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三百五十六話 コミュニケーションって重要だな

 ポッカリと時間が空いたことで、ベル達と遊ぶことにした。のんびりまったりと穏やかな時間が流れると思っていたが、予想外のことで結構な難問が飛んでくることになった。ちびっ子の心を傷つけないように方向修正するのは難しい。


 ベル達が楽しそうに自分の財宝を宝箱に収納している。見ているとお片づけでちびっ子達の性格が分かるのが面白い。ベルは豪快に自分の財宝を宝箱に詰め込み、フレアはなにをどう残すのか考えながら収納している。トゥルは元々の量が少ないから、すでにお片づけが終わりそうだ。


 レインは花瓶やコップ、水を入れられる物が多いな。色も水色が多いが、フレアと同じく機能的な面も重要視しているようだ。そうなるとタマモは……鉢植えとか集めてるのかと思ったが、木製の品物なら結構なんでもいい感じだな。木製の物なら手あたり次第に集めているから、ベルと同じタイプの収集癖っぽい。


 ムーンは宝箱の中に沢山のボールを入れている。色はまちまちなんだけど形が自分に似ているから好きなのかな? ムーンが宝箱に紛れ込んだら探すのが大変そうだ。


 一緒にいる時間が多いから、ベル達のことを結構分かっているつもりになってたけど、まだまだ知らないことが多いようで、結構勉強になった気がする。


「キュキュー」


「ん? レインどうしたの?」


 レインがパタパタと手招きをするので寄っていくと、見て!って感じでビシッと水桶をヒレでさした。そういえば、みんなのお気に入りの物を見せてもらってたな。お片づけが始まったから終わった気になってたよ。


 あれ? そういえばトゥルのお気に入りに対する感想をまだ言ってないな。トゥルを見ると、すべてを宝箱に収めて、なんだか満足気な顔をしている。とりあえず、トゥルは大丈夫なようだ。


「キュ!」


「ああ、そうだった。今見るね」


 レインによそ見しちゃ駄目って言われた気がする。怒られちゃったけど通訳がなくても気持ちが分かると嬉しい。


 気を取り直して俺が作った水桶を確認する。……土が底に敷かれていて、水草が生えている。なんか水槽みたいだな。泳ぎ回るほど大きい訳じゃないし、レインが水中で癒される空間を作ったってことのようだ。泳ぐ場所は泉や池があるし、ここはこれで十分なんだろう。


「土や水草はトゥルとタマモに協力してもらったの?」


「キュー!」


 嬉しそうにレインが頷く。


「居心地はいい?」


「キュキュー」


 たいそういいようだ。子供部屋の中に自分専用の秘密基地を作ったって感覚なのかな? 俺も子供の頃に、大きな段ボールを改造して自分専用の空間を作った時は楽しかった。


 今どきの子供達は部屋の中に小さなテントを張ったりすることもあるらしいし、精霊でも人間でも小さい頃はこういうことが楽しいんだな。


「キュー!」


 キラキラした瞳でレインが俺を見上げる。秘密基地の評価を聞きたいらしい。むろん褒めまくりの撫でまくりだ。


「クーー」


がっつりレインを褒めまくると、次は自分の番だっと言いたげにタマモが鳴く。ムーンもプルプルと震えながら、様子をうかがっている雰囲気だ。今日は褒めまくりの撫でまくりな1日になりそうだな。


 シッポを全開でフリフリしているタマモに促され、前回作成したプランターを確認する……ていうか確認する必要がないほどの緑がプランターに茂っているのが、部屋を入ってから速攻で見えてたけどね。


 植物の成長を早めるってかなりのチートだよな。しかも最初の頃と違って栄養がある土が潤沢にあるから、タマモは力をセーブする必要はない。豊作確定な光景だ。


「タマモ、すごいね。えーっと、これだけ生い茂っているのに、プランターからはみ出てないのは、タマモがなにかしているんだよね?」


 わさわさと生えまくっているのに、葉っぱの1枚もプランター外にはみだしていない。蔓を誘導する棒やネットも張られてないから本来なら部屋中に侵食するはずが、お互いに蔓や葉で組体操みたいに支え合い上に向かって伸びている。タマモの力って分かってなければ目を疑う光景だ。


 すでに花が咲いてるから、この花が枯れたら実がつくんだったか? 摘花てきかも終わっているみたいだし、美味しい瓜が食べられそうだ。


「クゥ! ククー。クー、ククク、クー」


 タマモがすごく可愛らしく一生懸命なにかを言っている。うーん……ドヤってしているのは分かる。尻尾全開だから喜んでいるのも分かる。でも、さすがに植物の成長に関しては、なにを言ってるのか分からないぞ。


「おへやのなかでは、ほかのせいれいにめいわくをかけないのがまなーっていってる」


 マジで? 子狐なタマモがあんなに可愛らしく言ってた内容が、マナーについてだったの? 予想外過ぎて通訳してくれたトゥルの顔を確認してしまう。


「たまもはまなーをまもるの」


 俺が困惑しているのが分かったのか、もう一度力強くトゥルが言う。


「そうなんだ……うん、マナーを守るのは大事だもんね。マナーを守れるタマモはすごく偉いよ。大人だね」


「クゥ!」


 誉め言葉に空中で凛々しく立ちながら答えるタマモ。大人ぶりたい年頃なのかもしれない。実際の年齢はともかく、子供が大人ぶりたくなるのは理解できる。思わず撫でくり回したくなったが、タマモが大人っぽくしたいのなら、逆効果か? ちょっと……いや、かなり残念だが自制しておこう。


