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三百七十八話 鼻息

 ガッリ親子がジーナ達を狙っていることを説明した。今までの信頼の賜物か、ジーナ達は怯えることなく話を聞き、それに加えてジーナはおとりになることを了承してくれた。あとは、しっかり作戦を練って、ガッリ親子を地獄に落とすだけだな。


「じゃあ、俺は忙しくなる前に用事を済ませてくるから、悪いけどジーナ達は部屋で待機しててね。尾行は排除したから居場所はバレてないと思うけど、念のために今からディーネを召喚しておくよ」


 俺がディーネを召喚するって言うと、少しホッとしたようにジーナが頷く。表面上は平気そうにしててもやっぱり不安はあるんだろうな。特にジーナは年長者だからプレッシャーも強いんだろう。本当にさっさとガッリ親子をぶちのめさないとな。決意を新たにディーネを召喚する。


「お姉ちゃんがきたわー」


 ……ディーネのポワポワした雰囲気って、こういう時の決意を鈍らせるよな。まあ、冷静になれたってことでよかったことにしよう。


 ディーネに事情を説明すると、お姉ちゃんに任せなさいと胸を叩いて揺ら……請け負ってくれた。これで安心だな。 


「あっ、昼食はどうしたらいい?」


 出発しようとすると、ジーナが声をかけてきた。昼食か、たぶん昼までに戻るのは無理だろうな。今日は話し合いばかりになるし、ベル達も残していくとなると結構な量になる。


「えーっと、この宿は昼食も食べられるらしいから、昼にこの部屋に運んでもらえるように頼んでおくよ」


「先に食べちゃっていいのか?」


 たしかに高級宿の1食目をみんなと食べられないのは少し残念だが、その分は夜に期待するから大丈夫だ。


「問題ないよ。気に入った料理があったら夜に教えてくれ。追加で頼めるか聞いてみるから」


「分かった。師匠なら大丈夫だろうけど、気をつけてな」


「うん、行ってくる」


 ディーネにみんなを頼み、ベル達にお留守番をお願いして部屋を出る。昼食を頼むとして……俺とシルフィは食べないから、えーっと、ディーネを加えて16人前か。大所帯は大変だ。


 ***


「裕太様、いらっしゃいませ!」


「ふあお!」


 いきなり背後から声をかけられて驚いてしまった。振り向くとそこにはソニアさんが、とてつもなく嬉しそうな笑顔で立っていた。


 ちくしょう、ガッリ親子を潰す作戦を考えてたら雑貨屋に到着してた。考え事をしながらでも目的地に到着できる自分を褒めたいが、今回の場合は駄目だ。ソニアさんに驚かされてしまった。


 シルフィになんで教えてくれなかったのと目線を向ける。


「あら? 危険が迫ったり、尾行がついたら教えてくれって言われてたけど、ソニアは別に危険でも尾行でもないわよね?」


 ふーやれやれだぜって感じのジェスチャーをしながらシルフィが言う。たしかにそうだけど、前回はソニアのことを教えてくれるように頼んだよね。気を利かせてくれてもいいんじゃないか?


 なんのことだか分からないわって感じのリアクションをするシルフィ。無表情の中にも薄っすらと漂う笑みが腹立たしい。確実に俺が驚かされるのが分かっていながら、面白そうだと放置したな。


「裕太様、どうかなさいましたか? たいそう驚かれていましたが、何か問題でも?」


 抜け抜けと言うソニアさん。属性竜を卸ろすのを止めようかなって姑息なことを考えてしまったが、さすがにそれは人間が小さすぎる。男ならなんとかして正攻法でソニアさんを困らせないといけない。……器の大きい男なら、笑って許してやるって声が、心の奥底から聞こえた気もするが無視だ。


「あはは、いえ、なんでもありません。それよりもマリーさんとお会いできますか?」


「ええ、大丈夫です。応接室にご案内致します」


 ……ソニアさんの足取りが軽い。背中を見ただけで上機嫌なのが丸わかりだな。なんとかしてあの背中をしょんぼりさせたい。洒落にならないくらい素材を卸すのはどうだろう? ソニアさんも引きつるぐらい忙しくなれば、しょんぼりするかも。


 いや、ただでさえマリーさんが働きすぎで心配だったのに、今回は更に酒を集めてもらうために、新たに商売をお願いするつもりだ。それに加えて仕事を増やしたら、狂喜乱舞して働きまくってポックリ逝きそうだ。ヴィータは健康だって言ってたけど、限界はあるはずだ……たぶん。


 応接室に通され、ソニアさんはマリーさんを呼びに行ったが、いいアイデアがまったく浮かばない。仕事以外でソニアさんのことをまったく知らないから、なにをどうしていいのかすら分からない。せめて嫌いな物でも分かればやりようはあるのに。……ん? 姑息すぎて悲しいけど、いいこと思いついたかも。


「裕太さん、お久しぶりです。順調に廃棄素材は集まってますよ。ゴミも沢山です!」


 姑息ないいことを思いついたタイミングでマリーさんが入ってきた。商売が順調なのか、全身からやる気がみなぎっている。今晩にでもヴィータに頼んでマリーさんを回復させてもらっておこう。見た感じ必要なさそうではあるが、念のためだ。


