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三百六十一話 鑑定と解体の終わり

 楽園に一番近い島でライトドラゴンの解体と財宝の鑑定を同時進行している。もうすぐメルを迷宮都市に送っていかないと駄目だからしょうがないとはいえ、地味に忙しい。


「ルビー、こっちはもうすぐ終わるから少し待ってくれ」


「了解なんだぞー、でも、急ぐんだぞー」


「分かってる。すぐに終わるよ」


 お肉の魔力が抜けると味が落ちる。俺には味の違いが分からなくても、精霊達やジーナ達なら分かるかもしれない。急ごう。


「ノモス、シルフィ、この魔法の絨毯は普通に使っていいのか? 人間に空を飛ぶ方法を教えることにならない?」


 時間短縮のために鑑定が終わった財宝や魔道具を収納しながら質問する。


「ふむ、竹を使った玩具のことじゃな。儂も作ってみたが面白いが面倒なものじゃった。じゃが、この魔法の絨毯なら心配はいらん。数は多くないが、空を飛ぶ魔道具の存在は知られておるし、そのどれもが迷宮品じゃ」


 シルフィも頷いているし問題ないようだ。


「その魔道具を解析して、空飛ぶ魔道具は作られないのか?」


「迷宮の魔道具は儂でも分からん部分がある。人間では到底解析できんから心配はいらん」


 技術のレベルに雲泥の差があるってことか。人間ならいずれその差を埋めそうな気もするが、魔法の進歩って難しそうだし時間がかかるんだろうな。あれ? 迷宮の魔道具って迷宮が作ってるんだよな。


「ノモス。そういえば迷宮のコアと話せるんだけど、ノモスの分からない部分を質問してみようか?」


「ふむ……興味がないと言えば嘘になるが、迷宮が魔道具を作っておるにしても、そのすべてを把握しておるとは限らんから微妙なところじゃな」


「裕太、迷宮のコアは点滅でしか意思疎通ができないのよ。質問を考えればできないこともないと思うけど、魔道具の説明なんてどれくらい質問すればいいのか分からないわよ」


 ……確かに点滅での細かい説明は無理があるな。それにすべてを把握してないって言葉も微妙に納得できる。迷宮のコアが意識がない時でも、迷宮は大きくなってたんだし宝箱もあったはずだ。……迷宮って不思議がいっぱいだな。


「了解。とりあえず魔法の絨毯は自由に使っていいってことで満足しておくよ。ノモス、鑑定ありがとう。夜はライトドラゴンのお肉だから楽しみにしていてくれ。じゃあ解体に行ってくる」


「うむ、言うまでもないことじゃろうが、酒は出るんじゃよな? エールは十分な量があるからワインが飲みたいぞ」


 醸造所でエールができても、お酒のチャンスは逃さないな。エールを楽園以外の精霊に配って、楽園でもエールを消費して、蒸留もしているのに十分って言える量がある醸造所が怖い。


「宴会とは言えないけど、少しは出すよ。前回の大宴会でお酒がだいぶ減ったし、明後日には精霊王様達もくるから、我慢してくれ」


 酒島のこともあるし次に迷宮都市にいったら、マリーさんに本格的にお酒を集めてもらおう。


「うむ、まあしょうがないじゃろう」


「助かる、じゃあまた夜にな」


 ノモスに別れを告げてシルフィと共にルビーの元に向かう。ベル達とジーナ達にエメ達も集まってるし、なにをしているんだろう?


