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三百九十一話 なんとなくまったりした朝

 ガッリ一族の自白を王都中に響き渡らせたあと、シルフィが王様と冒険者ギルドのグランドマスターの前にガッリ一族を捨ててくれたらしい。


 グランドマスターはともかく、王様の前に直接届けるとか、大丈夫なんだろうか?


「裕太、これからどうするの? もう迷宮都市に戻る?」


「裕太、さっさと戻って宴会しようぜ」


 微妙に不安になっていると、シルフィがこのあとの行動を聞いてきた。イフも早く戻ってお酒が飲みたいらしい。どうしたものか。


 ガッリ一族の尋問で予想以上に時間はかかったけど、ジーナ達を迎えに行くまでには十分な時間がある。


「うーん、イフ、もう少し王都の様子を確認しておきたいから、宴会はちょっと待ってね。シルフィ、王様達とグランドマスターの監視をお願い。俺のことで動きがあったら教えて」


 これだけ王都を騒がせて、なんの情報収集もせずに戻るのは怖い。捕まることはないだろうけど、王様がブチ切れていたりしたら先に知っておきたい。


「王なら裕太の仕業だって察しているみたいよ。確定作業のあとにバロッタを派遣するように言っていたわ」


 もうすでにバレていたらしい。まあ、バレるって思っていたから問題はないけど、早かったな。そして、バロッタさん……たぶん偉い人なんだろうけど、同じ精霊術師と言うことで選ばれたんだろうな。なんだか申し訳ない。


「王様、怒ってた?」


「んー、怒ってはなかったけど、呆れているわね。裕太の仕業だって確定したら、バロッタを派遣して短剣の利用方法を教えるように言っているわ。挨拶しておく?」


 現在進行形で俺のことを話しているのか。挨拶は……流れ的には王様と会う可能性も考えていたけど、無理して会いたいとは思わない。


「会っておいた方がよさそうかな?」


「別に会わなくてもいいんじゃない? 裕太のことよりも、ガッリ一族が暴露した犯罪の調査や、騎士団を派遣して軍部に手を入れるみたいで忙しそうよ」


 国内の膿を出すことを優先した感じか。怒ってなくて、忙しそうならお邪魔するのは迷惑だよね。俺は空気が読めるから、忙しそうなところにアポなしで訪問したりしない。


「グランドマスターは?」


「こっちは裕太の仕業だって確信しているようね。でも、自分達に被害はないし、ガッリ一族の取り調べに張り切っているわ」


 冒険者ギルドもガッリ一族や貴族に迷惑を掛けられていたみたいだし、張り切っているのなら俺の出番はないな。それなら迷宮都市に戻るか。なんか派手にした影響で王都中を騒がせちゃったけど、バカな貴族が減るってことで勘弁してもらおう。


 ***


「みんな、今日は色々ありがとう。これだけだけど、好きに飲んでくれ」


 サクッと迷宮都市に戻り、メルのところにマルコとキッカ、ベル達を迎えに行って宿で晩御飯を済ませたあと、ジーナとサラを迎えに行って、約束通り宴会を開始した。


 トルクさんの宿で大精霊全員が集合すると狭いけど、高級宿で部屋が広いから酒樽を出しても余裕があるな。


 ベル達はジーナ達のお部屋でお泊りにしたから、俺もゆっくり飲める。まあ、念のために明日の朝もジーナとサラを送っていく予定だから、ほどほどに楽しもう。


「それで、結局今日はどうだったんじゃ?」


 グイっとエールを一気飲みしたノモスが聞いてきた。少しはガッリ一族の結末に興味はあったんだな。


「うふー、お姉ちゃんが大活躍したわー。王都に池を作ったのー」


 ディーネが活躍してくれたのは事実だけど、敵を倒したことよりも池を作ったことの方が自慢なのか。こういうところが精霊っぽいよな。


「ふむ……なんで池を作るんじゃ? 敵を倒しに行ったんじゃなかったのか?」


 ディーネとの会話を速攻で見限り、俺に聞いてくるノモス。正しい判断だとは思うけど、褒められる気満々だったディーネが膨れてるよ?


 不満そうなディーネにお酒を注いで、ちゃんと褒めたあとにノモスに事情を説明する。


「なるほど、破壊ばかりではなく、環境をよくする精霊術師の利用方法を示したわけか。ふむ、なかなかいい考えだな。ディーネ、よくやった」


「ふふー、清らかなる水の乙女なのよー」


 ノモスに褒められたディーネが、ご機嫌にお酒を飲み干し、脈略のないことを言い出す。その言葉は俺の中で封印した言葉だ。忘れてほしい。


「なんじゃ?」


「何でもないよ。さあ、ノモスもディーネもジョッキが空だぞ。飲んだ飲んだ」


 隠しても意味がない気もするが、それでも無駄な抵抗をしたい時だってある。お酒を勧めて誤魔化そう。


「そうじゃな。飲まねばな!」


「お姉ちゃんも飲むわー」


 こうあっさり誤魔化せると、それはそれで契約者として心配になるな。まあ、ノモスの場合は、元々たいして興味がなかったからだろう。


 さて、俺も飲むか。今日は頑張ったから、美味しいお酒が飲めるはずだ。


 ***


「ゆーた、だいじょぶ?」


「ベル。俺は……もう……駄目かもしれない……」


 ひどい頭痛でベッドから起き上がれない俺に、心配そうに声をかけてくれるベル。俺は力を振り絞って返事をする。


「ふおっ! しるふぃ、ゆーたがたいへんー」


 ワタワタと焦るベルが超絶可愛いけど、子供特有の甲高い声が頭に響く。


「ふう、単なる二日酔いだから心配しなくていいわ」


 ベルに呼ばれたシルフィが、なんか面倒臭そうにやってきて、的確に俺の症状を言い当てた。正解なんだけど、もう少し心配してくれてもいいんじゃなかろうか? 一緒にきてくれたドリーは心配そうに見てくれているよ? その優しさを見習ってほしい。


