表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
378/755

三百七十六話 派手に?

 迷宮都市に到着し、なぜか尾行してきた相手を排除して、ちょっと高級な宿屋に宿泊することにした。トルクさんの宿屋に泊まれなかったのは少しショックだったが、たまにはこういう経験もいいだろう。


「じゃあ、とりあえず俺は1人部屋で、ジーナ達は四人部屋だね。ちょっと用事があるからそれが終わったらそっちの部屋に行くよ」


「ああ、分かったよ」


 マーサさんに教えてもらった、ちょっと高級な宿屋で部屋を取り、宿の従業員の案内で部屋に向かう。従業員が丁寧に部屋に案内してくれる時点で、こっちの世界だと高級な気がするな。


「こちらでございます。魔道具の説明はいかがいたしますか?」


 部屋に魔道具がついているのか。さすがに高い宿屋だけあるな。部屋もどうせならいい部屋にしようと思って奮発したからかなり広い。まだ入り口なのに部屋までの長めの廊下で、確実にスペースを持て余すのが分かる。魔道具の説明は……どれが魔道具かすら分からないから頼んでおくか。


「お願いします」


 頼んだあとで気がついたんだからしょうがないけど、すでに部屋の中に侵入し、探検に夢中なベル達が少し気になる。知らない人が居るところで、魔力を使って物を動かしたりはしないだろうけど、ちょっとだけ不安だ。


「ん? ここはなんですか?」


 入口に入ってからすぐに、高級な宿にしてはシンプルなスペースに違和感を覚える。


「こちらは、装備品の置き場となっております。高ランクの冒険者のお客様ですと、装備品が場所を取る方も多いので、こちらをご利用いただいております」


「なるほど」


 そういえば、魔法の鞄って激レアって程ではないけど、レアではあるんだよな。容量が大きいのも珍しいらしいし、高ランクの冒険者でも持ってない人は結構いるんだろう。


 この宿は偶に下級貴族が泊る程度って言ってたけど、迷宮都市なんだし高ランクの冒険者やその素材を仕入れにくる商人に狙いを定めているんだろうな。





「では、失礼いたします」


「ありがとうございました」


 …………魔道具を説明してもらったけど、地味に俺が持っている魔道具の方が性能が良かったりして、せつなくなる。でも、考えてみれば迷宮の奥で手に入れた魔道具だから、それくらいの性能がないと割に合わないよな。


 でも、話を聞いて面白いことも分かった。生活魔法で代用できる魔道具が結構あったので質問したら、お金持ちは自分で生活魔法を使ったりしないらしい。


 宿の従業員やお金持ちの使用人が先回りして魔道具を使い、主人の手を煩わせないんだそうだ。人にお世話をされるのとか、逆に煩わしそうな気もするが、生粋のお金持ちは人にお世話をされるのが普通のことなんだそうだ。いい機会だし、俺もお世話をされる気分を味わってみるか。


「ゆーた、べっどにやねあるー。なんでー?」


 寝室から出てきたベルが、コテンと首を傾げながら難しいことを聞いてきた。そもそも部屋に雨が降る訳でもないし、なんのためについてるんだ?


「……なんで?」


 俺もコテンと首を傾げながらシルフィに質問する。


「裕太がその仕草をしても、可愛くはないわよ?」


 冗談半分でやってみたら、とっても失礼なことを言われてしまった。もしかしたら可愛い系男子としての道もあるかと思ったが、その道は塞がっていたようだ。


「……コホン、それで、なんで屋根がついてるか知ってる?」


「しってるー?」


 可愛さアピールはなかったことにして、改めて質問しなおす。


「昔は布で人目を遮ったり風よけが目的だったみたいだけど、今は虫よけや装飾品としての目的もあるみたいね」


 ……なるほど、蚊帳かやみたいな役割もあるのか。屋根が大切という訳じゃなくて、ベッドを囲んでいるカーテンが重要っぽい。


「そう言うことなんだって。分かった?」


 両腕を胸の前で組んで、ふむふむと訳知り顔で頷いているベルに聞いてみる。どこでこういう仕草を覚えてくるんだろうな。


「べる、わかったー。むし!」


 元気に小さな手を挙げて答えるベル。分かっているか微妙な感じだけど、本人が納得しているならいいんだろう。


 みんなに教えてくるとベルが寝室に戻っていったので、俺ももう少し部屋を確認するか。えーっと、寝室は……まあ天蓋付きのベッドや豪華な家具だけだから見なくても問題ない。使用人が控える部屋とやらも別に改めて見なくてもいいだろう。案内の途中で、使用人の部屋の方が居心地がよさそうに感じたのは秘密だ。


 まずはリビングを確認しよう。……あれ? 宿屋でもこういう部屋のことをリビングって言うんだろうか? リビングって家族が集まる部屋って意味だったはずだから……別に宿屋でも家族が集まる場所だし、リビングでいいか。どうでもいいことを考えながらリビングに移動する。


「いいリビングだよね。あまり落ち着かないけど……」


 えげつないほど広いって訳じゃないけど、日本と違ってテレビやらなんやらの機械類が無い分、広さが際立っている気がする。家具や小物も一つ一つが厳選されているのか、不思議と統一感があっていい部屋なのは間違いないな。


「悪くないわね。でも、もう少し風が通れば更にいいと思うわ」


 いや、暑い大陸だけあって、窓も大きくて結構風通しがいい部屋だよ。まあ、シルフィがリクエストした家のことを考えれば風は通らないか。あの家は、ほぼ両サイドが全開になるから、大抵の家は風通しが悪いだろう。 


