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三百七十七話 打ち合わせ

 なんと黒幕はガッリ親子だった! 勢いをつけてみたけど、あんまりテンションが上がらない。ガッリ親子……帰ってこなければよかったのに。せめてこっちに関わるのをやめてほしかったな。


「そういえばシルフィ。人質を取るって言ってたけど、狙いは誰なの? たぶんジーナ達かメルなんだろうけど」


 それ以外に狙う相手はいないはずだ。いや、トルクさん一家とかマリーさん、ジーナの家族も人質候補には一応なる気もする。


 そもそも、俺がサラ達に護衛の精霊をつけていることは知られているはずなんだけど、情報収集ができてないのか?


 ガッリ親子の関係者なら、それくらい間抜けでも違和感はないが、サラ達を攫おうとして返り討ちに会った冒険者の話は有名なはずだ。ジーナ達を誘拐するつもりなら、切り札くらいは隠し持ってるかもしれない。油断だけはしないようにしよう。


「裕太がいないところでジーナ達を狙うつもりね。最初はジーナの家族を攫って、ジーナに言うことを聞かせるつもりだったらしいけど、冒険者ギルドの警備に気づいて中止したみたい。ジーナの家族の誘拐で冒険者ギルドが関わってくるのを嫌ったのね」


 なるほど、たしかに俺と冒険者ギルドの関係を考えると、もしジーナの家族が攫われたら、冒険者ギルドも本気で動くよな。前回の冒険者ギルドとの話し合いで、護衛の人数を減らしたのは早まったかもしれない。でも、それでも効果はあったんだし、冒険者ギルドの警備に感謝しておこう。


「メルは?」


「メルのことは話に出なかったわね。でも、メルが狙われてもメラルが消し炭にするだけだし、問題ないんじゃない?」


 ……メルの身の安全よりも、誘拐犯の方が心配になる。メラル……メルにトラウマを植え付けるようなことはしないでね。


「じゃあ、さっそく行っちゃう?」


「えっ? どこに? ああ、ジーナ達のところか。まだ早いんじゃないか?」


 全然休憩してないよ?


「違うわよ。ガッリ親子のところよ。さっさと行って、派手に潰しちゃいましょう。ディーネ達もみんな呼んだら楽しいことになるわよ」


 ……それって王都が壊滅するんじゃないか? たしかに派手にって言ったけど、そこまで大それたことは考えてないよ。シルフィ、もしかしてワクワクしてる?


「いや、あのね……ほら、襲われた証拠とかないと、単にガッリ侯爵を襲っただけになるからね。別にお尋ね者になったとしてもやっていけるけど、気に食わないから貴族を襲ったとか思われるのは嫌だな」


 最低限の世間体は大切です。


「うーん、それもそうね。じゃあどうするの?」


 それをゆっくり考えたいところなんだが、ガッリ親子も急いでいるみたいだし、シルフィも気合が入っているから、のんびりもしていられないんだよな。


「えーっと……細かい作戦はこれから考えることにして、えーっと、ジーナにおとりになってもらうのが手っ取り早いかな?」


 非人道的なことを言ってるけど、大精霊を2人くらい護衛につければ問題ない。たぶん戦争のど真ん中に突入しても無傷で生還できる。


 誘拐犯が狙いやすそうなのは子供のサラ達だけど、さすがに大丈夫と分かっていても、子供をおとりにするのははばかられる。ジーナなら、あらかじめどういうことが起こるのかを説明しておけば対応できるだろう。


「裕太のことだからディーネ達の誰かを護衛につけるんでしょ。それなら大丈夫なんじゃない。でも、ちゃんとジーナに話を通しておくのよ」


「うん、分かってる。あとはジーナを襲ってきた相手から、芋づる式にメッソン男爵までたどれば証拠はなんとかなるよね」


 ぶっちゃけ、シルフィが言った通りに、今すぐガッリ親子を襲撃すれば簡単だけど、それだと証拠がないし、大手を振ってガッリ家を潰せない。ちゃんと手順を踏まないとな。


 ん? 別に襲われたってことにして、連絡役とメッソン男爵を捕まえちゃってもいい気がしないでもない。いや、未遂だと魔術とかで判別される可能性もあるし、最低限、手は出させた方がいいだろう。


