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三百二十三話 ファイアードラゴンの短剣

 とりあえず、不気味に笑うマリーさんから代金をもらい、雑貨屋から脱出する。マリーさんがソニアさんを巻き込んで2人で笑い出した時はヤバかったな。


「あはは、相変わらずマリーは面白いわね!」


 シルフィが笑ってる。前からマリーさんのこと気に入ってたけど、ここまで笑うとは……戦争をする人間も欲望たっぷりのはずなんだけど、マリーさんの欲望とどう違うんだろう? 純粋さか? とりあえず、俺には理解できないので次に行こう。えーっと、メルの工房だったな。


 ご機嫌なシルフィを連れてメルの工房に向かう。今度からシルフィの機嫌を損ねたら、マリーさんのところに遊びに行くのがいいかもしれない。すこしくらいの不機嫌なら直してくれそうだ。


 ……シルフィの機嫌を損ねるとか、考えたらものすごく怖い。機嫌を直すんじゃなくて、機嫌を損ねないように全力を尽くそう。くだらないことを考えながらメルの工房に到着する。


「こんにちは」


「あっ、お師匠様、お久しぶりです」


「裕太、来たんだな!」


 工房の中に入るとメルとメラルが元気に声をかけてきた。メルが少し慌てたようにカウンターから出て、こちらに走ってくる。相変わらずちっこいな。でも、ユニスが居ないのがよかった。落ち着いて話ができそうだ。


「うん、久しぶり。メルとメラルも元気だった?」


「はい、元気でした」


「俺も元気だったぞ。なあ裕太、聖域にはいつ行くんだ。今日か?」


 メラルのテンションの上がり具合がハンパない。まあ、ずっと見守ってきた家系の契約者と、実際に姿を見ながら話すことができるんだ。テンションも上がるよな。


「お師匠様。昨日ベルさん達が遊びにきてから、メラル様がずっと落ち着かないんです。色々と聞いてみたのですが、よく分からなくて。なにかあったんですか?」


 さすがにイエス、ノーの2択で聖域について説明は難しいよな。


「うん、色々あってね。メラル、今から説明するから落ち着いて。メル、時間は大丈夫?」


「分かった!」


「はい、少しだけお客さんは増えましたが、まだまだ暇ですので大丈夫です」


 ……悲しい事を笑顔で言わないでほしい。まあ、メラルと契約して鍛冶がしやすくなったはずだし、俺も貴重な素材を沢山卸す予定だ。いずれは大人気な鍛冶屋になるはずだ。


「まず、メラルがソワソワしているのは、メルとメラルを拠点に招待したいって言ったからなんだ」


「拠点ですか? たしかどこにあるのかが秘密でしたよね? 嬉しいですが、メラル様がそれほどお喜びになる場所なんですか?」


 よく分からないようで、首を傾げるメル。拠点に行くって説明だけでメラルがソワソワしている理由は分からないよな。


「うん、それで、これから話す話は絶対に秘密な話だけど、大丈夫だよね。ユニスにもいったら駄目だよ?」


「……はい。大恩あるお師匠様が秘密と言うのであれば、たとえユニスちゃん相手でも秘密は守ります」


 両手を前に出して拳を握りしめるメル。この子、成人してるんだよな。ロリ感がハンパない。さて、もったいぶるのもこの辺にして、理由を説明しよう。


「うん、お願いね。それで俺の拠点は聖域って呼ばれる場所なんだ。メラルが喜んでいるのは、その聖域は精霊が実体化できる場所だからなんだよ」


 ドヤ顔でメルに向かって説明する。


「……実体化? …………それってメラル様に会えるってことですか?」


「うん」


 あれ? 思ってたよりも反応が薄い。


「……すごい、すごいですお師匠様! お師匠様の拠点に行ったらメラル様に会えるんですね! すごいです!」


 一気にテンションが上がったな。反応が薄かったのは内容が理解できてなかったのか。なかなか理解ができなかったみたいだけど、理解できたら大興奮だ。この反応を待ってたんだ。


「お師匠様。そのお師匠様の拠点に招待して頂けるんですね! うわー、メラル様に会えるなんて、会えるなんて! 夢みたいです!」


 ピョンピョンと飛び回るメル。こんなにアグレッシブなメルを初めて見る気がする。メラルも合流して一緒にはしゃぎまわっている。ここにちびっ子軍団が居たら、収拾がつかなくなってたな。


「ふふ、すごく喜んでるわね」


「うん、喜ぶとは思ってたけど、ここまで喜ぶとは思わなかったな」


 微笑まし気に見守るシルフィと話しながら、メルとメラルが落ち着くのを待つ。


 ……………………そろそろ話を続けてもいいよね?


