三百五十五話 お部屋訪問
昨日は午前中にメルとメラルを案内して周り精霊をお見送り、午後には重力石を設置して、夜には酒島について会議をした。……よく考えないでも、なかなか忙しい日だったな。別に仕事に追われているわけでもないんだから、もう少しゆっくり行動しよう。あれ? 前にも同じことを考えた気がする。
「みんなおはよう。……えーっと、もしかしてずっと話し合ってたの?」
朝起きてベル達を装備しながらリビングにおりると、シルフィ達とルビー達が勢ぞろいしている。別のテーブルについているジーナ達は違うだろうけど、シルフィ達とルビー達は完徹っぽいな。
「ええ、精霊のためにお酒に特化した島を作るのよ。休んでいる暇はないわ」
お酒がなくても、お酒のことを話すだけで一晩中テンションが持つんだな。
「そうじゃ。建物にも拘らんといかんし、考えることはいっぱいあるんじゃ」
「おい、ノモスは建物に拘らなくていいんだからな。無理するなよ」
「ふふ、ノモスちゃん、デザイン苦手だものねー」
「まあ……デザインはシトリンに頼んだ方がいいかもしれないね」
シルフィとノモスの気合がハンパない。そしてノモスにイフとディーネがツッコミ、ヴィータが綺麗にまとめる。それをニコニコと見守るドリー……なんかいい感じだな。文化祭を思い出す。
「はは、気合が入ってるのはいいけど、ルビー達はお店の準備は大丈夫? 明日は精霊達が遊びにくるし、人数も増えるよ?」
「あ、そうだったんだぞ。煮込み料理の仕込みをするつもりだったのに、話し合いで徹夜しちゃったんだぞ!」
すっかり話し合いに夢中になってたのか、ルビーがあたふたしだす。煮込み料理はじっくり煮込んだ方が美味しいイメージがあるよな。
「間に合う?」
「ま、まだ明日のお昼まで時間はあるし、大丈夫なんだぞ! みんな準備するんだぞ! 手伝ってほしいんだぞ!」
バタバタとルビー達がリビングを飛び出していく。みんなが手伝うんなら間に合うよな。でも、忙しそうだし、ライトドラゴンとダークドラゴンの解体は無理そうだ。ちょっと予定が狂ったかも。
ノモスに財宝の鑑定をお願いして、ジーナ達の装備を整えるのも……熱心に酒島のことを話し合っているシルフィ達を見ると、今じゃない気がする。昨日、酒島のことを話したのは失敗だったな。もろもろを済ませてから話すべきだった。
「んーっと……とりあえず朝食にしようか。シルフィ達は朝食をどうする?」
「今日は遠慮しておくわ。裕太達で楽しんでちょうだい」
なんとなくそんな気がしてた。話し込んでいる大人たちは放っておいて、俺達は朝食にするか。
「お師匠様、今日はどうするんですか?」
サラに今日の予定を聞かれてしまった。色々と予定が狂ったからまだ考えてないんだよな。
「……そうだね。午前中は滑り台も使いたいだろうし、自由行動でいいよ。午後からはメルとメラルを含めて訓練だね。明日はアンデッドの巣に行ってもらうから、隊列や攻撃方法のすり合わせをやっておいてくれ」
是非ともメルには滑り台をすべってほしい。ジーナ達は早く滑り台に行きたいのか食事のペースがあがり、メルはちょっと食欲がなくなったようだ。昨日は、今日滑り台に挑戦するって言ってたのに、まだ覚悟が決まってないらしい。そういうところもメルっぽいな。
「師匠はなにをするんだ? 一緒に滑り台をすべるか?」
ジーナが子供のようにワクワクした表情で聞いてくる。隣に居るマルコと同じような表情なんだが、年頃の娘さんとしてそれでいいのか? ……まあ、それだけた嬉しそうな顔をしてくれると作った甲斐があったってことにしておこう。
ジーナやサラ、キッカに好きな人ができたりしたら、俺はどうしたらいいんだろうな? 相手の男を抹殺する可能性すらありうる気がする。……ジーナ達にはいつまでも子供でいてほしい。