 それよりも心配なのはトゥルだ。大人しくてあまり感情を表に出さない少年なのに、凛々しいタマモを見ながら思いっきりデレデレしている。前からトゥルはタマモのことが大好きだって知ってたけど、更に重症化しているのは間違いない。


 モフモフを前にすると暴走するようになったらどうしよう? 確実に俺のせいだから、精霊術師として世間体が悪いぞ。


 トゥルのモフラー魂を抑制するか悩んでいると、タマモが褒めないの? 撫でてもいいよって顔で俺の前に飛んできた。大人ぶりたい年頃でも、撫でくり回すのはOKのようだ。


 許可が出たのなら自制は取っ払っていいだろう。思う存分タマモを褒め倒して撫でくり回す。相変わらず素晴らしい毛並みだな。今はモフモフを存分に楽しんで、トゥルに関してはノモスと相談しよう。


 たっぷりとタマモを褒めまくったあと、予想通りムーンが自分の番だと俺の頭の上に乗った。心なしかプルプルが速いから、たぶん早くって言ってるんだと思う。


 ムーンの場合は表情や鳴き声とかないから、考えを推測するのが難しい。ベル達がどうやってムーンの考えを読み取っているのか不思議でしょうがない。


 一度、どうやって意思疎通をしているのか質問してみたが、なんとなく分かるとの返事が返ってきて参考にならなかった。


 シルフィ達にも質問してみたが、シルフィ達でもベル達ほどハッキリと分からないらしい。テレパシー的な能力を疑ったが、それは否定された。ただ、同年代だと気持ちが通じやすいそうだ。


 契約したら気持ちが伝わるようになればよかったのにね。そうなれば精霊術師の地位が低下することもなく、冒険者ギルドと険悪になることもなかっただろう。


 あれ? でもそれだったら精霊と簡単にコミュニケーションが取れる俺の強みがなくなる。直接姿が見える人が居なくても、契約すれば意思疎通が簡単にできるなら、シルフィの俺に対する興味も薄かっただろう。そうなると大精霊との契約とか、かなり難しかった気がする。


 シルフィ達と契約できてなかったら、楽園も今みたいに発展してなかったし、気軽に迷宮都市と楽園を往復できなかった。下手したら死んでたりいまだに死の大地をさまよってたんじゃ……俺にとっては結果オーライだったようだ。


 ムーンとの意思疎通が簡単にできないことに文句を言うのはやめよう。ムーンとの円滑な意思疎通は、これからの生活の中で磨いていけばいい。ストンと気持ちにケリがついたので、前回作ったムーンがスッポリ納まる穴やトンネルを掘った木材を見る。


 表面上は作った時と変わりがないが、頭の上でプルプルしているムーンの雰囲気からして、なにも変化がないって可能性は低い。そうなると穴の中だよな。


 ムーンがスッポリ納まる竪穴の方は変化がないし、トンネル状になっている穴が怪しい。


「ムーン、穴の中を光球で照らしてもいい?」


 いいようだ。頭の上から穴の側に移動したムーンが、早くって感じで穴の横でプルプルしている。


「なにも変わってないように見えるけど……あれ? ……横穴が増えてる?」


 正解っと言いたげにムーンがポヨンと大きく跳ねた。正解だったらしい。そのあとムーンは一度穴に潜り、増えた横穴にすっぽりと納まったあとに、再び出てきた。どうやら使い方を見せてくれたらしい。


 狭いトンネルでのすれ違いスペースみたいだけど、さすがにそういう目的じゃないよね。トンネルの方にも、自分がスッポリ納まる穴がほしかったんだろう。


 俺に隠し穴を見せて満足したのか、のんびりプルプルしているムーンをプニプニしながら質問する。


「えーっと、木材の加工をムーンが自分でしたの?」


 命の精霊にそんな技があるのか? もしかしてスライム型だから、スライムの技で溶かしながら進んだとか?


 プルプルと横に揺れるムーン。どうやらムーンが自力で加工した訳じゃないらしい。


「じゃあ、タマモ?」


 再びの横揺れ、木材関連ならタマモかって思ったけど、どうやらタマモでもないらしい。ムーンがものすごくプルプルしているけど、さっぱり分からないぞ。


「それ、ぼくがあなをあけた……」


 困っていると、トゥルが小さなハンドオーガーに似た道具を見せながら教えてくれた。


「へー、ん? その道具は買った覚えがないけどどうしたの?」


「じぶんでつくった。ゆうたのどうぐおもしろい」


 なるほど、開拓ツールをみて、自分で作ってみたのか。木材用に工夫したのか、ハンドオーガーというよりもドリルっぽくなってるな。


「でもトゥル。トゥルが作った鉱石とかは時間が経つと元に戻っちゃうよね? 加工すれば大丈夫なの?」


「のもすにてつをもらってじぶんでつくった。てつならつくれる」


 そういえばトゥルに滑り台の加工も頼んだな。原料があれば問題ないんだし、トゥルなら結構色んなものが作れそうだ。


「トゥル、他にもなにか作った物はある?」


「ない。これだけ」


「そっか。じゃあ、作りたい物があったら俺に言ってくれ。素材は色々あるから遠慮しなくていいぞ。それに、開拓ツールの道具も色々あるから、見たくなったら言ってくれ」


「……ありがと」


 ポツンと呟くようにお礼を言われた。嬉しかったのか恥ずかしかったのか、ちょっと頬を赤らめている姿が、微笑ましい。


 そういえば、トゥルとこれだけ話したのって久しぶり……いや、もしかして初めてかもしれない。トゥルは無口な質だから、もっと俺の方からコミュニケーションをとろう。


 まだ午前中だけど、まだまだベル達について知らないことが沢山分かった。一緒に遊ぶのってとても大事だ。

読んでくださってありがとうございます。

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