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三百二十話 完成

 ジーナ達との家具作り。意外と大変ではあるがレベルアップの効果か、一番小さなキッカでもちゃんとノコギリを使いこなし、順調にパーツを切り出すことができた。やすり掛けも……魔法の紙やすりが大活躍だったが無事に終わった。ニスも塗り終わってベル、フクちゃん、マメちゃんの風の精霊の力で綺麗に乾かすことができた。あとはノモスとドリーの力を借りて組み立てるだけだ。


「そういう訳でノモスとドリーを召喚しました。みんな、手伝ってくれる2人にお礼を言うように」


 俺の言葉に、ジーナ達がノモスとドリーに丁寧にお礼を言い、ベル達やフクちゃん達も「ありがとー」って感じで集まってお礼を言っている。


 ドリーは手慣れた感じで優しくちびっ子軍団+ジーナの頭を撫でたりしながらお礼を受けているが、ノモスがかなり戸惑っている。


 ノモスが子供達が苦手だって思っていた時期だと、怒り出しそうでハラハラしていたが、実は子供好きと知ってからは安心してみていられるな。ムッツリとした少し不機嫌そうな顔も、間違いなくデレデレした顔を晒したくないからだろう。


 見たら見たで怖そうだが、ノモスのデレた顔もちょっと見てみたいな。でも、そろそろ助け舟を出さないとノモスが逃亡しそうな気がするから介入しよう。


「えーっと、じゃあジーナはランタンのメッキとガラス部分をノモスに相談してくれ。ドリーはパーツの接合を頼む」


「う、うむ。娘、さっさと始めるぞ」


「う、うん、よろしくお願いします」


 ノモスがジーナを手招きして、ちびっ子軍団から少し離れる。


「ふふ、分かりました。どの順番で始めますか?」


 そんなノモスを微笑ましい笑顔で見送りこちらを向くドリー。ドリーにとってもノモスの様子が微笑ましかったらしい。


「えーっと、そうだな。まずは俺から作るから、サラ達は自分の時にどんなふうにドリーにお願いすればいいか考えながら見学すること」


「分かりました」


「わかった」


「うん」


「じゃあドリー、まずはベルの椅子を作るから頼むね」


「ええ、分かりました。どの部分を接合すればいいか、指示をお願いします」


「了解」


 ものすごく期待した目で見ているベルの視線が少しプレッシャーだが、幼稚園で使われているようなシンプルな椅子だから、歪みが出ないように接合すればすぐに完成するだろう。


 手順としては座面に四本脚の接合、次に背もたれ部分で大丈夫だよな。大まかな形が完成したら最後に補強用のパーツを接合して仕上げよう。頭の中で手順を確認し、その通りにドリーにお願いをする。


 パーツが接合するたびに喜びの声をあげるベル達。特にドリーと同じ森の精霊であるタマモが熱心に観察している。たぶん将来、自分もできるようになる力だから勉強しているんだろうな。


「よし、これでベルの椅子が完成!」


「べるのいすー。ゆーた、べるすわる。すわるー」


 最後のパーツを接合して完成を宣言すると、興奮したベルが手足をワチャワチャとさせながら訴えかけてくる。家には普通に椅子やソファーがあるしベルも座ったりしているんだけど、自分の椅子となるとそれはまた別物らしい。


 俺も小学校に入学する時、学習机を買ってもらってテンションが上がったもんな。同じような気持ちなんだろう。地面に直接置くのもなんなので、岩を取り出しその上に完成した椅子を置く。


「ベル、座っていいよ」


 許可を出すと、ベルは大喜びで椅子の前に移動し、こちらを見たあとにゆっくりと椅子に腰を下ろす。いや、飛んでるから腰を下ろすってのは違うか?


「ふおおお、べるのいすー」


 スッポリと椅子に収まったベルが、手足をパタパタしながら喜んでいる。普通の木の椅子だから、やっぱり自分の椅子ってことが嬉しいんだろうな。


「ベル、違和感はない?」


「ないー」


 ……興奮しているからよく分かってなさそうだな。ある程度慣れてからもう一度聞くか。


「キュキュー」


「ん?」


 レインが俺の袖を引っ張る。


「つぎはれいんの、つくってってー」


 なるほど。椅子のあとは机を作ろうかと思ってたけど他の子達も待ってるし、順番に作った方がいいな。


「分かった。じゃあレインの水桶を作ろうか」


「キュキュー」


 喜ぶレイン。水桶ならドリーに接合してもらえば簡単なはずだ。自分の技術だけで作ったら水漏れとか洒落にならなかっただろうな。ドリーに感謝だ。


 ***


「それで、娘よ。なにをどうしたいんじゃ?」


「えーっと、師匠が言うには、火を使うから金属でメッキをした方がいいらしいんだ。それで木を金属で包んで、火が灯る部分はガラスの筒にしてほしいです」


「ふむ、金属はなにを使うんじゃ?」


「師匠からは好きな金属を使っていいって、これだけ渡されてる……」


 金、銀、銅、鉄、ミスリル、アダマンタイト……師匠は少しおかしいと思う。初心者のあたしが作るランタンになんで希少金属を渡すんだ? 高価すぎるって言ったけど、タダで手に入れたものだから大丈夫だって笑ってた。たぶん簡単に高価な物が手に入りすぎて、おかしくなってると思う。騙されないか心配だ。