「メル、落ち着いた?」


「あっ、はい。すみませんでした。落ち着きました」


「うん、それで、招待は受けてくれるってことでいいんだよね?」


「はい、ぜひともお願いします」


「分かった。俺の拠点に行くならしばらく迷宮都市を離れることになるけど、工房の方は大丈夫?」 


 別に日帰りでもなんとかなるけど、メルは真面目だからあんまり工房を休みにするのはよくないとか言って、短時間で帰りそうな気がする。そうなると俺も面倒だし、メラルも消化不良だろう。最初から大きく休みを取らせた方がいいよね。


「えーっと、いくつかのお鍋の修繕と、剣の研ぎが三本……あっ、あと、今度お世話になっている親方から、修繕のお手伝いを頼まれて……」


 微妙に忙しそうではあるな。まあ、お鍋の修繕が一番に出てくるあたり、下請けっぽい仕事だけど。


「じゃあそのお世話になっている親方の仕事が終わってからがいいな。どのくらいかかるの?」


「たしか3日後って言ってました。それからたぶんですけど2~3日くらいかかる仕事だと思います」


 そうなると、だいたい6日後って感じか。出発の準備もあるだろうし、仕事が伸びる可能性もある。だいたい10日後くらいを目安にした方が確実だな。


 6日では厳しいけど、10日あるなら俺もダンジョンに潜れる。シルフィに頼めば90層まで往復2日。残り8日と考えれば100層に挑戦できそうだ。


「じゃあメル、10日後を目安に休みを取ってくれる? 俺も迷宮に潜るから少しズレるかもしれないけど大丈夫かな?」


「それだけ時間を頂けるなら親方たちに迷惑をかけずにお休みにできます。どのくらい休みにすればいいですか?」


「うーん、俺はどのくらいでも構わないから、メルが工房を休める期間で大丈夫だ。無理をしなくても、タイミングが合えば何度でも遊びにきていいんだから」


「……で、では、10日ほどお邪魔してもいいですか? できるだけメラル様とお話ししたいんです!」


 おお、意外と長期間の休みを取った。それだけメラルと会いたいってことか。あっ、メルの言葉にメラルが感動してる。よっぽど嬉しかったらしい。


「了解。じゃあそんな感じで予定を組んでくれ」


「分かりました!」


 元気いっぱいだ。さて、一番の目的は達成した。次は自作の額縁を渡そうかと思ってたんだけど……すでに工房の一番目立つところに、立派な額縁に入れられて絵が飾られている。気に入ってくれているようで嬉しいが……うん、俺が額縁を渡す必要はないな。


 あとは、ファイアードラゴンの牙で作ったナイフか……先に見せてもらって、受け取りはみんなで来たときにしよう。そして俺の弟子の証として、ファイアードラゴンの短剣の授与式をすれば盛り上がるだろう。楽しくなってきた。

 

「それでメル、ファイアードラゴンの牙の短剣はどんな感じ?」


「あっ、そうでした! 無事に完成しました! 持ってきますね」


 いそいそと工房の奥に向かうメル。ちゃんと完成してたらしい。しばらくするとメルが箱を持って戻ってきた。


「お師匠様、これが完成した短剣です。おたしかめください。あっ、余った牙はあとで持ってきますね」


 箱の中から一本の短剣を取りだし観察する。装飾は控えめだけど雰囲気のある短剣だな。でも、このサヤ、光沢のあるクリーム色がファイアードラゴンの牙にそっくりだ。


「メル、短剣のサヤもファイアードラゴンの牙で作ったの?」


「あっ、はい、そうなんです。最初は皮のサヤを作ったんですが、なにかの拍子に刃の部分が当たるとスッパリ切れてしまったんです。次に刃を完全に浮かせるようにして、金属のサヤを作ったんですが、抜き差しの時に牙との接地部分の金属がわずかに粉のように削れてしまったんです。アダマンタイトを使おうかとも思ったんですが、重くなってしまうので、牙でサヤを作りました。駄目でしたか?」


