三百五十八話 解体
ルビー達にライトドラゴンの解体を頼んだが、途中で話が逸れてウォータードラゴンの素材の話になり、ワクワクしているルビーを焦らしてしまった。
急いで属性竜の解体を見てみたいと言っていたジーナ達を迎えに行って、面白そうだからとついてきたベル達と一緒に、一番低い位置の重力石の島へと移動する。
「じゃあ、ライトドラゴンを出すね」
驚かないようにみんなに声をかけ、魔法の鞄からライトドラゴンを取りだす。さっそく、ルビー達が散らばりライトドラゴンの状態を確認しだした。
焼け焦げている部分が食べられるかどうか、熱で周辺の肉が変質していないかを中心に確認しているようだ。でも、それを真似して確認している風なベル達は、なにも分かってないと思う。
顎に手を当てたり、ルビー達が声をかけあって情報を共有している声に一緒に頷いたり、足が大きいとかウロコがキレイだとかをルビー達に報告している。お手伝いをしているつもりっぽいから、邪魔しないようにって注意し辛い。
そのベル達にまざってメルがフラフラとライトドラゴンに近寄っている。属性竜の素材は武器を作っている者としては見過ごせないんだろうな。こっちはちゃんと邪魔にならないように観察しているから問題ないだろう。
「すげー。師匠、師匠があのどらごんたおしたんだよな。おれもたおせるようになるかな!」
ライトドラゴンを見たマルコが、少年のように……少年だけど少年のように瞳をキラキラと輝かせて聞いてきた。
「んー、倒したのはイフだけど、俺が契約しているから俺が倒したってことになるのか? よく分かんないけど、今のマルコ達だと倒すのは無理だと思うよ。シルフィ、属性竜を倒すのって中級精霊なら可能?」
ベル達では難しいみたいだけど、中級精霊ならなんとかなりそうな気もする。聖域で共に生活していると進化もしやすそうだけど、さすがにフクちゃん達が上級精霊になるまではマルコの寿命はもたないだろう。
中級精霊で無理ならマルコでは難しいってことになるな。いや、上級精霊や大精霊と契約できれば倒せるのか? 聖域で上級精霊や大精霊、精霊王様達にさえ会う機会があるんだから、契約してもおかしくはないよな。
下手したら国を相手にできる少年少女が誕生するかも……ジーナ達がそんなことをするとは思えないし、精霊側もそんなことに手を貸すことはないだろうけど、想像だけでも結構怖いな。
「そうね……中級精霊単独だと攻撃力が足りていても、契約者を守れない可能性が高いわ。属性の相性がよくて、攻撃を任せる中級精霊と防御を任せる中級精霊が居れば可能かしら? 攻撃はともかく契約者を守るには、中級精霊が2人はほしいわね」
中級精霊でも倒すことは可能なようだ。でも、簡単ではないって感じだな。イフも油断していたとはいえ、ライトドラゴンとダークドラゴンに出し抜かれて俺に攻撃が飛んできてたから、防御が甘いと契約者がプチっとやられて終わりだもんな。
「だそうだよマルコ。50層のファイアードラゴンも、存在が分かって対策が練れるにも拘らず、ほとんど倒されてない。簡単じゃないってことだね」
中級精霊が3人か。バロッタさんの契約精霊が土の中級精霊だったよな。国なら他にも中級精霊と契約している精霊術師がいそうだし、潜在能力的には50層をクリアできそうだな。
「ウリがちゅうきゅうせいれいになって、フクちゃんたちもちゅうきゅうせいれいになったらかてるってこと?」
そりゃあ……いけるのか? 風の中級精霊が2人、土の中級精霊が1人、火の中級精霊が1人、命の中級精霊が1人ってことになる。相性次第では勝てそうだな。メルとメラルが加われば更に盤石っぽい。
「勝てそうに思えるけど……シルフィ、50層のファイアードラゴン相手ならどう?」
下手に勝てそうだって煽って、ジーナ達が全滅とかしたら洒落にならん。それに、属性竜って迫力があるから見ただけでビビるし……。
「勝てる可能性は高いんじゃない? でも、戦いなんだから絶対とは言えないわ」
中級精霊達だけだとハプニングが起これば危ないってことか。大精霊だと絶対って言ってもよさそうだけどな。まあ、中級精霊になるのは聖域の影響を考えてもかなり先の話だ。今はファイアードラゴンに突っ込まないように注意して、あとは大人になったマルコ達の判断に任せるか。
「マルコ、とりあえず頑張れば勝てそうだよ。でも、絶対じゃないからしっかり訓練するように。失敗したらマルコが死ぬだけじゃなく、ジーナ、サラ、キッカが死ぬ可能性もあるからね」
マルコのキラキラした瞳に影が落ちる。……なんか子供の夢を壊したようで申し訳ない。日本なら冗談にマジレスすんなよってツッコまれそうだ。
でも、ジーナ達が死んだら後悔がハンパなさそうだから、空気が読めてなかろうが過保護だろうが注意だけはしておこう。あとは、この沈んだ空気をどうにかするだけだな。
***
「裕太の兄貴、解体を始めるんだぞ!」
俺の重い返答で微妙な空気になってしまったが、ジーナ達がなんとか立て直してくれた。それに今のルビーの元気な合図で、注意がライトドラゴンに移って重たい空気が完全に払拭された。ルビーさん、マジで感謝っす。
「分かった! 手伝えることがあったら言ってくれ」
「大丈夫……あっ、裕太の兄貴、血はどうする?」
