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三百七十九話 在庫整理

 ガッリ親子の関係で忙しくなる前に用事を済ませてしまおうと、マリーさんの雑貨屋を訪ねた。お酒を集めてもらう約束をしたあとに、魔法の鞄の中で眠っている財宝を出したあたりから、毎度のごとくマリーさんの暴走が始まった。


「マリー、落ち着きなさい。裕太様、いきなりこのサイズの宝石ですと、捌くのに苦労致します。もう少し小ぶりなものはありませんか? それを見ればマリーも現実に戻りますので」


 まあ地球の場合だと、世紀の大発見になるクラスだから予想はできてた。ただ、迷宮が存在する世界なんだから、少しはありふれている可能性を考えていたけど、こっちでもヤバい価値なんだな。まだ魔法の鞄の中にサッカーボールくらいの宝石もあるんだけど、これを出したらどうなるんだろう?


 すごくウズウズする。ちょっとだけ……1回出して、間違えたことにしてすぐに収納すれば大丈夫。もしかしたらマリーさんの新たな扉が開かれるかもしれない。好奇心にあらがえず、そっと魔法の鞄に手を伸ばすと、ガシッと右手を掴まれた。


「ソニアさん?」


「裕太様、とてつもなく邪悪な顔をしていましたが、いったいなにを取りだすつもりでした?」


 ソニアさんがとっても失礼なことを言う。なんでバレた? ソニアさんに表情で行動を読み取られるほど親しくなった覚えはないぞ?


「裕太、あなた確実によからぬことを考えている顔をしてたわよ。丸わかりね」


 なるほど、ありがとうシルフィ。ただでさえ表情に出やすいのに、好奇心を優先した結果、俺の内心がすべて顔に出ていた訳か。迂闊だったな。こうなってしまうと、間違えて特大の宝石を出すわけにもいかない。普通に小さいサイズの宝石を出そう。


「ソニアさん、よく分かりませんが、誤解をしているようです。普通に宝石を取りだそうとしただけですよ。手を離してください」


「本当ですか?」


「本当です」


 疑うソニアさんに、今できる最高のキリっとした顔で答える。


「「ぷっ」」


 激しく傷ついた。まさかソニアさんだけじゃなく、シルフィまで笑うなんて。イケメンとまではいかないが、平均よりもちょっと上くらいの顔立ちだと思っているんだが、なぜ笑われる?


「分かりました。ソニアは裕太様を信じております。もう一度言いますね。ソニアは裕太様を信じております」


 驚くくらいに説得力がない信じてるだな。でも、これだけ念を押されて裏切ったら、鬼の首を取ったかの如く騒がれる気がする。


「大丈夫です。出しますよ」


 ソニアさんが用意した台の上にじゃらっとビー玉サイズの宝石を取りだし、続いてマリーさんが持っている宝石も含めて、野球ボールサイズの宝石を収納する。


「これは……素晴らしいですね」


「ええ、このクラスの宝石がこんなに……私は宝石の専門家ではないけど、迷宮産ってことを考えれば、かなりの品であることは間違いないわね。量はどれくらいあるんですか?」


「このサイズよりも小さいのを含めると、数えきれないほどあります」


「なるほど……裕太さん、この宝石はすぐに換金しなければならない事情がありますか?」


 野球ボールサイズの宝石を収納したからか、しれっと正気に戻り、しれっと話を進めるマリーさん。相変わらずいい根性してるよな。


「いえ、お酒関連でご迷惑をおかけするので、そのお礼に放出しただけです。お金には余裕がありますね」


「お気遣いいただきありがとうございます。それでしたら、ポルリウス商会で新たに宝石部門と酒部門を開設致しますので、時間を頂けますか?」


 どうやらマリー商会は止めたらしい。サッカーボールサイズの宝石を見せてたら、独立してたかな?


