三百五十二話 開幕
ディーネに重力石を丸洗いしてもらい、ノモスに頼んで調整しながら重力石を楽園に配置した。ジーナ達も驚かせることができたし、いい考えもうかんだ。重力石、いい仕事してます。
とりあえず雲の上の島を見学したあと、地上に戻ってきた。ジーナ達も雲の上の大きな島にテンションが上がっていたけど、景色以外に見る物がなにもないから結構早めに落ち着いていた。
あれだな、空に浮かぶ島とかロマンの塊だけど、島だけでは駄目ってことだな。空に浮かぶ島に魅惑的な施設が加わるから輝くんだと思う。まあ、まだ3つの島のなかで、1つしか利用方法が決まってないけど、空飛ぶ島にふさわしい施設がほしい。
「裕太、ある程度は言われた通りに設置したが、細かい部分は裕太の判断じゃ。調整はしてやるから、さっさと決めろ。それと、ローズガーデンに設置する重力石はどうするんじゃ?」
そういえば、ローズガーデンにも重力石を設置するように頼んでたな。
「えーっと、ローズガーデンを作ったのはジーナ達だから、ジーナ達に任せるよ。ノモスは彼女達を手伝ってやってくれ。俺はその間にこっちの微調整をしておく」
「うむ」
「ジーナ達は今言った通り、ノモスに協力してもらってローズガーデンに重力石を設置してくれ。俺のイメージでは、バラが咲き誇る庭を優雅に空中から眺めながらのお茶会ってのを考えてるけど、ジーナ達が他にやりたいことがあったらそれでも構わないよ。メルも協力してあげてね」
いきなりのことで驚いているジーナ達を、ローズガーデンお茶会計画に巻き込む。
なんとなくローズガーデンって少女漫画を思いうかべるよね。それでだいたいお茶会とかしているイメージがあるから、楽しいはずだ。
精霊樹の側でお茶会と、ローズガーデンでのお茶会……お茶会被りだけど、シチュエーションが違うから大丈夫ってことにしよう。ジーナ達は休日の予定だったのにごめんね。
「空飛ぶ島からローズガーデンを眺めながらのお茶会かー。すごくオシャレだけど私達にできるかな?」
ジーナがちょっと不安そうだ。ジーナは父親の影響でファッションとかに関わってこなかったから、オシャレな物に苦手意識があるよな。
「重力石は何度でも動かせるんだから、何度失敗してもいいんだ。それに、ローズガーデンはとてもきれいな場所だよね。それを作れたんだから、みんなで話し合って考えれば大丈夫だよ」
「……それもそうか。じゃあ挑戦してみるよ」
何度失敗してもいいってことで気が楽になったのか、サラ達に笑いかけながら請け負ってくれた。ローズガーデンの進化が楽しみだな。気合を入れてローズガーデンに走っていくジーナ達とフクちゃん達を見送る。
ん? ローズガーデンのお茶会場はジーナ達が手掛ける。そして精霊樹の側のお茶会場は俺が微調整をするってことは……あれ? 師匠の威厳的に頑張らないと不味い事態に……今更、やっぱり俺がやるって言い辛いし、精いっぱい頑張らないと。
実際には、とってもいい子達なジーナ達が、出来の良し悪しで俺の評価を判断する可能性は低い。でも、くだらない拘りではあるが、どうせなら師匠すごいって言われたいよね。
……いや、メルの俺に対する評価を落とすチャンスでもあるのか? でも、手を抜いてしまってメルだけでなくジーナ達からの評価が落ちるのは辛い。
メルの評価は単独で落とすとして、ここは全力で頑張ろう。……まずはドリーを召喚だな。精霊樹に関係しているんだから、心強い味方になってくれるはずだ。
「裕太さん、なにかありましたか?」
「うん、いきなりごめんね。実は……」
重力石のお茶会場についてドリーに相談する。心の中でジーナ達に対抗意識を燃やしていることは内緒だ。
「なるほど、精霊樹を身近に感じられる場所でのお茶会ですか。ふふ、それは精霊樹も喜びますね」
