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三百七十五話 想定外

明けましておめでとうございます。


今年も更新を続けていきますので、よろしくお願い申し上げます。

 予定外のキャンプで迷宮都市に入るのが1日遅れたが、自分の無意味な拘りも果たせて、意外と楽しい時間を過ごせた。翌朝、新装備で注目を集めながら迷宮都市に入ったら……速攻で尾行がつく。目立つ光竜の鎧の影響かと思ったけど、どうやらそれは違うらしい。尾行……どうなるんだろう?


「裕太、尾行が別れたわ。1人はどこかに報告に行くみたいね」


 尾行が別れたのか。レベルは上がったけど、人の気配とかよく分からないんだよな。気配を察知するスキルとかほしい。


(報告に行った方も見張ってるんだよね?)


「ええ、風で捉えているから、どこに行こうとも見失わないわ」


 んー、それなら今ついてきている方の尾行は必要ないか。報告に行った方をシルフィが見張ってるならそっちで情報は得られるだろう。俺を調べてるならトルクさんのところを定宿にしているのは知ってるだろうけど、わざわざ連れて行く必要もない。


 それに、尾行を外せるなら先にメルを送っていける。メルのことも調べてるかもしれないけど、どこまで情報を掴んでるか分からないんだ。宿と同様に情報を与える必要もない。


(シルフィ、今追ってきてる尾行を騒ぎにならないように気絶させられる?)


「そうね、意外と人目があるから、大通りだとちょっと面倒かしら?」


 あー、簡単に生活魔法で明かりが作れるといっても、娯楽も少ないからみんな早寝早起きが基本だ。まだ朝も早いのに、結構人が動いている。そして、俺の派手な鎧が結構注目を浴びている。尾行がなければもう少し人の目も楽しめたと思うと、少し残念なような気もする。


(分かった。とりあえず路地に入るから、人の目が切れたら気絶させて転がしておいて)


「いいけど、尾行から情報を得なくていいの?」


(うん、俺に尋問は無理)


「それもそうね」


 あっさり納得されると、それはそれで寂しい。でも、事実なんだから拗ねてもしょうがないか。みんなを誘導して路地に入る。


「なんでー?」


 路地に入るとベルが不思議そうに声をかけてきた。迷宮都市で俺が路地に入るのってめったにないから不思議なんだろう。俺の記憶でも、酒屋を巡る時とか、何か用事がある時くらいしか入らないもんな。


 ジーナ達も少し不思議そうにしているけど、内容はともかく、俺が小声で話しているのを聞いているし、何かが起こっていることには気づいているみたいだ。


「みてくるー」「キュー」「けいかい」「ククー」「もやすか?」「……」


 シルフィがベル達に路地に入った理由を説明すると、好奇心が刺激されたのか見に行ってしまった。フクちゃん達は大人しくジーナ達の傍に居るんだけどな……もしかして、ベル達の方が子供っぽい? あと、フレア、燃やさないでね。


 路地を進み、角を曲がるタイミングで後ろを確認すると、離れた場所でベル達がプカプカと浮かびながら止まっている。


 俺の方から姿は見えないけど、たぶんベル達が浮いている場所の物陰に尾行が居るんだろう。もし尾行に精霊術師の才能があったら、気が気じゃない状況だよな。精霊術師を尾行してたら、頭上に精霊が集まってきてるんだもん。明らかにバレてると考えるはずだ。


