三百八十九話 成敗!
ガッリ侯爵家の屋敷を消して、空に連れて行ってヒモ無しバンジーを決行すると、ガッリ侯爵と子爵が漏らした。それでも騒ぐ根性はすごいが、その根性は別のところで使ってほしい。
「も、もう止めてくれ……」
おお、ついにガッリ子爵が折れた。顔の至る所から汁が出ているし、悲鳴を上げまくった影響で声はガラガラ……本気で限界っぽいな。ガッリ侯爵は2回で折れたけど、6回まで耐えたのは若さの力か、単にバカだったのか……。
まあ、最後の2回のヒモ無しバンジーは、回転を加えた上にガッリ子爵が気絶した瞬間に叩き起こして、恐怖を限界まで味合わせていたから、普通の落下だったらもう少し粘ったかもしれない。
「いや、別にわざと落としているんじゃないんですよ? 偶然集中力的なものが切れたのか、たまたまなんです。たまたま。でも、ぺちゃんこにならなくてよかったですね」
ガッリ一族からの恐怖の視線が突き刺さる。俺の言葉をいっさい信じてない雰囲気だ。まあ、あれだけ連続で落として救出を繰り返していたら、たまたまだなんて思わないよな。
「そ、それで、こんなことをして、なにが目的だ。金か? 金ならいくらでも払うぞ」
おっ、ガッリ侯爵が落としどころを探りにきた。ようやく権力が通用しないって理解したんだろうな。そして、テレビやアニメで悪党がよく言うセリフを言い出した。やっぱりガッリ侯爵は典型的な悪党のようだ。
「お金は使いきれないほど持っていますので、あなた方の腐ったお金は欲しいとは思いません」
お金は大切だけど、日本にいた頃とは比べ物にならないほど裕福だ。そんなことで俺は動かん。……なんか気持ちいいな。
「では、なにが目的なんだ」
ガッリ侯爵家を潰すことだって言ったら、また騒ぎ出すんだろうな。別にそうなってもヒモ無しバンジーを再開するだけだから構わないんだけど、見ていて気持ちがいいものでもないし、さっさと話しを先に進めよう。シルフィに目線で合図をしたあと、ガッリ一族に話しかける。
「そうですね、まずは……あなた達が俺の弟子にしようとしたことを正直に話してください。ああ、ついでに、あなたの屋敷で手に入れたこの書類。この書類に書かれている自分の悪事を、3つほど言ってください」
この幾つか発見した書類は隠してあったから、お互いに自分の悪事はなにが書かれているか分からないはずだ。もしかしたら、ここに書かれていない悪事も出てくるかもしれないな。
「なぜ、そのようなことをせねばならんのだ?」
すごく警戒しているな。
「あなた方の口から、どれだけ悪いことをしたのか聞きたいからですよ。言わないのならそれでも構いませんが、うっかり自由落下が始まるような気がします。それと、拾い上げるのが成功する上限なんかも決まっていたりするかもしれません。限界にチャレンジしてみますか?」
本当にチャレンジされたら困るけど、この人達にそこまでの根性はないだろう。
「あっ、それと、話し始める前に、自己紹介をお願いします。だいたいの名前は分かっていますけど、ちゃんとした身分とか名前は知りませんからね」
……無視されている。まあ、こんな怪しい状況で自分の悪事をペラペラ話したくはないよな。シルフィに目線を送ると嬉しそうな雰囲気で頷き、ガッリ一族が悲鳴を上げて全員落ちていった。
気のせいだと思うけど、シルフィが人を落とすことを楽しみだしている気がして怖い。しかも、楽しそうに回転を加えているんだよな。あっ、顔が引きつった。
「シルフィ、もしかして、また誰かが漏らしたの?」
「ええ、ガッリ侯爵とガッリ子爵以外の全員……」
あの人達は初めてのヒモ無しバンジーだし、出すものが残っていたか。
「……ディーネ、洗ってくれる?」
「お姉ちゃん、遠慮するわー」
「燃やしてやろうか?」
