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三百三十話 魅惑的な階段?

特別更新の最終日となります。

ありがとうございました。

 迷宮の96層は空中に重力石という鉱石が浮かぶファンタジーなステージだった。とりあえず重力石はもらって帰れそうなので、大きい島を幾つかと足場サイズの重力石を沢山もらって帰る予定だ。楽園が華やかになるはずだ。ベル達に足場になる重力石を階段状に動かしてもらっていると、その作業が魔物を刺激したのか、大量の鳥の魔物が襲いかかってきた。


 ベル達が大技をぶちかまして鳥の魔物をボコボコにしているので、俺も負けないように魔法のハンマーを振るう。


「うおりゃー。えっ、なんで? 助けて!」


「おっと、裕太、大丈夫?」


「あ、ありがとう。助かったよシルフィ。え、えーっと、なんで俺は落ちたの?」


 訳の分からない状況にパニック寸前だけど、目の前にシルフィが飛んできてくれたことで少し落ち着いた。完全に足がガクブルしている。 


「裕太が足を踏み込みながら縦にハンマーを振るったでしょ。その踏み込みの衝撃で、くるんって重力石が1回転したわ。不安定な足場なんだから注意しなさい」


 なるほど、くるんって重力石が1回転して大空にフライアウェイしたのか。……怖すぎるぞ。とりあえず重力石の上で激しい行動と縦にハンマーを振るうのは禁止だな。幸いハンマーは手で振っただけでも相当な威力がある。十分に戦えるはずだ。


 ふー、少し落ち着いたけど、シルフィが助けてくれるって分かっていても重力石から投げ出された時は、男の急所が縮みあがったな。超怖い。 


 シルフィに元の重力石に戻してもらい、討伐をやり直す。襲いかかってきた鳥の魔物に横薙ぎの一撃。軽く手で振っただけなのに鳥の魔物がはじけ飛んでいく。これなら戦えるな。


 ……戦えるんだけど、うっかり力加減を間違えると、コマみたいに横回転するのは勘弁してほしい。まあ、勝手にハンマー大回転が発動しているようなものだけど、いつ止まるのか分からないし三半規管にダメージがくる。戦い辛い。


 沢山の鳥の魔物が混ざって襲いかかってくるので、仕掛けられる攻撃も多彩だ。鋭い羽を飛ばす鳥の魔物。鋭い嘴で弾丸のように突っ込んでくる鳥の魔物。風や火などの魔法を使う鳥の魔物。


 襲ってくる魔物達は連携している感じではないんだけど、種類が沢山いるから結果的に多彩な攻撃になっているところが迷惑だ。


 気分が悪くなりながらもハンマーを振り続け、ベル達の力を借りて鳥の魔物を全滅させる。


「かったー」「キューー」「たいへんだった」「らくしょうだぜ!」


 手伝ってくれたベル達が集まってきたので、褒めまくりの撫でまくりだ。戦闘に参加していないタマモとムーンも合流しているけど、ひとしく撫でくり回そう。


「しかし、アンデッドの時もそうだったけど、大量の敵に集まられるのって面倒だよね。勝てないと思ったのなら逃げてくれたらいいのに、しかもタダ働きって酷いよね?」


 雲霞のごとく湧いていた鳥の魔物は倒すと下に落ちていく。地面がないから当然死体は回収できない。踏んだり蹴ったりだ。


「あら? タダ働きじゃないわよ。下を見て」


 俺が愚痴を言うと、シルフィが下を見るように言う。


「下?」


 おそるおそる重力石の端に寄り、体重をかけないように下を覗く。


「あっ、シルフィ、魔物を受け止めててくれたんだ」


 下には鳥の魔物の死骸が、絨毯のように敷き詰められている。趣味の悪い絨毯だけど、タダ働きじゃないって分かれば、ありがたく思えるから不思議だ。でも、倒した数に比べると量が少ない気がする。