「お久しぶりです。廃棄素材、ありがとうございます。あとで回収させてもらいますね」


「分かりました」


 ニコニコと笑いながらマリーさんが対面に座る。まずは普通に商売の話だな。ソニアさんのことはあとだ。


「えーっと、今回もお願いがあるんですが、大丈夫ですか?」


「ええ、ええ、もちろん大丈夫です。裕太さんのお願いはポルリウス商会にとって大変な利益になります。なんでもお申し付けください。なんでしたら私とソニアをお付けしますよ」


 最後に変な売り込みをかけられた気がするが、聞かなかったことにしよう。美女とのイチャラブは憧れるが、この2人相手だと、イチャラブというよりも、経済での大陸制覇とかになりそうだ。


「えーっと、まずはこの石なんですが、普段よりもかなり多いんですが大丈夫ですか?」


 精霊王様達がお酒の購入のために持ってきた精霊貨、張り切りすぎて普段の20倍くらいある。値崩れが心配です。


「問題ありません。現在品薄ですのでむしろ助かります」


 精霊貨は人気があるみたいだな。綺麗に捌けるのならこちらとしても助かる。


「ありがとうございます。それで、代金なのですが、その代金でお酒をできるだけ多く集めてもらえませんか? それも、今回だけでなく継続的に集めていただけたら助かります。あと、今回は間に合わないと思いますが、国中……いや、大陸中のお酒を集めてもらえれば嬉しいです。多少高くても購入しますので、できるだけ集めてください」


「裕太、いいこと言ったわ。うふふ、飲み放題ね」


 シルフィが上機嫌で話しかけてくる。普段は会話に口を挟まないのに、お酒のこととなるとこれだ。精霊の酒好きも極まってるな。まあ、いくら割高になろうとも、精霊達がご機嫌になるのなら十分な利益だ。


「大陸中ですか? それだと商品の品質を確約できませんし、戦争が激しい国のお酒の入手は困難です」


 んー、戦争中でもお酒が無いとは言わないんだな。人間も十分に業が深い。戦争はどうしようもないとして、品質はどうしよう?


「裕太、品質の方はこっちでなんとかするわ」


 力強いシルフィのお言葉。品質が劣化したお酒をどうにかできるとは思えないんだが、たぶん精霊達の総力を挙げてなんとかするんだろう。


「そうですね、できるだけ注意は払ってもらいたいですが、その結果品質が悪くなってしまったものなら全部買い取ります。ただ、品質が悪くても買い取るからと言って、最初から品質が悪い物が集まらないようにしていただきたいです」


「ふーむ、難しいですね。どこにでも利益に目がくらんで信頼を裏切る者はいます。……ですが、ほかならぬ裕太さんのお願いです。私がポルリウス商会の伝手を使い、なんとか致します」


「すみません、雑貨屋に全然関係ないことを頼んでしまって。ですが、ご迷惑をおかけした分の利益はお約束しますので、よろしくお願いします」


「うふふ、期待しています」


 とりあえず、無理を頼むんだし、今までとは別の商売の種を投入してみるか。今の状況でも十分に利益を渡している気もするが、マリーさんが力を付けても俺に損はないし、マリーさんの体調面以外の問題はないだろう。


「マリーさん。いままで迷宮の財宝関連は卸してなかったんですが、必要だったりします? お世話になっていますので、魔道具以外の普通の財宝なら卸しますよ。ちょっと見せた人が言うには、国宝クラスが満載だそうです」


 ベリルの宝石のことを勘違いしまくっていた、服屋の店長さんの見立てだから微妙だけどな。魔道具や武器はなにかに使えるかもしれないから、保留にしておこう。


 新たにマリーさんに燃料を投下してしまった気もするが、この場合は恩返しと言うことで仕方がなかったよね。あとはヴィータの力を信じよう。


「裕太さん(様)!」


 いつの間にか俺の左右に座っているマリーさんとソニアさん。近いよ。ソファーなんだから、そこまで近づく必要はないはずだ。あと、立っていたソニアさんはともかく、対面に座っていたマリーさんはいつ移動したんだ? 瞬間移動か?


「えーっと、近いです。どうしたんですか?」


「その財宝、見せていただくことは?」


「……えーっと、少し離れて、見開いた眼と鼻息を抑えてくれるならすぐにでも……」


 美女と急接近は嬉しいが、これは違う。


「失礼しました。よろしくお願いします」


 スッと俺から距離をとるマリーさんとソニアさん。上品に微笑もうとしているが、今更取り繕うのは無理だぞ。


「じゃあ出しますね」


 目の前のテーブルに財宝の一部を取りだして並べる。とりあえず種類的にはまんべんなく出した方がいいよな。まずは各種宝石、野球ボールサイズで、なにに使うのか分からないような宝石。


「そんなに雑に扱っちゃ駄目!」


 ソニアさんが悲鳴のような声を上げ、走って棚に向かう。あっ、なんか貴重品が置けそうなお盆みたいなのを持ってきた。たしかにあれなら宝石に傷がつかなさそうだ。


 ゼエゼエ言っているソニアさんを見ると、予定と違うことで困らせてしまった気がする。さっき思いついたアイデアはどうしよう? この後の展開次第だな。余裕があったら試す方向で進めよう。


 まずは、宝石を見ながら鼻息荒く、新たな部門の設立とか、いっそのことマリー商会をとか言っている……元美女をなだめよう。もう慣れたからガッカリすらしないよ。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 精霊と弟子だけより、 俗な一般人が出てくる回の方が面白い。 若しくは、拠点話=平和、が長く続くと飽きる。 配分の問題。
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