「あっ、裕太、黒幕の正体が分かったわよ。どうする?」


「黒幕って尾行者の?」


「そうよ」


 黒幕が分かったのか。いきなり話が変わって驚いたが、いいニュースだから問題ない。ジーナ達の方はまだ時間がかかっても大丈夫だろうし、ベル達も遊んでいるから今のうちに話を聞いておこう。


「詳しく教えてくれ」


 コーヒーを魔法の鞄から取り出し、ソファーに座って聞く態勢をとる。正直、黒幕って言葉が出てきて、少しワクワクしている自分がいる。異世界に来た当初ならともかく、今の俺の状況なら大抵のことは大丈夫だから、結構気楽に話が聞けるな。


「なんで楽しそうなの?」


「気にしないでください」


「……まあいいわ。じゃあ説明するわね。まずは、尾行が報告に行った相手が移動して、その報告された男が報告したのがメッソン男爵っていうお爺さんね」


 二段構えの報告か。シルフィの力の前には無意味だけど、自分にたどり着くリスクを減らすためなんだろう。でも、貴族のお爺さんが黒幕なのか。王国の闇が迫る!的な話になるのかもしれない。俺、2時間ミステリーとか結構好きだ。


 ***


「……正直めんどい」


 シルフィの話を聞いて、思わず本音が出てしまう。話を聞く前まで少しワクワクしていた気持ちも、急速にしぼんでしまう。


「まあ、面倒に思う気持ちも理解できるわ。それで、どうするの?」


「どうするのって言われても……」


 黒幕はガッリ親子。あの腐った親子が相手だとやる気がそがれる。陰謀も何もない、単にガッリ子爵のわがままじゃん。


 王国に帰還したのは聞いてたけど、お家争いがどうとかマリーさんから聞いた覚えがある。なのに、帰ってきて早々にやることがこれ? 家や領地の管理、貴族としての義務とか平気なんだろうか?


「一応、裕太に手を出さないようにって国王の通達と、冒険者ギルドが裕太の代理ってのも把握して、バレないように密かに行動するつもりみたいよ。そのために、メッソン男爵が指揮をとっているようね」


「それで、人質をとってこっそり俺を誘拐して、拷問するのが目的なんだよね?」


「ええ、裕太がジーナ達を大切にしていることも知っているようね。それで拷問のあとは人質を盾に、裕太から迷宮の素材を搾取するつもりみたい。国には裕太が望んでガッリ家に仕えたことにするらしいわ」


 一応、コッソリとやるつもりみたいだし、前に比べて成長したのかもしれない。いや、成長したのなら拷問しようとか思わないよな。


「サクッと殺っちゃう?」


 シルフィが物騒なことを平然と言う。


「あはは、そうできれば簡単かもしれないけど、精霊に人殺しをさせるのも嫌だし、俺自身の手を汚すのも嫌なんだ」


 ぶっちゃけ、俺が知らないところでサクッと始末されていてほしかった。ガッリ親子の移動先の盗賊とか魔物はなにをやってたんだろう。


「んー、小さい子達はともかく、大精霊ともなるとそれくらいでは揺るがないわよ?」


「俺が嫌だって思ってるだけだから気にしないで」


「まあ、裕太が嫌ならそれでもいいけど、ならどうするの?」


「問題はそれなんだよね」


 もう一回遠くに捨ててきても、ひょっこり戻ってきそうな気もする。他の大陸だったらさすがに帰ってこれないかしれないし、今度は旅の資金も服も無しでスタートすれば苦労は倍増するだろう。


 でも、相手が人質を取ったうえで俺を拷問しようとまで考えているなら、中途半端に他国に放置するなんて温い対応だよな。


「……面倒だけど、こうなったら徹底的にガッリ侯爵家を潰すよ」


「あら? 裕太にしては思い切ったことを言うわね」


「うん、自分で言っててちょっと心臓がドキドキしてる。でも、今後も付きまとわれたら嫌だし、事なかれ主義で緩くやって、他の貴族とかからちょっかいを出されても面倒だ。俺に手を出したら洒落にならないって分からせるためにも、できるだけ派手にやるよ」


 もうすでに有名人なんだし、弱腰でいると相手をつけあがらせる。あれだ、一人をむごたらしく殺して、他の百人に警告するみたいな感じを目指そう。殺さないけど。


「それはいいわね。思えば裕太が優しいから、相手から舐められることも多かったもの。それに精霊も軽く見られているから、どうせならこの国の歴史に残るくらいに派手にいきましょう。ふふ、楽しくなってきたわ」


 いや、俺は優しいんじゃなくて優柔不断なだけだし、派手って言っても歴史に残るようなことをするつもりもないんだけど……すっごくシルフィが楽しそうだ。精霊が軽く扱われてたのが、結構ムカついてたんだな。


 でも……これって俺がしょぼいアイデアを出したら、露骨にがっかりされるパターンだよね……大精霊が喜ぶ派手さってどんな派手さなんだ?


 えーっと、むやみに命をとったり自然を壊したりするのは精霊の趣味じゃないはずだ。だから、ガッリ侯爵家の領地を壊滅させるとかは違うだろう。


 なんかちょっと気合を入れて派手にとか言ってみたら、ものすごくプレッシャーがかかる結果になってしまった。余計なこと言わないで、どこぞの無人島にガッリ親子を捨ててくればよかった。

読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