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三百二十六話 ズレてる?

「お師匠様も出かけましたし、私達はどうします? ジーナお姉さんは食堂に行くんですよね?」


「ああ、しばらく顔を出してないから、戻ってきたことを伝えに行ってくるよ。本当は一緒に行動できればいいんだけど、たぶん店を手伝わされるだろうし、1人で行ってくる。師匠には心配ないって言ったけど、サラ達は大丈夫か?」


 ジーナお姉さんも心配そうにしています。そういえばスラムに住んでいた時も食事を出してくれて、いつも大丈夫かと心配してくれていました。私達は、色々あってスラムに身を落とすことになりましたが、それでもこうやって心配してくれる方達と出会えたことを考えれば幸運なのでしょう。


「私達も心配しなくても大丈夫です。私もマルコもキッカもスラムで生き抜いてきたんですから」


「まあ、そうなんだろうけど今は身ぎれいな格好をしているんだから、騙されないように注意するんだぞ。いいな」


「分かってます。ねっ、マルコ、キッカ」


「うん、ウリもいるし、だいじょうぶだ! サラ姉ちゃんとキッカはおれが守る」


「キッカもマメちゃんがいるからだいじょうぶ」


 私の問いかけにマルコとキッカも大丈夫だと答えてくれます。それに迷宮都市での危険な場所は知り尽くしています。おそらく危険な目に遭うことすらないでしょうが、自分達の身を守れるくらいの実力もあるはずです。


「私達よりもジーナお姉さんの方が心配です。くれぐれも男の人には注意してくださいね。美味しいご飯を食べさせてくれるって言われても、付いていったら駄目ですよ」


「へっ? おいおい、サラ、あたしを幾つだと思ってるんだ。子供じゃあるまいしメシぐらいで人についてったりするわけないだろ」


 ……心配です。ジーナお姉さんは自分の魅力を理解していないです。お師匠様がベリル王国から買ってきた服を着たジーナお姉さんは、同性の私の目から見ても憧れてしまうほどの美人です。


 お師匠様が買ってきた服でジーナお姉さんが気に入ってるのは、スッキリとしたパンツルックってお師匠様が言っていた服装ですが、スラッとした長い脚が魅力的です。上もシンプルなシャツで、できる女性って感じだなとお師匠様が言っていましたが、たしかになんとなくそういう感じがします。


 綺麗でカッコよくて、迷宮都市を歩いている時は男の人達の視線を集めていました。ローブ姿の時以上に目立つ大きな胸も関係しているでしょうが、ジーナお姉さんは人を引き付ける魅力を持っています。


 そのことを理解しているのであれば少しは安心なのですが、残念ながらまったく気づいていません。むしろガサツな自分がお嫁に行けるのかを心配しているくらいです。


 お師匠様に聞いたところジーナお姉さんのお父様とお兄様が、徹底的にジーナお姉さんに近づく男性を排除したのが原因だろうとおっしゃっていました。家族に愛され過ぎたがゆえの過ちなんだそうです。男女の機微は私には難しいですが、子供の私よりも理解していないジーナお姉さんが心配です。


 お師匠様とジーナお姉さんが一緒になればいいと思うのですが、そういう気配はありませんし、どうなるんでしょう? 私が大きくなっても、なんだかんだで今のままの関係が続いていそうな気がします。そういえば私もあと5~6年も経てば結婚できる年齢になるんですよね。……修羅場ですか?


「えっ? サラ? どうしてそんなに心配そうにあたしを見るんだよ。普通逆だろ」


「ジーナお姉さん、色々と一緒に勉強しましょう」


「? 精霊術師の勉強か? もちろん一緒に頑張ろうな。それに料理もサラならすごく上手になれると思うぞ。あたしも負けないからな」


「……はい」


 私だけでは手に負えない気がします。ディーネお姉ちゃんなら、大人な大精霊ですし協力してもらえるかもしれません。楽園に戻ったら相談してみましょう。


「よし、じゃああたしも食堂に顔を出してくるから、サラ達も気を付けてな」


 ジーナお姉さんは元気に手を振って食堂に向かっていきました。


「マルコ、キッカ、私達はどうしましょうか? 迷宮都市を散歩してお肉のおじさんにご挨拶します?」


「うん、あとぶきやにもいきたい」


「キッカ、お肉のおじさんのくしやきたべる!」


 だいたいの予定は決まりました。あとは迷宮都市に出て面白そうなところを見学しましょう。


 ***


 なんかサラに生暖かい目で見られていた気がする。なんだったんだ? まあいいか、心配ではあるけど実力は十分あるんだ。可愛い子には旅をさせろって言うし、サラ達を信頼しよう。お母さんは大げさだけど、年長者として、姉貴分として見守ってやらないとな。


 久しぶりの迷宮都市をのんびりと歩く。前にきた時からそんなに時間は経ってないけど、なんだか活気が増した気がするな。師匠が迷宮から貴重な素材をガンガン持ち帰ってくるから、他国からも商人が集まってるって前に聞いたけど、その影響か?


