三百四十話 相談
迷宮から出てマリーさんの雑貨屋に向かった。雑貨屋に入る時にシルフィに頼んで、ソニアさんの悪戯を完璧に潰したのはちょっと気持ちよかった。そのあとに嫌味を言われてしまったけど……。
「ゆ……裕太さん、お待たせ致しました。なんでもとても大切なお話があるとのことですが、その、どのようなお話ですか? いえ、心の準備はできていますので、大丈夫です。一緒にポルリウス商会を大陸一の大商会に致しましょう」
マリーさんが応接室に入ってきたとたんに顔を赤らめて、訳の分からないことを言う。別に大切な話とか言った覚えはないんだが?
「裕太。ソニアがマリーに誤解しやすいように裕太のことを話していたわよ。嘘はついてなかったけど、覚悟を決めたような男性の顔をしているように見えましたとか、マリーお嬢様の名前を言った時の裕太様の笑顔は輝いているように見えましたとか色々」
見えましたってつければウソじゃないってのはどうなんだ? それ以前にそんな単純な誘導に引っかかるのもどうなんだ? あとシルフィ、俺は別にソニアさんの会話を盗聴してって言ってないよ?
「部屋を出ていく時にソニアが悪い顔をしていたから、ちょっと気になって聞いてみたのよ。くだらない内容だけど、案の定たくらんでいたわね」
なるほど、ソニアさんが悪い顔をしていたのか。チラっとマリーさんの背後に立つソニアさんを見ると、満足気な顔でたたずんでいる。被害者は俺じゃなくてマリーさんだし、これくらいの悪戯なら問題ないか。
「ええ、大切な話です。卸す素材が素材ですから、やり方によってはポルリウス商会が。大陸一の大商会になる足がかりくらいは掴めるかもしれません」
「へっ?」
マリーさんがキョトンとした顔になり、ソニアさんの方を振り向く。俺からは見えないが、たぶん顔で聞いてた話と違うって訴えてるんだろうな。俺がソニアさんの悪戯を阻止してドヤ顔をぶちかました結果、マリーさんがストレス解消に使われたんだろう。自分の上司をストレス解消に使うアグレッシブさが素敵だ。
「……コホン、それで、卸して頂ける素材というのはなんなのでしょうか?」
ソニアさんの面の皮の厚さにあきらめたのか、マリーさんが話を戻して質問してきた。そこはかとなく哀愁を帯びた表情が魅力的だ。
「そうですね、魔力草、万能草、神力草も採取してきましたが、今回のメインは大量の鳥系の魔物と、グリーンドラゴン、ワイバーンですね。グリーンドラゴンのお肉はある程度の量が明日の昼までにほしいです。それで、できればトルクさんのところに届けて頂けたら助かりますね」
時間がないので属性竜の解体はルビー達に頼むとして、数があるグリーンドラゴンはある程度のお肉以外は全部卸してしまっても構わないだろう。
ポイズンドラゴンは……危険っぽいから収納しておこう。マリーさんなら大丈夫な気もするが、欲望にまみれた時の表情を思い出すと絶対とは言い切れないからな。
「グリーンドラゴン! 91層からはグリーンドラゴンが出るんですね!」
やっぱり新しい層に挑戦したことは分かるよな。
「グリーンドラゴンが出るのは98層からですね」
「98層から……もしかして、100層に到達したりしました? ボスはどうだったんですか?」
およ? なんか思ってた反応と違う。グリーンドラゴンって聞いて、欲望にまみれた表情になると思ってたのに、キラキラとした瞳で質問してくる。背後のソニアさんも同じような表情……まるで純真無垢な少女のようだ。なんか気持ち悪い。
「マリーさん、そんなに純粋な瞳をしてどうしたんですか? グリーンドラゴンですよ? しかも今回は2匹卸しちゃいます。普段のように欲望にまみれた、マリーさんに戻ってください。お医者さんを呼びますか?」
「……裕太さんが私のことをどのように見ているのか、とてもよく分かりました。その間違った印象はあとで訂正させていただきますが、今は100層について教えてください。迷宮都市の人間にとって91層からももちろんですが、100層は夢なんです。知りたくてたまらない憧れなんです!」
マリーさんが情熱的に叫ぶ! そういえば英雄が87層であきらめたから、ずっと謎だったんだよな。地元の人間としては、欲望も抑えられるほど知りたい情報なのかもしれない。
マリーさんにはコアにあげる素材のことで頼みがあるし、全部話すつもりではあるけど、101層のコアのことが世間にバレたら、鬱陶しくなりそうなので秘密にするように約束してもらおう。ソニアさんには部屋を出てもらうか?
