三百七十三話 キャンプ?
メリークリスマスです。
しっかり、精霊王様達のお見送りをして、楽園での細々とした用事を済ませて迷宮都市に出発した。楽園から出る時までメルとメラルは手を繋いでいた。その手が楽園から出た時にメラルが消えることによって解かれ、少し寂しそうなメルとメラルの顔が、映画を見ているようで印象的だった。
幼い少女と少年が、どうしようもない事情で引き裂かれる悲劇。傍から見ているとそう見えなくもない。まあ、2人とも見た目と違って大人だから、すぐに気持ちを切り替えて普通に戻ってたけどね。
俺の場合は精霊の姿が見えて触れるし、ジーナ達も契約精霊が元気いっぱいのちびっ子精霊だから、こういうしんみりした雰囲気にはならなかった。やっぱり見た目って大切なんだな。
そのあとは、メルに年に2回くらい楽園に連れてきてほしいと頼まれて快諾したり、楽園での楽しかったことや、迷宮都市での予定なんかを話しながらのんびりと空の旅を楽しんでいた。シルフィが疑問を呟くまでは……。
「ねえ、裕太。少し疑問に思ったんだけど、このままだと迷宮都市に到着するのは夜になるのよね。門は開いてるのかしら?」
……もうすぐ日が暮れるタイミングでそんなことを言わないでほしい。そういえば夜に迷宮都市を出るのってガッリ親子を拉致した時くらいで、門が閉まる時間とか気にしたことなかったな。戦争が盛んで魔物もいる世界。どう考えてもいつでも出入り自由とは考え辛い。
うーん、お昼を過ぎてからも色々と作業をしたから、普段よりも出発時間が遅くなったんだよな。完全な凡ミスだ。ついにモフれるようになった玉兎に時間を取られてしまったのは、しょうがないことだと思いたい。
「えーっと、メル……門って夜になったら閉まるよね?」
「えーっと……はい。閉まりますね」
メルの気まずそうな表情に、嫌な予感がプンプンしてきた。
「ちなみに、何時くらいに閉まるの?」
「日が暮れて1時間くらいしてから、閉まるはずです」
「シルフィ?」
「さすがに間に合わないわね」
おうふ、どうしよう? このメンバーならみんな野宿には慣れてるし、野営道具も充実しているから深刻な問題ではないんだけど、なんか恥ずかしい。……別にこんなのなんてことないって感じで誤魔化そう。
「まあ、閉まってるならしょうがないよね。こっそり迷宮都市に侵入するか、門の前で野営しようか。どっちがいい?」
シルフィに頼めばこっそり迷宮都市に侵入するなんて簡単だもんね。迷宮都市に泊まって明日の朝にでも門から入りなおせば問題ない。
「師匠! おれ、みんなでそとでとまってみたい!」
話を聞いていたマルコが、ワクワクした顔でリクエストしてきた。ジーナ達も意外と乗り気な顔をしている。ベル達もフクちゃん達も、なんとなく楽しそうな雰囲気を感じたのか、キラキラした目で俺を見ている。
どうやらこっそり迷宮都市に侵入するよりも、野営の方がいいらしい。微妙に犯罪チックな迷宮都市侵入よりも教育にいいし、みんなで野営するか?
「メル。外に泊まると、野営からそのまま仕事ってことになるけど、大丈夫?」
「あっ、はい。今日までたっぷり休みましたし、普通に迷宮に泊まって、そのまま仕事をすることもありましたから全然問題ありません」
「そっか。じゃあ今日は迷宮都市の近くの森で野営しようか」
迷宮での野営とあまり変わらない気もするが、楽しむことを目的に野営すれば、キャンプみたいで面白いかもしれない。
俺の返事に喜びの声を上げるマルコとキッカ。これだけ喜んでくれるなら、俺の凡ミスも浮かばれるな。
***
「じゃあ今日はここで野営をします。タマモは地面に茂った雑草を広場から移動させてくれ。そのあとをトゥルとウリで協力して地面を平らにしてね」
迷宮都市の近くの森で開けた場所が見つかったので、野営の準備をすることにした。すっかり日が暮れてしまったので少し不気味な雰囲気だが、光球を複数打ち上げたので作業には問題ないだろう。
「べるたちはー?」
キラキラした瞳でお仕事を期待するベル達。安心してほしい。お仕事は沢山あるよ。
「ベル達とフクちゃん達は、マルコとキッカと一緒に乾いた木を拾ってきて。シルフィがこの周辺に魔物が入ってこれないようにしてくれてるけど、毒虫や植物のトゲとか危険もあるから注意して行動するようにね。メラルはちびっ子達の監督を頼む」
「わかったー。たきぎあつめるー」「キュキュー」「まかせろ!」「……」「「ホー」」「ワフ」「……」
「おれもたくさんあつめる」「キッカも!」
「分かったぞ。おれが守ってやるから心配するな」
ちびっ子達が気合を入れて森に散らばっていく。さすがに夜からの野営の準備だから、キャンプファイアーはできないが、豪快な焚火をしたいから沢山拾ってきてほしい。
「師匠、あたしとサラはなにをするんだ?」
「私はどうしましょう?」
「バーベキューをするから、ジーナ、サラ、メルは手伝ってくれ。とりあえず材料を出すから、切り分けて串に刺してね」
「なるほど、バーベキューか。楽しそうだな」「分かりました」「お手伝いします」
淡々と野営を済ませるのなら、魔法の鞄に入っている料理でいいんだけど、キャンプとして楽しむなら料理もしっかり準備しないとな。キャンプって言ったらカレーだけど、さすがに今回は無理だ。いずれはドリーに協力してもらってカレー粉の調合に挑戦したい。
