表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
365/755

三百六十三話 お肉

 滑り台で秘密兵器を投入したら、その秘密兵器が欠陥品で結果的にラッキースケベが降臨した。ん? 降臨って神様とかが降りてくることだったっけ? 使い方が微妙に違う気もするが、ラッキースケベの神様が降臨なされたと考えれば問題ないな。


 シルフィ、マルコ、キッカと一緒に家に戻り、今日は結構忙しかったのでコーヒーを飲みながらリラックスする。


「師匠、ソリならおれにもつくれる?」


 完全に脱力していると、マルコが話しかけてきた。 


「ん? マルコはソリを自分で作りたいのか?」


「うん」


 ほぼ板にヒモをくっつけただけのソリ。俺みたいに大きめに作りすぎなくて、スピードが調整できるようにサイズを考えれば簡単すぎるほど簡単に作れるよな。


「マルコなら作れるよ。作ってみる?」


「作ってみる!」


「キッカもできる?」


 キッカも興味を持ったのか、マメちゃんを頭に乗せて聞いてくる。


「ああ、できるよ」


 そういう訳で、場所を外に移して夕食までの時間を、まったりと工作をするマルコとキッカを見守りながら過ごすことにした。ちゃんと足でブレーキを掛けられるようにだけ注意しておけば問題ないだろう。


 でもあれだな、缶コーヒーとかないから野外でコーヒーを飲む機会が少なかったけど、外でのコーヒーもいい感じだ。時間がある時にまとめて大量に淹れてるんだから、もう少し飲みやすく工夫して気軽に外で飲めるようにするか。


 蓋つきのタンブラーかマグカップって売ってたっけ? マリーさんの雑貨屋では見たことない気がするな。これはこれで商機になるかとも思ったが、気軽に外でお茶会って世界でもないし、あまり意味がなさそうだ。


 ……マルコが簡易ソリを持って首を傾げている。板の大きさを調整して、磨いて持ち手を付けるだけだから難しいことはないはずなんだが。


 しばらくなにかを考えているマルコ、そろそろ声をかけようかと思うと動きだした。工具箱の中から彫刻刀を取り出し板に模様を彫りだした。


 なるほど、シンプルすぎて満足できなかったのか。しきりにウリを観察しているから、板にウリの姿を彫り込んでいるんだろう。マルコの芸術的センスが試されるな。


 その様子を見たキッカも真似して彫刻刀を取りだし、模様を彫り始めた。お土産の大工道具が結構活躍しているな。ベル達もハンドベルを気に入っているし、ベリル王国でのお土産は大成功だったようだ。問題は夕食の時間までに完成するかだな。


「師匠、できた!」


「できた!」


 絵を彫り始めたので時間がかかると思ってたら、意外と早く完成した。疑問に思ってマルコとキッカが楽しそうに見せてくれるソリを確認する。


 なるほど、完成が早いと思ったら、隅っこにワンポイントを彫り込んだだけだったのか。堅実な判断だな。さて、マルコとキッカの芸術的センスは……。


 おそらくウリだと思われる絵は、非常に感想に困る代物だった。丸っこいいびつな楕円形に割りばしのような足、おそらくあの点が目なんだろうな。キッカは……もはやクリーチャーにしか見えない。


 この兄妹に芸術的センスは微妙かもしれない。まあ、あふれるほどの芸術的センスがあったら、教育方針に悩みそうだから結果オーライと考えよう。


「……うん、なかなかいいと思うよ。ウリとマメちゃんだよね?」


 子供部屋に行った時も苦労したし、子供の作品に評価をつけるのは苦手だな。無難なことしか言えない。でもまあ、ウリとマメちゃんって分かったのがよかったのか、マルコとキッカも喜んでいる。こちらも結果オーライってことなんだろう。


「ゆーた、ごはんー」


 おっ、ベル達が笑顔全開で飛んできた。そういえばそろそろ夕食の時間だな。ベル達の体内時計はかなり正確だ。


「マルコ、キッカ。ソリを試してみたいだろうけどそれは明日ね。夕食に行くよ。ベル達はディーネ達に、今日は楽園食堂でライトドラゴンのお肉だって声をかけてきてくれ。お店で待ってるからね」


「わかったー」っと元気に飛んでいくベル達。お肉が目前だからかすごいスピードだ。今のベル達から誘われて断れる大精霊はいないと思う。間違いなく全員集合だな。


 シルフィ、マルコ、キッカと一緒に楽園食堂に向かい店に入る。


「……これはすごいね」


「うふふ、裕太さんいらっしゃい」


 なんとなく懐かしくて、でも日本にいた頃ではなかなかお目にかかれない光景に驚いていると、オニキスが出迎えてくれた。


「やあオニキス。これってルビーが?」


「ええ、裕太の兄貴から聞いたんだぞ!って言ってたわ。どうかしら?」


 確かに世間話で話した覚えはあるけど、ここでぶち込んでくるとはな。しかも見た目が豪勢すぎる。人数が多いからか、テーブルの中心には丸形ではない長方形型の大きな七輪が鎮座し、赤々と炭が燃えている。


 その周りには、大きな平皿に切り分けられたお肉を、ジーナ、サラ、メルが所狭しと並べている。お肉を見ると、色合いや形に違いがあるから、ちゃんと部位ごとに分けてるみたいだ。並べられている肉の量とお店の雰囲気を考えなければ、まさしく焼肉屋さんって感じだな。


 これで焼き肉のタレがあれば完璧だったんだが、並べられているのは塩、胡椒にすりおろしにんにく、ハーブとレモンが添えられているだけっぽい。味噌と醤油が完成すれば、焼肉のタレもなんとか作れるだろうか?


