三百六十話 鑑定結果
ルビー達が解体をしている間に、俺はノモスに迷宮で手に入れた財宝の鑑定をお願いした。迷宮の深層の財宝、しかも100層の財宝も混じっているから、かなりワクワクしている。
集められたライトドラゴンのウロコを収納してもノモスの鑑定は終わっていないので、解体をしているルビー達とちびっ子軍団+ジーナ+メル+メラルの様子を見る。
ふむ……ウロコはかなり剥がれているみたいだな。サクサクと手早くウロコを剥がすルビー達と、作業に慣れたのかジーナ達も戸惑いなくウロコを剥がしているように見える。その剥がされたウロコを縦横無尽に飛び回り回収するちびっ子軍団。みるみる内にライトドラゴンが丸裸になっていく。
正直、ウロコってお肉に直接くっついているようなイメージだったんだけど、ライトドラゴンの場合は皮の上にくっついているらしい。
属性竜なんだからあの皮も利用価値が高そうだよな。革ジャンとか作ったらバイクで事故っても傷一つ負わなさそうだ。問題は暑いこの大陸では不向きな衣装ってことだな。
ウロコを運んできたベル達やフクちゃん達と軽く戯れながらノモスの鑑定が終わるのを待つ。
***
「裕太、終わったぞ」
量が量だけに結構時間がかかったな。解体の方はウロコ剥ぎも終わって、今は皮と肉を切り離す段階に到達している。
「お疲れ様。どうだった?」
「うむ、正直に言うと、あれじゃな財宝類はともかく、装備品や魔道具は使い方によっては危険と判断できる物が多すぎる」
「そんなに多いの? 呪われてるとか? 身に付けたら毒になるとか?」
場合によっては迷宮のコアと真剣なお話が必要かもしれない。
「使い方によってと言ったじゃろうが。簡単に説明すると武器の場合は威力が大きいということじゃ。うっかり力を開放すれば周りにおる味方を巻き込んでしまう可能性がある。使いこなすには実力と技術、経験が必要ということじゃな」
迷宮のコアとのお話は必要ないようだ。単純に高性能だから素人が触るには危ないってことらしい。
「えーっと、それって、精霊と開拓ツールに頼りっきりの俺の場合はどうなるんだ? 一応高レベルではあるんだが……」
「なんとかに刃物と言うやつじゃな」
ズバッと切り捨てられた。いや、分かってるよ。誰かに真剣に師事した訳じゃないし、命の危険も保険付きで切り抜けてきたからしょうがないのは分かる。でも、日本のことわざっぽい言葉で切り捨てられると凹む。この世界にも似たような言葉があるのか、日本人が言葉を広めたのかどっちなんだろう?
「ちなみに、どんな武器があるんだ?」
「ふむ、これなんかも結構危険じゃな」
ノモスが手元にあった剣を俺に見せてくれる。おっきな魔石らしき物が剣の柄に埋め込まれていて、見ただけで高そうだというのは分かる。たぶん、サヤから抜いたら輝くような刀身が現れるんだろうな。
「どんな風に危険なんだ?」
「この剣は強力な土と火の属性を秘めておる。土と火を単独で扱っても攻撃限定じゃが浮遊精霊クラスの魔力攻撃ができるじゃろうな。そして魔力をバカ食いするが、両方の属性を同時に使えば半径10メートルほどをマグマに変え、操ることができるじゃろう。しかも剣を持つものの保護もしっかり備え付けられておる」
……いやん、カッコいいけど超怖い。剣を持つ者の保護はしっかりしてるって、持ってない者の保護はしっかりされてないってことじゃん。なにそれ、暴発したら周りの仲間がマグマに沈んじゃうよね。
「あー、たしかに俺達が使うのは危険だな。ファイアードラゴンの短剣もあるし、ジーナ達の実力が上がるまでは武器は魔法の鞄に寝かせておくよ。それで、防具はどうなんだ?」
「ふむ、防具に関しては能力は高いが、自動反撃や魔法の反射を除けば身を守るには十分じゃろう」
