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三百九十三話 体術の先生

 冒険者ギルドでマルコとキッカの体術の先生を探した。審査員のベル達が満場一致で〇を出した老人を先生にすることにしたが、どんな授業になるのか少し心配だ。


 ガッリ一族のことをギルドマスターに報告して、ギルドマスターの部屋をでた。俺がやったことが予想以上だったらしく、やりすぎですと頭を抱えていたのは少しだけ申し訳なかったな。


「あれ? マルコ達がいない?」


 一緒に待機してもらったはずのベル達もいないな。冒険者ギルド内を見回しても見つからないので、シルフィに聞こうとしたら、受付嬢さんがこっちにきた。


「裕太様、すでに先生がいらして、マルコさん達は訓練場に移動されました」


「えっ、もう?」


 ちょっとギルドマスターに報告しに行っただけで、そんなに時間が経ってないのに、もう訓練場に行ってるの? 俺も始める前に挨拶をしたかったのに。


「はい。その、訓練を依頼されたのが久しぶりで、たいそう張り切られたらしく。こちらが予定を確認しに行きますと、そのままご一緒にいらっしゃられて……」


 ものすごく張り切っているらしい。そこまで張り切られると、スポ根みたいになりそうで、少し心配だ。受付嬢さんにお礼を言って、急いで訓練場に移動する。




「ホッホッホッ、ほれ、そんなに無我夢中でかかってきてはいかんぞ。足元がお留守じゃ。ほれ、キッカもあきらめるでない。こんな爺さんくらい捕まえられんと、立派な冒険者にはなれんぞ」


 ……なんだこれ。白髪でロン毛のお爺さんが、ヌルヌルした動きでマルコとキッカを翻弄している。ファンタジーな世界なはずなのに、香港映画の修行シーンに見える。世界観が壊れてないか?


 マルコ達の周りでベル達が楽しそうに応援しているから、一応、まだファンタジーの範囲内ってことにしておこう。


「へー、なかなか見事な動きね。裕太。あの人間、なかなか大したものよ」


 シルフィが感心したように俺に話しかけてきた。俺にはよく分からないが、あのお爺さんはすごいらしい。見た目や動きが香港映画の達人っぽいし、シルフィも感心するくらいなんだから、いい先生を引き当てたようだ。


(マルコ達に無茶をさせてないよね?)


「ええ、あれは遊びながらマルコとキッカの身体能力を確認している感じね。ちゃんと2人に気を使っているし、真っ当な人間だと思うわ」


(そっか。なら安心だね)


 声をかけづらいので、しばらくシルフィと小声で話しながら様子を見ていると、キッカがバテて座り込んだので、訓練が一段落した。さて、俺も挨拶しておくか。


「初めまして。この子達の精霊術師の師匠をしています、裕太といいます」


「おお、お前さんがこの子達の師匠かい。儂はリーじゃ。すまんかったの、楽しそうな依頼で、我慢しきれずに子供達を連れ出してしもうたわ。ホッホッホッ」


 リーさんって言うのか。名前まで香港映画っぽいな。それに、ただの好々爺って感じだけじゃなくて、胡散臭い雰囲気を漂わせているところも香港映画だよな。これで瓢箪にお酒を入れていれば完璧だったな。


「いえ、お願いしたのは私の方ですから。それで、この子達はどうですか? やっていけそうですか?」


「うむ。なかなか面白い子らじゃ。体力も十分鍛えられておるのに、いっさい武術の気配を感じぬ。アンバランスじゃが、変な癖も付いておらぬから、儂が教えれば伸びるじゃろう」


 我流で鍛えてなかったから、よかったってことかな? アンバランスなのは、たぶん子供なのに高レベルだからだろう。


「それでは、この子達を鍛えていただけますか?」


「うむ。儂に任せれば、立派な達人にしてやろう。トロルくらいなら拳で一撃じゃ」


 ……マルコはともかく、キッカがそんなことになったら泣くぞ。


「えーっと、迷宮都市に滞在する時間は不規則ですし、キッカの方は回避を重点的に鍛えてもらえますか?」


「ふむ……儂に預けんか? 徹底的に鍛えてやるぞ?」


 その燃えるような眼を止めてほしい。あと、弟子を奪われるのは困る。あくまでもマルコとキッカには、立派な精霊術師になってもらいたい。


 でも、将来、マルコとキッカが本格的に体術の道に進みたいとか言い出したらどうしよう。師匠として、子供達が進みたい道に進ませるべきか? 子育てって難しい。


「あはは、精霊術師としても鍛えないといけませんので、預けるのは無理です」


「そうか、残念じゃが、あんたの噂も聞いておる。強制はできそうにないな」


 残念そうにしているが、何気に物騒なことを言っているな。俺の噂を聞いてなかったら、強制的に弟子を攫って行くつもりだったのか?