「俺の方はいつでも構いませんよ。でも、まだ宝石単独のしか見せてませんよ? 宝石がついたアクセサリーや貴金属の財宝はどうします?」


「……確認させていただいても? あの、できれば刺激が少ない物でお願いします」


 刺激が少ないのってことは、大きな宝石が付いているのや、オリハルコンとかそういう金属は除けってことだよな。


「なんかマリーさんらしくないですね。大きな宝石の方を欲しがると思ってました」


「あはは、扱いたいのはやまやまなんですが、ポルリウス商会はその分野の素人です。その状態でそんな騒ぎになるような宝石は扱えません。私共がその部門に慣れた頃に、まだ卸していただけるのであれば、お願いします」


 きっぱりと断られた。


「別に先に譲っておいても構いませんよ?」


「たしかに持っておくだけで価値がある宝石ですが、それだけ大金が必要になります。上り調子のポルリウス商会は、資金を寝かせるのではなく、発展のために動かすことを選びます」


 要するに、ガンガン投資して、ガンガン儲けるから、使えるお金が沢山必要ってことだな。宝石関連とお酒関連の商会からも反発がありそうだし、手を広げすぎて失敗なんてことにならないといいけどな。


「分かりました。では、マリーさんが部門を立ち上げたあとに卸しますね」


「はい。よろしくお願いします。速やかに宝石・貴金属部門と酒部門を作り上げて見せます」


 鼻息荒く宣言するマリーさん。分かっていたことだけど、完璧に仕事を増やしてしまったな。


「ではさっそく、ポルリウス商会の幹部を集めて会議を。裕太さん、失礼します」


「ちょ、ちょっと待ってください。まだ素材を卸してませんし、廃棄素材の受け取りもまだです。あと、ジャイアントディアーの敷物のことも聞かせてください!」


 まだ用事の半分も済んでないのに行かないでほしい。


「あっ、そうでしたね。失礼しました」


 改めて席に着いたマリーさんと商談を再開する。しかし、かなりの儲けになる迷宮素材を忘れるとは、危険なくらいのめり込んでるな。


 しかし、これだけ急いでるとなると、ソニアさんに姑息な仕返しはできそうにない。まあ、結構焦らせることもできたし、今回はこれで満足しておくか。


 ***


「この倉庫と、隣の倉庫に満杯で集めました!」


 マリーさんとの話し合いで、ジャイアントディアーやその他諸々の手続きを終えて、廃棄予定の素材やゴミを集めている倉庫に案内してもらった。


 そして、目の前には大きな倉庫が2棟と、両手を大きく広げたドヤ顔のマリーさんが……たしかにアサルトドラゴンが4匹は入りそうな大きな倉庫2棟に、満杯に入っているならすごい量だな。


 そして、回収されたゴミの中に、汗が染みこんだ物があるのか、運動部の部室のような臭いがする。とりあえず、タオルで鼻と口を覆うのは確定だ。ゴミ全部に洗浄の魔法をかけてくれたら助かるんだけど、捨てる物にわざわざ洗浄を使わないだろうし、難しいな。


「えーっと、ありがとうございます。さっそく回収させてもらいますね」


「はい。まあ今回は色んなところに声をかけてかき集めたので、次回からはここまで集まるかは分かりません」


 生ゴミならともかく、ある程度は長持ちする物や、臭いが出ない廃棄素材だけを集めているから、たしかに次からは量も減るだろうな。


 倉庫の大きな扉を開けて中を見ると、大量のゴミが乱雑に天井近くまで積み上げられている。そうだよね、ゴミだから壊れても問題ないもんね。


 嬉しいし、迷宮のコアも喜ぶだろうけど、これだけの量を収納すると考えると、ちょっと面倒だ。下手に収納したら雪崩が起きそうだし、登って上から収納するのが安全だろう。


 幸い、大量のゴミが積み重なって足場は豊富だし、レベルアップした体力なら問題なく登れる。できるだけなだらかになっているルートを選びゴミの山を攻略する。


 溶かして再利用するのか金属はほとんどゴミに入ってない。目立つのは使い古してボロボロになった革鎧などの防具だな。迷宮都市ってだけあって、冒険者が多いからこそのこのゴミか。それに、迷宮から沢山の資源が取れるからか、ある程度使えそうなものまでゴミとして集められている。