「……最近忙しかったし、家でのんびりしながらベル達と遊ぶよ」
変な想像でテンションが下がったし、癒しがほしいです。
「あそぶー!」「キュキュ!」「なにする?」「クゥッ!」「もえるぜ!」「……!」
朝食の途中なのにベル達が集まってきてしまった。一緒に遊ぶってことでテンションが上がったようだ。そういえば一緒に居る時間は長いけど、しっかり一緒に遊ぶ機会は微妙に少ないもんな。
こうなったら俺も精いっぱい遊ぼう。でも、遊ぶのは朝食が終わってからだ。なにするーっと引っ付いてくるベル達を、撫でくり回しながら落ち着かせる。
「遊ぶのは食事が終わってからだよ」
落ち着いたベル達に注意すると、一斉に食事に戻っていった。普段よりもハイペースで食べ進めるベル達……今日はハードな1日になりそうな気がする。
「さて、なにして遊ぼうか? 滑り台に行く?」
朝食が終わり、ソワソワしているベル達に声をかけると、お団子になって相談しだした。とても可愛らしいので、このままこの光景を眺めながらのんびりしたいな。……ベル達が嬉しそうに飛んできた。もう相談が終わってしまったようだ。
「ゆーた、おへやいくー」
「お部屋?」
「そー。べるたちのおへやー」
子供部屋のことか。アクティブなベル達のことだから、外に遊びに行くと思ってた。少し予想外だな。
「分かった。じゃあお部屋に行こうか」
急かすベル達に連れられて2階に上がり、ベル達の部屋に案内される。そういえば、朝は基本的に部屋を出たらベル達が突撃してくるし、夜は自由に行動させているから子供部屋に入るのってベル達の家具を作って以来だ。家具を作ってからそれほど時間は経ってないが、使い心地を確認しておこう。
「はいるー」
ベルに促されて子供部屋のドアを開けると……ずいぶんカラフルなことになっているな。俺と離れている時に、エメの雑貨屋を利用しているのか?
「キュキュー」
予想外の光景にちょっと固まっていると、レインに背中を押された。早く中に入ってってことらしい。
「……なんだかすごく個性的なお部屋になったね」
部屋の中に入り、ぐるっと見渡して感想を言う。雑貨が用途に限らず好きな場所に飾られているので、違和感がある。でも、色彩感覚に優れているのか不快感はないな。不思議な空間だ。
「ゆうた! これ、これみて!」
フレアが俺を引っ張って、この前作ったフレア用の机に連れて行く。言葉がちょっと素に戻っているし、よっぽど見せたかったんだろう。
「……赤い小物が沢山だね。でも、火が灯せる道具で色に濃淡がついてて、綺麗にまとまってると思うよ。フレアは小物を配置するのが上手だね」
……ファイアードラゴンのウロコを渡したらどうなるかを、少し実験してみたい気がする。少し火事が心配だが、火の精霊ならそこら辺は大丈夫だろう。
「あたりまえだぜ!」
フレアが胸を張ってドヤ顔している。このちょいと小生意気な感じが意外と可愛い。
「そういえば、迷宮でみんなが選んだ財宝があったね。それを飾るところもみたいけど、まだノモスに鑑定してもらってないから今度でいい?」
「わすれてたぜ! うーん、かんていがおわったらすぐにくれるか?」
「うん、まあ、いまちょっとノモスが忙しそうだから、少し時間がかかりそうだけど、終わったらすぐに渡すよ」
「なら、まつんだぜ!」
待ってくれるらしい。自分の机を紹介して満足したのか、ポスンと自分の椅子に座りニコニコ笑っている。
「ゆーた、べるのつくえはこれー」
「ぼくのはこれ」
フレアに続いてベルとトゥルも自分の机を見せてくれる。ベルの机は……ゴチャっとしている。なんて言うか、自分の好きな物を沢山集めまくったって感じだな。部屋自体は綺麗に飾り付けられてるのに、なんで机の上は混沌としてるんだろう?