血? そういえばマリーさんがドラゴンの血はなにかに使えるって言ってたような……。薬かなんかになるんだった気がする。捨てたら怒られそうだし確保しておくべきだな。
血を入れるのは空樽でいいか。特殊な容器が必要かもしれないが、開拓ツールの魔法の鞄に入れれば時間も止まるし問題ないだろう。……空樽は全部醸造所だな。
「血を確保しておきたいから、ちょっと待っててくれ。空樽を醸造所に取りにいってくる」
っていうか、俺が行くって言ってもシルフィに頼むことになるんだけどな。シルフィにお願いすると、サクッと飛び立ち、少し待つと沢山の空樽を風で浮かせてシルフィが戻ってきた。
さすが風の大精霊、超早い。これでようやく解体を始められるな。
「サフィ、切るのは首元だけでいいんだぞ?」
「ええ、血が固まってないから、首元だけで十分よ」
「分かったんだぞ。エメ、首の左側を切るからそっちに樽を並べるんだぞ!」
ルビーの指示でエメが樽を並べると、シトリンとオニキスが樽の蓋を開けていく。ちゃくちゃくと進む準備に、どれだけ5人で解体を繰り返してきたかが垣間見える。
「いくんだぞー!」
準備がととのい、ルビーがバカでかい包丁を剣を扱うようにライトドラゴンの首元に振り下ろす。ウォータードラゴンの包丁の切れ味がすごいのか、ルビーの腕がすごいのか分からないが、ライトドラゴンの首元がスパっと切り裂かれ血がドバっと流れ出す。
倒してすぐに時間が止まる魔法の鞄に収納したから、血が固まらず結構な勢いだ。イフの攻撃って傷口が焼かれるから血がほとんどでない。シルフィみたいに首を落とすと、血が流れだすから、血を集めるならイフの攻撃の方が便利なのかもしれないな。
「では、いきます」
サフィが右手を流れ出る血に向けると、血がうねるようにまとまり空樽に吸い込まれていく。地面に血が落ちる心配はしなくてよかったようだ。
「ねえ、シルフィ。水の精霊って血も操れるの?」
「血も水分だから操ることはできるわね」
「じゃあ、魔物や人間の血を逆流させたり、体内で暴れさせたりもできるってこと?」
それならゴーレムやアンデッドみたいな、血が通わない魔物以外に圧倒的に有利になる。
「んー、たしか、そう上手くはいかないって聞いたことがあるわ。死骸や流血した血はともかく、体内を巡る血はその生命の支配下にあるんだったかしら? 相手が受け入れたのならともかく、戦闘中に干渉するのは難しいみたいね。ディーネだったらそれでも可能でしょうけど、大精霊だったら普通に倒した方が楽ね」
できないことではないけど、難しいから普通に倒した方が楽って感じなのか。
「血が操れるならレインでも、属性竜の血を止めて倒せるかと思ったんだけど残念だ」
「裕太って結構怖いことを考えるのね。でも、レインだとドラゴンの体内に干渉するのは無理ね」
ファイアードラゴンの首をスパっと切り落としたシルフィに怖いとか言われてしまった。血を止めるのと首を切り落とすのでは、見た目的に首を切り落とす方が怖いと思うけどな。
「まあ、無理ならしょうがないか」
でも、血が操れるとか考えてなかったし、精霊ができることで俺の知らないことはまだまだ多そうだ。これからも疑問に思ったことは積極的に質問したほうがいいな。
「血が抜けたから、裕太の兄貴は樽の収納をお願いなんだぞ!」
「了解。ルビー、この子達も手伝えることがあったら指示してやってくれ。いい経験になる」
ライトドラゴンの周りで、興味深そうに解体を見守っているちびっ子達+ジーナ+メルを巻き込んでみる。
「分かったんだぞ。次はウロコを剥がすから、みんなに手伝ってもらうんだぞ!」
ウロコ取りか、聞いているだけならお魚の調理に聞こえるのが面白い。でもドラゴンのウロコってそんなに簡単にはがせないだろうし、ちびっ子達で手伝えるのか?
メルがジーナ達に何かを言うと、ジーナ達がスチャっとファイアードラゴンの短剣を取りだした。あれ? あれって解体用ナイフとして使えるの?
「メル、メル、ファイアードラゴンの短剣って解体ナイフに使えるの?」
「はい、もちろん使えます。ライトドラゴンの解体ですからハンパな解体ナイフでは刃が通りません。その点ファイアードラゴンの短剣ならサクサク解体できますよ!」
メルが興奮したようにしゃべる。自分が作ったナイフがドラゴンの解体に使われるのがたまらなく嬉しいらしい。
「よーし、じゃあジーナ達はウロコを剥がすんだぞ。ちびっ子精霊達は剥がしたウロコを裕太の兄貴に届けるんだぞ!」
ちびっ子軍団+ジーナ+メル+メラルが元気にお返事をして、ルビーの指示に従いライトドラゴンの体にとりついた。最初はルビー達がジーナ達にウロコの剥ぎ方を教えながらやるみたいだな。それならケガもしなさそうで安心だ。
でも、俺にウロコが届けられるってことは、野菜の収穫の時みたいに身動きがとり辛いってことだな。しかも巨大なライトドラゴンのウロコだから、かなりの数がある。ルビー達に解体を頼んでいる間に、ノモスに財宝の鑑定をしてもらうつもりだったんだけど、なんとかなるか?
修正しましたが、いつの間にかエメが風の精霊だと思い込んでいました。
混乱させてしまうことになり申し訳ありません。ご指摘ありがとうございます。
読んでくださってありがとうございます。