自動反撃や魔法の反射はたしかに実力がないと使い辛そうだな。反撃してほしくない時に反撃したり、思ってもみないところに魔法を反射したりしそうだ。
「分かった。じゃあ数が多くて面倒だろうけど、魔道具と防具の性能を教えてくれ」
「……分かっておったが面倒じゃな。じゃが、こんなふうなキラキラしたものの説明も必要か? こんなもん身に付けんじゃろ?」
たしかに、まばゆいばかりに光り輝いているよろいを装備しようとは思わない。でも、性能を知っていればなにかがあった時に利用できるかも……ないな。シルフィ達がいて追い込まれる時点で勝ち目がない気がする。いや、シルフィ達が精霊王様とかに呼ばれて、一緒にいられない時もあるんだ。一応性能は聞いておこう。
「あら、私は裕太がこの鎧を装備しているところを見てみたいわね」
いままで解体にも鑑定にも興味がなかったのか、一言も口を開かなかったシルフィが面倒な場面で介入してきた。自然の鎧の時もそうだけど、こういう厨二っぽいのが絡むと途端に元気になるよね。
無表情なくせに、ハンパないワクワク感をシルフィから感じる。
「いや、念のために説明を聞いておくだけで、装備しないからね」
「いいじゃない、ちょっと着てみるだけなのよ?」
「嫌です。絶対にニマニマするもん」
「そんなこと言わずに。きっとカッコいいわ」
シルフィ、そんなに説得力がない言葉では俺は動かないよ。
***
「……そういう訳で説明を頼む」
「うむ、まあなんじゃ、裕太も大変じゃな」
ノモスがなんだか憐れむような表情で俺を見ている。
「そう思うんならシルフィの説得に力を貸してくれよ。黙って気配を消すのはずるいぞ」
「儂が説得できる訳なかろう。裕太の契約精霊なんじゃ。裕太が頑張れ」
それを言うなら、ノモスも俺の契約精霊なんだけどな。こういう時に命令したりしたら従ってくれるんだろうか? ……ないな、嫌じゃで終わりそうだ。
「そんなことよりも説明せんでいいのか?」
話を逸らされている気はするが、ゴネてもどうにもならなそうなので諦めるしかないか。
「……頼む」
少し納得がいかない気持ちでノモスの説明を聞く。ふむ……あれだな自分では使えなさそうな武器が沢山だが、聞いているだけでワクワクしてしまうな。
なんだ、光を打ち出す弓って、聞いているだけでカッコよすぎるだろう。弓、触ったことすらないけど。
「武器と防具、アクセサリーはだいたいこんなもんじゃな」
「うん、ありがとう。武器はともかく防具とアクセサリーは派手なの以外は結構使いやすそうだね」
「そうじゃな。危険性を説明したもの以外はちびっ子達でも使えるじゃろう。次は魔道具じゃな」
いよいよ本命の魔道具の登場だ。魔法の箒と魔法の絨毯はロマンだよな。シルフィに頼めば飛ぶことはできるが、それは別の問題だ。
「まずはこれなんじゃが……」
さすが迷宮深層の魔道具、興味深い物も幾つかみつかった。
魔法のテント
見た目は普通の三角テントなのに中の空間が広くなっている。生き物を入れたままでテントをたたむことはできない。テントを張った時に隠蔽効果がある。
ファンタジーの定番っぽいアイテムだな。普通ならかなり便利なものっぽいのに、迷宮終盤で出るところが意地が悪い。いや、前半のすでに開けられた宝箱にも入ってた可能性があるのか。
……まあ、物は悪くはないと思うんだけど、外で野営の時は岩の家があるし、岩の家でも寝ている間はシルフィが守ってくれるから微妙な感じだ。周囲に人目があるところで野営する場合は、テントの方が不自然じゃなさそうだし、利用方法を考えるか。
清潔な携帯トイレ
コンパクトな箱を展開すると個室のトイレができる。オート洗浄の魔法でいつでも清潔。女性冒険者、女性の旅人に垂涎の魔道具。