「どこで派手にするの?」


 シルフィがコテンと首を傾げて聞いてくる。……うん、シルフィの首を傾げる姿は可愛いな。表情は変わってないのに不思議だ。


「えーっと、まだ考えてないけど、迷宮都市で派手な行動は必要ないと思うんだ。派手なのはガッリ親子がいる王都だけで十分だよ」


「それもそうね。ふふ、じゃあ王都での作戦を楽しみにしておくわ」


 シルフィがプレッシャーをかけてくる。たぶん俺の内心を理解した上でプレッシャーをかけてきてるんだろう。……なんとかシルフィが満足してくれる作戦を考えなきゃな。


 しかし、侯爵家を潰すとか、俺もしれっと大それたことを考えるようになったな。まあ、物理的に国が潰せる戦力が居るんだから、そのくらい大きく出ても問題ないだろう。


「あっ、そういえば相手も精霊術師を2人雇ってたわ。精霊術師が2人がかりで裕太の精霊を抑えて、その間にジーナ達を誘拐する計画ね」


「えっ? 精霊が敵になるの?」


 精霊と争うとか嫌なんですけど。でも、ちょっと安心した。メッソン男爵もちゃんと俺のことを調べてたんだな。


 敵が弱いのはありがたいことなんだけど、ガッリ親子と同じようなのが沢山出てきたら、それを相手にする俺が可哀そうすぎる。


「敵にはならないわ。精霊術師達はメッソン男爵に大きなことを言ってたけど、契約しているのが浮遊精霊だし、浮遊精霊も大精霊に敵対するくらいなら契約を解除するわ」


「なるほど」


 そういえば精霊契約って精霊側に有利だったな。争う前から勝負は見えてるのか。せめてある程度まともな敵をって思ったけど、大して違いはないようだ。


「ねえ、さっきの話を聞いて思ったんだけど、精霊に頼んで、敵側の精霊を抑えてもらうことってできるの?」


「うーん、精霊同士で本気で争うことはないわ。だから、話し合いでお互いに不干渉って決めたりするわね。意識がはっきりしてない浮遊精霊でも本能でお互いの攻撃をためらうから、それで精霊で精霊を抑えられるって勘違いしてるんじゃない?」


 なるほど、意思疎通ができないと、そういう勘違いも生まれるのか。誘拐に協力するような精霊術師と契約しているみたいだし、元々契約精霊も意識がはっきりしていない浮遊精霊なのかもな。


 まあ、しょうがないか。シルフィが言うには、普通の契約方法だと、下級精霊と契約するのも大変だって言ってたもんな。


 俺達の場合は、大精霊の斡旋+相性診断的なものまで行われてそうだから、一緒にしてはいけない。


「ゆーた、べるまんきつしたー」「キュキュー」「おもしろかった」「クゥー」「まあまあなんだぜ!」「……」


 おっ、ベル達が部屋の探索から戻ってきた。そろそろジーナ達の部屋にもいかないといけないし、作戦を考えるのはあとにするか。ベル達が部屋を見回った結果を聞きながらジーナ達の部屋に移動する。


「師匠、あたしは別に高級な部屋じゃなくてもいいんだけど……」


 ジーナ達の部屋に移動すると、開口一番にジーナが言った。どうやら思っていた以上に高級な部屋で、逆に居心地が悪いらしい。俺も同じ気持ちだ。


 心配になってサラ達の様子を確認するが、こっちは心配ないようだ。サラは落ち着いた雰囲気だし、マルコとキッカは子供特有の順応性の高さか、興味深げに部屋の中を探索している。


 フクちゃん達もマルコとキッカに引っ付いて騒いでいるし、部屋に飲まれている雰囲気はない。適応できてないのは俺とジーナだけみたいだな。頑張って一緒に適応しよう。


「まあ、あれだよ。偶にのことだし慣れるように頑張ろうか。それに、高級な宿屋の料理とか、楽しみじゃない?」


 この宿は普通に部屋で食事がとれるシステムだったので、ちゃんとお願いしてある。まあ、料理を17人前も頼んだ時は変な目で見られたけど。


「あっ、そうだよな。ここのご飯が食べられるんだよな。どんな料理がでるんだろ?」


 さすが食堂の娘、あっさり興味の対象が料理に移った。


「なんか、迷宮都市で流行りだした料理を取り入れて、この宿に相応しいテイストに仕上げたメニューらしいよ。たぶんトルクさんのところの料理のアレンジだと思う」


「それはそれで面白そうだな」


 満面の笑みで頷くジーナ。だよね。俺も密かに楽しみにしている。トルクさんのガッツリニンニクを利かせた料理も好きだけど、たまには違うテイストを楽しむのもいいだろう。


 開き直ってトルクさんのところでも全員分の料理をたのむか? ……数回ならともかく、食事が精霊との重要なコミュニケーションツールだってバレそうな気もするから悩ましい。