 不安そうに俺を見上げるメル。


「いや、全然駄目じゃないよ。むしろカッコイイ。でも、金属が削れるの?」


 見た感じファイアードラゴンの牙はつるつるで、金属が削れることはなさそうなんだけど。


「はい。本当にわずかしか削れないんですが、何度も抜き差ししているといずれサヤにガタがきてしまいます。この短剣は切れ味が鋭いので危険かと思って牙でサヤを作りました」


 なるほど、切れ味が鋭い短剣がサヤからすっぽ抜けたら大変だよな。ストッパーを付ければいい気もするが、日本と違って緊急時にも使う可能性がある。引き抜こうとしたらすぐに引き抜けるようにした方がいいのかもしれない。


「そんなに切れるの?」


「はい、耐久性にも優れているので、極限まで刃の部分を薄く鋭くできました。すさまじい切れ味で、突き刺せば簡単に鉄の鎧くらいなら突き通します」


 なんかすごい短剣が完成したようだ。魔法のサバイバルナイフよりも切れ味が鋭かったらどうしよう。開拓ツールの存在価値が……まあ、護身用の短剣としたら十分すぎる性能だろう。話を聞くだけではなくて、自分の目でたしかめてみるか。


 もう一度じっくり短剣を観察する。持ち手の部分は魔物の皮が巻いてあるっぽいな。それに、刃の部分と持ち手に繋ぎ目が見えない。短剣を丸のまま牙から削り出してるみたいだ。ある意味すごい贅沢だな。


 光沢のあるクリーム色のサヤから短剣を抜く。……いや、分かってたよ。同じ素材から削り出したんだし、当然クリーム色の短剣だよね。色的には優しい感じなのに、ドラゴンの牙だけあって妙な迫力がある。


 刃の部分を確認するが、極限まで薄くって言葉通りなのか、刃と空間の境目が微妙にぼやけて見える。ぼやけている部分も刃のようだ。剃刀よりも断然薄そうだな。この薄さなら確かに切れ味はすさまじいだろう。そのうえで十分な耐久力があるとか、さすがドラゴンってことなんだろう。


「切れ味を試してみるね」


「はい、試し切りの素材を用意しますか?」


「いや、手持ちがあるから大丈夫」


 とりあえず丈夫な素材じゃないと意味がない。アサルトドラゴンのウロコを魔法の鞄から取りだす。鉄よりも固いウロコ、少し丈夫すぎるか? まあものは試しだ。ウロコに刃を当てて軽く引くと、ウロコに薄い筋が残った。


 鉄よりも固いウロコに軽く引いただけで、わずかとはいえ切れ目が入るとは……相当切れるぞ。今度は思い切って力を入れてウロコを切りつける。おお、力はいるけどアサルトドラゴンのウロコを切り裂いた。さすがに開拓ツールの性能には叶わなかったが、十分に強力な短剣だ。


「メル、ありがとう。十分に満足できる短剣だ」


「ふ、ふあーー、よかったですーー。緊張しましたー」


 メルが半泣きで喜んでいる。ファイアードラゴンの牙、素材がすごかったからプレッシャーを感じていたらしい。少し申し訳ないが、いい経験になったってことで勘弁してほしい。あっ、柄頭つかがしらにジーナ達の名前を入れてもらおうかな?


 大仕事が終わったとホッとしているメルに追加で仕事を頼むのは酷なんだろうか? 鍋の修繕もあるんだよな。

明日、精霊達の楽園と理想の異世界生活のコミックス1巻が発売されます。

記念として、連続更新を考えておりますので、お楽しみいただけましたら幸いです。

予定は活動報告の方に上げておきますので、よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございます。

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