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三百八十話 高級宿の料理 

 なんとか1日で大半の用事を済ませることができた。普段は何日かに分けて熟している工程だけど、やろうと思えば1日でできるんだな。すごく疲れるけど……。


 素材を卸すのと、頼んでいた物の引き渡しは簡単に終わった。ライトドラゴンの頭と素材でマリーさんのテンションが上がるのはもう慣れたもので、簡単にスルー。帰りの買い物も、家具屋でちょっと注文に手間取ったくらいで、問題なかった。


 家具は、必要な物をその時その時で注文して取りに行くのが面倒になったので、ベッドやテーブル、椅子、タンスなんかは先にまとめて注文しておいた。どうせ酒島が発展したら、使いどころなんていくらでもあるからな。


 一番大変だったのが、魔法の鞄の値段交渉。貴重な鞄だってことは理解しているが、俺が買った家を何軒も建てられる値段を提示されると、さすがに引く。


 ドラゴンなんかが高値なのは、ドラゴンだもんねって納得できるんだが、見た目が普通の鞄に10億とか……効果を考えれば安いものだって言われて納得はしたけど、いまだにボッタくっている気がして落ち着かない。


 でも、マリーさんはホクホク顔で、在庫がまだあるなら購入しますって言ってたから、悪くない取引だったんだろう。


 最初の遠慮はどこに行ったって感じで、俺が持っている魔法の鞄の性能を確認してくるマリーさん。最後には、時間の流れがかなり遅くなるような魔法の鞄、マリーほしいなーって呟かれた。


 もはや飲み屋でブランド品を貢がせようとする、歴戦のホステス……いや、飲み屋のお姉さん方はもっと上手に男を転がすな。それに貢がせるんじゃなくて買い取りだから、なんの問題もないってことにしておこう。


「ゆーた、もうすぐごはんー」


 疲れたのでソファーでグデッとしていたら、ご機嫌でベルが胸元に飛び込んできた。昼食が美味しかったらしく、夕食が楽しみでしょうがないようだ。ジーナ達から聞いた感想でも高評価だったし、ディーネやフクちゃん達も喜んでいたから、俺としてもかなり楽しみだ。


「ベルはなにがお気に入りだったの?」


「べる、しましまのやつー」


「しましま?」


「そー、しましまー。ちーずー」


 シマシマでチーズ……ああ、ジーナも美味しいって言ってたやつだな。


「それ、俺も食べたいから、夕食に追加してもらったよ」


「べるも! べるもたべるー」


「うん、多めに頼んだからベルも食べられるよ」


「やたー」


 空中で踊るように喜ぶベルが、とてつもなく可愛い。こう、なんていうかホッとする。仕事で疲れて帰ってきたお父さんが、子供に癒されるのってこういう感じなんだろうな。


 家に帰ったら、子供がうるさくて落ち着けないって話も小耳に挟んだことはあるが、今のところ俺は体験したことないので都市伝説だと思っておこう。


「キュキュー」


 ん? レインが飛んできて、なにかを訴えかけてくる。んー、ヒレをパタパタ、視線を何度も部屋の出口に向けている。そして機嫌はとてもよさそうだ。


「もしかして、夕食の準備ができたから、呼びに来てくれたの?」


「キュー」


 とても満足げに頷くレイン。どうやら正解だったようだ。久しぶりにベル達に通訳してもらう前に解読できたな。俺とレインの絆がますます深まったんだろう。決して、もうすぐ夕食の時間だから、そこから推理した訳じゃない。


「ゆーた、はやくいくー」「キュー」


「分かった。すぐにいくよ。シルフィ、行こうか」


 もう扉の前で待機しているベルとレイン。夕食が楽しみで早く食べたいようだ。そこまで喜ぶと、俺としても夕食の期待値が上がる。高級店の実力、見せてもらおう。


「みんな、お待たせ」


 ジーナ達の部屋に入り、すでに席について待っているちびっ子軍団+ジーナ+ディーネに詫びて席に着く。


 目の前の大きなテーブルの上には大量の料理が並んでいる。トルクさんに渡したレシピが基になっているから、ある程度似通ってると思ってたけど、雰囲気がまったく違うな。


 揚げ物もデンっとお皿に盛られず、一口サイズに切り分けられ、華やかさを意識するような盛り付けがなされている。まるでパーティー料理のようで、ちょっとワクワクする。さっそく食べよう。