珍しくディーネが断ると、イフが世紀末的なことを言い出した。汚物を焼いて消毒する気かもしれないが、汚物以外も燃えちゃうよね。まあ、ガッリ一族全員が汚物かもしれないけど。
「いや、燃やすのはちょっと……。えーっとシルフィ、気絶はしてないんだよね?」
「ええ、気絶はしたけど起こしたから大丈夫よ」
「それなら自分で綺麗にしてもらうよ」
シルフィにお願いして少し離れた位置にガッリ一族を連れてきてもらい、しっかり洗浄を掛けさせてから、尋問を再開する。
「ガッリ家のみなさん、どうしますか?」
「分かった。話す。話すからもう落とさないでくれ」
ヒモ無しバンジー。気絶させないで回転を加えると効果は抜群だな。
「分かりました。では、最初はガッリ子爵から、俺の弟子を誘拐しようとした話をお願いします。自己紹介は忘れないでくださいね」
「……分かった。私はダブリン。現ガッリ子爵で次期ガッリ侯爵家の後継者だ。……私は迷宮で活躍している冒険者を利用するために……メッソン男爵に命じて弟子を誘拐させようとした。これでいいのか?」
「捕まえて拷問しようとしたことが抜けています。もう一度やり直しですね。あと、悪いことをしたのなら謝ってもらわないと、うっかりしてしまいそうな気がします」
「貴様!」
俺の言葉に憤怒の表情を浮かべるガッリ子爵。
「なにか文句でも?」
「……なんでもない」
勝った。
「ではやり直してください」
「……私はダブリン。現ガッリ子爵で次期ガッリ侯爵家の後継者だ。……私は迷宮で活躍している冒険者を拷問し、そのあと利用するために……メッソン男爵に命じて弟子を誘拐させようとした。悪かった」
「謝罪に誠意が感じられません。やり直してください」
***
「んー、まあ合格です。では、続いてこの書類に載っている自分の行った悪事を3つ、自白してください。言葉遣いは丁寧にすることと、謝罪の際の誠意には十分に注意すること。もう、落ちたくないですよね?」
5回のリテイクと2回のヒモ無しバンジーを潜り抜け、ようやくガッリ子爵が最初の謝罪を成功させた。もう飽きてきたので、是非とも上手に自白してほしい。
「なにが書かれているのかは、教えて頂けないのですか?」
ガッリ子爵もちゃんと丁寧に話せるようになった。やればできる子だったんだな。
「教えません。頑張ってください」
「……私は従者に命じて、ガッリ侯爵家に逆らった平民の軍人を拷問して殺させました。申し訳ありませんでした」
お、おう。いきなり人殺しを命令したことを自白するのか。普通もっと軽い罪から自白するものじゃないのか? ……貴族が平民を害するのが軽い罪とかだと胸糞悪いな。
「えーっと……書類には書かれてないので不正解。次に進んでください」
疑問はあるが、まだ他にも5人残っているし、いちいち質問をしていたら今日中に終わらないのでスルーしよう。
***
疲れた。ものすごく疲れた。途中で正解を1問でOKにしようか迷うほど疲れた。こいつら罪を犯しすぎだよ。3問正解するまでに10以上の悪事を自白しやがった。しかも、自分だけの悪事じゃなくて、他の貴族と共謀した悪事までポロポロとこぼすから、俺の方が話して大丈夫なのか心配になってしまう。
だいたい貴族倶楽部ってなんだよ。貴族が集まって下種な楽しみを満喫する倶楽部なんて作るなよ。もっとこっそりやれよ。
シルフィはヒモ無しバンジーで回収するのを嫌がりだしたし、ディーネはお姉ちゃんとして許せないってプンスカ状態。イフはガッリ一族を灰にしたがるし、ドリーまで顔をしかめていた。俺はシルフィ達に話しかけられないし、いつ暴走するか気が気じゃなくて疲れが倍増する。
「私達はあなたになんの危害も加えていませんし、これで解放してもらえるんですよね?」
