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三百四十八話 ジュエルボックス

 大宴会の中でアルバードさんから2つの頼みを聞いた。精霊王様達が遊びにくることと、村に遊びにくる精霊達の人数制限のアップだ。まだどこまで広がるか分からないけど、これからまた楽園が賑やかになりそうだな。


 アルバードさん、ドリー、ヴィータと話したあとで、再びシルフィと一緒に宴会場を見て回る。エールが結構強いからすでにいい気分になってきた。俺は全部を回り切れるんだろうか?


「俺達が作ったエール、美味いだろ。もっと飲んでいいぞ!」


「ほら、裕太に集まって飲ませようとしないの。裕太は人間なんだから属性に溶けて酔いを醒ますなんてできないの。散りなさい。もしくは私が飲むわ」


 とりあえず分かっているのは、精霊からエールを奪い取って一気飲みしているシルフィが居なければすでに撃沈していたってことだ。あと、シルフィがついてきた理由って俺に勧められるエールを片っ端から飲むためじゃないよね? 俺を心配してくれてるんだよね?


 まあ撃沈してもムーンかヴィータに頼めば復活できるが、そこまでしてお酒を飲むのはさすがに駄目だよな。古代ローマで貴族が吐いて食べてを繰り返したのに通じる駄目さだ。


 くだらないことを考えながらフラフラ宴会場を歩いていると、メルとメラル、ジーナを発見した。最初は飲酒不可の場所に居たはずなんだけど、こっちに移ってきてたのか。楽しそうに飲んでるし、お酒が入って少しはリラックスできたみたいだ。


 けど小さい女の子と少年がエールをグビグビ飲んでいる姿は、倫理的に困惑する。まあメルとメラルからしたら成人しているのに困惑されても困るよな。難しい問題だ。


「メル、メラル、せっかく来たのにほったらかしにしてごめんね。大丈夫?」


「お師匠様、大丈夫です。メラル様と向かい合ってお酒が飲めるなんて、私、幸せです」


「大丈夫だぞ! 俺もメルと飲めて幸せだ!」


 なんかイチャイチャしてる? 元から仲がいいけど、実際に会ってから更に仲がよくなったようだ。


「幸せならよかったよ。ジーナもメル達に付き合ってくれてありがとうね」


「あはは、あたしも精霊以外で一緒に飲む相手が増えて助かってるよ。シルフィ達と一緒に飲むとペースがめちゃくちゃになるんだ」


 嬉しそうにジーナが言う。たしかにシルフィ達はガンガン飲むから一緒に飲むと大変だろう。ジーナは基本的に1人飲みだけど、偶にシルフィ達の宴会に交ざると次の日は青い顔をしてることが多い。


 うーん、1人飲みか激しい飲み会の2択しかないのは辛いよな。俺もジーナとゆっくり飲む時間を作ろうかな。一緒に飲んでジーナの愚痴くらい付き合おう。


 チラっとシルフィをみるが、我関せずの雰囲気でジョッキを空にしている。聞こえなかったことにするようだ。


「俺とシルフィも少し一緒に飲んでいい?」


 ちょっとお邪魔な気もするが、俺もホスト役だから少しは話しておかないとな。


「もちろんです。お師匠様、シルフィさん、ご一緒してください」


「一緒に飲むぞ!」


 メルの飲むペースが異常に速い。会話の合間に素早くサクッとジョッキが空になるのがマジックみたいだ。メルもドワーフだからお酒が好きなのかな? ドワーフはお酒好きってイメージはあるけど、女性のドワーフもお酒好きなんだろうか?