「全部じゃないけどね。ミンチや炭になったような魔物は回収してないわ。構わないでしょ?」


 なるほど、今回は素材とか関係なく攻撃したから、状態がいい死骸が少ないんだな。それでも結構な数になるし、無駄な時間じゃないってだけでありがたい。


「うん、十分だよ。ありがとう」


「じゃあ、さっさと回収して進みましょうか。それとも少し休憩する?」


「あー……回収したら少し休憩しよう。体はともかく精神的に疲れた」


 足場が不安定な影響で、変な力の入れ方をしたら即ヒモなしバンジーとか……助かると分かっていてもプレッシャーがかかる。少し休みたい。


 シルフィが魔物の絨毯を俺の前に移動させてくれたので、片っ端から魔法の鞄に収納する。ベルの不意打ちで沈んだボスっぽい魔物や魔法を使う魔物も回収できたから、マリーさんに渡すと喜ぶだろう。


 シルフィが集めてくれた魔物をすべて収納し、階段に戻り少し休憩する。普通、長期間船に乗った人の感想だろうけど、揺れないってだけで地面は素晴らしいな。


 ただ、俺が休んでいる間もベル達は96層を飛び回り、楽しそうに足場になる重力石を押して階段を作ってくれている。どうやら重力石を移動させるのがものすごく楽しいらしく、あっちに行ったりこっちに行ったりとはしゃいでいる。


 たまにコテンと首を傾げて、ベル達が集まって何かを相談している。相談したあとに「みちゃだめー」って言われたんだけど、なにをたくらんでるのかな? すごく嬉しそうだったから、なにかいいことを思いついたらしい。


「楽しそうだね」


「そうね。重力石は珍しい鉱石だから、普段は触ったら駄目って言われているもの。気軽に遊べるのが嬉しいんでしょうね」


「普段は触ったら駄目? 重力石って身近にあるの?」


「ええ、精霊宮は巨大な重力石の上にあるの。だから精霊宮に行ったことがある精霊なら大抵は存在を知ってるわ」


「……えっ? えーっと、精霊宮ってもしかして空にあるの?」


「そうよ」


 あたりまえでしょっといった感じで応えるシルフィ。精霊の間では常識かもしれないけど、俺はそんなことを知らないんだから驚くくらいしょうがないと思う。


 そっか、この世界には空飛ぶお城があるんだな。一度行ってみたい気もするが、なんとなく面倒に巻き込まれそうな気もする。……まあ、あれだ。今は忙しいから暇になったら考えよう。


「さて、十分休憩もできたし、そろそろ出発しようか」


「そうね。ベル達がワクワクしているから待たせると可哀そうね」


「ワクワクしてるのって、見たら駄目って言ってた理由? ベル達はなにをしてたの?」


「ふふ、行けば分かるわ」


 なんかシルフィが優しい目をしている。少し気になるがベル達が悪いことをするはずもないし、楽しみにしていよう。


 ベル達が作ってくれた階段を確認する。ムチを持った考古学者の冒険からアスレチック、アスレチックから少し幅広の階段に変化しているな。冒険するためにシルフィの力を借りるのを止めたのに、あんまり意味がなかった気がする。次の層ではもう少し自分の力で挑戦しよう。


 完成された重力石の階段を、バランスに注意しながらのぼる。バランスをとる大きなボールみたいで、いい運動にはなる。


「ゆーた! もうすぐー。もうすぐなのー」


 ベルが楽しそうに教えてくれる。もうすぐなんだそうだ。あの笑顔を見ると相当自信があるんだな。ちょっと楽しみだ。ベル達に促されて少し急いで重力石をのぼる。


「お、おお、これはすごい。これが作りたかったのか。うん、すごい、すごいよみんな」


 すごいとしか言葉が出てこないが、すごいんだからしょうがないだろう。喜んで褒めまくると、ベル達も自慢げに喜ぶ。これはもっと威張ってもいいレベルの作品だな。俺が見えている重力石の階段すべてに宝箱が置いてあるとか欲望に火がつく。


