三百五十七話 解体……準備?
ベル達と1日しっかり遊んでから2日。今まで知らなかったベル達の一面も見れたし、なんだか更に仲良くなれた気がする。まあ、子供部屋で遊んだりハンドベルの練習をしたり、精霊樹の滑り台を一緒にすべりまくったり、公園でボール遊びや、迷路、だるまさんが転んだに鬼ごっこまでやって、ヘトヘトにはなったがいい1日だった。
「アルバードさん、子供達が15人増えても、こっちは問題なかったんだけど。アルバードさんの方はどうだった?」
「こちらの方も、班を増やしただけだから問題なかったな。次回から更に人数を増やしたいところだが……次は精霊王様達が一緒だ。次も私は帯同するつもりだが、今回と同じ人数にしておいた方がいいか?」
んー、どうなんだ? 今回きた子達も自由に遊んでいたが手はかからなかった。それはメインで相手をしているルビー達も同意見だ。
更に人数が増えても問題ない気もするが、精霊王様達の存在がネックと言えばネックになる。余裕をもって行動するなら、今回と同じ体制の方が確実なんだが……相手が、あの精霊王様達だもんな。ある意味手がかからないから、別に増やしても構わなそうで悩ましい。
「ちょっと失礼な言い方になるけど、怒らないでね。えーっと、精霊王様達に案内って必要ないよね? お酒と食事とデザートを用意しておけばいいだけなら、別に人数を増やしてもいいんじゃない? それとも今回は盛大な歓迎をしたほうがいいの?」
「いや、精霊王様達は息抜きにくるから、盛大な歓迎は必要ないな。酒と食事とデザートがあれば、放置していても問題ないだろう。むしろ、放置している方が喜ぶだろうな」
……さすがに精霊王様達を放置する根性はないな。でも、あんまり世話を焼かれても煩わしいって感じか。ご馳走を用意して、あとは自由にやってもらうだけってスタイルにするか。
「分かった。精霊王様達にのんびりしてもらえるように考えておくよ。人数に関しては次の機会じゃないと、俺達が迷宮都市に行くんだよな。精霊王様達に自由にしてもらうなら、一緒に人数を増やした方がいいと思う」
「そうか……楽園の主がいない時に人数を増やすのは微妙だな。分かった、精霊王様達と重なって悪いが、次は子供達と付き添いを増やさせてもらう」
「なら、対応できるように準備しておくよ」
「ああ、頼む」
「裕太、話は終わったわよね。アルバードを借りてもいい?」
人数について確認が終わると、隣で話を聞いていたシルフィが動き出した。
「話は終わったから別に構わないけど、ちびっ子達が出発を待っているからあまり時間はないよ」
話していた俺が言うのもなんだが、現在、ベル達とフクちゃん達、ジーナ達、ルビー達、ディーネが遊びにきた精霊達とお別れの挨拶をしている。中でもディーネが大人気で、ちびっ子精霊達に群がられている。俺が考えるに、大人なのに精神年齢が近いってのが人気のポイントなんだろう。
賑やかにお別れをしているが、別れの挨拶が済んだのになかなか出発しないとお互いに気まずくなるから、急いであげてほしいな。
「大丈夫よ。最後の確認をするだけだから。アルバード、精霊王様達に伝言を頼んだわよ。それと、ルビーが言ってた少し料理ができる精霊の勧誘と、それでも足りないんだから料理に興味を持っている精霊の募集。いい、お酒が目当ての精霊を選ばないように注意するのよ」
「分かっている。裕太が異世界の料理やデザートを広めてから、精霊の目が食べ物にも向いている。心配しなくても数は集まるだろうから厳しく選定するさ。それに、美味い酒に美味い料理が楽しめる店は私だって楽しみなんだ。手は抜かない」
……大精霊が食べ物について拘ってるのって、かなり珍しい光景なんだろうな。俺だって異世界の料理って言われたら興味を持つ。ドラゴンのお肉とか最高だもん。
「それならいいわ。頼んだわよ」
「分かった。任せておけ。じゃあそろそろ出発する。裕太、世話になったな」
「あはは、色々大変っぽいけど頑張ってくれ。気をつけてな」
アルバードさんと付き添いの精霊達がちびっ子達をまとめて飛び去っていく。ふー、次は人数が増えて精霊王様達がくるのか。ちゃんと準備しておかないとな。でも、そろそろ財宝の鑑定とライトドラゴンとダークドラゴンの解体をしてほしい。
「シルフィ。酒島の計画はある程度まとまったんだよね? ノモスに鑑定をしてもらいたいんだけど、大丈夫かな?」
この2日、ノモスをほとんど見てないんだよな。イフと一緒に醸造所の精霊達を説得しているはずなんだけど、上手くいったんだろうか?
