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三百三十二話 ver.4

 98層に足を踏み入れると、96・97層の鳥の魔物がドラゴンに入れ替わっていた。48・49層でも同じパターンだったから、あり得ないことではないんだろうけど、なんかズルい気がする。グリーンドラゴンにポイズンドラゴン。迷宮が殺しにきている気がするのは気のせいなんだろうか?


「じゃあ自然の鎧をお願い」


「わかったー。すごいのつくるー」


 相手がドラゴンだからか、久しぶりの自然の鎧だからかちっちゃな両手を握りしめて気合を入れるベル。とても可愛らしいけど、自然の鎧に気合を入れられたら厨二感がUPしそうで怖い。


「えーっとね、ベル、いつも通りで大丈夫だからね」


「ちからこめない?」


「そうだぜ! きょうてきあいてにはぱわーあっぷなんだぜ!」


 なんで?っと首を傾げるベルと、話を聞いて同調するフレア。なんか嫌な予感がヒシヒシとする。


「そうね。今回は強敵だもの。今までよりも強い自然の鎧が必要ね。みんな、裕太はレベルアップして強くなったから、前よりももっと強い自然の鎧でも大丈夫よ。よく相談してカッコイイ自然の鎧を作りなさい。それが裕太の命を救うわ」


 まさかの……いや、なんとなくあり得る裏切り。シルフィの表情はあまり変わってないけど、絶対に内心では大爆笑しているはずだ。


「ちょ、ちょっと……」


 話の軌道修正をしようとしたが、悪魔シルフィの誘惑に乗ったベル達が頭を寄せ合って、ふんふんキューキューと楽しそうに相談している。あはは、もう俺には止められない。


「シルフィ?」


「あら? 間違ったことは言ってないわよ。レベルが上がって魔力の余裕も増えてるし、体力も増したわ。無数のドラゴンが相手なんだから、身の安全を重視するのは当然のことよね?」


「それはそうだけど……いざとなったらシルフィに風壁を掛けてもらえば済む問題だよね?」


 シルフィの風壁ならドラゴン相手だって楽勝なはずだ。


「ふふ、私の力はできるだけ借りないのよね?」


「ですよねー」


 なにを言っても無駄なようだ。シルフィの言うことも間違ってないんだけど、ベル達の話し合いにしっかりと注目しているあたり、目的は厨二感が増す自然の鎧が目的なのは疑いない。どうなるんだ?


「ゆーたー」「クー」


 シルフィと話しているとベルとタマモがふよふよと飛んできた。


「ベル、タマモ、どうしたの?」


 ベルとタマモ。普段はベルにはレインが、タマモにはトゥルが一緒にいるから、微妙に珍しい組み合わせだな。全員でお団子になってる姿はよく見るけど、なんだか新鮮だ。


「あのねー、たまもがおっきなはっぱほしーってー」「ククー」


 ベルとタマモが両手をいっぱいに広げて大きさをアピールしている。可愛い。なるほど、ベルはタマモの通訳で一緒にきたのか。トゥルはなにやら考え中だからお手伝いって感じなんだな。


「葉っぱはあるけど、そんなに大きなのがあったかな?」


 できるだけリクエストに応えたいが……葉っぱにはそんなに注目していなかったから分からない。魔法の鞄のリストを確認しながらいくつか葉っぱ付きの枝や、植物を取りだす。


「ククーー」「それほしいってー」


「使う予定はないから構わないけど、なんにつかうの?」


「クゥクー」「ないしょー」


 おっと、内緒にされてしまった。でも、ベルとタマモが顔を見合わせて、楽しそうに笑う姿が可愛かったから大丈夫……どんな用途に使われるのかが分からないのが不安だな。とりだした結構大きめの葉っぱといくつかの小さな葉っぱをもって、ベルとタマモが戻っていく。


「ふふ、どんな自然の鎧が完成するのかしら? 楽しみね」


 もはや面白がってるのを隠さなくなったな。俺としてもベル達が頑張るのは可愛らしいから大歓迎だが……できれば新たなる黒い歴史が生まれないことを願いたい。このまま発展していくとすごい事になって、どうしても人前で自然の鎧を使う事態になって……ああ、考えるな。考えたらフラグが……。


「……シルフィ、まだ時間がかかりそうだし、お茶でも飲む?」


「そうね、紅茶をもらえるかしら」


 シルフィは紅茶か。コーヒーは朝食の時に飲んだし、俺も紅茶にしておこう。小さめの岩をテーブル代わりに取りだして紅茶を並べる。お茶菓子は……ベル達の邪魔になりそうだから止めておこう。


 空に浮かぶ巨大な島、飛び回るグリーンドラゴンとワイバーン。景色としてはファンタジー感満載なんだが、この光景が紅茶に合うかと考えると疑問だな。


 ***


「かんせーー」「キューー」「がんばった」「ククーー」「むてきだぜ!」「…………」


 1時間ほど経って、ようやくベル達の満足がいく自然の鎧が完成したらしい。偶に俺のところに飛んできて、なにかをジッと観察していたりしたけど、どうなったんだろう。


 さて……これだけワクワクした瞳で見つめられたら逃れられない。覚悟を決めて自然の鎧を受け入れるか。


「じゃあ、自然の鎧をお願いね」


 お願いするとベル達が任せろとでも言うように頷き、ちっちゃな両手を前に出しながら俺の周りを回りだした。この演出は必ずやるんだな。


「キュキュキューキュ(きれいなみずのころもを)」


「かたいいわのよろいを」


「すごいかぜのまんとを」


「クゥーククークーー(おおきなみどりのかぶとを)」


「あついひのやいばとたてを」


「…………(たくさんのいやしのちからを)」


「「「「「「しぜんのよろい(キュキュキュ)(クククー)(……)」」」」」」


 ……今までの詠唱にいくつか単語が加わってたな。硬い、凄い、熱いは分かったけど、言葉が分からないレイン達のも変わってるのか?