 まあ、慌てている様子もないし、精霊術師の才能はないんだろう。たとえ精霊術師の才能があろうとも、シルフィからは逃げられないんだからどっちにしろ変わらないか。


「じゃあ気絶させておくわね」


 シルフィが軽く右手を振ると、ベル達が浮かんでいる場所からドサッと何かが倒れる音がした。……なにかっていうより、確実に尾行が倒れた音だな。


「ゆーた、うっってなってたー」「キュキュー」「いっしゅん」「ククー」「はでさがたりないぜ!」「……」


 ベル達も尾行が倒れたことを教えにきてくれたが、どんな人か確認しておくか? ……知ってる人ならシルフィが言うだろうし、俺が見ても意味がないか。


 とりあえずベル達を誉めまくってから、この場をさっさと立ち去ろう。まずはメルを工房に送って、寄り道しないで宿だな。尾行の正体を早く知りたい。




「メルー!」


 メルの工房に到着すると、ユニスが急襲。グワシッ!っと背景に文字が浮かびそうな勢いでメルを抱きしめる。


「ユ、ユニスちゃん、ただいま」


「メル! 昨日帰ってくると思ってたのに、帰ってこなかったから心配したんだぞ! メル、大丈夫なのか? ケガしてないか? 変なことされなかったか?」


 あー……昨日、迷宮都市に入り損ねたことで、こんな影響があるとは……。それにしても、ユニスの俺に対する信頼感の無さは半端ないな。


「大丈夫だよ。ケガもしてないし、変なこともされたりしないよ。とってもためになったから安心して。それに、お土産もあるから楽しみにしててね」


 ユニスの勢いに困ったメルが、お土産で話を逸らそうとしている。俺の影響ではないと信じたい。


「お土産? メルが私に?」


「う、うん。あんまり量は多くないけど、良いものをお師匠様に譲っていただいたから、期待しててね」


 メルの言葉にユニスは猛烈に感動したのか、猛烈な勢いでメルに頬ずりしだした。たぶん、俺に譲ってもらったって言葉は耳に入ってないな。


 ユニスのお土産は、選ぶのに結構苦労した。死の大地にはお土産になる物がほぼないし、精霊が作ったお酒をお土産にとも思ったが、精霊王様達の来訪でお酒の消費が激しかったから今回は保留にした。


 雑貨屋は基本的に迷宮都市で仕入れたものばかりだから、死の大地で買う意味があまりない。精霊樹関連の素材は危険だし、安易に流せる特産品がない。お手頃な商品を開発するか?


「ちょっとユニスちゃん。ホッペが熱いよ」


 ……どうやらユニスの熱烈な頬ずりにメルのホッペが熱くなってしまったようだ。いずれ、火がつくんじゃないか? ユニスからも話を聞いておきたい気もしたが、この様子だと俺が声を掛けても止まらないだろう。 


(えーっと、メラル。俺達は宿に向かうから、メルのことは頼むぞ。俺に尾行がついていたことは伝えたから大丈夫だとは思うけど、メラルも普段よりも警戒してくれ)


 呆れたようにユニスを見ているメラルを手招きして、改めて注意事項を伝えておく。さて、宿に行くか。


 ***


「マーサさん、おはようございます。泊まりたいんですけど、大丈夫ですか?」


「ああ、裕太かい。装備が派手になってるから、一瞬誰だか分らなかったよ」


 まあ、地味な鎧を装備していた男が、次に会ったら軽く光る派手な鎧に変わってたら驚くよね。


「あはは、ちょっと装備を更新してみました」


「そうなのかい。結構似合ってると思うよ。それで、部屋なんだけど……すまないね。部屋が空いてないんだよ」


 マーサさんが申し訳なさそうな顔で言う。えっ? 部屋がないの? ……宿屋なんだしそう言うこともあるんだろうけど、地味にショックだな。いままで毎回部屋が取れてたから、今回も問題ないと思ってたよ。


「裕太にはかなり世話になってるから何とかしたいんだけど、余裕がまったくなくてね……、本当にごめんよ」


「いえ、宿屋なんですからそんなこともありますよ。気にしないでください。それよりも、お疲れみたいですけど、大丈夫ですか?」


 なんかいつも元気で肝っ玉母ちゃんっぽいマーサさんが、妙にすすけているように見える。


「ああ、大丈夫だと言いたいところなんだけど、正直厳しいよ。商業ギルドに従業員募集を出してるんだけど、宿の味を盗みたい他都市の料理人が押しかけてきて混乱してるから、人が来ないんだ」


「あれ? たしかレシピは迷宮都市だけで共有するって言ってませんでした? このお店がレシピの元祖だとしても、そこまでお客さんや料理人が集まるんですか?」


 トルクさんの料理は美味しいから人が集まるのは分かるけど、そこまでなのか?