「んー、そうね、計画はある程度煮詰まったわ。ノモスは醸造所の精霊の説得を終えて、今は赤ワインを作る準備をしているから少し忙しいかしら? でも、財宝を鑑定する時間くらいは取れると思うわ」
すでに説得は済んで赤ワインを作り始めていたのか。醸造所の精霊って頑固なイメージがあったけど、それだけ酒島が魅力的だったのかもしれない。出禁にするって脅しはなかったって信じよう。
……とりえずノモスの時間は取れそうだし鑑定をお願いして、同時にルビー達にもドラゴンの解体をしてもらうか。
***
「ライトドラゴンの解体とか、楽しみなんだぞ!」
「ドラゴンかー、属性竜の解体は海でウォータードラゴンを解体したのが最後だっけ?」
「ええ、なにを思ったのか、海底火山にちょっかいを出したことで討伐の許可が下りた時のが最後ですね」
「あれは美味しかった。ライトドラゴンも楽しみ」
「ライトドラゴンのお肉はどんなお酒に合うのかしら?」
ノモスに鑑定をお願いする前に、ルビー達にドラゴンの解体をお願いをした。俺の話を聞いたルビー達は食い気味に快諾し、素早く準備を整えてワイワイと話している。話の内容では属性竜を解体したことがあるみたいだし、ある程度安心して任せられそうだ。
今回は色々忙しかったし、精霊王様達もくるからライトドラゴンだけ解体してもらうことにしたけど、これだけ喜んでくれるならダークドラゴンの解体も頼みやすくて助かる。それで気になるのが……。
「……ねえ、ルビー。そのバカでかい包丁はなんなの? 大きすぎない?」
「ふっふー、これはシトリンがあたいのために作ってくれた大物解体用の包丁なんだぞ! ウォータードラゴンの牙を丸々1本使った包丁で、お肉に金気をつけず、すさまじい切れ味でお肉を傷めないすごい包丁なんだぞ!」
属性竜の牙を使っているのか。メルに作ってもらったファイアードラゴンと同種の切れ味なら、たしかにすごい切れ味だろう。まあ、包丁と言うよりも剣にしか見えないけどな。
「ウォータードラゴンを討伐したなら、他にも素材は残ってたはずだよね? それはどうしたの?」
お肉は当然余ってないだろうけど、ウロコくらいは持ってないんだろうか。ウォータードラゴンは見たことがないから、ウロコくらいは確認しておきたい。
「他の素材は、シトリンがあたいの料理道具にしてくれたんだぞ! おかげで料理の味が1段階は上がったんだぞ! それ以外は持ち運びに不便だから……海の底?」
巨大包丁以外の他の料理道具もウォータードラゴン製だったようだ。そしてあまりの素材は海の底だったか……マリーさんが話を聞いたら狂乱しそうな内容だな。
でも、上級精霊だからと言って好き放題に荷物を持てる訳じゃないし、食材のために色々と動いていたみたいだから、荷物が最低限になるのはしょうがないんだろう。でも、今は拠点もあるんだから好きに道具が増やせるようになったんだよな。
「ウォータードラゴンの素材の場所なら私が分かりますよ。ウォータードラゴンの素材ですから、海底でも劣化してないと思いますし、裕太さんが必要なら取ってきましょうか?」
さすが水の上級精霊、素材を捨てた海底の場所も分かるらしい。ウォータードラゴンか……迷宮のコアに頼めばなんとかなりそうではあるが、他で手に入るのなら力を消費させる必要もないよな。
お肉も食べてみたいけど……まあ、未知の味のライトドラゴンとダークドラゴンの肉もあるし、ファイアードラゴン、グリーンドラゴン、アサルトドラゴン、ワイバーンの肉も残っている。機会があればってことでいいか。素材だけルビー達に分けてもらおう。
それにしても、俺、ドラゴン肉専門のお肉屋さんが開けそうなくらい、ドラゴン系統の肉を確保しているな。死ぬまでに全部食べきれるんだろうか?
「サフィ、悪いけど時間がある時で構わないから、ウォータードラゴンの素材を確保してきてくれ。行く時に声をかけてくれたら魔法の鞄を渡すね」
前回の迷宮でも宝箱の中に鞄があったし十中八九魔法の鞄だろうから、魔法の鞄の数には余裕がある。1つは荷物が多いルビー達専用の鞄にしてもいいかもな。でも、これで確実とは言えないがウォータードラゴンの素材をゲットできそうだ。
特に素材に使い道がある訳じゃないけど、属性竜とか名前だけでもカッコいいから素材が手に入るなら手に入れたい。
「分かりました。そうですね……今回の休日は無理ですが、次回の休日に取りにいってきます」
「ありがとう。じゃあ魔法の鞄はノモスに鑑定をしてもらってから渡すね」
「なー、なー、裕太の兄貴! 早く解体したいんだぞ!」
サフィとウォータードラゴンの素材について打ち合わせをしていると、ルビーがしびれを切らして話に入ってきた。ものすごくソワソワしているな……不謹慎だけど、ご飯を前に待てをされている犬に似ている気がする。
まあ、料理人にとって、属性竜って大層なご馳走と言ってもいいだろう。その解体を頼まれて、ワクワクしているところに他の話で焦らされればそんな表情にもなるよな。確実に俺が悪い。
「ごめん、じゃあライトドラゴンを出す……出すのはこの場所でいいの? 広さ的には問題ないけど、土でお肉が汚れない?」
さすがに地面の上で直に解体ってのは抵抗がある。ドラゴンの血が飛び散った地面ってどうなんだ? すごく変な植物が生えてきそうで怖いんだけど。
「そ、それなら、重力石の島で解体すればいいんだぞ! あそこは鉱石の島だから汚れにくいぞ!」
もう、待たされるのが嫌なのか、素早く代案を出してくるルビー。これ以上待たせると拗ねてしまいそうだから急がないとな。あっ、属性竜、ジーナ達も見たいって言ってた……。
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