三百三十七話 101層
100層のボス、ライトドラゴンとダークドラゴンをイフが討伐してくれた。最終的に、はしゃいだイフがシルフィに怒られて俺やベル達がビビってしまって、そのうえクリアボーナスの出現シーンまで見逃してしまった。ちょっと切ない。
「とりあえず、ライトドラゴンとダークドラゴンと財宝を収納しよう」
「あら、ノモスを召喚して鑑定してもらわないの?」
「それも考えたけど、期日までまだ十分に時間があるし、91層から95層までの宝箱を探索したあとに、まとめて鑑定してもらうよ」
予想以上に早く攻略できたし、宝箱を探す時間は十分にある。洞窟だからベル達に宝箱探しをお願いすれば、手早く完璧に探索できるだろう。宝箱探しはベル達にとっても楽しい娯楽だから、時間短縮と合わせて一石二鳥だな。
「分かったわ。じゃあ財宝を収納したらすぐに休む? それとも次の層を確認しておく?」
「んー、俺は働いてないし、101層を覗いておくよ。100層のクリアで次がどうなってるか興味がある。休むのはそのあとだね」
俺の中ではこの層で迷宮が終わりって可能性も十分にあると思う。なんて言ったって100層だからな。そのうえ迷宮からしても、長い期間で50層すらほとんど突破されず、90層には俺達以外は足を踏み入れた人すらいない。100層以降を作る意味があんまりなさそうだ。
シルフィいわく、価値ある物で人を呼び寄せ、欲望ごと命を食らうのが迷宮。それなら人が来ない場所を作る理由もないよな。
「了解。じゃあさっさと収納して次の層に行きましょう」
「うん」
まずはライトドラゴンとダークドラゴンの収納だな。シルフィが首を落とした状態に比べると、ところどころ穴が空いていたり焦げたりはしているものの十分に素材は残っている。なんかちょっと涙の跡が見えるような気がして切なくなるが、素材は大切に扱うので安らかに成仏してほしい。
それにしてもライトドラゴンとダークドラゴンか……お肉の味はどうなんだろう? ファイアードラゴンと同じ属性竜だから、似たような味なのか、それとも属性の違いが味にも違いを生み出すのか……迷宮から出たら速攻でマリーさんのところにいって解体を頼みたいが……それだと帰還に間に合わないだろうな。
……ん? そういえばルビーってグレーゾーンなやり方で、魔物を討伐して食材にしていたんだよな。ルビー達なら解体ができるかも。帰ったら頼んでみよう。
お肉以外の素材は……騒ぎになりそうだし魔法の鞄にしまっておいてもいいんだけど、国王様には貴族に対する通達とかで配慮してもらってるし、マリーさんを通して国に利益を渡す感じでいいか。他の素材でも十分に利益になってるはずだけど、属性竜はインパクトが違うからな。
これならマリーさんも儲かるし国も儲かる。直接国に関わらなくて済むし万々歳だ。商業ギルドと冒険者ギルドは……マリーさんのお父さんが嬉々として貸しを作りながらも上手くやるだろう。
冒険者ギルドは人が変わったし護衛を出してくれたりして借りがある気もするが、俺が譲歩したらグランドマスターがグイグイ来そうだから駄目だな。
2匹の属性竜を収納して、どう利用するかも決まった。次は初回クリアボーナスの財宝だな。山盛りに積みあがっているまばゆいばかりの宝の山をみると、ベル達が楽しそうに遊んでいる。
金貨なんかの財宝には興味がないようだが、装飾品や宝石が煌めく像なんかは興味があるようだ。トゥルは鉱石にも注目しているな。
「みんな、なにかほしい物でもあった?」
「あっ、ゆーた。べる、これおへやにかざるー」
俺の質問にベルが大きなエメラルドがついた冠を高々と掲げて言う。あれって王冠なのかな? ……まあいいか、宝石関連は腐るほどあるし、バラまく予定もない。ベルが気に入ったのならお部屋に飾らせても問題ない……と思う。
たぶんベルは自分の髪の色に近い色のエメラルドが気に入っただけで、価値とかは分かってないんだろうな。
「いいよ。ベルだけじゃなくてレイン達もお部屋に飾りたい物があったら持っておいで。楽園に戻ったら飾るといい」
俺の言葉に興奮しながら財宝の山を探索するベル達。気に入ったものを発見すると嬉しそうに持ってくるのがとても可愛い。ただ、持ってくるものが、ベリル王国の服屋の店長いわく国宝級のものばかりなんだよな。
……子供部屋が博物館みたいになりそうだ。俺が作ったベル達の家具や普通に迷宮都市で買った家具たちを飾る国宝級の財宝……ミスマッチ感がハンパなさそうだが、見るのは俺の関係者ばかりだから問題ないよな。ジーナとサラは呆れるような気もするけど。
「シルフィも選ぶ? 今度家が完成したら、好きなものが置けるよ?」
「んー、それも楽しそうだけど、まずは普通の家具から設置して部屋を楽しむわ。模様替えをしたくなったらお願いするわね」
「了解。その時になったらいつでも言ってくれ」
ぶっちゃけ、金の茶室とかミスリルの茶室とか、部屋中に宝石を隙間なく張り付けるぐらいの量が、魔法の鞄の中にはあるとおもう。
美意識を無視すれば、エルトリュード大陸で一番高価な部屋を作れそうだ。でも、作ったらエルトリュード大陸で一番下品な部屋になるだろうな。ベル達の天真爛漫なセンスに任せた方が、いい部屋になりそうだ。
ベル達とワイワイ言いながら財宝をすべて収納。魔道具っぽいものも結構あったし、俺やジーナ達が装備できそうなものも結構あった。楽園に帰ったら、俺も含めて全員の装備を更新してみるか? コスプレっぽくて楽しいイベントになる気がする。
「じゃあちょっと101層を確認してからご飯にしようか」
「かくにんー。ごはんー」「キュキュー」「あたらしいまもの」「ククー」「にくだぜ!」「……」
ベル達にとっては迷宮の次の層よりも、ご飯の方が重要度が高い返答だな。トゥルは少年の見た目だし、新しい魔物にも興味があるようだ。レイン、タマモ、ムーンは言葉は分からないがリアクション的にご飯を喜んでるな。ベル達の夕食のリクエストを聞きながら階段をおりる。
***
「…………ねえシルフィ、このパターンは迷宮の終わりってことなのかな?」
階段をおりると、これまでのボス部屋と比べても更にゴージャスな扉が存在した。今までなら洞窟に繋がるはずなんだけど、新しいパターンだ。
「たぶんそうなんじゃない? 100層を越えたから新しいパターンになったって可能性もあるけど、ボスを連続で配置する意味は薄そうだもの。時間を稼ぎたいのなら広大で複雑な迷路でも作った方が効率はいいわよね」
そうだよな。迷宮に意思があるのなら、強力なボスを配置してもシルフィ達にボコボコにされるって分かってるだろうし、時間稼ぎならボス部屋はないだろう。もしくは大精霊でも敵わない魔物……想像がつかないけど迷宮が消し飛ぶ戦闘になるんじゃないか?