「うん、焼肉屋さんっぽいね」


「ふふ、よかったわ。でも、自分でお肉を焼くお店って珍しいわね」


「うん? まあ、そういえばそうかな?」


 俺からしたらドラゴンのお肉な時点で珍しいんだけどね。でも、この世界では焼肉やお好み焼きみたいに、自分で作らせるタイプのお店には出会ったことがないから、オニキスにとっても珍しく感じるんだろう。まあ、せっかく外で食べるのに、わざわざ自分で料理をしたいって人は少ないよな。


「ゆーたー、よんできたー」


 おっ、ベル達がもう到着したか。後ろには予想通り大精霊達がフルメンバーで集まっている。とりあえず、ちびっ子達も待ちきれないようだし夕食を始めるか。


 オニキスに案内してもらい、準備されているテーブルに座る。大精霊のテーブルが少し離れているのは、お酒のことを考えてだろうな。


 ***


「おにくー!」「キュー」


「はいはい、もう少しで焼けるからちょっと待ってね」


「もやすか?」


「フレア、焼肉は炭火で焼くから美味しいんだよ。魔法で焼いちゃ駄目だから、その出した火は引っ込めて」


「タマモ、まだそのお肉は赤いから駄目。それに網は熱いから鼻を近づけないように」


 ……あれ? 精霊だと火傷はしないか? いや、今は実体化しているか火傷するんだよな。忙しくてテンパってきたぞ。


「ほら、焼けたよ。塩コショウはしてあるからそのまま食べても大丈夫。味を変えたければ、小皿にあるハーブとか使ってね」


 焼けたお肉をちびっ子達のお皿に配り、新しくお肉を網に乗せる。こんどは脂身が少ないからロースの部分かな?


「おいしー」「キュー」「ぜつみょう」「クー」「うまいぜ!」「……」


 配ったお肉を待ちかねていたベル達が、勢いよく食べ進める。あっ、そんなに急いで食べないで。まだ次のお肉は焼けてないから…………とにかくあれだ、焼肉ってちびっ子が沢山いると忙しい。ヒナに餌を運ぶ親鳥の気持ちがよく分かる気がする。食べるちびっ子達が可愛らしいから、なんとか頑張れるな。


 ジーナ達がフクちゃん達の面倒をしっかり見ててくれるから助かったけど、ルビー達の手伝いを断ったのは失敗だった。でも、ルビー達もライトドラゴンのお肉に興味津々だったから、肉だけ焼かせて我慢させるのは無理だよな。


 大精霊達は……シルフィやドリー、ヴィータが手伝いを申し出てくれたけど、ディーネ達はあれだ、お酒とお肉しか見えてない感じだった。手伝わせるのも我慢させるのも申し訳ないので、自分で頑張るのを選択したのは間違ってないだろう。



「師匠、お腹いっぱいになったし焼くのを代わるよ。師匠も食べてくれ」


「そう? じゃあお願いするね」


 食事が終わったジーナが交代を申し出てくれた。ただひたすら肉を焼いてたから、この申し出は大変ありがたい。ライトドラゴンとファイアードラゴンの焼肉、美味しすぎたがゆえにかベル達の箸が止まらなくて、俺はちっとも食べてない。


 そういう訳で、お言葉に甘えてお肉に取り掛かろう。まずは……やっぱりライトドラゴンのお肉からだな。まずはカルビっぽい部位から試すか。トングでつやつやと光るお肉を網の上に載せると、ジュワっと音をたてて脂が炭に滴り落ちる。


 お肉を焼いている時から思ってたんだけど、脂の融点が低いのかとろけそうなお肉だよな。ファイアードラゴンのお肉もとろけるタイプだし、属性竜は日本人が好む肉質なのかもしれない。


 ベル達には待つように言ったけど、いざ自分で食べるとなると待ちきれないな。ジリジリお肉が焼けるのを見つめる。お肉はレアなタイプが好きなんだが……今回は少し長めに焼いておこう。


 ドラゴンということで、普段よりも少し長めに焼いたお肉を、ご飯にワンバウンドさせて口に放り込む。


 …………あふってなる。口の中に入れると肉がとろけて旨味が全体に広がるのはファイアードラゴンと似ているけど、味のタイプが違う。これが属性の違いか?


 ファイアードラゴンのお肉の味は、お肉って感じの濃厚な旨味だったけど、ライトドラゴンのお肉は様々な旨味が溶け合ったスープのような味がする。


 お肉として食べるのならファイアードラゴンの方が焼肉のタレにも合いそうで好きだけど、上品なお店で出てくるなら、ライトドラゴンの方が高級っぽくてふさわしいのかもしれない。


 光ってなんとなく上品なイメージがあるから、お肉の味もハイソな感じになるんだろうか? んー、美味しいのは間違いないけど、庶民な俺としてはファイアードラゴンだな。


 ライトドラゴンが上品ってことは、正反対のダークドラゴンの味は下品ってことになるのか? 属性竜のお肉が下品ってのは想像つかないけど、ダークドラゴンの方が俺に合いそうな予感がする。


 まあ、好みから少し外れている気もするが、とてつもなく美味しいお肉ってことは変わりない。ほかに食べてない部位も沢山あるし、ファイアードラゴンのお肉を挟みつつも、今は上流階級気分で上品にお肉を楽しもう。ダークドラゴンは白飯をかっ込めるタイプの味だと嬉しいな。

読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