 まあ、とりあえず、弟子が奪われるのも阻止できたようだし、今後の鍛え方をしっかり話し合っておくか。でないと、気がついたら武術のことしか考えられないように洗脳されてそうだ。シルフィが真っ当な人間だって言っていたけど、信じられなくなってきた。


 *** 


「そうなんですか。それでマルコとキッカは熟睡しているんですね。でも、なんだか満足した寝顔をしています」


「相当疲れているな。師匠、そんなに訓練が厳しかったのか?」


 泥のように眠るマルコとキッカを心配するジーナとサラに、マルコとキッカが爆睡している理由を説明すると、ホッとしたように納得してくれた。


「厳しいのかな? なんかマルコもキッカも楽しそうだったし、無茶はさせてないと思う。ただ、楽しく運動していると、気がついたら体力の限界まで搾り取られていた感じだったね」


 人見知りなキッカも夢中になっていたし、楽しかったのは間違いないだろう。基礎っぽいこともやっていたけど、訓練の時間配分が秀逸なのか、つまらなそうには見えなかった。体術の修行って、もっと地味でストイックなものだと思っていたな。


 リーさんが言うには、まずは体の動かし方を覚えるのが重要らしい。もちろん型の稽古なんかもするらしいが、それだけに凝り固まらないように、しっかりとしつつも柔軟な基礎を作るんだそうだ。


「ふーん……よく分からないな」


 ジーナも想像しようとしたみたいだが、よく分からなかったようだ。見ていた俺もよく分からなかったし、しょうがないよな。


「ああ、それで、リーさんにジーナとサラのことも話したら、一緒に面倒を見てもいいって言っていたけど、どうする? トルクさんのお手伝いが必要なくなってからでもいいって言ってたよ」


 リーさんが俺も鍛えないかと誘ってきたので、申し訳ないがジーナとサラを生贄にさせてもらった。


 俺自身も鍛えておいて損はないと理解はしているんだが、ピクリとも動けなくなるまで楽しく体力を削られるのは勘弁してほしい。


 だって、開拓ツールとベル達の協力があれば大抵のことは乗り切れるもん。それでも駄目だったらシルフィ達がいるし……。

 シルフィ達の力を借りないと駄目な状況って、いくら体術を鍛えていても無駄だよね。ファイアードラゴンとか、いくら体術を鍛えても勝てる気がしない。


「えっ、あたし達もやるのか?」


 ジーナが微妙に嫌そうな顔をしている。まあ爆睡しているマルコ達を見れば、そういう表情になるのも分かる。でも、ジーナ達は俺と違って、体術を覚えておいた方が安心なんだから、是非とも頑張ってほしい。


「火山地帯にはファイアーバードみたいに、素早くて数が多い敵も居るし、回避は鍛えておいた方がいいと思うよ」


 まあ、ファイアーバードの巣は洒落にならないから、もっと実力をつけてからじゃないと進入禁止だけどね。

 それに、まだまだシバ達ではアサルトドラゴンやワイバーンと戦うのも不安がある。火山地帯の後半に足を踏み入れるのは当分先だろうけど、そのための準備にもなる。


「うーん、まあ、あたしが足手まといになるのも嫌だし、やってみるよ」


「私も頑張ってみます」


 ジーナとサラも体術を習うつもりになってくれた。これで将来は機動力が高い精霊術師になるはずだ。


 冒険者ギルドの嫌がらせに対抗して、精霊術師最強なんてパーティー名を付けたけど、将来はそう呼ばれても違和感ないようになりそうだな。


 素早く動いて近接も熟し、魔法をバンバンを放てる精霊術師。もはやチートだ。


「べるもやるー」「キュー」「たたかう」「クゥッ!」「のびやかにうつんだぜ!」


 ……リーさんの訓練に刺激を受けたベル達が、ジーナとサラの参加に触発されて、自分達もやると言い出した。精霊の体術って需要がないと思うんだが……イフなんかは拳を使っているけど、あれは火力だよりな感じだから違うよな?


 やる気満々にちっちゃな拳を振り回すベル。

 ヒレをパタパタさせているようにしか見えないレイン。

 リーさんが教えた基本をしっかりと理解した動きのトゥル。

 右手でなにかを招いているようなタマモ。

 超絶に気合が入った様子でシャドーするフレア。


 戦うのが苦手なムーンは普段通りだが、他の子達はやる気満々だ。


「シルフィ、どうしよう?」


「んー、精霊に武術は向いてないから、そのうち飽きるわよ」


 シルフィは気にしてないようだし、あんまり難しく考えなくてもいいみたいだな。フレアは……もとからイフに憧れているから手遅れっぽい。とりあえず様子を見るか。


「それよりも裕太、明日からどうするの? 迷宮のコアに会いに行く?」


 ああ、そうだった。ジーナ達全員がやることも決まったし、俺も自由に動けるようになった。マルコとキッカの訓練が過熱するのが少し心配だが、ヴィータに一緒に行ってもらえば大丈夫だろう。


 なら、おれは迷宮のコアに会いに行って、廃棄予定の素材を貢いでこよう。あっ、行く前にマリーさんにも話を聞いておくか。あの人ならお金になって、人の役に立つものを考えてくれるだろう。それをコアに作ってもらえばみんなが幸せになる。


 他には……魔道具なんかも作ってもらったら生活が豊かになりそうだけど、俺のわがままを叶えてもらうのは、コアに余裕ができてからがいいよね。


幻冬舎コミックス様とメロンブックス様の異世界フェアが、

3/22日より開催されるそうです。

http://www.gentosha-comics.net/event/isekai_fair.html

よろしくお願いいたします。




読んでくださってありがとうございます。

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コアに精霊貨あげたら喜びそう
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