 昔の日本だと、布なんかは擦り切れるまで使っていたらしいから、物資の面では昔の日本よりも迷宮都市の方が豊かっぽいな。さて、ここが頂上だ。あとは収納しまくるだけだな。大きな廃棄素材やゴミの収納は、雪崩の原因になりそうだから注意しよう。


 ***


「裕太さん、お疲れさまでした」


「あはは、本当に疲れました。生ゴミが無かったから助かりましたけど、欲張って生ゴミまで回収してたら地獄でしたね」


 それでも防具にしみ込んだ汗なんかの臭いにダメージを受けたし、延々とバランスゲームをやっているような感覚で神経も疲れた。後半はある程度慣れたし、次からはもう少し簡単に回収できそうだけど、もっと簡単に回収できる方法を考えたい。


「ふふ、生ゴミを収集するなら、この倉庫は使えませんでしたね」


 なるほど、倉庫が集まっている場所とはいえ生ゴミの収集は許されないか。あれ? 別にわざわざ倉庫にゴミを集めなくてもいいんじゃないか?


「マリーさん、次からこれに廃棄素材やゴミを集めてください。入りきらなくなったら回収をストップしてください」


「へっ? これは魔法の鞄ですか? えっ? 魔法の鞄でゴミを集めるつもりなんですか?」


「ええ、その魔法の鞄は容量が結構あって、この倉庫1棟分は入ると思います。次回からはゴミの量も減りそうですし、たぶんちょうどいい感じになると思います」


 時間関連の効果が無かったのは残念だけど、結構高性能な魔法の鞄だ。これで次からは魔法の鞄を受け取るだけで簡単に回収完了になる。楽なことは素晴らしいことだ。


「いやいやいや、裕太さん、ちょっと待ってください。それだけの量が入る魔法の鞄なんてかなりのレアですよ。商人からしたら喉から手が出るほど欲しいんです。そんな鞄でゴミの回収とかしないでください!」


 軽くマリーさんが涙目になっている。かなりショックな提案だったようだ。


「これでも、迷宮をトップで攻略している冒険者ですから、魔法の鞄には余裕があるんです。ポルリウス商会では持ってないんですか?」


「いくつか所有していますが、これほどの効果の物は持っていません。高性能な魔法の鞄は、お金を払えば手に入るという物ではないんです」


 迷宮の後半だと結構魔法の鞄が宝箱から出たし、もう弟子達全員に魔法の鞄を配っても十分に余る量の魔法の鞄がある。


「それなら魔法の鞄を1個お譲りしましょうか? その倉庫が入るほどの容量ではないですが、普通の家が3軒分ほど入って、時間の流れがわずかに遅くなる魔法の鞄なら余ってます」


「えっ、いいんですか? いえ、さっきも言った通り貴重な物なんですよ? 特に時間の流れを遅くするものはかなりレアなんです。簡単に譲っていただくわけにはまいりません」


 そういいながらも、チラ、チラっと俺の顔を見るマリーさん。魔法の鞄が宝箱から普通に出てくるから感覚がマヒしていたけど、貴重な物だと再認識できる光景だな。


「時間と言ってもお湯が冷めるのが少し遅くなる程度です。あまり変わりませんよ。それに、魔法の鞄でポルリウス商会の商売が順調になれば、俺も助かります」


「そうなんですか?」


「そうなんです」


 さっさと丸め込んで、素材を卸して帰ろう。浮島のお茶会場で使う家具なんかも買いそろえないといけない。ガッリ親子のせいで忙しいぞ。

デンシバーズがリニューアルされて、comicブーストに変わりました。

http://www.gentosha-comics.net


引き続き精霊達の楽園と理想の異世界生活のコミック版も更新されますので、よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 冒頭でマリーさんが興奮してますが、前話の最後ではソニアさんが興奮していました。文脈的に問題無いですかね。自分の勘違いだったらすみません。
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