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三百六十八話 精霊王様の平凡な一日

 午前中に魔法のテントの内部を整えた。まあ、魔法のテントよりも湧水の壺よりも送風機よりも、清潔な携帯トイレの人気が凄まじかったのが誤算だ。気持ちは分かるんだけど、少しだけ他の魔道具にも注目してほしかったな。午後には精霊王様達も遊びに来たので、精一杯おもてなししよう。


「ふむー、前回のアイスと比べると、格段に舌触りが滑らかになっておるな。味がまろやかになっておるんじゃが、同時にミルクの風味が増しておる。うむ、なかなかじゃな」


 ライト様が難しい顔?をしてアイスを品評している。味をみてやるって言ってたから、言葉通り感想を伝えてくれてるんだろうな。ただ……言葉よりも高速でピコピコしまくっている真ん丸な尻尾が一番わかりやすい感想だな。


「気に入ってもらえたのならよかったよ。作ってくれたトルクさんには、ちゃんとライト様の感想を伝えておくね」


「うむ。これからも精進するように伝えておくのじゃ。さすれば妾がまた味をみてやるのじゃ」


「ああ、分かった……」


 もう、アイスに夢中で俺の話を聞いてないな。仕事は済んだとばかりにプリンをキープしながらアイスを味わっている。他に取る人はいないんだから、別にキープしなくてもいいと思うんだけどな。まあ、ご機嫌のようだし、ある意味簡単で助かる。


 その隣でアース様も黙々とアイスとプリンを食べている。寡黙な性格みたいだし、感想を聞き辛い。でも、前回の様子から考えても、食べるのが好きみたいだしそこまで気を使わなくても大丈夫っぽいよな。


 ライト様とアース様にだけかまけている訳にもいかないし、他の精霊王様達もしっかりとおもてなししよう。……と言っても、こっちはこっちで俺が話に入る隙がなさそうなんだよな。


「シルフィから頼まれたとおりに召集はかけたよ。すでに結構な数が参加を表明しているけど、料理を作るというよりも酒場を運営……いや、お酒に囲まれていたいってのが本音だろうね。そこら辺の見極めはどうするんだい?」


「そこらへんはしょうがないから、ルビーに審査してもらうつもり。希望者が多ければ多いほど、有能な人材を集められるから好都合よ。そういえばお酒を仕入れるために頼んでおいた精霊貨は用意してくれた?」


「うん、みんな協力してくれたから、かなり集まったよ。あとで渡すね」


 ウインド様とシルフィの会話によると、酒島に作る酒場の話をしているようだ。すでに精霊貨と人員を募集して、ある程度の数が集まっているみたいだ。酒島のことを伝えてから数日……行動が早すぎるんじゃないだろうか?


「ふふ、いくつ酒場を作るつもりなのかしら?」


 ダーク様がごもっともなことを言ってる。でも、全然止める気配はないな。


「とりあえず、裕太に教えてもらった居酒屋を3店舗。バーを1店舗考えてるわ。そのあとは、リクエストや人気次第で増やしていくことになるわね」


「バーってどんな酒場なのかしら?」


「裕太が言うには、薄暗くて落ち着いた雰囲気の中で、沢山の種類のお酒を楽しむお店みたいね。まずお酒の種類が沢山必要なのと、店主もお酒に対する知識が必要らしいわ」


「あら、暗くて静かな雰囲気なのね」


 ダーク様がバーに興味をひかれたようだ。オニキスもバーにひかれていたし、闇の精霊だから薄暗くて静かってのがポイントみたいだ。まあ、バーにもいろんな種類があるんだけど、それを言ったら収拾がつかなくなりそうだから今は黙ってよう。


「沢山の種類のお酒って、そんなにお酒に種類があるかな?」


「同じお酒でも造られる地域で味が違うわ。それに蒸留酒だと寝かせた年月でも分類するみたいね。あと、裕太がいくつかお酒を知っているみたいだから、一般的なお酒を造り終わったら新しいお酒にも挑戦するってノモスが言ってたわ」


「おいおい、新しい酒が生まれるのかよ。たまんねえな。さっさと作っちまえばいいのに、なんで後回しなんだ?」


 ウォータ様の質問にシルフィが答え、その答えにファイア様が食いつく。このままお酒について無限に話が続きそうだな。


 ノモスがウインド様に設計図らしきものを見せてるし、ディーネはダーク様に蒸留酒の状況を説明しだした。……とりあえずライト様とアース様に追加のデザートを出して、俺は見回りにでも行こう。


 一応ホスト役だから離脱するのはまずい気もするが、あれだけ熱中しているんだから問題ないだろう。お酒の話も嫌いじゃないんだけど、あのマジな感じは怖い。


 ***


「あっ、ゆーたー」「キュー」


 外に出て飛び交う精霊達の様子を見ながら散歩していると、集団の中に居たベルとレインがこっちに飛んできた。


「ベル、レイン、あの子達の案内をしてたの?」


 飛びついてきたベルとレインを撫で繰り回しながら質問する。


「そう! べる、おねえちゃんー」「キュキュー!」


 ベルとレインがやる気をみなぎらせた顔をしている。集団の方をみると、付き添いの精霊は水の上級精霊かな? それと中級精霊っぽい子が1人。他はかなり小さいから浮遊精霊が主体っぽいな。あの子達の案内をしながらベルとレインが面倒を見てるから、お姉ちゃんってことなんだろう。