「ゆーた、これ、これがおいしー」


 食事を開始すると、速攻でベルが飛んできて、お勧めを教えてくれた。さっき言っていたシマシマでチーズのやつだな。


「ありがとう。さっそく食べてみるね」


「うん!」


 ベルが見守る中、シマシマのチーズのやつ改め、チーズミルフィーユカツを取る。いずれトルクさんに教えようと思ってたけど、先に開発されるとは、上から目線になるけど、こっちの世界の料理人も侮れないな。


 綺麗に精肉されたのか、真四角になっているカツ。衣は細かいタイプで、肉の厚みは俺が日本で食べていたミルフィーユカツよりもぶ厚め。1枚が5ミリほどあるように見える。


 少し噛みちぎれるか心配ではあるが、そのお肉と交互に熱でとろけたチーズが挟まり、もはや芸術的に美味そうだ。


 ザクっとカツを噛みちぎると、チーズがとろけて口から伸び、カツとの橋が架かる。アルプスのアニメのチーズみたいでテンションが上がるな。落ちそうになったチーズをすすりこみ、じっくりと噛みしめる。


 おお、オークのお肉かと思ってたけど、ジャイアントディアーのお肉だったのか。旨味が強いお肉だけど、オークのお肉に比べると淡白な肉質。それをチーズで挟むことで補ったんだな。素晴らしい。


 カツを飲み込み、見守っているベルに美味しいと伝える。ベルは満足げに頷いたあと、自分も食べるとチーズミルフィーユカツにかぶりつき、伸びるチーズを口元に垂らしながら満面の笑みを浮かべる。あれだけ美味しそうに食べてもらえるなら、作った料理人も本望だろうな。


 あとでこのチーズの仕入れ先を教えてもらおう。このチーズでチーズフォンデュをすれば、絶対に美味しい。


「ゆーた、これもうまいんだぜ!」


 次はフレアが料理を勧めてきた。これは唐揚げかな? なんか赤いソースが掛かっているけど……フレア、あのバカみたいに辛い串焼きで悶絶したことを忘れたんだろうか? まだ魔法の鞄の中に、あの赤い刺激物は残ってるよ?


 ……まあ、高級店なんだし、あの、味覚が壊れた串焼き屋のような味はしないか。高級店って、高級店ってだけで、不思議な安心感があるよね。


「じゃあ食べてみるよ」


 フレアのお勧め料理を取り、赤いソースをたっぷりつけてかぶりつく。お肉は鳥ではなく、ワイバーンっぽいお肉だな。ピリッとしたトマトソースの味付けなんだけど、どこかで食べたことがある気がする。


 あっ、エビチリだ。微妙に西洋っぽい味付けになってるけど、大元はエビチリソースな気がする。うーん、米が食べたい。


「うん、この料理もおいしいね」


「そうなんだぜ! あかいからな」


 やっぱり赤色が決め手だったか。でも、この料理は美味しいから問題ないな。米が食べたくなる味だ。ワイバーンの唐揚げとエビチリっぽいソースを、ホカホカの白米にぶっかけてかっ込む。絶対に美味しいに決まってる。


 でも、テーブルの上にはまだ食べたことが無い料理が沢山ある。白米をお腹に入れたら他の料理が食べられなくなりそうだ。……この宿でもお持ち帰り用の料理を頼むかな?


 うーん、高級店ってそんなことしてくれるんだろうか? 高級店だからこそ柔軟に対応してくれる気もするが、少し不安でもある。駄目だったら、属性竜やグリーンドラゴンのお肉で釣ってみるかな。高級店だからこそ、欲しがる素材な気がする。


「キュキュー」


 レインがパタパタとヒレで料理を指している。もしかしなくても、あの料理がレインお勧めってことだろう。それに、トゥルやタマモ、ムーンまで料理を紹介しようと様子を伺っている気がする。俺のお腹、大丈夫かな?


