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三百二十九話 あるてめっとふぁいあー

 シルフィに超特急で迷宮の96層におりる階段まで連れてきてもらった。出発前に腹ごしらえをしようとして、フレアいわく最強の串焼きという単なる刺激物を食べることになった。一騒動起こり、出発前に疲れてしまったが、気を取り直して頑張ろう。


 刺激物の真っ赤な串焼きは魔法の鞄に封印し、普通に屋台で買った料理で朝食を済ませた。俺としてはトルクさんやルビーの料理の方が美味しく感じるが、ベル達は満足そうなのでこれでよかったんだろう。


「じゃあ出発するよ。ベル、風壁をお願い」


「はーい。ふうへきー」


 ベルに風壁をかけてもらい、96層におりる階段を進む。いよいよ新しいステージだ。


 ……階段を降りると……「あー……前回見た91層の魔物でもしかしてって思ってたけど、思った以上にファンタジーだったな。迷宮ってどうなってるんだ?」


 洞窟内をでっかい鳥が歩いていた時点で、96層からは空に関係しているって思ってたけど、ここまでファンタジーだとは思わなかったな。


 階段をおりたら地面がない。その代わりに上を見ると空中にいくつもの島が浮いている。飛んでいる岩はキラキラと光を反射する鉱石のように見えるが、植物が育つ余地がないのか草木が一本も生えていないところが残念だ。苔むしていたり森になっていたりして、島にお城があったら完璧にアニメの世界だったのに。


「すごーい」「キュキュー」「じめんない」「クー」「もえるぜ!」「……」


 トゥル以外の精霊はこれぞファンタジーという光景にテンションが上がっている。俺もこの光景は感動を覚えるが、自分で攻略するとなると話は違ってくる。


「ねえシルフィ、普通に攻略するならプカプカ浮いている岩を足場に飛び移って、大きな島を目指すんだよね? それでいくつかの大きな島で下におりる階段を探すって感じだよね?」


 プカプカ浮いている島の階段をおりたら、次の層に行けるとか微妙に納得がいかないが、まあ迷宮なんだしそんなものだろう。


「ええ、そうでしょうね」


「だよね。それで岩を飛び移っていると、空中を飛び回っている鳥の魔物が襲いかかってくるんだよね」


「確実にそうなるわね」


「ねえシルフィ。シルフィなら俺を連れて次の階段まで飛べるよね」


「簡単に行けるわね。階段の位置もすでに把握できてたりするわ」


「あはは、簡単に攻略の道筋がついちゃってるね」


 前回、魔物を見た時に思った不安が的中しちゃったよ。空に関するステージならシルフィに頼めば攻略が超簡単になる。シルフィの力を借りなければ、たぶんかなり攻略が面倒だ。なにより足場が不安定なのが怖い。


 大きな島に向かうための飛び石は大きさがマチマチで、小さいのは幅が1メートルくらいに見える。そんなところで鳥の魔物に襲われるとか、ちょっとビックリしただけで落ちてしまいそうだ。


「シルフィ、下はどうなってるか分かる? 地面とかある?」


「地面はないわね。空間がねじれているから、たぶん底まで落ちたら消滅するんじゃないかしら?」


「なるほど」


 消滅するのか。まあ、これだけ高いところから落ちたら、普通に死ぬだろうから消滅もあまり変わらない気がする。そうなると楽をするか頑張るか……96層までも楽しているんだし、少しは苦労するか。冒険だからな。


「シルフィ、落ちた時だけ助けてくれ。それ以外はベル達と頑張ってみるよ」


 冒険でも安全の確保は大切だよね?