別に女性じゃなくて、俺にとってもかなり嬉しい魔道具だな。しかも3つも同じものが手に入った。宝箱の中でははずれの部類なのかもしれないが、俺用、ジーナ達用、予備が手に入って最高の結果だと思う。
送風機
魔石の力で涼しい風が出る。
箱型の物体でなにかは分からなかったが、涼しい風が出るなら楽園でもテントや岩の仮拠点でも快適な生活ができるが……シルフィが気温を調整してくれるのであまり意味がない。
ジーナ達もフクちゃんとマメちゃんがいるから必須ではないが、まだ力も弱いから送風機で魔力の消費を抑えるのはいいかもな。
他にも普通なら結構役に立ちそうな魔道具があったが、シルフィ達やベル達の力を借りればなんとかなるものが多かった。精霊って属性が揃うと大抵のことができるな。
でも、魔法のテントに送風機、それと前に手に入れた湧水の壺を合わせれば、結構快適なキャンプができそうだ。寝具やキッチンの魔道具があれば完璧なんだけどな。
「さて次は、裕太が気にしておった箒と絨毯の魔道具じゃな」
いよいよお待ちかねの魔道具だ。俺としては拠点に浮島を設置したし、魔法の箒や魔法の絨毯でシルフィの力を借りずに浮島に自由に移動できるのは嬉しい。
まあ、聖域の外には怖いから1人で出ないけど……1人で飛んでいる時にレイスとかに追いかけられたら、チビる。
「箒の方は魔力を込めると勝手に部屋の中を掃除する魔道具じゃな。細かい汚れを自動で集め、集めたホコリを吸い込み消滅させる機能付きじゃ」
箒は普通の……いや自動で掃除をするんだから普通じゃないけど、まっとうな使い方の箒だった。まあ、洗浄の魔法を使ったあとは汚れがホコリになって地面に落ちるし、部屋に洗浄をかけたら床にホコリが落ちる。あったらとても便利なのは間違いないな。どこぞのお掃除ロボットみたいだけど……。
「魔法の箒か……便利に使えそうだから、まあよかったよね。絨毯は?」
箒が空を飛ばないとなると、絨毯も微妙な気がしてきた。でも、重力石が主体の層で手に入れた宝箱だ。そこで絨毯ってなると空を飛ぶ可能性は高いと思うんだよな。異世界の考え方だと違うんだろうか?
「絨毯は空を飛ぶ魔道具じゃ。魔力を込めると空中に浮き、魔力に意思を込めると操縦できるようじゃ。なかなかスピードも出るみたいじゃぞ」
……願望通り空飛ぶ絨毯だったことはかなり嬉しい。でも……意思を込めるってところでシルフィの風の繭を思い出してしまう。
「ノモス、それってうっかり魔力を込めすぎたら暴走したりする?」
「ふむ……魔力を通した感じではそういうことはなさそうじゃな。魔力の消費効率は良さそうじゃが、それでもある程度の魔力は必要じゃ。暴走する前に気が付くじゃろう」
シルフィの風の繭ほどピーキーではないらしい。楽園と迷宮都市の往復で偶に飛んでるけど、いまだにちょっと怖いもんな。
「なるほど……それで、魔力が切れたら魔法の絨毯はどうなるんだ?」
「そりゃあ落ちるに決まっとるじゃろ。しかし、魔力の消費効率は悪くないんじゃ。気分が悪くなってからでもよっぽどの高度におらんかぎり十分に地面まで下りられるじゃろう。さすが迷宮産の魔道具じゃな」
墜落の危険性はないようでなによりだ。しかし、気分が悪くなるか……精霊の魔力消費が少ないのか、魔力が足りなくなったことってないんだよな。魔力を吸われているらしいんだけど、それもよく分からないし……まあ楽なことに文句を言うのは駄目だよな。
そういえば、これって空飛ぶ魔道具なんだよな? シルフィ達は人が空を飛ぶのを嫌がってたし、普通に使うのはまずいのか? ちょっと確認が必要だな。
「裕太の兄貴、お肉の解体をするんだぞー」
おっと、ルビーに呼ばれてしまった。解体のほうも新たな局面に入りそうだし忙しい。やっぱり別々に時間をずらせばよかったか? でも、精霊王様達もくるしメルの帰還もある。結構忙しいな。
読んでくださってありがとうございます。