精霊樹が喜ぶか。そういえば幼いけど意思があるって言ってたもんな。いずれは依り代を作って遊びにくるって言ってたし、喜んでくれるのなら俺も嬉しい。
「そういうわけで、どんなふうに重力石を設置したら、精霊樹が喜んで見た目がカッコよくなって、優雅なお茶会ができる場所になるか一緒に考えてほしい。もちろんシルフィも一緒にね」
「えっ? 私も考えるの?」
「考えるの」
俺がドリーと話している間も、私は関係ないわよねって雰囲気でベルのぷにぷにホッペをつついているシルフィも巻き込む。
「べるもかんがえるー」「キューキュ!」「がんばる」「ククー」「ちょうかっこよくしてやるぜ!」「…………」
ありゃ、ベル達も一緒に考えてくれるらしい。普段なら大喜びで一緒に考えてもらうんだが、今回は師匠としてのプライド的なものもかかっている。
ベル達の天真爛漫な才能で、素晴らしいお茶会スポットが完成する可能性もあるんだが……子供特有のハチャメチャな、俺には理解できない、現代美術的なお茶会場が完成する可能性も否定できない。
ん? ベル達が全部考えてくれましたってことにすれば……さすがにそれは師匠以前に人として情けない気がするから止めておこう。
「ベル達は俺のお手伝いをしてほしいんだ。ここから指示を出すから、重力石を言ったように動かしてほしいんだけど、できる?」
「できるー」「キュー」「できる」「クー」「まかせな!」「……」
「ありがとう、よろしく頼むね」
少し罪悪感が湧いたので、ベル達に思いっきりお礼を言って、思いっきり撫でくり回す。キャイキャイと喜びながら頑張ると言ってくれるベル達……なんかごめんね。
「じゃあベル達は重力石の確認をお願いね」
「わかったー」っと重力石を確認しに飛んでいくベル達。
「裕太……」
俺の思惑を理解しているのか、シルフィが微妙な表情で俺を見る。あはは、表面上はほとんど表情が変わってないのに、シルフィの気持ちが完璧に理解できるようになったな。でも、今は理解したくなかった。
「さて、どんな風に重力石を配置しようか」
そして、最近シルフィの視線をスルーするのにも慣れた気がする。あまり好ましくない方向には成長を実感できるのが悲しい。
あっ、シルフィとドリーにアイデアを出してもらうから、ノモスに調整してもらった重力石の高さを変更しないと駄目だな。そこら辺も調整しながら計画するか。
***
「トゥル、タマモの重力石はもう少し右側に移動させてくれ」
「うごかす」「クー!」
「ベル、レインの重力石はもう少し足場と近づけて……あっ、ちょっと近づけすぎた」
「もどすー」「キュー」
「フレア、違うよ! いまムーンが押してる重力石を動かして!」
「やれやれだぜ!」「…………」
「ふー、細かい指示って結構難しい」
思いついたアイデアを実現するために、スパスパ木材を加工しながらだから更に大変だ。
「裕太。素直にベル達と一緒に考えた方が楽だったんじゃないの?」
「そうだったかもしれない」
ベル達は俺のお願いに、とっても張り切ってお手伝いしてくれる。でも、少し暴走気味だから予想以上に大変だったりする。
まあ、2人1組で一生懸命重力石を動かすベル達がとっても可愛いから、プラマイゼロ、いや、若干プラスなはずだ。
「あっ、ドリー、この木材をくっつけてくれる?」
「分かりました」
パパっと設置して簡単に済ませるつもりだったけど、負けられないって考えると色々と手を加えてしまうな。
「トゥル、この木材をメッキしてくれ。アダマンタイトでできる?」
「……できる」
最初に思ってたお茶会場と違う方向に突っ走ってるから、これで大丈夫か不安になってきた。