えーっと、誰だったっけ? 自己紹介をされたけど、他のキャラが濃すぎて名前が思い出せない。とりあえず、ガッリ一族の非主流派の息子の方が、トチ狂ったことを言い出した。
たしかに俺に直接危害を加えた訳じゃないけど、しっかり下種なことやっている人間を野放しにする訳ないだろ。
「いえ、解放しませんよ。あなた達の自白は全て王都中に聞こえているんですよ。それなのに解放してしまったら、俺が怒られちゃうじゃないですか」
ガッリ一族に止めを刺すために、シルフィに頼んでガッリ一族の声を広げてもらっていた。もちろん俺の声はカットしてもらっている。
王都中に響き渡るように悪事を自白すれば、どうやったってもみ消しは不可能だろうって理由だったんだけど……これだけ長い時間、下種な自白を聞かされた王都の皆様には本当に申し訳なく思っている。
予想以上に下種で悪事をたらふくやっていたから、想像以上に時間がかかった。今更だけど、あらかじめシルフィに子供には聞かせないように頼んでおくべきだったな。確実に教育に悪い。
元々の計画では、ジーナ達への誘拐の自白と、いくつかの犯罪行為を自白させる予定だったが、屋敷で沢山の犯罪の証拠を発見したから、利用したのが悪かった。素人がアドリブとか100年早かったようだ。
「おい、どういうことだ! そんな話は聞いてないぞ!」
あっ、ガッリ侯爵が切れた。まあ、この人も、いくつか他の貴族の名前を出しちゃったし、予算の着服やらなんやら、結構ヤバ目の自白をしていたから他の人に聞かれたら困るよな。他のガッリ一族も絶望した顔をしている。
自白の中で名前が出た人は完全なとばっちりだけど、無視するには下種な犯罪が多かった。なんか結構偉い人も含まれていたし、今頃お城は混乱しているだろうな。ご愁傷様です。
「そんなこと言ったら素直に話してくれないだろうから、黙っていました。まあ、当たり前ですよね」
「ふざけるな!」
「ふざけていません。まあ、これであなた達もお終いですから、怒るのも当然。でも、もう全部遅いので諦めてください」
「ガッリ侯爵家の力を甘く見るなよ、小僧! このようなことで我がガッリ侯爵家は終わらんぞ!」
「いや、あなた達が自白した犯罪行為以外にも、ここに国を欺いた犯罪行為の証拠が山ほどあるんです。どう考えても終わりじゃないですか? まあ、今回はしかるべき場所に引き渡しますが、本当に終わらなかった場合は、俺が直接終わらせに行きますから、どっちにしろ終わりですよ」
そもそも、俺に手を出したら厳罰って王様が言っているのに、これだけ大恥晒してなんとかなると思っているのがすごい。まだ何か言いたそうにしているが、付き合う義理はないので詠唱するふりをしてシルフィに全員気絶させてもらう。
「裕太、あとはお城に捨てれば終わりなのよね?」
「んー、なんかまだ悪あがきしそうだし、半分はお城に捨てて、もう半分は冒険者ギルドの本部に捨てようか。別の組織が絡めば、メンツもあるしキッチリ裁かれると思う」
ガッリ侯爵と、ガッリ子爵を除いた弟2人、それと親戚の息子の方をお城に捨てて、証拠も半分ずつで十分だろう。冒険者ギルドに関する犯罪も結構あったし、どっちも真剣に罪を追及するはずだ。メッソン男爵は……ガッリ侯爵の方につけておくか。
「分かったわ。じゃあさっさと捨てて、今夜は宴会をしましょうね」
……まあ、今回はかなり力を借りたし、宴会で報いるくらい当然だよな。
「了解。嫌な話も聞かせちゃったし……マリーさんにお酒は十分注文してあるから、今晩は残っているお酒で飲み放題をしようか」
大精霊達から歓声が上がる。十分にお酒を飲ませて、機嫌がよくなってから派手さを満足できたか聞いてみよう。機嫌がよければ点数は甘くなるはずだ。
読んでくださってありがとうございます。