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三百八十三話 下準備の完了

 ジーナとサラのお手伝い1日目も無事に終了した。トルクさんの願望もなんとか果たせそうだし、メッソン男爵側の動きもほぼ掴んだ。あとは冒険者ギルドに協力をお願いして、ガッリ親子を地獄に落とすだけだな。


 冒険者ギルドの中に入ると、併設された酒場の方がざわつき注目が集まる。これは俺だから注目を集めているのか、光竜の鎧が注目を集めているのか、どっちなんだろう? 久しぶりの冒険者ギルドだから判断が難しい。考えても分からないので注目を集めながら受付に向かい、受付嬢に話しかける。


「すみません、ギルドマスター、もしくは誰か偉い人に会いたいんですけど、なんとかなりませんか?」


 普通に考えたら大概失礼なことを言っているな。夜遅くにアポ無しで突撃とか迷惑この上ない行為だ。それに、こんなに夜遅くに偉い人って居るんだろうか?


「えっ、あっ、はい。ギルドマスターがいらっしゃいます。どちらでお会いになられますか?」


 ギルマスが居た。偉い人とか速攻で帰るか飲みに行っているイメージだけど、働いてるんだな。


「すぐに会えるんですか?」


 確認とかしなくていいの? あっ、奥に居た職員が走った。たぶんギルマスに報告に行ったんだろうな。あれだけのことがあったから当然だけど、相当恐れられてる雰囲気だ。自業自得とは言え、微妙に気まずい。


 今回は内密な話なのでギルマスの部屋でとお願いすると、受付嬢が心なしかゆっくりとした足取りで、ギルマスの部屋まで案内してくれた。たぶん、ギルマスのために少しでも時間を稼ごうと考えたんだと思う。優秀な受付嬢だな。


「裕太殿、お久しぶりです。今日はどうされました?」


 中に入ると、人が好さそうで少しぽっちゃりとしたギルマスが笑顔で出迎えてくれる。表面上は何の問題もなさそうだが、ギルマスの顔に噴き出した汗を見て申し訳なく感じる。やっぱり苦手な相手でも、礼儀は大切だよな。今度から緊急事態でもない限り、ちゃんとアポを取ってから訪問しよう。


「はい、ちょっとお願いがありまして、あの、時間は大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫ですよ。なんでしょうか?」


 ギルマスの笑みが深まり、更に人が好さそうになった。付かず離れずの距離感から、俺が頼みごとをすることによって、関係が深まりそうなのが嬉しいのかもしれない。……ちょっと自意識過剰か? まあいいや、とりあえず俺がやりたいことを説明してしまおう。




「……本気で言っているのですか?」


 説明が終わると、真っ青な顔でギルマスが質問してくる。


「ええ、本気で言ってます。俺が調べたところ、弟子達の誘拐、人質で俺を捕まえて拷問。そのあとは弟子たちを人質に取られたままガッリ侯爵家の元でタダ働き。そんな計画を立てる相手をそのままにはできませんよね」


 残念なことに本気なんです。俺がうっかり派手にガッリ親子を潰すなんて言っちゃったから、引っ込みがつかなくなった部分が大半だけど、本気で言ってるんです。


「冒険者ギルドから王国に抗議することもできますが?」


「抗議したところで未遂ですから大した処罰はないでしょう。なら自分でやらないと駄目ですよね?」


 王様が手出し無用って言ってくれたらしいけど、流石にまだやってないことで侯爵家を潰したりしないよね。それに、そんなんじゃ背後で聞いている風の大精霊が納得しないのですよ。


「ですが、大騒ぎになりますよ?」


 ほぼ犯罪だし、大騒ぎになるのは分かっている。ただ、相手に非があると言うことと、王国が俺を敵に回すよりも、ガッリ親子の方を切り捨てるって狡い計算も働いている。


 聞いた感じだと国王様もガッリ侯爵家の軍部への影響力を落としたいみたいだし、結構勝算は高いと思う。あとは、どれだけ俺を敵に回すと怖いって思わせられるかだな。派手に派手にって考えていると、やることが増えてドンドン深みにはまっている気がする。


「一応勝算はあるので大丈夫です」


 なんとなくだけど、最悪城で怒られるくらいで済むと思ってる。


「勝算ですか……」


「はい、勝算はあります。それで、先ほども言った通り、冒険者ギルドからはジーナが襲われたことを証明する人を出してほしいんです。できれば立場がある人の方が嬉しいですね。お願いするのは証人だけですので、そこまで迷惑をかけることはないと思います」


 冒険者ギルドの役割は、俺達が狙われたことに対する証人。その賊をたどった結果がガッリ侯爵という流れだ。出来レースだから自白すら必要ない。話の内容も全部知ってるんだから、自白したってことで次々捕まえていくことも可能だ。


 でも、俺だけで動いたら全部嘘だって言い含められることもあるので、メッソン男爵を捕まえるまでは、最低限の証人を用意して、まともに行動することにした。


 証人を呼ぶことで、人前で詠唱することになるので悩んだが、国をまたぐ組織の幹部が証人なら、簡単に握りつぶされることもないから我慢しよう。


 最初はメッソン男爵が弟子達を誘拐しようと話している場面を、スマホで撮影しようかとも思ったが、スマホの存在で騒ぎが起こりそうだし、そもそも電池がもったいない。だいたい、お爺さんを撮影するくらいなら美女を撮影するよな。