……マリーさん1人で情報を抱え込むのも大変だろうし、ソニアさんは味方にしておいた方が、廃棄予定の素材の確保もスムーズにいくだろう。この際だからついでに魔法の鞄についてもある程度情報を渡すか。利益的には絶対俺を裏切れない相手に、魔法の鞄の性能を隠して苦労するのもバカげている。
「マリーさん、ソニアさん、秘密を守って協力してほしいことがあるんです。もし秘密が漏れたら俺はマリーさん達との関係を断ちます。ですが秘密を守り協力して頂けるのであれば、十分な利益をお約束します。どうでしょう?」
迷宮で乱獲はし辛くなったが、魔法の鞄の中には洒落にならないほどの魔物と財宝が眠っている。これだけでも十分にマリーさんに利益はでるだろう。
「それは100層に関係することですか?」
「100層の次の話ですね」
「次ですか……犯罪にかかわることですか? 商人として法のギリギリを攻めることはありますが、ポルリウス商会としては犯罪には関わらない方針です。甘いとおっしゃられるかもしれませんが、もし、犯罪が関わっているのであれば協力することはできません」
きっぱりとマリーさんが言う。大きな商会なら犯罪組織と繋がりがありそうなものだけど、ポルリウス商会はある程度綺麗な商売をしているのかな? グレーゾーンを攻めるって言ってるところはマリーさんらしいな。
しかし犯罪か……迷宮に廃棄素材を貢ぐのは犯罪なんだろうか? でも、迷宮に素材を貢いで、更に良い物が取れるようになれば迷宮都市も潤うんだよな。今のところ100層以降は俺しか行けないけど。
「……犯罪ではないと思います。もし、この話が犯罪だと判断された場合も秘密を守ってもらえれば、継続的に素材を卸すことはお約束します」
俺の微妙な返事に、マリーさんとソニアさんが顔を見合わせる。アイコンタクトでなにかしら意思疎通を図っているんだろう。
「分かりました。協力できるかの確約はできませんが、どのようなお話でも秘密は守ります」
マリーさんが真剣な表情で秘密を守ると誓ってくれた。別に証文を取るわけじゃないけど、利益や約束だけで十分に秘密を守る枷にはなってくれるだろう。駄目だったら自分の見る目がなかったってことで、国外逃亡だな。
「ありがとうございます。では、まずは100層のボスから話しましょうか。この話は素材を卸しますので秘密にしなくても大丈夫です。100層のボスは属性竜が2匹、ライトドラゴンとダークドラゴンでした」
「属性竜! しかもライトドラゴンとダークドラゴンって激レアじゃないですか! うわー、迷宮都市の長年の謎が解明されました! うわー、ソニア、どうする、すごいわよね。しかも素材を卸して頂ける……あれ? 素材ですか? 解体は任せて頂けないんですか?」
おお、属性竜のことに大興奮だったのに、すぐに素材で卸すって言葉に違和感を持ってる。やっぱり優秀な商人なんだよな。
「ライトドラゴンとダークドラゴンはちょっと理由がありまして、こちらである程度解体することになると思います。ですが、俺達に必要な素材以外はマリーさんに卸しますので安心してください」
「裕太さん、あの、差し出がましいようですが、属性竜ともなりますと解体者の腕も重要ですし、素材の保管も重要です。大丈夫でしょうか?」
属性竜が心配らしい。そういえば魔法の鞄のことを話すのなら、素材の時期のズレなんかはマリーさんが誤魔化してくれるだろうし、別にルビーに頼まなくても次の機会でもいいんだよな。まあ、どうせ次の機会になるのなら、ルビーに聞くだけ聞いてみよう。解体する場所が増えれば、新しい選択もできるようになるからな。
「素材の保管についてはあとで説明するので大丈夫です。解体については解体してもらう人に確認をとってから解体しますので安心してください。無理だったらマリーさんのところにお願いしますね」
「分かりました。貴重な属性竜ですから慎重にお願いしますね」
とても心配そうにしているが、どうやら俺に任せてくれるようだ。
「分かっています。細心の注意を払いますよ。それでは続きを話しますね。ここからが秘密にしてほしい内容です。100層の属性竜を倒したあとなんですが……」
マリーさんとソニアさんに、101層で知ったことを全部ぶっちゃけて、魔法の鞄の性能についても、容量が限りなく大きいことと、時間の流れが限りなく遅いことを伝えた。
ここまで話したら容量無限で時間停止って言ってもいい気がするが、容量無限と時間停止って神話らしいから、限りがあったり少しは時間が動いた方が納得しやすいかなって判断だ。
でも、俺の細やかな心遣いは無駄だったようだ。マリーさんもソニアさんも、これでもかってほどに目をひん剥いて、口をパクパクさせている。なかなか秀逸な顔芸だな。あとはギャグマンガみたいに眼球を飛び出させれば100点だが、今でもお笑いのグランプリで決勝進出が狙えるレベルかもしれない。
落ち着くまで様子を見ていると、呆然としたまま迷宮のコア? 廃棄予定の素材を迷宮に貢ぐ? リクエストしたらそれに対応した層が作れる? 高性能な魔法の鞄? 時間がほぼ停止?と呟きだした。ある程度衝撃から覚めて、頭の中で情報を整理しているようだ。
「あっ、それと前にマリーさんが言っていた海の魚もある程度確保してきましたよ。すぐに凍らせたので鮮度も大丈夫です。魔法の鞄のことを話すのならそのまま持ってきたらよかったですね」
「海のお魚ですか、あっ、なんかホッとしました」
ついでに海の魚のことも伝えると、受け止めやすい内容だったのか、マリーさんとソニアさんの表情に光が戻った。まだ、廃棄予定の素材の確保方法とか、ジャイアントディアーの毛皮とか話すことが色々あるから戻ってきてくれて助かる。
読んで下さってありがとうごじます。