 疑問に思っていると、レインの魔力が籠もった水が俺を包み込み、そこにムーンの力が降り注ぐ。その上から硬度が増したのか、艶が出た岩が俺に装着される。なんか守る面積が広がってるな。レベルアップで力が上がったから、重さを増やしても大丈夫だと考えたんだな。


 岩の鎧が装着されると、風のマントが俺を包み込むように……えっ? なんか薄っすらとした光だったはずの風のマントが、渦巻くような強めの光を発するネオンのような風のマントに。


「うおっ」


 いきなり左腕に円盤のような火の塊と、右腕には大きくなった火の刃が生まれる。左腕は火の盾に変更されたのか。この火の刃と盾も密度が上がったのか輝きが強くなっている。


「えっ?」


 一瞬目を遮られたと思ったら、頭だけではなく顔にもなにかが装着された。どういうことだ?


「ゆーた、かっこいーー」「キュキュッキューー」「つよそう」「ククーークー」「なかなかなんだぜ!」「…………」


 大興奮のベル達が俺の周りをグルグル回りながら、褒めまくってくれる。今回の自然の鎧ver.4は子供心がくすぐられる感じらしい。そういえば装着シーンも特撮ヒーローっぽかった気がする。


 子供達には大人気、では大人は? シルフィを見ると、お腹を押さえるようにしてうずくまっている。プルプル痙攣しているのは、笑うのを我慢しているんだろう。ベル達を悲しませないために我慢するのは立派だが、風の大精霊としての威厳はないな。


「えーっと、シルフィ、どうかな?」


 シルフィに話しかけるが声が籠もっている。顔に装着された葉っぱの影響だな。あの大きな葉っぱを持っていったのは、このフェイスガードを作るためだったようだ。目以外はすべてふさがっている。


 フェイスガードと肌の隙間には空気の流れができていて息苦しさは感じない。たぶんベルがどうにかしてくれているんだろう。見た目が心配ではあるが、芸が細かいな。


「そ、そうね。い、今までよりも……とても強そうになったわね。ぷひゅ」


 ぷひゅって言った。風の大精霊がぷひゅって言った。まあいい、たしかに命のためには装備を固めるのは当然のことだからな。だが、ベル達を煽った責任は取ってもらう。


「強そうになった? どこらへんが強そうになったのかな?」


 俺の質問にベル達も興味深げに集まってきた。ベル達もシルフィに対して強そう?とかカッコよくなった?とかアグレッシブに質問している。ふふ、こうなったらしっかりと俺を確認しないと質問には答えられないだろう。


 もし、大笑いしてしまったらベル達が悲しむぞ。しっかりと笑いをこらえつつ、自然の鎧をほめたたえるのだシルフィ! 俺が内心でシルフィを煽っていると、シルフィが顔を上げてチラっと俺を見た。あっ、すぐにうつむいたな。あと痙攣が増している。風があればなんでも見ることができるって言ってたけど、今は風で俺を見てはいないらしい。


「そ、そうね。お顔のお面が強そうで素敵ね」


 なんとか言葉を絞り出すシルフィ。


「ククーー」「がんばってかんがえたー。どくはいらないー」


 仮面を褒められたタマモとベルが喜びの声をあげる。えっ? ベル、毒が入らないように仮面を用意してくれたの? ああ、だから空気が仮面の中を流れているんだな。目の部分の空気が変に動いている感じなのは毒の侵入を防ぐためか。


 しかも、風の動きをコントロールしているのか、眼球にはいっさい風を感じない。これでドライアイになることもないんだろう。仮面とか意味が分からんもんをつけられたと悲しかったんだけど、俺のことを考えて作ってくれたんだね。俺、今、ヤバいくらいに、感動しています。嫌がっていたことを忘れて、全力でベル達を褒めたたえる。


「シルフィ、他の部分はどうかな?」


 ベル達を思う存分褒めそやしたあと、再びシルフィに話しかける。ベル達の優しさに感動はしたが、それはそれ、これはこれってことで、もう少しシルフィに攻撃してみる。


 普段からシルフィにはとてつもなく感謝をしているし、命の恩人だと心の底から慕ってはいる。だが、目の前の弱っているシルフィを見てしまうと、追い打ちをかけたくなる。ふふ、俺はクズなんだろうな。


 どこがかっこいいのとベル達に質問されているシルフィ。その真ん前に仁王立ちする俺。ベル達の優しさに包まれた俺に、怖いものなどなにもないぞ。さあ、俺を見るんだシルフィ。


「あっ、シルフィ、ズルい!」


 再びチラっと俺を見たあとに視線を逸らしたシルフィが、ゆっくりと風に溶けて消えていく。風の大精霊が逃げるとか、今の俺ってどんな姿なんだ? うぅ、全身が映せる鏡がほしい。スマホで写真を……いや、それはやめておこう。流出する恐れは皆無だが、それでも残したくない物はあるんだ。


 シルフィを呼んでも出てこないので、自然の鎧を解除してもらい、ベル達とおやつタイムにする。なかなか出発できないな。シルフィを召喚するか?

読んで下さってありがとうございます。

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