「了解。頑張んなさい」


 シルフィの励ましを受けてベル達と作戦を練る。シルフィが居てくれることで完璧な命綱があるんだ。俺も活躍できる作戦にしよう。名付けて、敵が少なかったら俺に任せて、敵が多かったら手伝ってね、だいさくせーん……だ。そのまんまだな。


「じゃあ行くよ」


 魔法のハンマーを担ぎ、階段から一番近い場所に浮いている飛び石にジャンプする。レベルアップした身体能力ならこの2メートル程度の距離など楽勝だ。


「うわっ、えっ、ちょっと、動くのこれ?」


 飛び移った石が、着地の衝撃で前に進む。バランスを崩した俺は四つん這いになって耐える。なんかちょっと情けない。しばらく石が進むと、ゆっくりと石が止まる。なんか氷の上を進んでいるような感覚だ。上下にもフワフワ揺れるから怖さも増すけど。


 そういえばムチをもった考古学者の冒険でも似たようなシーンがあったな。参考にしたいところだが、俺はムチを持ってないから無理っぽい。


 落ち着いたので周囲を見渡すと、階段からずいぶん離れている。空を飛べなかったら帰りはどうしたらいいんだ?


「ゆーた、これ、おもしろいー」「キューー」


 楽しそうに笑うベルの声が聞こえる。上を見ると、ベルとレインがビート板を持つような恰好で、飛び石を押して移動させている。あっ、そんなに遠くに持っていったら駄目だよ。ジャンプしても届かなくなる。


 ん? 動かせるんなら、飛び移りやすい位置に岩を持ってきてもらえばいいのか。なんだか冒険というよりもアスレチックに近くなってきたが、シルフィの力を借りているわけでもなく、あくまでも俺とベル達で頑張っているんだからいいだろう。思った以上に簡単に攻略できそうなので、かなり余裕が出てきた。

 

「よし、みんなは俺が飛び移りやすいように、飛び石をあの大きな島まで一列に並べてくれ。階段みたいにしてくれたら嬉しい」


「わかったー」「キュキュー」「かいだんをつくる」「クーー」「らくしょうだぜ!」「……」


 俺のお願いにベル達が楽しそうに散らばっていく。ちっちゃなベル達が楽しそうに笑いながら、飛び石を動かす光景はとてつもなく微笑ましい。しかし、精霊術師ってチートだな。


「ねえシルフィ。この岩って持って帰れたりする? あと迷宮から持ち出しても浮かんだまま?」


 冷静になるとこの岩ってとても魅力的だ。車にのって過去や未来を行き来する映画に出てきた、空中に浮くスケボーみたいな使い方もできそうだし、普通に欲しい。俺は空を飛ぶことができるけど、空飛ぶ乗り物とは別問題だよね。


「んー、その鉱石は重力石という希少な鉱石よ。調整は必要だけど持ち帰ればノモスが調整してくれるわ」


 おお、植物もないから、このステージのお宝ってなにがあるのかと思ってたけど、飛び石自体がお宝だったんだ。でも、シルフィが少し浮かない顔をしている。……あぁ、そういうことか。


「シルフィ、重力石を持ち帰っても世間には流さないから安心して。大陸に飛べる勢力が増えるのが嫌なんだよね?」


 竹とんぼの時もそんな感じで嫌がってたもん。俺は空気が読める男だ。


「あら、それなら助かるわ。ありがとう裕太。でもそれだとお金にならないけどいいの?」


 シルフィの雰囲気が明るくなった。やっぱり重力石の流通が嫌だったんだな。


「ああ、俺は楽園に重力石を配置したいだけだから問題ないよ。それで、できればあのくらい大きい島もいくつかもらって帰りたいんだけど、いいかな?」


 自分の拠点に空を飛ぶ島とか最高にカッコイイと思う。精霊樹の周辺に配置して、大きな島には植物を植えて別荘を建てよう。植物はノモスとドリーに協力してもらえばなんとかなるはずだ。夢が広がる。


「あの大きな島を持って帰るつもりなの?」


「うん、魔法の鞄は容量無限だから普通に入ると思う」


 こうなってくると植物とかが生えてないのが逆に大助かりだ。もし生えてたら迷宮内だけど環境破壊をしないと駄目だったからな。


「持って帰れるのなら構わないとは思うけど、あとからきた冒険者が困らない?」


 なるほど、たしかに飛び石や休憩できそうな大きな島がなくなったら困りそうだな。


「でも、冒険者がここに到達するのは難しそうだし、大丈夫なんじゃないかな? 今のところ50層を越えているのは迷宮の翼とマッスルスターだけだし、その2つも魔力草、万能草の採取でこき使われてるもん」