「ふむ……どうせならミスリルにするか? 火を反射して綺麗に光るぞ」


「いや、さすがにそれは……鉄が無難だと思う」


 あたしが半日もかからずに作った木のランタンにミスリルを使うなんて恐ろしすぎる。それ以上に高価な装備をもらってるけど、一緒にしたら駄目なはずだ。


「じゃが鉄だとサビるし手入れが面倒じゃぞ。高価な金属が嫌ならせめて銅に少量のミスリルを混ぜるのがお勧めじゃな。銅が酸化するのも味があるが、少量のミスリルを混ぜれば銅の輝きが保たれる。弟子として遠慮するのは分かるが、遠慮しすぎても裕太は喜ばんぞ。どうじゃ?」


 うーん、少量のミスリル……それって実家の食堂で考えると何日分なんだろう。でも、遠慮しすぎても師匠が悲しむのも分かる。


「シバ、シバはキラキラしている方が嬉しい?」


「わふー!」


 シッポをパタパタしてとても嬉しそうだ。たぶんシバは世界で一番かわいいと思う。


「銅と少量のミスリルで頼む……ます」


「無理して敬語を使わんでもええ」


「すまない」


 いつまで経っても敬語に慣れないな。スラム側の貧乏食堂……敬語を使う人なんて会ったことがないのが辛い。敬語はドリーさんとサラをお手本にしているけど、まだまだ時間がかかりそうだ。


「では、始めるぞ」


「うん」


 銅とミスリルが小さな竜巻のように混ざり合う。土の精霊もすごいな。火が上手に扱えるようになれば料理の役に立つって思ってたけど、食器が作れるなら土の精霊と契約するのも……でも氷の精霊と契約できれば……そもそもあたしは食堂に戻るのか?


 変なところで今後の人生に関わる悩みが発生した気がするけど、今は目の前のランタンに集中だな。


 液体のように混ざり合った銅とミスリルが、あたしが作ったランタンの土台に綺麗に覆いかぶさり固まる。太陽の光を反射して輝くランタンの土台。自分の為に作られたと理解しているシバが、嬉しそうにわふわふと見つめている。


「あとはこれにハマるガラスの筒じゃな。この絵の通りに丸い筒で構わんのか? 好きな形にしてやるぞ」


「んー、土台もシンプルだし、ガラスの部分もシンプルな方がいいと思うから、絵の通りでお願いするよ」


「うむ、それもよかろう。ではこれで完成じゃな。むっ、こら慌てるな。まずは娘に渡してからじゃ」


 サクッと砂からガラスの筒が作られランタンが完成した。シバが待ちきれないようにランタンに飛びつくが、ノモスさんがシバを制止してあたしに渡してくれた。


「わふっ!」


「はは、ほらこれがシバのランタンだぞ。気に入ったか?」


 シッポを猛スピードでパタパタさせながらランタンにじゃれつくシバ。これだけ喜んでくれるとあたしも嬉しいな。ノモスさんにお礼を言って師匠にもランタンを見せよう。


 ***


「ドリーお姉さん、こことここをくっつけてください」


「ここですね。これでいいですか?」


「はい、ピッタリです」


 なんかいいな。深窓の令嬢と可愛らしい少女がにこやかに戯れながらのものづくり。そのきれいな光景の隣ではマルコとキッカが、次に作る自分の作品をウリとマメちゃんと相談しながら仮組しているし、ベル達は完成した家具で楽しそうに遊んでいる。見ているだけで汚れてしまった俺の心が浄化されていくようだ。


 残りのマルコとキッカの家具が完成したら、それぞれの部屋に設置して終了だな。DIYイベント、弟子や精霊達との絆が深まるし、機会があったらまたやろう。


 ***


「こんな感じでいい?」


 子供部屋に机と椅子、水桶、プランターを設置してベル達に確認する。


「ククークー」


 俺の質問にタマモが一生懸命になにかを訴えかけてくる。


「ゆーた、たまもがたねほしいってー」


「なるほど。ドリー、タマモから話を聞いて室内で育てられそうな植物の種を渡してくれ」


「はい、分かりました。タマモちゃん、どんな種が必要ですか?」


 ドリーが聞くと、タマモはクークーとお願いしている。ベルの通訳によると、甘くて沢山実が生る植物の種をリクエストしているらしい。


「甘い実が生る植物の種ですか。室内ですから木の実は難しいですね。じゃあ瓜の種にしましょうか。みずみずしくて甘い瓜ができますよ」


「ククーー」


 タマモがものすごく喜んでる。瓜って言うとスイカみたいな実が出来るのか? 結構大きめのプランターとはいえスペースが足りない気もするが……まあ、そこら辺は俺が心配しなくても大丈夫か。植物に詳しいドリーがプランターで育てられない植物を勧めるはずないもんな。それに縞模様の瓜が生れば、ウリ坊から名前を取ったウリも喜ぶだろう。


 さっそくドリーに種を生み出してもらったタマモが、プランターに種を植えて、レインが水をかけている。下級精霊と言えど、これだけ精霊が揃っていたら美味しい実が生りそうだ。少し気になるのが、明日から迷宮都市に行く予定ってことなんだけど……まあ、残っている大精霊達にお世話をお願いすれば大丈夫か。


 とりあえず全員満足しているようだし、ジーナ達にも問題なかったかを確認してあとは自由行動だな。俺は迷宮都市での予定をある程度考えておこう。そういえば今回はシルフィ達の家の注文もするんだった。そこら辺も夜にシルフィ達に確認しておこう。


 あっ……ウナギを捌くのを忘れてた。本格的な料理は迷宮都市から戻ってからにしてもらって、とりあえず夜のうちに捌いて収納しておこう。意外と忙しいぞ。

読んでくださってありがとうございます。

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