「とりあえず入ってみようか。シルフィ、念のために風壁をお願い」
「分かったわ」
シルフィに風壁をかけてもらい、ゴージャスな扉を開いて101層に足を踏み入れる。
「……あれって迷宮のコアだよね」
「ええそうね。私も初めて見たけど、間違いなく迷宮のコアよね」
興味深そうにコアを見つめるシルフィ。どうやら今のところ危険はなさそうだ。
「……あれ? シルフィも迷宮のコアを見るのは初めてなの?」
シルフィくらい長生きしていたら、好奇心も強いんだし迷宮のコアくらいは見たことがありそうなんだけど。
「ええ、精霊は契約者が居ないと迷宮には入らないもの。私が見たことがあるのは、迷宮から持ち出されたコアくらいね。それもこのコアに比べたらずっと小さなものだったわ」
そういえばメルを迷宮で鍛える時に、ついて来ようとしたメラルを追い返したな。
「ものすごく激しく点滅してるよ?」
「ええ、ものすごく激しく点滅しているわね。怖がっているのかしら?」
「もしかして、シルフィの声が聞こえてるのかな? だから持ち出されたコアって言葉に反応したのかも」
「そうなのかしら? ねえ、迷宮のコア。私の声が聞こえているなら、そのピカピカした点滅を止めてちょうだい。でないと真っ二つにするわよ」
変わらずに激しい点滅を繰り返す迷宮のコア。
「私の声は聞こえてないみたいね。説得は通用しなかったわ」
シルフィが首を傾げながら言う。説得というよりも脅迫だけどね。でも、俺があんな言葉をかけられたとしたら、すぐに点滅を止めるか、ビビって更に点滅を激しくするだろうから、点滅に変化がないってことは聞こえてないっぽい。
いつのまにか、点滅する迷宮のコアに興味を示したベル達が、面白そうにちょっかいを出している。ちびっ子達、なにが起こるか分からないものに迂闊に近寄らないでほしい。ゆーた、ぴかぴかーとか言う報告は見えてるからいらないからね。まあ、ベル達が近寄っても変化がないし、姿も見えてないっぽいな。
「じゃあ単純に、俺がきたから怖がってるのか。喜んでいる可能性はないかな?」
「どうなのかしら? 迷宮から出たいのならその可能性もあるけど、出たいのなら迷宮をもっとクリアできるように簡単に作るでしょうし、その可能性は低いと思うわよ」
なるほど、ものすごい説得力だ。
迷宮のクリアの可能性を考えてはいたが……実際に迷宮のコアを見ると、どうしたらいいのか分からなくなる。このコアを取り外せば迷宮をクリアしたってことになるんだろうか?
「シルフィ、迷宮ってコアを取り外したらクリアになるんだよね? 取っちゃっていいの?」
あっ、コアの点滅が更に激しくなった。取り外されるのは嫌で、俺の声は理解しているようだ。
「迷宮のコアを取れば攻略ってことになるでしょうけど、その代わりにこの迷宮は緩やかに滅びるわよ? 別に滅ぼすのは構わないけど、マリーとかが困らないかしら?」
「当然マリーさん達は困るよね。迷宮都市なんだから迷宮がなくなったら、影響は大きいはずだ。でも、迷宮って滅ぼさなくてもいいの? 人類の敵とかじゃないの?」
「管理されている迷宮なら人類の敵ってことはないわね。魔物があふれるってこともないし、命を失うのはその危険性を認識している冒険者だけだもの。この国にとっては、この迷宮は有効な資源って扱いでしょうね」
……迷宮を滅ぼさないと世界が壊れるとか、そういう物騒なラノベのパターンではないようだ。どちらかというと、管理された迷宮は人類が共存しているパターンみたいだな。そうなると……ここで迷宮のコアを取り外したらひんしゅくをかいそうだ。
シルフィが見たことがある持ちだされた迷宮のコアは、管理されていない野良の迷宮なんだろう。コアも点滅で意思表示できるみたいだし、コアを取るのはやめておいて色々とコミュニケーションを取ってみよう。まずは、激しく点滅しているコアに、取り外すつもりはないって伝えないとな。
読んで下さってありがとうございます。
 




