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三百四十六話 大宴会

 メルとメラルを連れて楽園に戻ってきた。メルとメラルの感動の対面もつつがなくとはいえないまでも無事に済み、あとはゆっくり楽園で仲を深めてほしいところだ。


 メルとメラルの対面も済んだので家の前に移動すると、ディーネがノモス達やルビー達に今夜は大宴会だと報告して騒いでいる。みんな出迎えに家の前に集まってくれてたみたいだ。勝手に宴会に大ってつけていることは気にしない方向で行こう。


「みんな、俺の弟子のメルとその契約精霊のメラルだ。よろしく頼む。メル、メラル、こっちは俺の契約精霊達だ。あっ、こっちの上級精霊達は契約精霊じゃなくて精霊の村のお店の協力者だな」


 ルビー達以外は絵で見て知ってるとは思うけど、一応初めて対面するんだし紹介しておかないとな。


「あっ、はい、メメ、メルです。よ、よろしくおねがいします」


 メルが完全に戸惑っている。ただでさえ人見知りなのにシルフィ達にベル達、フクちゃん達、ルビー達が集まってるもんな。他に遊びにきている浮遊精霊や下級精霊も居るし……結構なプレッシャーだろう。おっ、メラルがメルの前に出た。


「俺はメラルだ。よろしく頼む」


 おお、メルの代わりに視線を一気に集めるその姿、ディーネに怯えていた情けないイメージを払拭できてるぞ。メラルが仲介して、メルとシルフィ達、ルビー達との挨拶が終わる。


「メルー」「キュー」「こんにちわ」「ククー」「フレアだぜ!」「……」


 大人組の挨拶が終わると、ベル達とフクちゃん達がメルに群がってご挨拶をしだした。ちびっ子軍団相手だと、メルもそこまで緊張しないのか、話せない子達の頬ずりにくすぐったそうに返事をしている。なかなか微笑ましい光景だ。


「とりあえず簡単な自己紹介は終わったな。あとは宴会で気軽に話してくれ。それで、メル、メラル、ここが俺の家だ。1部屋しか空き部屋がないんだけど、メルとメラルは一緒の部屋でいい?」


 普段から一緒に住んでるんだし問題ないって思うけど、実体化したメラルをメルがどう見ているかだな。まあメラルは精霊だし、駄目だったら火に溶けてもらえばいい。


「あっ、はい。大丈夫です。メラル様とはいつも一緒ですから」


 メラル相手だと実体化しても人見知りは発動しないようだ。さすがに抱きしめられた時は顔が真っ赤になってたけど……。あと、メラルは様を付ける必要がないって説得していたけど、説得には失敗したらしい。


「分かった。じゃあとりあえず今日はもう遅いから楽園の案内は明日にするよ。マルコとキッカはメルとメラルを家の中に案内してあげてくれ」


 キッカもメルと遊びたくてウズウズしてたから、少しくらいはメルと遊ばせてやらないとな。メルの荷物はあとで部屋に運べばいいだろう。


「うん、キッカあんないする! メルちゃん、メラルさま、こっち!」


 キッカがメルの手を掴み、マルコとメラルと一緒に家の中に走っていく。楽しそうだと思ったのかベル達やフクちゃん達も付いて行ったので、急に静かになっ「裕太の兄貴! 新しい食材は手に入った?」てないな。ルビー達が期待した目で俺を見ている。


「ああ、うん、グリーンドラゴンの肉は手に入ったな。他にもいくつか野菜とか買ってきたよ」


 あとは解体してないけどライトドラゴンとダークドラゴンもあるよ。今から解体が始まったら宴会に影響が出そうだから言うのは宴会が終わってからにしよう。


「おお、グリーンドラゴンは初めてだぞ! 裕太の兄貴! 分けてほしいんだぞ!」


「とりあえず解体した肉をだすから、今日の宴会に出してくれ。間に合うか?」


「うーん、時間がかかる料理は難しいけど、ステーキや揚げ物なんかは大丈夫だぞ。あっ、それと熟成肉がいい感じに仕上がったけどそれも料理するか?」


 熟成肉……完全に忘れてたな。でも、思い出したら急に食べたくなってきた。


「是非とも頼む。どうせなら普通のお肉と食べ比べがしたいから、シンプルに焼いたのを2種類用意してほしい」


 グリーンドラゴンのお肉を出しながら熟成肉の料理も頼む。


「食べ比べ! それも楽しそうなんだぞ! さっそく料理してくるんだぞ!」


 グリーンドラゴンのお肉を抱えて厨房に飛んでいくルビー。やる気満々だし今夜の宴会は面白いことになりそうだ。


「新しい雑貨も手に入った?」


「宿のベッドが新しくなるんですよね? それと紙芝居用の絵の具や道具も手に入りましたか?」


「銅貨もふえる?」


「ふふ、裕太の兄貴、お酒は沢山手に入った?」


 ルビーの手伝いに行かないサフィ達に疑問があったけど、この子達にも目的があったらしい。


「えーっと、一応全部手に入ったよ。とりあえず今日はあんまり時間がないから明日でいいかな?」


「分かった。じゃあ明日お願いね! じゃあ私達もお店に戻るね」


 そう言ってサフィー達もお店に戻っていった。……お店やってたんだ。そういえば精霊達が遊びにきているんだから当然お店もやってるよな。お店を抜けて出迎えにきてくれたってことなんだけど、喜ぶべきか注意するべきか微妙な感じだ。


「裕太ちゃん、この子達も宴会に参加してみたいってー。お金も払うらしいわー」


「ん?」


 微妙な問題に頭を悩ませていると、ディーネがのほほんとやってきた。この子達? 