「よーし、最後にその小島の重力石をみんなで移動させたらおしまいだ。重力石と重力石の間に入れるから、等間隔になるように気を付けてね!」
「とうかんかくー」「キュー」「しんちょうに」「ククー」「らくしょうだぜ!」「……」
ベル達が慎重に足場と足場の間に小島の重力石を押し込んでいく。俺はシルフィに浮かせてもらいながら、位置の確認だ。
「よし、そこでストップ! 完成だ!」
「かんせー」「キューー」「うまくいった」「クーー」「もえるぜ!」「…………」
完成を喜び集まってくるベル達を褒めまくり、撫でまくり、もう一発褒めまくる。完成と言ってもノモスに重力石を固定してもらわないと駄目なんだけど、みんなで喜ぶタイミングは今が一番だから、臨機応変に今が完成ってことにしておこう。
「よし、じゃあこっちは完成したし、ジーナ達の様子を見にいこうか」
ローズガーデン内に小島のお茶会場と、そこに渡る足場の重力石を設置するだけなので、アイデアに悩むにしても、ある程度形になってるはずだ。シルフィにお願いして、ベル達とドリーと共にローズガーデンに向かう。
「サラ、どんな感じ?」
ローズガーデンに到着し、フクちゃんプルちゃんと一緒に、重力石を不思議そうに触っているサラに声をかける。サラのこういう姿をみると、なんか微笑ましい気持ちになるな。
「あっ、お師匠様。だいたいの位置は決まったので、ノモスさんに位置を固定してもらっています。もうすぐ完成ですね」
「そっか、俺の方もノモスの固定以外は完成したよ。どんな考えでこういう配置にしたのか聞いていい?」
ざっと見た感じ、奇をてらった感じではなく、シンプルに重力石を並べたように見える。
「ジーナお姉さんとメルさん、ディーネお姉ちゃんが主体ですので、説明は3人にしてもらった方がいいと思います。みんなを呼んできましょうか?」
……ディーネ? そういえば普段なら面白そうなことをしていると、どこからともなく現れるディーネが居なかったな。ジーナ達の方を手伝ってたらしい。ディーネは天然だけど、恋愛ごとにも興味を持ってるし、結構強敵かもしれない。思わぬ伏兵が現れてしまった。
「……そうだね。悪いけど呼んできてくれる?」
「はい、行ってきます」
サラがみんなを呼びに走っていく。説明を聞くのがちょっと怖い。よく観察したら、小島の重力石には改造を施されているみたいなんだよな。なんとなく……いや、確実に一回り大きくなっている。
俺も重力石を楽しめるように配置したつもりだけど、ジーナ達は重力石本体に手を加えたようだ。俺は重力石に精密機械のようなイメージを抱いていたから、重力石自体の改造はまったく思いつかなかった。
でも、実際には精密機械じゃなくて、ノモスなら調整できるファンタジーな鉱石。先入観で頭が固くなってたな。もしかして負けちゃうかも?
……いや、一応俺も外付けだけどドリーの力を借りて改造っぽいことしてるし、まだ負けと決まったわけじゃない……はず。
結構ピンチかもしれないとビビっていると、サラがジーナ達を集めて戻ってきた。
「裕太ちゃん。お姉ちゃん頑張ったのよー」
「ああ、みんなを手伝ってくれたんだってな。ありがとう」
「どういたしましてー。とっても楽しくなってるから、期待しててねー」
「師匠、おれ、すごいことおもいついたんだ。みんな、びっくりしてた!」
ディーネが自信満々に、マルコは得意げに報告してくる。
「重力石が改造してあるのがマルコのアイデアだったりする?」
「うん!」
「ふふ、そうか、マルコがどんなアイデアを出したのか楽しみにしているよ。俺を驚かせてくれ」
余裕ぶってカッコつけてみた。勝手に弟子達に負けないって決意して、内心でビビりまくる俺のひとり相撲……開幕だ。
読んでくださってありがとうございます。