「そういう訳でドラゴンの解体には注意が必要なんだぞ! でも、その分とっても美味しいんだぞ!」


 ベル達やジーナ達に解体について授業をしているようだ。ふんふんと頷きながら聞き入っているベル達とジーナ達。ルビーの話は面白いみたいだな。割って入るのは申し訳ないが、本来の目的はお肉の確保だ。お邪魔させてもらおう。


「ルビー、お待たせ」


「裕太の兄貴がきたんだぞ! みんな、説明したとおりに解体を始めるんだぞ!」


 ルビーの掛け声でみんな一斉に散らばり、速攻で解体が始まった。ベルなんて「おにくー」っと叫びながらの出陣だ。やる気に満ちあふれている。ルビーの授業がよっぽどためになったらしい。解体の位置や組み合わせまで決まっていたようで、全員に迷いがない。


「裕太の兄貴、頭や内臓はどうするんだぞ?」


「ん? 頭の解体はしないの?」


「薬や魔道具に利用するなら専門家に任せたほうがいいんだぞ」


 そういえば、ドラゴンって効能が強すぎるとかで内臓は食べられないんだっけ……なら特殊な解体はマリーさんにお任せするか。そのほうがマリーさんも段取りがしやすいだろう。


「お肉以外は収納して迷宮都市で解体するよ」


「分かったんだぞ。それなら先に頭は落としちゃうんだぞ!」


 頭は落としちゃうんだ。ルビーが大きなウォータードラゴンの牙の包丁を担ぎ、飛んで行ってしまった。間違いなくあの包丁で首を落とすつもりなんだろうな。


 俺の想像通り、ライトドラゴンの首元で包丁を構えたルビーが包丁を構え……え? ルビーがブレたと思ったら、一瞬で包丁を振りぬいた姿に……どういうこと? 若干混乱していると、ライトドラゴンの首がゆっくりとズレてズシンと音を立てて地面に落ちた。アニメでよくある演出なんだけど、目の前で見るとビックリするな。


「ねえシルフィ、属性竜の首ってウォータードラゴンの牙の包丁なら簡単に切れるの?」


 ファイアードラゴンの短剣でもウロコをサクサク剥がせてたし、そんなものなのか?


「簡単じゃないわよ。死んでいるとはいえ属性竜。しかもウロコや皮はともかく、骨まで音もなく切り落とすなんて武器を加味しても並みの腕じゃないわ。修練のたまものね」


 ……ルビーはどこに向かっているんだ? あと、シルフィ、あれは武器じゃなくて一応包丁らしい……よ?


「シルフィ、精霊って武器の訓練をするの?」


「しないわね。携帯するのも面倒だし、大抵は魔法で片が付くもの。そもそも戦う機会自体が少ないわ」


 だよね。物体を持っていると素早く飛べないし、魔力も消費する。武器の扱いを覚える利点が少なすぎるはずだ。


「裕太の兄貴、頭を収納してほしいんだぞ!」


 ベル達やジーナ達の歓声を浴びながらルビーが普通に戻ってくる。なんてことなさそうな表情を見るに、すごいことをやってるって実感はないんだろう。


「ルビーってなんで剣を覚えたの?」


「剣? 剣なんて覚えたことないんだぞ?」


 キョトンとした顔をするルビー。俺もキョトンとした顔をしたい気分だ。


「属性竜の首を、俺に見えない速度で切り落としてたよね?」


「料理するならあれくらい当然なんだぞ!」


「シルフィ、当然らしいよ?」


「そんな訳ないじゃない。異常よ」


 だよねー。でも、ルビーにとっては当然のことらしい。料理とか言ってたし、あの首を切り落とした技も、素材を傷めないためとかそんな理由だな。上級精霊になるまで長い時間がかかるらしいから、それだけ長い時間包丁を振り回してきたんだろう。


 継続は力なりって言葉の意味を、まざまざと見せつけられたよ。武術をやっているつもりがなくても、これだけのことができるようになるんだ。まあ、とんでもなく長生きしないと無理だけど……。


