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三百十六話 小さな進歩

 ベリル王国から帰還し、ちびっ子軍団+ジーナにお土産を配った。結構好評でホッと胸を撫でおろした。あとはルビー達とシルフィ達のお土産だな。シルフィ達はそのまま宴会に突入するだろうから最後だ。


「次はルビー達だね。と言ってもルビー達に買ってきたのは食べ物とか、雑貨だからあまり期待しないでね」


「食べ物があるだけで十分なんだぞ! どんな食べ物なんだぞ!」


 待ちかねていたルビーがキラキラした目で聞いてくる。一応予防線を張ってはみたが、ルビー達なら食材があれば問題なかったようだ。


「量はある程度買ってきたけど、痛むのも早いからとりあえず数匹ずつだすね」


 魚屋で買った〆たての魚達をテーブルの上に並べる。大きな葉っぱでくるんであるから、テーブルもそんなに汚れないだろう。汚れても洗浄の生活魔法で綺麗になるからいいけど。


「あっ、ディーネ、悪いけど魚の周りに氷を出してくれる?」


「私がやります! 食材の保存は任せてください!」


 ルビー達の中ではおとなしめなサフィが、気合を入れた声で立候補してきた。そういえば、ルビー達が手に入れた食材の管理のために、水の精霊では使い辛い氷の魔法を覚えたって言ってたもんな。なにかしら食材保存のための技術があるのかもしれない。


「じゃあサフィ、お願いね」


「はい!」


 張り切ったサフィが、取り出した魚の周りに氷を生み出す。俺には分からないが、氷の大きさとかに秘密があるのかもしれない。


「ありがとうサフィ。これでウナギ以外の仕入れてきた魚の全種類だね」


「おお、鮭にイワナにヤマメ、アユ、ワカサギ、淡水魚が沢山なんだぞ!」


 新しいおもちゃをもらった子供のようにはしゃぐルビー達。


「ただ、俺はあんまり淡水魚の料理方法を知らないんだ。ルビー達はなにか料理を知ってる?」


 甘露煮とかちゃんちゃん焼きとか、知ってる料理はあるけど作り方を知らないんだよな。なんとなくならちゃんちゃん焼きは作れそうだけど、それは調味料味噌と醤油が完成してからだな。あっ、スモークサーモンなら作れるかも。燻製なら他の淡水魚も美味しく食べられそうだな。あとワカサギはてんぷらにしたい。


「うーん、川魚は塩焼きが一番美味しいと思うんだぞ」


 ルビーの知識も俺と似たような物らしい。まあ、ウナギでその常識を覆して……白焼きだと塩焼きって事になるから、覆せそうにないな。ワカサギのてんぷらか、醤油が完成したらウナギのかば焼きで常識を覆してあげよう。


「それなら、俺が知ってる川魚の調理法を少し教えるよ。本格的なのは醤油と味噌が完成してからだね」


「おお、分かったんだぞ! 楽しみにしているんだぞ!」


「あとは、このウナギの泥抜きをルビー達に頼みたいんだ。とりあえず、あと二日間小まめにきれいな水を入れ替えながらウナギを生かしてほしいんだけど、問題ない?」


 シルフィに運んでもらった樽の蓋を開けながらルビー達に確認する。


「にょろにょろー」


 興味があったのか俺が樽の蓋を開けるとベル達も覗きにきて、にょろにょろーっと騒いでいる。うん、確かににょろにょろだね。俺も間近で見ると、ちょっと引いてしまう。


「水の入れ替えなら私に任せてください。泥抜きですね。私が完璧に熟して見せます」


 はい!っと手をあげるサフィ。なんか今日はサフィが大活躍だな。


「じゃあよろしく頼むよ。二日後にはウナギの調理を教える……二日後って精霊達が遊びにきてるよね。時間が取れそうにないか?」


「もう慣れたから大丈夫なんだぞ! だからウナギの調理方法を教えてほしいんだぞ! ウナギが美味しいとか興味津々なんだぞ!」


 ルビーが勢いよく詰め寄ってくる。やる気があるのはいい事だ。時間の合間を見て調理方法を教える事にしよう。ルビーに分かったと伝えて、エメに雑貨屋に置く商品を渡す。これでルビー達へのお土産は完了だな。


「あの、裕太の兄貴に相談があるんですが、いいですか?」


「相談? 相談を受けるくらい構わないけど、シルフィ達にお土産を渡してからでもいい?」


 サフィからの相談って事は食材の保管についてかな? 上級精霊の相談とか想像がつかないから、少し不安になるな。


「ええ大丈夫です。お願いします」


「ハイハイ、裕太の兄貴! あたいも相談があるんだぞ! 今日の夕食は新メニューが完成したから、みんなにも味見してほしいんだぞ!」


「新メニューか、俺は構わないけど、みんなはそれで大丈夫?」


 リビングに集まっている全員に声をかけるが、反対意見はない。むしろ面白そうに頷いている。反対がないなら当然俺も問題ない。


「分かった。じゃあ今晩の夕食はルビーに任せるね。時間があまりないけど、大丈夫?」


「問題ないんだぞ! さっそく作ってくるから待ってるんだぞ!」


 やる気をみなぎらせてダダダっと走り去るルビー。飛び去るんじゃなくて走り去るところに、聖域に対する慣れを感じるな。ルビーを追いかけてエメ、シトリン、オニキスもリビングを出て行った。