 ベルとレインの2人が案内しているってことは、2人ごとに分かれて案内しているんだろうな。トゥルとタマモ、フレアとムーンの組み分けっぽい。


「小さい子達の面倒もちゃんと見ているんだな。2人とも偉いぞ!」


 ほめながらもう一度撫で繰り回したあと、ベルとレインは精霊の集団に戻っていった。沢山案内するって言ってたから、たぶん遊びにきた精霊達をしっかりと案内してくれるだろう。


 そこまで沢山案内する場所があるのかは疑問だが、ベル達は頻繁に楽園内をパトロールしているから、俺が知らないディープな楽しみを案内できると思う。時間がある時にせっせと食事を運んでいる俺よりも、ベル達の方が楽園の動物達と仲がいいしな……。


 ちょっと切なくなったが気を取り直して見回りを続ける。楽園の動物達をいまだにモフれてなくても、飛び回っている精霊達に手を振って声をかければ、近寄ってきて撫でさせてくれるし全然大丈夫だ。


 様々な種類の生物の姿の精霊達。しかも浮遊精霊と下級精霊がメインだからちっちゃくて可愛らしい。癒しとしては最高の部類だよな。


 少しだけ大きな生物を撫で繰り回したい気もするが、付き添いの精霊は子供達の面倒をみるために人型の精霊が多いから難しい。酒島がオープンすれば大きな精霊がきそうだが、みんなお酒に夢中だろうしモフるのは邪魔になりそうだ。楽園の設備は人員が整って、気軽に遊びにこれるようになるまでは我慢だな。


 散歩しながら精霊達と戯れ、最後に一番賑やかであろう楽園食堂に到着した。滑り台もちびっ子達に大人気だったけど、美味しいご飯はメインとも言えるものだから、みんなはしゃいでいるだろうな。


「ミックスフライあがったんだぞ!」


「あいよ!」


 食堂に入ると威勢のいいルビーの声と、それに応えるジーナが目に飛び込んできた。サラ達の姿も見えるし、ジーナ達は忙しい食堂のサポートをしているようだ。


 そして、ジーナがミックスフライの定食を運ぶ先には漫画で見たことがあるような光景が……。ちびっ子達と戯れながらだったから、結構時間がかかったけど、すでに精霊王様達がきていたんだな。一緒に居る大精霊はシルフィだけか。大人数での移動は邪魔になるから、案内をシルフィに任せてディーネ達は遠慮したんだろう。


 食堂内を見るとちびっ子達は基本的にデザートに夢中。デザートは作り置きだから、精霊王様達を呼んだんだな。さすがに忙しくてお昼はクレープの実演はやってないか。


 そして食べ終わったのか談笑する精霊王様達の中で、1人だけ黙々と料理を平らげてお皿を積み重ねているアース様が居る。


「アース様、次も普通に持ってきていいのか?」


 ジーナの問いかけにこくりと頷き、料理に食らいつくアース様。女性っぽいシルエットのどこにそれだけの量が入るか疑問だが、ベル達も体に比べたら信じられない量を食べるから今更だな。


「アース様、料理はどう?」


 声をかけるタイミングを間違えたな。エビフライを咥えたままコクコクと頷かせてしまった。頷く仕草が子供達とソックリなんだけど、料理に夢中で子供返りしているのか?


「ふふ、アースはとても喜んでるわ。でも、楽しみにしていたから少し食べすぎかしら?」


 ダーク様が黙ってモグモグしているアース様のフォローをしてくれる。


「あはは、喜んでもらえて嬉しいよ……」


 とはいえ、大食いチャンピオンも真っ青な食べっぷり……ルビーに渡しておいた食材を、追加で補充しておいた方がいいか?


「あら、心配しなくても大丈夫よ。精霊貨の交換上限も把握しているわ。アースのお金で足りない分は、私達の残ったお金で支払うわね」


 食材の残りを心配してたら、料金の心配をしていると勘違いされてしまった。そういえば精霊貨の交換に上限を定めたな。定食は500エルト……残りの5人の余りを集めれば結構な量が食べられる。


 精霊王様達からお金をとってもいいのかが微妙だが、精霊王様達自身でルールを守ってくれるのは大変助かる。ちびっ子達も上限内でやりくりしているのに、特別扱いしているところを見せるのは気まずいもんな。


「えーっと、分かった。でも、夜にも沢山料理を出すつもりだし、ほどほどにしておいた方がいいかな?」


「それもそうね。アース、次でやめておきなさい」


「……分かった」


 ダーク様がようやくアース様を止めてくれた。アース様も少し悲しそうだけど納得してくれた。今日の夕飯はあれだな、いつもよりもだいぶ多めにだそう。


「次の料理で終わりにするなら、このあとはどうしようか? 酒島のことは大体決めたし、楽園の中を散歩する? 僕は精霊樹の滑り台が気になるな。ディーネが言うには、木のソリで滑るとかなり速いらしいよ?」 


 ウインド様が滑り台に食いついた。精霊王様達が滑り台を滑るとかいいのか? いや、まあウインド様やライト様はちびっ子にまざっても違和感なさそうだけど、ファイア様とか違和感がすごそうだよな。


「ああ、あの精霊樹をグルグル囲んであるやつか。なかなか面白そうだな。いくか!」


 俺が一番違和感を感じるファイア様が滑り台に食いついた。ほかの精霊王様達も意外とノリがよくて、あれよあれよという間に精霊王様達が滑り台に行くことが決定した。……ダーク様の滑っている姿は俺も見たいからついていこう。

読んでくださってありがとうございます。

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