「ふつかよいー?」


「そうよ。自分の限界量をわきまえずにお酒を飲んだ、駄目な大人がかかる症状ね。みんなもよく見ておきなさい。あれが駄目人間よ」


 なんかシルフィが厳しい。俺はただ、ガッリ侯爵達をぶちのめして、いい気分だったから、ちょっとだけお酒を飲みすぎちゃっただけなのに……。だいたい、俺がお酒を飲みすぎたのは、カパカパとお酒を飲みすぎる大精霊に煽られたからなんだぞ。


「だめにんげんー」「キュキュー」「べんきょうになる」「ククー」「なさけないぜ!」「……」


 あぁ、子供達の無垢な視線が痛い。


「くだらないことをやってないで、さっさとムーンに治してもらいなさい。それとも、今日は1日ベッドで唸ってるの?」


 まあ、そうだよね。さっさと治療してもらおう。


「ムーン、お願いね」


 ムーンがポヨンと震えて、寝込んでいる俺のおでこの上に乗る。なんかスベスベで柔らかくてちょっとヒンヤリしていて、これだけでちょっと気持ちがいい。おっ、きた。この体の中の毒素が綺麗に浄化されていく感覚……癖になりそうだよね。


「ふいー、復活! ムーン、ありがとうね」


 ぷるぷると高速で震えるムーン。お仕事ができて喜んでいるようだ。しかしあれだな、ムーンに頼んだお仕事って二日酔いの治療しかないな。俺達ってまったく怪我とかしないから、ムーンの出番がほぼないんだよな。


 二日酔い治療専門の命の精霊……贅沢と言えば贅沢なんだけど、これでいいんだろうか?


 しかも、ムーンだけじゃなくて、大精霊のヴィータとも契約しているんだよな。無駄遣いにもほどがある気がする。いや、ヴィータは酵母菌の収集と管理もしてもらっているし、全然無駄遣いじゃないな。 


「ゆーた、げんきになったー」「キュー」「あんしん」「クー」「よかったんだぜ!」「……」


 二日酔いから復活しただけなのに、喜んでくれるよい子達と戯れてホッコリする。なんか幸せだな。


「裕太、今日はどうするの? 休日にする?」


「あー、体調は万全なんだけど、どうしよっか?」


 一仕事終わったし、今日くらい休んでのんびりしてもいい気がする。廃棄予定の素材を迷宮のコアに届けるのは、シルフィに頼めばすぐだし、時間の余裕はあるよな。


「ん? あれ? そう言えばジーナ達は?」


「ジーナとサラはトルクのところにお手伝いに行ったわ。マルコとキッカは朝食を食べたあと、部屋でウリ達と精霊術の練習をしているわね」


 あっ、もうそんな時間なんだ。昨晩は遅くまで飲んでいたから寝過ごしちゃったな。でも、真面目に行動している弟子達がちょっと誇らしい。ん?


「ってことは、ジーナとサラは2人だけで出かけちゃったの?」


 シバ達が一緒だから問題ないとは思うが、失敗しちゃったな。ガッリ親子の関係者はほぼ〆たとはいえ、今日くらいまでは様子見で俺が送っていくつもりだったのに……。


「念のためにヴィータがジーナとサラについて行ったから、安心していいわ」


 そっか、よかった。俺の手が回らない時に、しっかりとフォローしてくれる大精霊達の存在はかなりありがたい。帰りには俺がしっかりと迎えに行こう。


「助かるよ。それなら今日はお休みにして、のんびり過ごすかな」


 ここ数日、少しバタバタしていて、ベル達とのコミュニケーションも減っちゃっていたし、今日は思う存分、ベル達やマルコとキッカを甘やかそう。


「分かったわ。ああ、それと、そこを見れば分かる通り、まだあそこでディーネ達が飲んでいるから、さっさと送還しちゃいなさい」


 シルフィの視線の先には、大量の酒樽を周囲に転がしたまま飲み続ける、ディーネ、ノモス、イフがいた。……もう、朝食の時間も過ぎているのにまだ飲んでいたのか。


 マリーさんに頼んでお酒が集めやすくなったから、ガッリ侯爵討伐のお祝いもかねて大盤振る舞いしたのが悪かったな。サラ達、ベル達の教育に果てしなく悪影響だ。


 そして、シルフィが微妙に厳しい原因が分かった。たぶん、ベルに呼ばれるまでシルフィもあそこに交じって飲んでいたんだろう。そして、シルフィがお酒を飲めてないのに、あそこでは酒盛りが続いているから機嫌が悪いと……なんて分かりやすい。それでいいのか、大精霊。


 あと、お酒を飲むのをやめて、ジーナとサラを送っていってくれたヴィータと、呼ばれてないのに、飲むのを中断してこっちに来てくれたドリーの優しさが際立つな。ちょっと面倒そうなシルフィも含めて、ドリーとヴィータにはしっかりとお礼をしよう。


 まずは、あの酒樽が転がった宴会場を片付けて、そのあとはベル達とサラ達と1日遊ぶぞ。しっかり休日を満喫しよう。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
王様になかなか手に入らない酒とか、その作り方とか集めてもらうのも良いかもね。酒とか雑貨を大量買いしてるのは分かるだろうから
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