反面、トゥルの机は物が少ない。自分が大好きな物を厳選して並べている感じだ。鉱石や土器や金属製品が多いのが土の精霊っぽいな。
あれ? ……三つの机の並び……ベル、トゥル、フレア……土を黄色と考えると、緑、黄色、赤で信号機? ……一瞬、面白いことに気づいたってテンションが上がったけど、誰も信号機を知らないんだよな。こういう時は同郷の人に居てほしい。日本人、どっかにいないかな?
ベリル王国では日本人かどうか分からないけど、異世界人っぽい痕跡を感じたし、可能性はゼロではない。まあ、極めて小さな可能性っぽいから自分で探そうとは思わないけどな。
「ゆーた、どうー?」
おっと、ベルが机の感想を待っている。しかも、褒められることを微塵も疑っていない顔だ。……たぶん、普通の親が見たら少しはお片づけしなさいって言いたくなる机だ。
でも……当然そんなことを俺には言えない。ベルを褒めつつも、アドバイス的なことを混ぜて、少しでもマシな状態に導かないといけない。結構難しいぞ。
「うん……ベルの机の小物は可愛いものが沢山だね。全部ベルのお気に入りなの?」
「うん! べるのざいほう!」
財宝なんですか。たしかに迷宮でベル達が選んだものを渡したら財宝が混ざることにはなるが、今現在は緑色の雑貨の塊だ。でも、子供にとっては自分が気に入った物は、財宝と変わらない価値があるんだろう。
「そっか、財宝沢山でベルはすごいね。でも……沢山集めているから少し見辛いかな?」
ドキドキしながら、少し厳しいことを言う。
「みづらいー?」
「うん、せっかくの財宝なんだから、見やすい方が楽しいと思うな」
ベルがなるほどって顔でコクコク頷いている。顎に手を当てるポーズはどこで覚えてきたんだ? 少し疑問だが、なんとか机の上の混乱を緩和することができそうだ。俺、グッジョブ。
「どれがいいー?」
……難問を解決したと思ったら、更なる難問が飛んできた。俺がこの緑色の雑貨の塊から、いいものを選ぶのか? ベルの問いかけに適当に答えるのは嫌だ。かといってどれがいいのかなんて分からない。考えろ、考えるんだ俺。
「んー、やっぱりベルが自分で選ぶのがいいと思うな。そうだ、ベルの財宝をしまう宝箱をあげるね。それで、ベルの財宝を宝箱にしまって毎日入れ替えたらどう?」
「たからばこ!」「あたいもほしい!」「ぼくも!」「キュー」「ククー」「……」
入れ物として宝箱を渡すことを思いついたら、ベル達全員が食いついた。まあ、箪笥もないし、宝箱が並ぶ部屋もカッコいいだろう。ゴージャスな宝箱6個を魔法の鞄から取りだし、壁際に並べる。
すごくキラキラしてるな。価値の面ではどうかとも思うが、魔法の鞄に死蔵するくらいなら箪笥代わりに利用するのも構わないだろう。ジーナ達やフクちゃん達にもあとで渡しておくか。
「ククッ! クー?」
「タマモ、どうしたの?」
タマモがなにかを俺に訴えかけている。右手をタシタシと動かすさまがとても可愛い。
「タマモは木のたからばこがほしいっていってる。ぼくはぎんいろのがほしい……」
なるほど、宝箱にも好みがあるのか。森の精霊だからゴージャスな宝箱よりも木の宝箱の方が好きなんだろう。トゥルは渋めの物が好みみたいだし、金よりも銀って感じか。
「分かった。じゃあ交換するね。他に交換したい子はいる?」
居ないようだ。宝箱を入れ替え、さっそく宝箱に財宝を詰め込むベル達を見守る。たぶん、レイン、トゥル、タマモ、ムーンのお宝の感想も言わないと駄目なんだろうな。難問が飛び出さないことを祈りたい。
読んでくださってありがとうございます。