「分かりました。私と部下が目撃者になりましょう」


「ギルドマスター自らが証人でいいんですか?」


「ええ、裕太殿に貸しを作るチャンスですから、私自ら出向きますよ。ついでに他に立場がある人物を連れてきましょうか?」


 ストレートに貸しを作るって言われてしまった。まあ、それくらいストレートに言われた方が、分かりやすくて楽だ。でも、冒険者ギルドに貸しを作られるのは嫌なので、先に報酬を払おう。


「いえ、いざという時にギルドマスターが証言してくれるだけで充分です。貸しの方は、そうですね。迷宮で手に入れた回復の杖で如何ですか? 迷宮の深層で手に入れただけあって、回復力はなかなかです。冒険者ギルドなら需要はありますよね?」


 さすがに証人になるだけで50層を突破させるのは釣り合ってない気がするし、ギルマス自ら出てきてくれるのなら、冒険者ギルドの利益にも少しは貢献しておくべきだ。


 最初はサラ達に持たせようかとも思ったが、プルちゃんも居るし、各種最高級のポーションも持たせている。回復の杖はそこまで必要じゃないだろう。


 その点、冒険者ギルドなら需要はバッチリだ。回復魔術は教会が独占しているらしいから、魔力を込めれば何度でも回復させられる杖は、相当な価値があるはずだ。もう一段階上の杖もあるが、そっちは後々取引材料にできそうだから確保しておこう。


「いいんですか?」


 思った通り、ギルマスの目の色が変わった。50層の突破を報酬に要求しないのは、ギルマス側からしても、通らないって判断したんだろう。


「ええ、前払いで差し上げます。どうぞ」


 魔法の鞄から回復の杖を取りだしギルマスに渡す。真っ白で先端に大きな宝石が付いた、いかにも回復って感じの杖だ。ノモスが言うには先端の大きな宝石に、ノモスですら理解できない回路が組んであり、そこを魔力が通ることによって回復魔術が発動するそうだ。さすが迷宮産だな。


「これは美しい……なかなかの回復力とのことですが、どのくらいの効果があるんですか?」


 俺の周りって小さなケガすら珍しいから、効果を試す機会がないからよく分からないんだよな。


「自分では使ったことがないので効果は分からないですが、魔道具の目利きができる人が言うには、中級ポーションクラスの回復力が、初級魔術の魔力で発動するそうです」


「それなら数回で骨折まで対応できるんですね。初級魔術の魔力で発動するのなら、ギルド職員で冒険者たちをケアすることも可能です」


 ぶつぶつとギルマスが呟きだした。回復の杖の利用法を考えているらしい。


「えーっと、そう言うことですので、明日の朝、9時頃に時間をください」


「えっ? あぁ、はい、分かりました。9時ですね。どこに向かえば?」


「そうですね。俺がギルドマスターを迎えに行くと騒ぎになりそうですから、えーっと、剛腕トルクの宿屋って分かります?」


「ええ、今回は違うようですが、裕太殿が普段泊っている宿屋ですよね。知ってます」


 しれっと俺の行動を把握していることを匂わさないでほしい。


「……その宿と同じ通りに武器屋があるんですが、その武器屋の横の路地に9時でお願いできますか?」


 あんまりトルクさんの宿屋に近いと、相手にもバレるから離れておかないとな。


「分かりました」


 ギルマスとの約束もできたし、次は宿に戻って一芝居打たないといけない。ふぅ、忙しい。ギルマスにお礼を言って、泊まっている宿に向かう。


「師匠、あたしにできるかな?」


 帰りながらシルフィが得た情報をもとに、簡単な芝居をジーナに教えると、不安そうに質問してきた。演技なんてやったことない人だと、簡単なことでも緊張するよね。俺もドモらないか激しく心配だ。


「問題ないよ。シルフィが言うには受付の近くで話している冒険者風の男2人が敵だから、そいつに聞こえるように普段の日常会話をするだけだ。話す内容は何回も似たようなことを話したことがあるよね。あの感じだよ。失敗してもフォローはできるから安心してくれ」


「お、おう、分かった」


 すでに緊張してるな。なんとなくだけど、ジーナを落ち着かせようとアドバイスしているサラの方が頼りになる気がするのは気のせいなんだろうか? まあ、たとえそうでも、サラをおとりにするのは嫌だから意味はないな。




 緊張を隠しながら宿に戻り、敵をこっそりと確認しながら受付で部屋の鍵をもらう。いよいよ演技の時間だ。


「あっ、し、師匠」


 ふむ、少し噛んだし、声がうわずった気もするが……許容範囲だと思おう。


「ん? ジーナ、どうしたの?」


 よし、俺は噛まずに言えたぞ。


「あの、あれだ……明日の朝、朝食の忙しい時間が終わったら、実家に顔を出しに行きたいんだけど、いいか?」


 覚悟が決まったのか後半はスラスラと話すジーナ。もう大丈夫そうだ。


「ああ、トルクさんが問題ないならいいんじゃないかな? ちゃんと許可を取るようにね」


「もう許可は取ってあるから大丈夫だ」


「それならいいよ。ご家族によろしくね」


「うん、よろしく言っとくよ」


 自然な感じで会話ができてただろうか? ミスはないと思うけど、若干会話が単調だった気もする。少し不安になってきたぞ。


 でも、今の情報に食いつけば、最低でも監視はするだろう。それで大精霊が一緒に居なければ絶好のチャンスだと思ってくれるはずだ。シルフィの風壁でジーナの防御はガッチガチに固める予定だし、襲ってくれれば何とでもなる。頼むぞ敵!

読んでくださってありがとうございます。

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