「う!」


 ディーネの方を向くと、水色髪の可愛らしい赤ん坊がちっちゃな右手を上げてご挨拶している。この子達って、そこに浮いている赤ん坊の浮遊精霊と、その周りを飛んでいるバラエティ豊かな精霊達のことかな? えっ? 子供達が宴会?


「えーっと、お金はともかくとして、たしか小さい子達はお酒を飲んだら力を暴走させる可能性もあるってノモスが言ってたし、お酒が出る宴会に子供達はまだ早いんじゃないかな?」


 とくに楽園だと実体化しているから危険度が増すよな。参加を断ろうとすると、ちびっ子達のウルウルした視線が俺を責め立てる。ベル達よりも更に小さい子が多いから、罪悪感がハンパない。


「んー、この子達は宴会の雰囲気が味わいたいだけだから、お酒は飲まないわー。お酒は大人のテーブルにだけ置けば問題ないわよー」


 それはそうかもしれないけど、できるだけちびっ子達にガンガンお酒を飲む大人の姿を見せたくないんだよな。とくにこの子達を参加させると、ベル達やフクちゃん達、それにジーナ達も参加したがるだろうし……。


「裕太ちゃんが悩んでるわー。みんな、宴会に参加したいなら一生懸命にお願いするのよー」


「えっ?」


 ディーネの声に反応したちびっ子達が群がってくる。舌足らずなお願いや鳴き声、偶に中級精霊らしき子達からのお願いも聞こえるな。


 その背後でいつの間にか現れた大人組が、私達は飲めるのよねっとか言ってるな。あれは付き添いの大精霊と上級精霊なんだろう。自分達も宴会に参加したいからかまったく止めに入ってこない。


「えーっと、あー、分かった。宴会に参加してもいいよ。でも、お酒を飲む側と飲まない側はしっかり分けるからね。あと人数が増えると家のリビングじゃ狭いから、外での宴会になるよ」


 話を聞いていた精霊達が大喜びする。俺は弱いな。美人のお姉さんに囲まれても、鼻の下を伸ばして快諾してしまうけど、ちびっ子達のお願いにもあらがえない。


「そういうことになったから、悪いけどジーナとサラは宴会の準備を手伝ってくれる?」


「分かった。えーっと、外での宴会の準備を手伝えばいいんだよな。大丈夫だ」


「分かりました。頑張ります。お手伝いします」


「おっし、大宴会だ! ノモス、醸造所でも飲める酒ができてるだろ。持ってこようぜ」


 イフがなぜか張り切りだした。


「そうじゃな。エールならある程度数もそろっておる。ちょうどいい機会じゃから飲むか。裕太、醸造所の奴らも連れてくるからな」


「えっ? なんでそうなるの?」


 あっ、行っちゃった。えーっと、醸造所の精霊達も宴会に参加するってことでいいのか? えっ? そうなると何人集まるんだ? メルとメラルの歓迎会のはずなのに、なんか大事になってる。


「……シルフィ」


「なんかやる気になっちゃってるし、止まらないわね」


 よく分からんが止まらないのならどうしようもないな。醸造所の精霊達とはほとんど絡んでないし、これもいい機会だと考えよう。


「シルフィ、ルビーに食材はあとで補充するから大量に料理を作るように伝えてくれ」


 どうせやるなら、しょぼい宴会よりも派手な宴会の方が楽しいよな。久しぶりに大騒ぎするか。


 ***


 大宴会ってことで他の精霊達も協力してくれた。森の精霊や土の精霊がテーブルや椅子を作り、各スペースに光球を浮かせて料理を並べる。そこにノモス、イフが率いる醸造所の精霊達が大量の酒樽を持って参戦。


 普段ほとんど接点がない醸造所の精霊達が加わってもスムーズに進められる宴会の準備。あれよあれよという間に準備がととのった。精霊って宴会になると120パーセントの力を発揮する気がする。


「では、メルとメラルの歓迎会を兼ねた宴会を開催します。マルコ、キッカ、下級精霊と浮遊精霊のちびっ子達は、飲酒は駄目ですので宴会場の飲酒スペースには近づかないようにしてください。では乾杯!」


 俺の乾杯の音頭に合わせて至る所で乾杯の声があがる。全員で90人近い人数だから結構迫力があるな。まあ半分以上はちびっ子なんだけどね。中級精霊は悩んだが、飲んでも暴走することはないらしいので飲酒可能になった。


 外で沢山の人数が集まっての宴会。光球が沢山浮かんでいるので花見や縁日の雰囲気だな。歓楽街とは違って光球が怪しい色に変わってないから、なんだか健康的な雰囲気だ。


「裕太、お酒も飲まずにボーっとしてどうしたの?」


「あっ、シルフィ。なんかこの光景を見てると感慨深くなったんだ。井戸を掘るまでなにもなかったこの場所で、これだけ大きな宴会が開けるって結構すごいことだよね」


「そう言われればたしかにすごいことね。死の大地で宴会なんて普通の人間では思いつかないわ」


 ……なんでだろう、褒められてるように聞こえない。あと、俺は軽い飲み会くらいの規模を想定してたのに、これだけ大きな宴会になったのは精霊側に原因があると思う。


「それって褒めてる?」 


「褒めてるわ。ふふ、変な顔をしてないの。せっかくの宴会なんだから楽しむのよ」


 せっかくの宴会か……そうだな、せっかくの宴会なんだしムーンが居れば二日酔いも怖くない。羽目を外して楽しむことにしよう。

読んでくださってありがとうございます。

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