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三百六十五話 魔道具

 全員の装備を更新した結果、微妙に自分が傷ついていたことを認識してしまったが……これからの生活で癒していこうと思う。


「ジーナ達は自分の装備に慣れるように、フクちゃん達と訓練してきてくれ。特にサラとキッカは装備品に体力を補助する効果が付与されているから、どのくらい効果があるか把握できるように頑張ってね」


「師匠、効果を把握ってどうしたらいいんだ?」


 ジーナが難しいことを聞いてきた。えーっと……どうしたらいいんだろうね。ランニングとかか? 装備をしている時としていない時に、限界まで走れる距離とか調べたら効果は分かりそうだけど、それってかなりきついよな。


 学校の体力測定って何をやってたっけ? 握力測定は関係ないし、垂直飛びも違う。反復横跳びは……あれって何を測ってたんだ? 素早さ? なんかどれも違うな。


「いつもやってることで体力を比べられたらいいんだけど、効果が実感できそうなことをなにかやってない?」


「そう言われても、精霊とのコミュニケーションを重点的にやってるから、軽く走るくらいなんだよな」


 そうだよね。体力勝負の前衛じゃなくて魔法職だもんね。


「あっ、私とキッカちゃんはフクちゃんとマメちゃんに協力してもらって、公園のアスレチックを素早く移動する訓練をしています。それで疲れ具合を比較できるかもしれません」


 俺とジーナが悩んでいるとサラが助け舟を出してくれた。でも、よく意味が分からん。


「アスレチックの素早い移動って?」


 サラの説明によると、風の浮遊精霊であるマメちゃんの力を利用してアスレチックのタイムアタックのようなことをやっていたらしい。結構アクティブな訓練をしてたんだな。


 だいたい5周して休憩をとっているそうで、疲れ具合もだいたい把握しているそうだ。それなら、ある程度体力を比較できそうだな。ランニングと大して変わらないが、元となるデータがあるなら1回で済む。効率的だな。


「じゃあそれを試してみて。大まかにでも体力を把握できれば、迷宮での進み具合も調整できるからね」


「分かりました。さっそく試してみます」


「うん、無理しない程度に頑張ってね」


「べるたち、なにするー?」


 ジーナ達を見送ると、ベル達が笑顔全開で聞いてきた。なにかお仕事がほしいのか? いっつもパトロールばかりお願いしてるし飽きるよな。たまには別のことを頼みたい。ふむ……魔道具を試すんだから丁度いいと言えば丁度いいな。


「ベル達にはお願いがあるんだ」


「おねがい!」「キュ!」「かなえる」「クッ!」「まかせときな!」「……!」


 いつもと違うパターンにベル達の表情がワクワクに染まる。ちょっとプレッシャーだが、まあ、満足してくれるだろう。


「えーっと、ちょっと待ってね」


 魔法の鞄から魔法の箒を取りだし、思いっきり魔力を込める。魔力を込める行為も結構なれたな。あとは勝手に掃除をしてくれるはずだ。


 箒から手を離すと一人でに魔法の箒が動きだし、床をシャカシャカと掃き始めた。勝手に掃除をしてくれる箒とかファンタジー感がハンパない。


「ふおおお、うごいたー!」


 魔法の箒を見たベル達がとてつもなく喜んでいる。面白いから俺も見ていたいが、明日は精霊王様達が来るんだ。グズグズしてられない。魔法の箒に夢中なベル達に声をかけ、説明を続ける。


「見ての通りこれは魔法の箒で、勝手に部屋中をお掃除してくれるんだ。それで、ベル達に頼みたいのは、この魔法の箒の管理だ」


「かんりー?」


「そう、管理。このお部屋の掃除が済んだら廊下。廊下のお掃除が済んだらルビー達のお店に運んでお掃除をさせてほしい。それと、途中で魔力が切れてお掃除をしなくなったら知らせにきてくれ。できる?」


 おおう、ベル達の興奮がマックスを突破したらしい。部屋中を飛び回ってはしゃぎだした。大人しいトゥルまで、気合十分で魔法の箒の周りをグルグル飛び回りながら喜んでいる。


「えーっとシルフィ……ベル達は大丈夫なのかな?」


 少し怖くなってシルフィに聞いてみる。


「面白そうなお仕事で興奮しているだけだから大丈夫よ。ベルが管理ーってはしゃいでいるから、ちゃんとやることは理解しているわ」


 理解しているのならこのテンションも問題ない……のか? 若干の不安を感じるが落ち着かせるのも大変そうなので、大丈夫だと信じてシルフィと一緒にそっとリビングを出る。まずは魔法の絨毯の性能を確かめるか。


 外に出て、魔法の鞄から魔法の絨毯を取りだし、靴を脱いで絨毯の上に胡坐をかいて座る。ワクワクしてきたな。


「シルフィ、危なくなったら助けてね」


 魔法の絨毯の後ろに座っているシルフィにお願いしておく。ノモスから聞いた話ではそこまで操縦は難しくなさそうだが、念のために助けはお願いしておく。


「了解。危なくなるまで手助けは必要ないのよね? ふふ、なにもしないで人に空に連れて行ってもらうなんて楽しみだわ」


 珍しく普通のことでシルフィの感情が高ぶっているのが分かる。確かに風の精霊が人に空に連れていかれるって珍しいだろうな。プロのピアニストが素人にピアノを習う的な状況だし、プロ視点から考えると面白そうではある。いつも空に連れて行ってもらってるんだし、珍しい機会なんだから俺がシルフィを楽しませられるように頑張ろう。