 変な奴にバレて幼い精霊が利用されないのであれば、広めても何の問題もないんだけどな。中級精霊以上はともかく、浮遊精霊と下級精霊は心配だ。


 そういえば、トルクさんのところの料理って俺のレシピだよな。もしかしてルビーが作る料理に似た感じのが出てくる? いや、ルビーは別に高級志向じゃないから、たぶん大丈夫なはずだ。


 まあいいや、ジーナの気も解れたし、ガッリ親子について話しておこう。うっかり外に出て誘拐されたら大変だからな。


 ***


「という訳で、みんなは狙われています。なにか質問は?」


 できるだけ怖くならないように話したけど……よかった、表情からみるとそこまで怖がってる様子はない。俺を信頼してくれていると考えれば、その期待に応えないと駄目だろう。……信頼しているのは精霊の可能性もあるが、そこは深くツッコまないぞ。


「師匠、あたしが、おとりになるのは構わないけど、1人のメルの方が狙われないか?」


「メルのことは話に出なかったし、メラルもいるから大丈夫だよ」


「そうなのか」


 ジーナの家族のことは……冒険者ギルドの護衛に加えてシルフィも注意している。ほぼ万全と言っていいし、余計な心配をかけないように黙っておいた方がいいよな。


「お師匠様、ジーナお姉さんよりも、私がおとりになった方が効果が高いと思います」


「それなら、おれがおとりになる。おとこだからな!」


「キッカも!」


 サラがおとりに立候補すると、すかさずマルコも立候補してきた。キッカは流れに乗っただけな気がする。こうなると、心配だから駄目って言っても納得し辛いだろうな。ディーネ達がいれば安全だって、サラ達も分かってるから特にだ。


「……まあ、サラ達の方が効果が高いのは事実だけど、子供をおとりにするのは外聞が悪いから駄目。ジーナに頼むのですら、本来は褒められたことじゃないからね」


「そうなんですか?」


「うん、今回のことは騒ぎになると思うから、説明を求められるかもしれない。だから外聞は大切なんだ」


 まだ最終的な作戦は決まってないから微妙だけど、派手にやるなら説明を求められる可能性が高い。正直に言わなければいいだけだけど、嘘は少ない方が俺がやりやすい。


 少し不満そうではあるが、サラ達も納得してくれたし、ジーナもおとりを引き受けてくれた。順調だな。


「師匠、おとりっていつやるんだ? それまで出歩かない方がいいなら、トルクさんのところに手伝いに行けないぞ?」


 あっ、そういえばそうだった。カルク君も死んだ目をしてたし、早めに手伝いに行かせないと不味いんだったな。


「うーん……とりあえず、明日から俺が送り迎えをするよ。マルコとキッカは俺と一緒に行動だね」


 そうすれば移動中に狙われることはないはずだ。トルクさんの宿にも冒険者ギルドから派遣された護衛がいるから、サラ達が働いている間に襲われることもないだろう。念のためにディーネに護衛を頼んでおくか。そうやって時間を稼いでいる間に、作戦を考えてさっさとガッリ家を潰してしまおう。


「仕込みの時間に間に合うようにすると、朝が早いけど大丈夫?」


 ジーナが心配そうに聞いてくる。この世界に紛れ込んでからだいぶ健康的になったけど、それでも早起きは辛い。……ガッリ親子を捕まえた時、数発くらい殴っても許されるよな?


「まあ、早めに寝るようにするから大丈夫だ」


 念のためにシルフィに起こしてもらえるように頼んでおこう。さて、あとはジーナ達のこれからの行動の打ち合わせをしておくか。


 特にジーナは実家の食堂に顔を出さないと駄目だし、サラ達も行きたい場所や買いたい物もあるだろう。さすがに迷宮はこの状況が落ち着くまで無理だな。


 他にもマリーさんに色々と依頼があるし、迷宮のコアに廃棄予定の素材やゴミを届けないといけない。あっ、精霊貨の換金とお酒の収集の依頼は忘れないようにしないとな。


 ……今回の迷宮都市滞在はかなりハードなことになりそうだ。……あれだな、ガッリ親子、数発殴るんじゃなくてボコボコにしよう。

読んでくださってありがとうございます。

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