タマモが植物を移動させ、トゥルとウリが地面を均してくれた場所に魔法のテントと俺用の移動拠点を設置する。あとは、携帯トイレを外に設置して……俺が子供の頃のキャンプよりも豪華な気がする。
まあ……日本でもグランピングとか豪華なキャンプが流行ってたし、それに比べたらそこまで豪華ってこともないか。手ぶらで行って、料理人が料理を作ってくれるってテレビで見て、キャンプってなんだろうって思ったもんな。
「ゆーたー、たくさんひろったー」「キュー」
沢山の焚き木を風で浮かせながら、ふよふよとベルとレインが戻ってきた。沢山って言うだけあって結構な量を拾ってきたな。
「ベル、レイン、ちょっと待ってね。えーっと、トゥル、広場の中心で焚火をするから、焚火がしやすいように土で簡単な囲いを作ってくれ」
「まかせて」
俺の言葉にトゥルが素早く囲いを作ってくれる。ん? せっかくのキャンプだし、みんなで石を並べて囲いを作った方が楽しかったか? ……今回は急遽キャンプってことになったんだし、多少の効率化は構わないはずだ。今日のキャンプをみんなが気に入ったら、次は本格的なキャンプをすればいいだろう。
「ありがとうトゥル。ベルとレインはトゥルが作ってくれた囲いの横に焚き木を置いてくれ」
「はーい」「キュー」
ベルとレインが楽しそうに焚き木を置いて、俺のところに満面の笑みで飛んできた。これは褒めろってことだよな。しっかりとベルとレインを撫でくり回しながら褒めまくる。
「つぎはー」
次? ああ、次はなにをするって聞いてるんだな。ベルとレイン以外にも焚き木を集めてるし、もう一度焚き木を集めに行かせたら焚き木が余りそうだな。とはいえ、やる気満々の2人にお仕事がないとは言いづらい。
「……じゃあ拾ってきた焚き木を燃えやすいように組み上げてくれる?」
「あたいのでばんだぜ!」
いつの間にかフレアが戻ってきて、焚き木を持ったまま胸を張っている。頭の上にムーンを乗せて、そのムーンの上にも焚き木が載っているから、なんとも言えない光景だな。
「出番って?」
「もやすんだぜ?」
……燃えやすいって言葉を聞いて、あんまり話の内容を理解せずに出番だと思ったんだな。フレアはちょっと思い込みが激しいところがあるのかもしれない。改めて燃えやすいように焚き木を組むことを説明する。
「まかせるんだぜ!」「……」「べるもー」「キュー」
「うん、お願いね」
わーって感じでベル達が囲いに向かい、ゴニョゴニョと相談しながら焚き木を並べだした。フレアが小さいのから並べるんだぜ!とか言ってるし、焚火の方は問題なさそうだな。さすが火の精霊だ。
あっちは問題なさそうだから、俺はジーナ達のお手伝いをするか。サラ達も育ちざかりだし、ベル達もフクちゃん達もよく食べる。沢山料理を用意しておかないとな。
オーク肉と玉ねぎ、ラフバード肉とピーマン……あっ、ちびっ子精霊達はピーマンが食べられないか。でもジーナ達は食べられるし……んー、まあ分ければいいか。ベル達の分は焼いたら甘みが出るカボチャを刺しておこう。
他には……ジャイアントディアーに……んー、ドラゴン系のお肉はどうしよう? 美味しいのは間違いないんだけど、ドラゴン系のお肉を出すと、オーク肉やラフバード肉が霞んじゃうんだよな。
属性竜は止めておくか。貧乏性と言われそうだけど、属性竜でバーベキューはなんか贅沢な気がする。
「裕太、あれは放っておいていいの?」
「ん?」
シルフィが指をさす方向を見ると……たぶんよくない……のか? なんで焚き木があんなに高く積みあがってるんだ?
ちびっ子精霊達とマルコとキッカが、なんか緊張した面持ちで、慎重に枝を積み上げている。1人が枝を置くと、周囲で見守っているちびっ子達から歓声が上がる。
あれだな、焚火の準備のはずなんだけど、いつの間にかゲーム感覚で積み上げることを楽しみだしたんだな。
……レインが居れば火事になることもないだろうし、焚火は雰囲気作りで用意するだけなんだから、この際あのままでいいか。
「予定とは違うけど、あそこまで盛り上がっているちびっ子達に、いまさら止めろとは言いづらいよね。キャンプファイアーっぽいイベントってことで納得しておこうか」
「それでいいの?」
シルフィが子供に甘い残念な父親を見るような、呆れた視線を向けてくる。
「いい……と思うよ」
「そう? まあ裕太がそれでいいならいいわ」
やっぱり師匠としても、契約者としても、もう少し厳しい部分が必要なんだろうか? でも、精霊達はとってもいい子だし、マルコとキッカも普段はとっても頑張ってるし、今だって少し面白い遊びに夢中になってるだけなんだよな。
せっかくスラムから出て、自分の意志で色々なことが楽しめるようになったのに、こんなことくらいで怒るのも微妙な感じだ。毎回思うけど、子供の教育って難しい。
とりあえず、あれだな。沢山串肉を作ろう。お腹いっぱい食べさせて、修行と遊びの時間をしっかり区切れば、立派な大人になるはずだ。よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休むって言うもんな。
読んでくださってありがとうございます。