「じゃあ出発するね」


 魔法の絨毯に手をつき魔力を込める。……なにもおこらないぞ? あれ? 魔力を込めたら飛ぶんだよな? いや違った。ノモスが思念で操作するみたいなことを言ってた。魔法の絨毯に手をついたまま、ゆっくり魔法の絨毯が浮き上がるイメージを浮かべる。


 おっ、魔法の絨毯がイメージ通りにふわっと浮き上がった。そこまで明確にイメージしなくても動かせるみたいだな。地面を這うように飛んでも面白くないし、とりあえず3メートルほど高度を上げる。


「ふふ、風で飛ぶのとは違う不思議な感覚ね」


 シルフィがゆったりと座りながら話しかけてくる。たしかに、シルフィに飛ばせてもらってる雰囲気とは違うな。高度を上げた時はエレベーターのような感覚だったし、魔法の絨毯は乗り物と同じ感覚みたいだ。


「そうだね。なんか無理やり飛んでるって感じがする。とりあえずこの高度で軽く飛ぶ練習をしてみるよ」


「あら、初めて風の繭を操った時はあんなに激しかったのに、今度は慎重なのね」


 シルフィが俺の黒歴史を悪戯っぽい声で抉る。


「あれは単純に魔力の込め具合が分からなかっただけで、好きで暴走したわけじゃないからね。シルフィ、分かってて言ってるよね?」


「あれくらい暴走してもしっかり助けてあげるから、安心してぶっ飛ばしなさいって意味よ」


 ……要するに、のんびり練習するのは面白くないから、派手に飛ばせって言いたいんだな。だが断る。俺はしっかり慣らし運転を熟すタイプなんだ。


 ***


 シルフィの様々な誘惑を振り切り、しっかりと魔法の絨毯の運転の練習をした。魔法の絨毯の操作性は結構自由度が高く、進むのも曲がるのも高度の上げ下げも自由自在だ。もしかしてできるかなってバックをイメージしてみると、普通にバックまでできた時は驚いた。


「よし、ある程度操縦にも慣れたし、そろそろ飛ばすよ」


「ふー、待ちくたびれたわ。これだけ待たせたんだから、楽しませてくれるのよね?」


 ……うん、背後から結構プレッシャーがかかる。シルフィの意見をほぼ聞き流しちゃったからな。ここで中途半端な飛び方をしたら後が怖そうだし、気合を入れてぶっ飛ばすか。


「うん、刺激的な時間をプレゼントするよ。じゃあ行くね」


 ちょっと臭い言葉を発して魔法の絨毯を急発進させる。とたんに襲い掛かってくるGと風、シルフィに飛ばせてもらっている時と違い疾走感があるな。とりあえず楽園の一番上の浮島までぶっ飛ばすぜ!


「……裕太、どうしたの?」


「あばば……あ、あ、あのね、とと、とっても寒いんだけど……」


 上空にぶっ飛ばすと急激に風が冷たくなり、息も苦しい気がする。


「……ああなるほど、この魔法の絨毯は温度や気圧の変化に対応してないのね」


 い、いや、俺も大学まで出たんだし、気圧や温度の変化については知ってるよ。ただ、ファンタジーな世界に順応して、そういう常識をすっかりと忘れていただけだ。


 重力石とかあるし、シルフィに空に連れてってもらう時も、いつでも快適だったから忘れるのもしょうがないよね?


「じ、じゃあ、一番上の、の、浮島にい、行った時はシルフィが、お、温度とか調整してくれてたの?」


 普通に天辺の浮島でも快適だったから、なんとなく楽園内は全部快適空間だと思ってたよ。


「ええ、当然でしょ。それよりも裕太、辛そうだけど温度と気圧の調整をした方がいい?」


「お、お願いします」


 シルフィが右手を振ると、一気に空気が温まり呼吸も楽になる。魔法の鞄から温かいコーヒーを取りだし、ゆっくり体を温める。


 ふー、ようやく落ち着いた。今までなにも言わずにシルフィが環境を整えてくれてたんだな。人は知らず知らずの間に他人に助けられてるって話を聞いたことがあったけど、今、ものすごく実感した。


 いつもシルフィには助けられまくってることを自覚していて、ものすごく感謝していた。でも、俺が思っていた以上にものすごく助けられていたようだ。


「それで裕太、刺激的な時間をまだプレゼントしてもらってないのだけど?」


 あっ、シルフィが俺の心に止めを刺しにきた。表情は変わってないのに、自然の鎧の時以上に楽し気な雰囲気がビンビンに伝わってくる。極上の獲物を前にした肉食獣の気配だ。


「え、えーっとね。…………シルフィも操縦してみる?」


「……」


 シルフィがジッと俺を見る。本当にその返答でいいのかと問いかけられているようだ。こういう時のシルフィってドSだよな。もっと面白い回答をしないと満足してくれないらしい。


 気の利いた回答を再試行するか降参するか……ここでシルフィが大満足できる回答を思いつけばカッコいいんだけど、さっさと降参したほうが無難なんだろうな。だってまったく素晴らしい回答を思いつかないもん。

読んでくださってありがとうございます。

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