 神力草の採取まで進んでいるってギルドマスターは言ってなかったし、大量に採取するには海の中を捜さないといけないから、先に進む余裕はなさそうだ。


 そういえば前に海の魚がほしいってマリーさんに言われてた気が……まあ、時間が余ったら神力草の採取ついでに捕まえて帰るか。


「それもそうね。なら大丈夫なんじゃない?」


 シルフィ、軽いな。そこまで真剣に後に続く冒険者を心配していた訳じゃないようだ。たぶん俺が考え付いてないことに対する注意喚起的な質問だったんだろう。


「そういえば、採取した薬草や木は普通に復活するからこの飛び石も復活しそうだよね。それなら取り放題だ」


「沢山持って帰っても、そんなに浮かべたら太陽を遮るだけなんじゃない?」


 ……日照権の問題か。それに沢山浮かべても逆に有難味がなさそうだな。バランスを考えて適切に配置することでオシャレ感を演出しよう。


 試しに重力石を収納してみると、問題なく収納できた。これが収納できるんなら大きな島も問題ないだろう。行きに回収するのもどうなるか分からないし、問題がなければ帰りにシルフィに飛ばせてもらってポコポコ収納しよう。


「ゆーたー。とり、たくさんきたー」


 シルフィと話していると頭上からベルの声が聞こえた。上を見ると階段のように配置された重力石と、その向こう側から沢山の鳥の魔物が飛んできているのが見える。なんか雲霞のごとくって言葉を思い出すな。


 ファイアーバードの時もそうだったが鳥は群れるのか? いや、日本でも群れてる鳥は洒落にならんくらいに群れてたな。中心に大きな鳥がいるみたいだけど、あれが周辺から魔物を呼び集めてるのか?


「あら、ベル達が沢山重力石を動かしたから、魔物を刺激しちゃったみたいね。手伝う?」


「んー、危なくなったらお願い。タマモとムーン以外は俺の周りで待機、正面以外から近づく敵を排除してくれ。タマモとムーンは休憩か重力石を並べるのを続けてて」


 タマモは植物がないから戦えないし、ムーンは戦うのが苦手だ。ムーンの表情はスライムだから読めないが、俺の頭の上にふよふよと着地した。たぶんケガをしたら回復してくれるつもりなんだろう。


 タマモは……1人で離れるのが嫌だったのか、シルフィに抱っこをせがみ抱かれている。そこはかとなく悲しそうなのは、自分だけ戦えないのが切ないんだろう。魔法の鞄から植物を取りだせば戦えないこともないんだけど……まあ、俺のハンマー無双を間近で見て応援してほしい。元気に返事をしたベル達が俺の周囲に散らばる。


 うーん、沢山いすぎて魔物の種類が分からない。とりあえず鳥が沢山ってことで今はなんとかしよう。集まってきた大量の鳥の魔物は様子見もせずに突っ込んできた。


「ふうじんらんぶー」


「キュキュキュー」


「どしゃくずれ」


「いくぜ、あるてめっとふぁいあー」


 群がって襲ってきた鳥の魔物達にベル達が大技をぶちかます。ちなみにフレアのアルティメットファイアーは、技名を決める時に俺がカッコよさげな言葉を並べて、その中からフレアが選んだだけなので特に技名と攻撃は一致していない。あとアルティメットって上手に発音できないところが可愛い。


 そして、魔物の中心にいたと思われる巨大な鳥の魔物は、ベルの不意打ち風神乱舞で羽を引き裂かれて落ちていった。あれだな、空の敵って厄介なんだけど、反面打たれ弱いところがあるのかもしれない。


 ……とりあえずそう納得しておこう。相手の数が多いから、ベル達が大技を大盤振る舞いだ。観察してないで俺も戦わないと活躍できないぞ。もうボスらしき存在が消えちゃったし。

明日、精霊達の楽園と理想の異世界生活の1巻が発売されます。

お手に取って頂けましたなら幸いです。よろしくお願い致します。


読んで下さってありがとうございます。

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