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三百三十四話 ポイズンドラゴン

 グリーンドラゴンやワイバーンの襲撃を乗り越えて、ポイズンドラゴンが待ち構える巨大な重力石の島にたどり着いた。禍々しい紫色のウロコを持つドラゴン、自然の鎧ver.4の力、見せてやる!


「ガァァァァァ」


 俺に気がついたポイズンドラゴンが大声で鳴くと、その場でドスンドスンと足踏みをしだした。なんか怒ってるとは違うような雰囲気、喜んでる? それにしてもあの巨体があれだけ暴れてもわずかな揺れしか感じないってことは、それだけこの島の重力石が安定しているってことだろう。


「いきなり足踏みし出したけど、どうしたのかな?」


「たぶん、初めて島に生物が足を踏み入れたから興奮してるんじゃない?」


 シルフィが首を傾げながら疑問に答えてくれる。


「グリーンドラゴンやワイバーンがいるよね?」


「その仮面をつけている裕太には分からないかもしれないけど、空気中に薄っすらと毒が漂っているわ。他の魔物も近づかないでしょうね」


 まだなにもしてないのに、すでに毒が漂ってるのか。シルフィ達は大丈夫かと思ったけど、なにも言わないってことは当然精霊には効果がないんだろう。


「じゃあ、あのポイズンドラゴンは寂しかったってこと? 戦わなくても仲良くなれたりするの?」


 まさかこの状況でポイズンドラゴン相手にテイムイベント? 毒をまき散らすペットは敷居が高いぞ。


「そんな訳ないじゃない。あのポイズンドラゴンが喜んでるのは、本能的にエサが現れたって分かっているからよ。魔物だもの」


 でも、食べなくても今まで生きてたんだよな。食べなくて済むのなら食べないでっとお願いしたいが、おやつ感覚で襲いかかってくるんだろう。


「なるほど」


 仲良くなれる相手と戦うのは気まずいし、俺には飼えそうにないから戦う気満々の方が逆に助かるか。ドスンドスンと興奮しているポイズンドラゴンの体や口元から、紫色の霧が噴き出している。あれって確実に毒だな。


「ギャウ!」


 ポイズンドラゴンを観察していると、短い鳴き声と共に体から出ている毒が消え、ゆっくりと動き出した。アサルトドラゴンのイメージから突撃してくると思ってたんだけど違うようだ。どのみち、ポイズンドラゴンを島から落とす作戦は無理だったってことだな。


 ドスンドスンと地響きをあげて近づいてくるポイズンドラゴン。俺も端っこで戦うのは面倒なので、ベル達の応援を背に受けながら前に進む。


 ポイズンドラゴンとの距離が詰まり、3階建てのビルに相当する巨体が目の前に……やっぱり迫力があるな。ポイズンドラゴンの爬虫類独特の瞳が、俺をジッと見つめる。


 たぶんどうやって俺を殺すか考えてるんだろう。大きな島とはいえ、これだけの巨体にとってはたいした広さじゃない。その上、草木も茂らず空を飛んでいるグリーンドラゴンやワイバーンは近寄ってこない。退屈だよな。


 そう考えると、簡単に殺してしまっては楽しめない=なぶり殺しが妥当かな? 簡単に死んだらつまらないから毒を消したと考えれば、正解な気がする。


「ギャウ」


 おそるおそるといった様子で、前足をぶつけてくるポイズンドラゴン。俺が走って避けると「ガァ!」と楽しそうに追いかけてくる。なんかこっちから攻撃し辛い。




「ちょ、ちょっと落ち着いて! 死ぬって。死んじゃうって!」


 しばらく走り回ってポイズンドラゴンの攻撃を避けていると、楽しい遊びに夢中になったのか、俺を殺さないようにしていた配慮が消え、遠慮なしに追いかけて踏みつけてくる。


「裕太、なにしてるの。攻撃しなさい」


「あっ、そうだった」


 逃げるのに夢中になって攻撃を忘れてた。ベル達が楽しそうだと追いかけっこに参加したあたりから、戦いって雰囲気じゃなくなってたからな。


「ベル達は離れてて!」


 ベル達を離れさせてから、ポイズンドラゴンが踏み潰そうとしてきた右足に向けて、最大サイズの魔法のノコギリで切りつける。


「ギャン!」


 完全に油断していたポイズンドラゴンは突然の痛みに、意外と可愛い叫び声をあげる。結構深々とノコギリの刃が入ったから、骨まで切り裂いてるはずだ。


 痛みに暴れるポイズンドラゴン。右前足からは血が飛び散り、その血が蒸気のように紫色の煙になっていく。


「うげっ、血も毒なのか!」


 霧には風壁は反応しない。自然の鎧でガードできるにしても毒の霧には突っ込みたくない。飛び散った血から生まれる紫の霧を避けて追撃をしようとするが、そのまえに混乱が収まったのか、怒り狂ったポイズンドラゴンがにらみつけてくる。


「ガァァァァァァ」


 怒り狂ったポイズンドラゴンは叫びと同時に、口から紫色の霧を大量に吐き出した。体からも毒が出ていて、ポイズンドラゴンの全身が毒に隠れる。


 完全に殺す気だな。さっきまであんなに楽しそうにはしゃいで俺を踏み潰そうとしていたのに、ちょっと反撃しただけでこの仕打ち。理不尽だ。


 霧を避けつつチラっとベル達を見ると、ワクワクした表情で俺を見ている。自然の鎧ver.4の活躍の時だとか思ってそうだな。ベルかシルフィに毒の霧を吹き飛ばしてもらおうかとも思ったが、頼める雰囲気じゃない。


