には及びません。本物は用意できませんが、資料は用意してあります。ソニア!」


 マリーさんが合図をすると、ソニアさんがスッと数枚の紙を俺の前に差し出した。軽く見てみると、若返り草の絵や特徴などがまとめられている。これがあれば、説明くらいならできるだろう。


「分かりました。コアに聞いてみますね」


「「お願いします」」


 マリーさんにソニアさんまで加わって、期待の表情で頼まれてしまった。この2人も女性なんだな。ちょっとプレッシャーだ。


読んでくださってありがとうございます。

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[一言] コミックの8巻をピッコマで買いました。 マリーさんがイメージ通りでかなり可愛い
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