 助けを求めてシルフィを見ると、ディーネとジーナとゆったりとワインを楽しんでいる。こっちに関わる気はないようだ。ワインを注文したのは失敗だったな。


 ……しょうがない、ベル達の契約者として、責任をもってベル達のお勧めを食らいつくそう。


 ***


「うあ゛ー。ようやく少し落ち着いたかも……」


「ふふ、裕太、食べ過ぎよ。まあ、あの子達が嬉しそうに勧めてたから断れなかったのも分かるけど、味見程度に抑えておけなかったの?」


「お勧めされた料理を、全部食べ切るとベル達が喜ぶんだもん。頑張るしかないじゃん。でも、できればシルフィに止めてほしかったな……」


 シルフィ達が優雅にワインを楽しんでいる時に、俺は1人で大食いチャレンジしてたよ。


「いくら契約者だからって、そこまで面倒はみられないわね。裕太がベル達を可愛がってくれるのは嬉しいけど、甘やかしてばかりでは駄目よ」


 軽く怒られてしまった。


「えーっと、そうだ、メッソン男爵だっけ? なにか情報は手に入った?」


 このままだと、気まずい話になりそうなので方向転換だ。ベル達をしっかり教育してねっとか言われても、俺には褒めて伸ばすことしかできそうにないからな。


「ふぅ、メッソン男爵は尾行を撒いたから焦って裕太を探してたわね。でも、今日1日、裕太が歩き回ってたから、この宿に泊まっていることは突き止めたみたいよ。明日には何人かこの宿に客として人員を送り込むって言ってたわ」


「シルフィ、それって結構重要な情報だよね。できれば早く教えてほしかったんだけど……」


「そんなに時間は経ってないわよ。それにさっきまで満腹で話を聞く余裕なんてなかったでしょ」


「ごめんなさい」


 たしかにさっきまでそんな余裕はなかった。話をしていたら口から飛び出してはいけない物が、飛び出していたのは間違いないな。


「よろしい。それで宿に送り込まれる人員は、精霊術師が2人と一般人のふりをした軍人が6人だそうよ。対人経験が豊富な実力者を選抜したって言ってたわ」


 対人経験が豊富な軍人か、嫌な言葉だ。でも、明日ってことは、ディーネをジーナ達の部屋に置いてくる必要はなかったな。まあ、フクちゃん達も喜んでたし、念のためと考えれば悪くないか。


「宿の中で狙ってくるのかな?」


「この宿で騒ぎになると面倒なことになるから、よっぽどのチャンスが無ければ襲わないようね。裕太達の行動パターンを調べるのが大きな目的で、それに加えて裕太と仲良くなれそうなら仲良くなるように指示してたわ」


「仲良くなるって、女の人?」


「さあ? 少なくとも精霊術師は2人とも男よ。残りは実戦経験豊富な軍人だそうだから、男の可能性が高いんじゃない?」


「やっぱりそうか」


 畜生。どうせ話しかけられるなら、女の人がよかったな。いや、仲良くなっても裏切られるんだし、痛めつけても罪悪感が湧かない分、男の方がマシかもな。


 でも、ちょっとだけ、本当にちょっとだけだけど、美女な軍人を説得して、そこから生まれるラブロマンス的なことを期待しなくもない。


「それで、どうする? 話しかけてきた時点で捕まえて、そのまま連絡役の元締めのところまで乗り込んじゃう?」


 シルフィはお手軽な解決をお望みのようだ。


「いや、俺も宿に迷惑をかけるのは気が進まないし、スキを見せなければ襲ってこないなら、外で罠にかけた方が確実かな」


 それに、まだガッリ親子を派手にぶちのめす作戦が決まってない。ガッリ親子側の動きも早いし、俺も今晩中に作戦を立てて、明日から行動できるようにしたい。……派手って縛りが無ければ、結構簡単な気がするんだけどな。

読んでくださってありがとうございます。

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