 盛大にベル達を褒めそやしたあとに、トゥルに罠を確認してもらいながら一つ一つ宝箱を開けていく。まるでゲームのボーナスステージの気分だな。


「ふー、楽しかったー」


 すべての宝箱を開け終わる。超絶に満足だ。宝箱の中身は財宝等の今までと被った物も多かったが、心くすぐられるアイテムもいくつか手に入った。


「結構変わったものが出たわね。どうするの?」


「んー、魔法の鞄がもう1つ手に入ったから、今ジーナ達に持たせているのはジーナ達の専用にして、他はどうしよう? 装備品がでれば自分達で使いたいところだけど、こういう魔道具っぽいのは微妙に扱いに困るな。今のところ困っているわけじゃないし、今回の迷宮攻略が終わってからノモスに鑑定してもらって考えるよ」


 お楽しみはあとってことだな。だれも足を踏み入れていない場所だからこれからも宝箱はたくさん見つかるはずだ。それに100層のボスを倒せば大量の財宝が手に入るだろうから、まとめて鑑定してもらおう。


 ただ、ゴージャスな宝箱から出た2つのアイテムが非常に気になる。今までのゴージャスな宝箱からは、必ずすごいアイテムが出ていた。


 それをふまえて、その宝箱の2つから高級そうな絨毯と箒の出現。……日本文化に毒され過ぎな気もするが、空中に浮かぶ島のステージだと考えると、飛んじゃう系のアイテムとしか思えないよな。


 単なる絨毯と箒の可能性もゼロではないし、他の便利な機能も考えられるが、やっぱり飛んじゃう系のアイテムってのが有力だ。


「シルフィ、俺の予想だけど、この絨毯と箒って空を飛べる魔道具だと思うんだよね。迷宮のアイテムの場合は量産もできないし、普通に使っても問題ないよね?」


「なんで絨毯と箒を見て、空を飛ぶ道具だと思うのか分からないけど、本当に空を飛ぶ魔道具だったとしても普通に使っても問題ないわ。絨毯と箒で空を飛ぶ技術が確立するとは思えないもの。でも、私がいるのに裕太がその魔道具を使う機会があるの?」


 使う必要はなくても、空飛ぶ絨毯と空飛ぶ箒なら一度くらいはロマン的に乗ってみたくはある。でも、この世界では絨毯と箒が空を飛ぶアイテムって認識はないようだ。そうなると別の機能って可能性も増えたな。


「俺にはシルフィが一緒に居てくれるから、空を飛ぶ道具は必要ないよ。でもジーナ達に使わせたら便利だと思うんだ。ジーナ達も火山地帯に足を踏み入れられるレベルに達してるんだから、迷宮を体力を消耗せずに短期間で進めるメリットは大きいよね」


 そうなればジーナ達の活躍は更に広まるだろう。冒険者ギルドのマスターが野良の精霊術師のパーティー加入も増えてきたって言ってたし、更にその動きが加速しそうだな。悪評を再確認する結果にならないといいけどな。ただ、ジーナ達が狙われる可能性が増えるのが問題だな。


「本当にそうなったら大騒ぎになるわよ。空を飛べる魔道具なんて誰もが欲しがる物だもの」


「やっぱり騒ぎになるかな?」


「間違いなくなるわね」


 うーん、ジーナ達には活躍してほしいけど、子供が便利な道具で大活躍とか大人の嫉妬がハンパなさそうなのも分かる。更なる面倒に巻き込むのは可哀そうだ……でも、ロマンある魔道具だからどうにか活用したい。


 ……いや無理はやめておこう。その場の勢いで突き進むと後々まで問題を引きずるパターンに陥りそうだ。なにか使い道が思いつくまでは、楽園や死の大地での遊び道具にしておこう。それに、ここで使い道を考えても、空を飛ぶ魔道具じゃなかったら意味がない。


「ま、まぁ、本当に空を飛べる魔道具だったらって話だから、ノモスに鑑定してもらってから考えようか」


「それもそうね。じゃあ行きましょうか」


「うん」


 97層はもう少し頑張ろう。せめて難易度高めのアスレチックをクリアした時くらいの充実感はほしい。

本日、9/27日に精霊達の楽園と理想の異世界生活1巻が発売になります。

幻冬舎様から完成した書籍を送って頂いているので、発売されるのは間違いないのですが、

未だにソワソワしていて、近くの本屋さんに見にいく予定です。

読んで下さっている皆様のお陰で、書籍を出すことができました。

本当にありがとうございます。 


これからもよろしくお願い致します。

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