「向かい合って飲むって言ってたけど、普段からメルとメラルでお酒を飲んでるの?」


「はい。メラル様とはいつも一緒にご飯を食べて、夜は毎日一緒に飲んでるんです」


「そうだぞ。メルのご飯は美味しくてお酒にも合うんだ!」


 見えなくても一緒にご飯を食べるのがいいって教えたけど、毎日お酒を飲んでるんだな。女性のドワーフがすべてお酒好きかは分からないが、メルがかなりのお酒好きなのは間違いないようだ。ジーナはたぶん明日も二日酔いだな。


「メルの手料理は食べたことがないな。今度ご馳走してくれ」


「いえ、無理です。トルクさんの料理やジーナさん達と一緒に潜った迷宮でのご飯で疑ってましたが、この宴会で確信しました。お師匠様達が普段食べている料理が美味しすぎて、私の手料理なんて食べさせられません!」


 気弱なはずのメルに、ものすごくキッパリと断られてしまった。あと、メルの料理を絶賛していたメラルも地味にショックを受けている。


「メ、メル、メルが作った料理は最高に美味しいぞ!」


 おお、くじけずにメラルがメルの料理を褒める。さすが契約精霊、愛があるな。


「いえ、自分でも分かってるんです。お師匠様、トルクさんにレシピを教えたのもお師匠様なんですよね。私に料理を教えてくれませんか? メラル様に美味しい料理を食べてもらいたいんです!」


 なんでそうなる。弟子入りした女の子はほぼすべて料理に興味持ってるよね。キッカもサラのお手伝いをして、料理に興味を持ってるし……なんか納得がいかない。とは言え、メルの話を聞いたメラルがめちゃくちゃ感動しているし、断り辛い。


「あー、メル。俺は料理のレシピをなんとなく知ってるだけなんだ。料理に興味があるならジーナに聞くといい。でも、レシピはトルクさんが改良した物もあるから、他の人に教えずに自分の家で作るだけって約束できる?」


「はい、約束できます。あっ、メラル様だけじゃなくて、ユニスちゃんにも食べてほしいんですけど、駄目ですか?」


「商売するんじゃなければ構わないよ」


 ユニスが俺のせいでメルの手料理が食べられないって知ったら、修羅に落ちそうな気がするから、是非とも食べさせてあげてほしい。


「ありがとうございます。ジーナさんよろしくお願いします」


「うん、あたしも修行中だから頼りないかもしれないけど、一緒に料理しよう」


 メルとジーナが熱い握手を交わす。これぞ青春ってやつなのかな。とても眩しい。


「そういえばメル。短時間で分からないかもしれないけど、なにか不便はない?」


「今のところなにも不便はありません。メラル様にも会えましたし、可愛らしい精霊さんも沢山いてとても楽しいです」


「そう、それならよかった」


 ちびっ子達、可愛いもんね。もちろんベル達やフクちゃん達も最高に可愛いけど、自分が契約していないタイプの浮遊精霊とか、庇護欲をかきたてられてしょうがない。人間の赤ん坊もそうだけど、動物の赤ん坊って卑怯なくらいに可愛い。


 うん、この可愛さが分かるのなら、楽園でも楽しく過ごせるだろう。2泊3日でちびっ子達が遊びにきて、そこら中を飛び回ってるからな。メルとメラルの話や、料理や精霊樹の話をしたあとに再び宴会の見回りに戻る。そろそろちびっ子達の方も行ってみるか。


 それにしても、話しながらオークの熟成肉を食べたんだけど、こういう雰囲気だと気が散ってじっくり味わえなかったな。脂身の少ない部分が熟成には適してるのか? 肉の香りと味が強くなったのは間違いないし、美味しいのは美味しかった。次は酔わずに落ち着いて食べられる時に、じっくりと味を比べてみよう。


「裕太、そっちに行くなら護衛は必要ないわね。私はここでワインを飲んでるから、こっちに戻る時には声をかけなさい」


「う、うん、了解。ありがとう」


 シルフィって清々しいほどに自分の欲求を隠さないな。さすが風の大精霊だ。まあ、護衛してくれてたんだ。感謝しないとな。


 飲酒可のスペースを抜けて、飲酒不可のスペースに入る。ちびっ子達は……もう料理を食べ終えてデザートコーナーに群がってるな。今日は食べ放題ってことになってるから、ひたすら詰め込んでるんだろう。


「あっ、ゆーたきたー」「きゅー」


 おデザートコーナーに近づくと、ベルとレインがこっちに気づいてふよふよと飛んできた。ベル、なんで両手にクレープを握りしめてるの? 食べ放題だからって2個食い? レインは口をモムモムさせてるから食べ終わったばかりのようだ。