「じゃあ次はシルフィ達のお土産だ。まあ分かってるとは思うけどお酒だな。今から飲むんだよな?」


 当然といった感じで頷く大精霊達。予想通り過ぎて俺も大精霊達も、まったく驚きがない。これはお土産としてはどうなんだろう。


 少し疑問に思いながらもベリル王国で仕入れた、エール、赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、ミードを一樽ずつ並べる。


「ルビーが夕食を用意してくれるから、本格的に飲むのはそのあとにしてくれ」


「分かったわ」


 軽い返事をして酒樽に向かうシルフィ。ちゃんと聞いているのか不安だ。


「ほう、迷宮都市の赤ワインと比べると、こちらの方が香りが強いな」


「そうですね。お酒に使われているブドウの品種も違うようですし、味が楽しみです」


「お姉ちゃんは最初はミードがいいわ。ベリル王国の名物なのよね」


 ノモス、ドリー、ディーネが真剣に酒樽を覗き込み、飲む順番を決めている。……大精霊でも実体化していると酔うが、元々がかなり強いから夕食までは大丈夫か。お土産を配り終わり、ホッとしてソファーに身を沈める。あとは、サフィの相談なんだけど、そのサフィも酒樽を覗き込んでいるし、話は少し落ち着いてからだな。


「ゆーたー」「キュー」「おかえり」「ククー」「もどったな」「……」


 俺がまったりした事で、お土産配りが終わったと判断したのかベル達が集まってきた。一生懸命に俺がいなかった間の事を報告してくれるベル達。


 うん、ベリル王国に遊びにいったのは楽しかったし後悔はしていないが、ベル達と戯れる時間も幸せだな。時間が経てばまた遊びにいきたくなるだろうが、今はゆっくりベル達との時間を楽しもう。


 ***


「それで、サフィの相談って? 他には聞かれたくない話なら移動するけど?」


 ベル達の報告も落ち着き、サフィも戻ってきたので聞いてみる。


「いえ、別に他に聞かれたくない話ではありませんから、ここで大丈夫です」


 そこまで深刻な相談じゃなさそうなので、ベル達を装備したまま話を聞いてみるか。




「……なるほど……遊びにくる小さな精霊達にせっかくだから、実体化してベッドで寝る楽しみも体験してほしいって事か……」


 普段から睡眠が必要ない精霊の子供達だし、実体化できて面白い物がある楽園で寝るのはもったいないと思うのかもしれない。人間の子供なら体力の限界があるから電池が切れるように寝落ちするけど、実体化したとはいえ精霊は精霊、睡眠に対する欲求は少ないんだろう。


「べる、ねるのすきー」「キュー」「べっど、きもちいいよ」「ククー」「ねるぜ!」「……」


 一緒に話を聞いていたベル達が、サフィに褒めろっとばかりに報告する。この子達は自分達の部屋があるからか、聖域になる前から魔力を使ってベッドで寝たりしてた。たぶんだけど、俺の生活スタイルを見ていて、なんとなく引っ張られたんだろう。


「ええ、それで夜になっても落ち着かない子供達を、落ち着かせるいい方法を教えてもらえれば助かります。昔話をしたり子守唄を歌うとは聞いた事があるんですが、効果はどうなんでしょう?」


 集まってきたベル達を優しく撫でながらサフィが言う。でも、効果って言われてもな。


「たしかに子守唄や昔話は人間の子供には効果があるけど、精霊の子供達はどうなんだろう? 自信はないけど、俺が知ってる昔話と子守唄を教えるから試してみる?」


「ええ、お願いします」


 子守唄は一曲しか知らない。昔話は絵本の話でいいよな。……絵本? たしかサフィは絵が上手だったはずだ。紙芝居とかいいかも。落ち着かせる効果がなかったとしても、楽園の新たな名物になるかもしれない。


 これはちょっと試してみる価値はあるかもな。子守唄はあとで教える事にして、サフィに紙芝居の事を詳しく説明する。


「なるほど、印象的な場面を絵にして、絵を見せながら読み聞かせをするんですね。絵本と似ていますが、大勢で見やすいように少し大きめの紙に絵を描けば……裕太さん、大きめの紙はありますか?」


「紙はあるけど、大きい紙はないな。次に迷宮都市に行った時にでも、絵の具と一緒に大きめの紙を買ってくるから、最初は俺が持っている紙でいい?」


「ええ、お願いします。ふふ、子供達が楽しんでくれたら嬉しいですね」


 サフィがやる気満々になった。絵を描く事が好きみたいだし、紙芝居が琴線に触れたようだ。


「料理ができたんだぞ!」


 サフィと話していると、ルビー達が料理を抱えてリビングに入ってきた。次々とテーブルに並べられる料理……おお、料理の種類は違うけど、考え方はお子様ランチだな。


「ルビー、これって結構手間がかかるよね。大丈夫なの?」


「みんなに色んな種類の料理を楽しんでほしいから、ちょっと大変だけど、やりがいがあるから大丈夫なんだぞ!」


 たしかにこれは喜ぶ。実際にワンプレートに集められた料理を見て、ベル達もフクちゃん達のテンションも上がっている。全部食べた事がある料理でも、こういった形になると子供心がくすぐられるんだろう。


 たった二泊三日の間で、紙芝居やお子様ランチ。小さな事だけど、こうやって少しずつ楽園が充実していくのを見ると、先が楽しみになる。いずれは楽園の名にふさわしい聖域になるかもしれないな。

読んでくださってありがとうございます。

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