「迷宮都市の商業ギルドが派手に動いて注目を集めているけど、牛乳は甘味に集中してるから、牛乳を使った料理を作れるのがこの宿だけなんだよ。他都市からも人が集まってきて、宿は常に満員で、食堂が利用できる時間は常に大混雑さ……儲けはすごいんだけどね……」


 そういえば、牛乳を特別にトルクさんに卸すように商業ギルドと約束した気がする。その結果が大混雑に繋がったのか。悪いことではないはずなんだけど、俺ってこの宿にかなり迷惑かけてるな。あっ、カルク君が死んだ魚のような眼をしてフラフラ歩いてる。


「ね、ねえジーナ、サラ。宿がかなり忙しそうなんだけど、お手伝いさせてもらう?」


 師匠の不始末のしりぬぐいを、弟子としてフォローお願いします。ジーナとサラが料理だけじゃなくて配膳も手伝えば、かなりマーサさん達も楽になるはずだ。せめてカルク君の眼を生き返らせてほしい。


「忙しそうだし、頑張って手伝わせてもらうよ」


「私も頑張ります」


 2人ともマーサさんの様子を見てもビビらず、やる気満々でお手伝いを請け負ってくれた。


「マーサさん。ジーナとサラをお手伝いに派遣しますね」


「そりゃ助かるよ。宿に泊まれなかったのに悪いね」


「いえ、いつもお世話になってるんです。当然ですよ」


 ただ、この宿屋に泊まれないのは寂しいな。部屋が空いたら年間契約くらい結んだ方がいいか? でも、ただでさえ満員なのに、使わない部屋を独占するのはよくない。牛乳が広まるか、前にトルクさんが宿屋を増築するって言ってたし、それを待つのが賢明かな。増築する暇がなさそうなのが問題だけど。


 さて……今回はどこに泊まろう。マリーさんに頼んで別邸に泊まらせてもらうって手もあるな。今度こそメイドさんに色々とお世話してもらうのも楽しそうだ。


 あっ、尾行されてたんだった。一応シルフィに排除してもらったけど、マリーさんに迷惑かける可能性があるし、マリーさんの所に泊めてもらうのは止めておこう。それを考えると、これ以上トルクさん達に迷惑をかけられないし、この宿屋に泊まれないのも悪くないか。


「マーサさん、迷宮都市で一番高い宿屋ってどこにあるか知ってます?」


「ん? 高いって値段がかい?」


「はい。ここに泊まれないなら、ちょっと贅沢してきます」


 尾行の件もあるし、高いところの方がセキュリティ的にも安心だろう。シルフィがいれば関係ない気もするけど。


「うーん、泊まれるかどうかは分かんないけど、お貴族様とかが泊まる宿屋でいいのかい?」


 ……高級な宿屋なら貴族向けってことになるのか? そんなところに、一般庶民の俺とジーナ達が泊まっても落ち着けない気がする。


「えーっと、こう、なんていうんですかね、お貴族様とかが居ない感じで、比較的裕福な人が泊まる、高級な感じの宿でお願いします」


「なかなか難しいことを言うね。……じゃあ、迷宮都市に買い付けにくる上級の商人が泊まる宿でいいかい? 貴族様はほとんど泊まらず、偶に下級貴族が泊まることがあるって感じだよ」


「そこでお願いします」


 それくらいが俺達にはちょうどよさそうだ。まあ、ジーナとサラにしたら、高級な宿に泊まって、冒険者向けの宿屋に手伝いに行くって、微妙におかしな行動をとることになる。なんだか不思議だ。

読んでくださってありがとうございます。

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