「ベル、レイン、沢山デザート食べてる?」


「たべてるー」「キュー」


 2人とも満面の笑みで元気に返事をしてくれる。ベル、ドヤ顔で両手のクレープを見せなくても大丈夫だよ。


「ベル、2個いっぺんに食べてるの?」


「そー。こっちがりんごー。こっちがたくさんー」


 興奮して教えてくれるベル。どうやらクレープを2個持っているシチュエーションがたまらなく嬉しいらしい。俺もカップ麺を2個食いした時はテンションが上がったから、気持ちはよく分かる。


 ベルの持つちいさな歯形がついたクレープからは、生クリームとカスタードクリーム、ジャムが覗いている。ダブルクリームにリンゴジャムか、贅沢で美味しそうだ。もう1個は沢山のフルーツが入っているな。こっちもなかなか美味しそうだ。


「俺も1個食べようかな。ベルとレインのお勧めのクレープはどれ?」


 ……気軽に質問すると、思いのほか難問だったようで、ベルとレインがうんうんと悩みだしてしまった。


「これおいしー」「キュー?」


「ん、こっちもおいしー」「キュッ!」


 すごく悩んでいる2人に、そこまで拘りがないから適当でいいよとは言えない。


「ゆーた、たくさんのー! これがいちばんー」「キュキュー」


 5分ほど悩んだあとにベルが手に持っている、ミックスフルーツのカスタードが一番だと結論が出た。2人にとって結構な難問だったのか、結論が出て晴れやかな顔をしている。


「そっか、じゃあそれにしよう」


 ベルのお勧めに従いデザートコーナーでちびっ子達の後ろに並ぶ。あれ? なんかルビーがちびっ子達の注文を受けてクレープを作ってる。


 今までは手巻き寿司方式だったんだけど、目の前で生地を焼いて注文の具材を巻くように変更したらしい。ちびっ子達も沢山の種類の果物やジャムを楽しそうに選んでいる。


「裕太の兄貴、いらっしゃいだぞ!」


「えーっと、ミックスフルーツのカスタードでお願い。目の前でクレープを作るようにしたんだね」


「ミックスフルーツのカスタード、任せるんだぞ! 前に目の前で料理を作ってくれる店があるって裕太の兄貴が教えてくれたから挑戦してみたんだぞ。お肉は人数が多くて大変だから、デザートでお試しなんだぞ!」


 なるほど、前にステーキハウスの話をしたことがあったな。それをクレープに応用した訳か。結果的に町のクレープ屋さんみたいになってるのがすごい。


「子供達も喜んでるし、いい方法だね」


「うん、みんな一生懸命組み合わせを考えて楽しそうだし、あったかい生地も美味しいんだぞ!」


 ルビーも手ごたえを感じているらしい。普段ならアイスやプリンの方が人気があるんだけど、このスタイルで人気が逆転するかもな。ライト様も世間体を気にしながらも楽しみそうだし、精霊王様達が来たらルビーにこのスタイルでやってもらうのもいいかもな。


「完成なんだぞ!」


 目の前で器用に焼いたクレープ生地に、カスタードとミックスフルーツを持って綺麗に巻き上げるルビー。なかなか楽しいな。


「ありがとう」


 クレープを受け取り、さっそく食べようとすると注目されていることに気がつく。あれ? なんでこんなに見られてるの?


 ……どうやらベルが一番美味しいのを勧めたって自慢したようだ。それで、なぜか他の子達まで俺がクレープにどんなリアクションを取るのか注目しているらしい。


 ベルとレインだけじゃなくトゥル達やフクちゃん達、遊びにきているちびっ子達に見られながら考える。この場合はグルメレポーターばりのリアクションが必要なんだろうか?


「…………まるで! 果物のジュエルボックスやーー!」


 一口食べて日本の有名グルメレポーターのパク……オマージュを全力でやってみた。なんかものすごく受けたから、恥ずかしかったけど満足だ。

読んでくださってありがとうございます。

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