 こうなったら突撃して、一刻も早く毒を吐き出すポイズンドラゴンを倒すべきだろう。ヴィータを見ると頷いてくれたので、なんとかなるだろうと押し寄せてくる毒の霧に突っ込む。


 視界の全てが紫色に染まりなにも見えない。少しだけ暗視のスキルがあるから見えないかなって思ったけど、暗闇と霧は違うらしい。


 あきらめて魔法のノコギリを前に突き出しながら走る。あれだけの巨体だから当然顔も大きい。ちょっと方向がズレても顔にたどり着けるだろう。あとはそこから滅多切りだ。攻撃される前に切り刻んでやる。


 少し心配なのはポイズンドラゴンが顔を上げた場合だな。そうなるとポイズンドラゴンの体の下を走り抜けることに……そうなったらそうなった時に考えよう。


「グアッ」というポイズンドラゴンの声と同時に、風壁が反応し一瞬霧も巻き込まれるように弾かれ、ポイズンドラゴンの輪郭がぼんやりと見えた。あとは切るだけ、縦に横に斜めにとひたすらノコギリを振り回す。なんかポイズンドラゴンの悲鳴が聞こえるけど気にしない。ズシンと地響きがしたがとりあえず切る。


 バカみたいにノコギリを振り回していると突然風が吹き、周囲の霧が一気に晴れる。どうやらシルフィが毒の霧を吹き飛ばしてくれたようだ。


「裕太、もう死んでるわよ」


「うん、見えなかったからちょっとやりすぎたみたい」


 目の前には無残に切り刻まれたポイズンドラゴンの顔。ベル達の教育に悪そうなので素早く魔法の鞄に収納する。顔の原型が分からないくらいにバラバラになっていて、おそらく貴重であろうドラゴンの牙も、無数の肉片と共に地面に転がっている。


 本体を収納しても教育に悪いな。不幸中の幸いなのが、飛び散った血は蒸発して霧になったらしく周辺が血まみれになってないことだ。肉片からは今も紫色の霧が立ち上っているけどね。


 そういえばあれだけ派手に暴れたのに、グリーンドラゴンやワイバーンが近寄ってこないな。吹き飛ばされた毒を警戒しているのか、単にこの島には近づきたくないだけなのか、どっちなんだろう? まあ、毒が恐れられているのは間違いないな。 


「ねえシルフィ、このポイズンドラゴンって解体とかできるの? 血が空気に触れて蒸発するのなら、解体しようがない気がするんだけど……」


「私も解体方法は知らないわね。でも、基本的に毒なんだから、解体しなくてもいいんじゃない? 裕太も生身の時に、ポイズンドラゴンを取りださないようにね」


 そうか……生身の時にうっかり魔法の鞄から出したら毒を受けるのか。これはあれだ、魔法の鞄に完全封印だな。ここに放置しておくか、下に投げ捨てれば完全に消滅するから危険物が減るが、なにかの役に立つかもしれないから1体は確保しておこう。


「了解。とりあえず今は魔法の鞄に封印しておくよ。それとフレア、周囲に散らばっている肉片を悪いけど燃やしてくれる?」


「まかせるんだぜ!」


「あら? そのままにしておいても、迷宮なんだからいずれ消えるわよ?」


「この島を収納するんだ。本当は戻る時にしようかと思ったけど、帰りにポイズンドラゴンが復活してたらもう1回倒さないと収納できないよね。倒してもお金にならない相手と戦いたくないよ」


 ポイズンドラゴンは食べられないだろうし、1体確保していれば十分だ。フレアが肉片を燃やすのをつき合いながら、自然の鎧の感想を伝える。直接攻撃を受けなかったので、毒の霧を完璧に防ぎ切ったことをお礼と共に伝えると、大喜びしている。


 フレアが肉片をすべて燃やし、灰をシルフィとベルに風で吹き飛ばしてもらった。楽園に戻ったら、死の大地の片隅で丸洗いしよう。


 シルフィに飛ばせてもらい、巨大な重力石の島に手を触れて収納と念じる。巨大な島が一瞬で目の前から消える。無事に収納できた。これだけ大きなものが一瞬で消えたのに、消えた場所に空気が流れ込むような現象も起こらないのがすごい。


「なくなったー」「キュー」「すごい」「ククー」「やるな!」「……」


「ふふ、家とかを収納していたし、岩山を幾つも切り崩して収納していたから知ってたけど、一度にこれだけ大きな島を収納するのを見せられると、裕太の開拓ツールの異常さを再確認できたわ」


 島が消えたことにベル達ははしゃぎ、シルフィは異常だという。ヴィータはニコニコと笑っているだけなので、どう思っているかは分からない。まあ、シルフィの異常だという意見には俺も賛成だな。島が鞄の中に入るとか異常でしかない。でも、巨大な島が空に浮いている時点で異常なんだけどね。ドラゴンもいるし……。


「あれだよ。性能がいい分にはありがたいってことだよね。それよりも、島が消えたからグリーンドラゴンとワイバーンが騒ぎ出した。こっちに注目されている間に、階段がある島まで連れてってくれる?」


「あら、飛んでいっていいの?」


「うん、ここまで頑張ったし、ポイズンドラゴンとの対決で精神が疲れた。サクッといってサクッと倒してしまおう。シルフィには悪いけど、1匹と集中して戦えるように場を整えてほしい」


「分かったわ。じゃあ行きましょうか」


 飛んでいるグリーンドラゴンの目を盗むように、一番高い階段がある島に向かう。グリーンドラゴン、島があって羽を落とすだけでは勝てないけど、ベル達と協力すればボコボコにできるはずだ。さっさと終わらせよう。

読んで下さってありがとうございます。

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