 でも、希少な素材はポルリウス商会と商業ギルド、国が独占しているって言ってたしどうなんだろう? アサルトドラゴンやワイバーンなんかは結構出回ってるし、それが目的なのかもしれない。


 それにしても、なんだか今日はやけに人に見られている気がする。師匠の弟子だってことが広まって注目されてるとか? でも、冒険者や商人っぽくない人からも見られてるよな。知り合いのおじさんにまでポカンとした顔で見られてるぞ。




「ジ、ジーナ、どどどどど、どうしたんだその恰好はーーー。あのドラゴンスレイヤーか、あのドラゴンスレイヤーのせいなんだな。待ってろすぐに殺してくる!」


 実家の食堂に到着し、中に入って帰ってきたことを伝えようとしたら、あたしを見た親父がいきなり叫びだした。なんかいきなり物騒なことを叫んでるんだよ。親父では師匠には傷一つつけられないよ。


「どうしたんだよ親父、なんかあたしの服装、変か? 師匠やサラ達も似合ってるって言ってくれたんだけど……」


 お世辞だったのか? 自分でも悪くないって思ってたから結構ショックだぞ。


「あら、ジーナお帰り。その服カッコいいわね。よく似合ってるわよ」


 親父の叫び声を聞いて奥から出てきたおふくろが、今度はこの服装を褒めてくれる。どっちなんだ? 分からなくなってきた。


「バ、バ、バカなことを言うな、ダニエラ。可愛いジーナがあんなかっこうを、男どもが、男どもが……」


「おふくろ。親父はどうしちゃったんだ?」


 なんか親父が痙攣しだしたんだけど……もしかして病気か?


「あはは、気にしなくていいのよ。それよりもその服、どこで買ったの? 似合ってるけどこの辺では見ない格好よね」


「ああ、師匠にもらったんだ。たしかベリル王国ってところで買ったって言ってた」


「まあ、国外の服なのね。しかもそんな服をプレゼントされるなんて、裕太さんといい関係を築けてるのね。ふふ、孫を抱く日も近いのかしら?」


「孫? 兄貴が結婚したのか?」


 この前会った時にはそんなこと一言も言ってなかったぞ。


「そうじゃないわよ。あの子は全然女っ気がなくて心配なのよね。そんなことよりジーナ、裕太さんとの関係は順調なの? ケンカしたりしてない?」


「師匠とケンカするわけないだろ。色々なことを教えてくれるし、すごく優しいんだ」


「色々なことを教えるだと! なにを教えやがった、ぶっ殺しグハッ!」


「お、親父!」


 親父が持っていた包丁を握りしめて走り出したら、おふくろが親父の頭を椅子でぶん殴った。久しぶりに帰ってきたら家庭が荒れてるんだけど、あたしはどうしたらいいんだ?


「ジーナは気にしなくていいのよ。いい歳しているくせに裕太さんに嫉妬しているだけなんだから」


「親父が師匠に嫉妬?」


「そうよ。娘が嫁に行くのが嫌だからって、できるだけ男っぽい服装をさせてたのに、その娘が他人の男に磨かれていて錯乱してるの。バカよね」


「えっ? 兄貴のお下がりを着させてたのってそんな理由だったのか? 金がなかったんじゃなくて?」


「そうよ。お金に余裕があるって訳じゃないけど、中古の服なら女物を揃えるくらいはできるわ。あたしが何度も服を買ってあげるって言ったでしょ。それなのにジーナは興味ないって言うし、母親としてつまらないわ」


 ……たしかに何度か服を買ってくれるって言われたけど、あたしが女物の服を着ても無駄になるって断ったな。師匠に買ってもらった女物の服を着たら結構嬉しかったし、断らずに買ってもらえばよかったかもしれない。


「ジ、ジーナ、もう帰ってこい。お前が居ないとお父さんはとても寂しい」


 椅子で殴られた親父が這いずりながら近寄ってきた。ゾンビみたいな動きで正直怖い。あっ、おふくろにとどめを刺された。お昼の仕込みが心配になる。


「それでジーナ。裕太さんとの関係は進展したの? それだけいい服を買ってもらってるんだもの、いい感じなのよね?」


「師匠との関係なら、前よりも仲良くなったと思う。それに料理を習わせてくれたり、美味しい物を沢山食べさせてくれたり、すごく感謝してる」


「そう、順調なのね。あなたにとって大チャンスなんだから逃さないように頑張りなさい。お父さんのことはお母さんがしっかり止めてあげるからね」


 親父はまだあたしが精霊術師になることが嫌なんだな。でも、あたしとしても今の生活は刺激的で面白い。なによりもシバが可愛いし、フクちゃん達やベル達、楽園に遊びにくる精霊達との触れ合いは至福だ。今更精霊術師を断念するのは絶対に嫌だ。


「ありがとう、おふくろ。あたしもチャンスを逃すつもりはないよ。真剣に頑張る」


「ええ、頑張んなさい。そしてお母さんに楽をさせてね」


「ああ、任せてくれ」


 いまでも結構稼げるレベルになってるんだ。まだまだ未熟だけど、これからも成長すれば親孝行も十分に可能だろう。


「期待してるわ。でも、それならもう少し女性らしい言葉遣いができるようにならないとね。それとも裕太さんは、そういう話し方が好きなの?」


「あたしも、もう少し綺麗な話し方ができればって思ってるけど、師匠は無理をすることはないって言ってくれるな」


「うふふ、そうなのね」


 なんかおふくろがニヤニヤしてる。そんなに面白いことを言った覚えはないぞ? あっ、兄貴が戻ってきた。親父と同じく意味が分からんことを叫びだしたな。本気で実家が心配になってきた。なにがどうなってもいいように、しっかりと実力をつけてお金を稼ごう。ただ、この感じだと今日も宿に戻るのが遅くなりそうだ。

読んでくださってありがとうございます。

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