 それにいくら切る技術がすごくても、他にもいろんな技術が必要だし、剣が専門の達人には勝てないだろう。


「それよりも早く頭を収納したほうがいいんだぞ!」


「そういえばそうだったな。とりあえず収納してくるよ」


 別に少しくらい時間が経っても、どうせマリーさんのところでも解体に時間がかかるんだし、あまり変わらない気もするが、質がいいに越したことはないのでサクッと収納する。


「師匠、ルビーねえちゃんすごかった!」


 頭を収納するとマルコが大興奮で話しかけてきた。マルコは剣に憧れがあるみたいだし、あんなの見せられたら興奮するよね。


「師匠、精霊術師のれんしゅうもがんばるから、ルビーねえちゃんに剣をならってもいい?」


 精霊術師でありながら凄腕の剣士……厨二っぽいけどカッコいいのは間違いないな。


「……マルコ、残念だけど習うのは無理だと思うよ。ルビーは剣術をやってるつもりはなくて、あのすごい太刀筋も料理の延長なんだ」


「えっと、りょうりをならえば剣ができるようになるのか?」


 マルコが激しく混乱している。


「ルビーくらい長生きして料理をすれば、剣ができるようになる……のかな?」


 自分で言っていて違和感しかないセリフだな。


「精霊ってすごくながいきなんだよね?」


 そのとおりだ。偉いなマルコ、精霊術師の勉強の成果が出ているぞ。


「ルビーは上級精霊だから、気が遠くなるほど長く生きてると思うよ」


「よくわかんないけど、おれだとむりってことはわかった……」


 分かってくれてなによりです。とは言え、マルコの剣に対する思いはかなり強い。マルコの保護者として剣の先生を探すべきかもしれない。探すのに一番手っ取り早いのが冒険者ギルドってのが面倒だな。


 関係はある程度改善しているから、いじめられることはないと思うけど、利用しようとはするだろうな。どっかに美人でナイスバディで、精霊術師の才能がある剣の達人が落ちてないだろうか?  


「まあ、いまは精霊術師の練習を頑張るといい。いい先生がいたら俺も頼んでみるからね」


「ホント!」


 めっちゃ食いついてきた。


「まあ、居たらの話だけどね。俺は冒険者ギルドとの関係も微妙だし、先生を見つけるのは大変だと思う。マルコが本当に剣がやりたいなら、精霊術師訓練を頑張ると同時に、しっかり遊んで体を動かしなさい」


 幸い、レベルアップで体力はあるんだし、遊んで運動神経を磨けばなんとかなるだろう。あとは師は求めるものの前に現れるらしいから、マルコの思いが天に通じるかだな。


「わかった!」


 元気に解体に戻っていったマルコを見送り、シルフィとルビーの元に戻る。


「裕太の兄貴、次は内臓なんだぞ!」


 このまま続けて、必要ない部分を処理するつもりらしい。それはそれで別に構わないんだが、ドラゴンの内臓は大きくてグロそうだな。できるだけ見ないように注意しよう。


「シルフィの姉貴、ちょっと手伝ってもらっていいか?」


「ええいいわよ。なにをするの?」


 シルフィとルビーが打ち合わせを始めた。どうやら手早く内臓を取りだす方法があるらしい。


「みんな、ちょっと離れるんだぞ! シルフィの姉貴、頼むんだぞ!」


 ルビーの声で全員が離れると、シルフィが風でライトドラゴンを持ち上げてお腹を晒す。ルビーが包丁を一振りすると、ライトドラゴンのお腹がパカっと割れて……。



 見ないように注意したかったけど、見ないとどうしようもなかった。シルフィの風で空中にとどまっている臓物とか……うぅ、早く忘れよう。あとは切り分けられたお肉を収納するのが俺の仕事なんだ。可愛いベル達や、美人なシルフィ達を鑑賞して記憶の上書きしよう。


「ゆーた、おにくー」「キュー」


 さっそくベルとレインが大きなお肉の塊を運んできた。その背後からもプカリと浮いた生肉を、押して運んでくる精霊達。


 どうやらシルフィが浮かせた生肉を運ぶのが、ベル達やフクちゃんたちの役目のようだ。シルフィが風で全部のお肉を運ぶことは可能なんだろうけど、ベル達に仕事を作ってくれてるんだな。しかし、重力石を押すベル達は可愛らしかったが、押すのが生肉だと微妙にシュールだ。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] モンスターを今まで倒しに倒しまくってるのに内蔵ドバは今更感があるのですが。
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