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三百十五話 お土産

 ウナギの試食会も無事に終わり、ちょっと怪しい接待を受ける約束をジュードさんとして、王都を無事に出発した。


「裕太、もうすぐ到着するわよ」


「うん、ありがと。荷物を増やして悪かったね」


「ふふ、普段はジーナ達も運んでるんだもの。あまり変わらないわ」


 ……酒樽と比べられたら、ジーナ達も気分を悪くしそうな気もするな。デリケートな話題に繋がりそうだし、ここはスルーしよう。


「はは、助かるよ。おっ、楽園が見えたね」


 赤茶けた大地の中にそびえたつ精霊樹と、周囲に広がる自然。ベリル王国も綺麗だったけど、楽園も負けてないよな。規模としては確実に負けてるけど……。


「ええ、あら……裕太、愛されてるわね」


「えっ? なに?」


「ゆーーたーー、かえってきたーー」


「わぶ!」


 すごい勢いで飛んできたなにかが俺の顔にへばりついた。まあ、なにかって確実にベルだけどね。


「キュー」「おかえり」「クーー」「もどったか!」「…………」


 少し遅れてレイン、トゥル、タマモ、フレア、ムーンの声が聞こえる。ムーンはなんとなくだけど……。顔にへばりついたベルを両手で抱える。視界が晴れると、目の前に契約している下級精霊達が勢ぞろいしていた。


「みんなただいま。元気だった?」


 げんきーっとお返事してくれるベル達を、三日ぶりに撫でくり回す。うん、このスベスベだったりフワフワだったり、モフモフだったり、プニプニだったりする感触。帰ってきたって感じがする。三日しか離れてないけど。


「ゆーた、おみやげー」「キュー」「おみやげ」「ククー」「さけだぜ!」「…………」


 なんて欲望に素直なお子様達なんだろう。俺が一人で遊びに行く罪悪感から、お土産を期待させるように誘導したから自業自得なんだけど、今になって後悔しています。沢山買ってきたけど、喜んでもらえるだろうか? 


「お土産は沢山買ってきたよ。でも、ちゃんとお家に帰ってからだね」


「はやくかえるー」「キュー」「いえまでがまん」「ククー」「のむぜ!」「…………」


 はやくはやくと足踏みするベル達、そこまで期待しなくてもいいんだよ? あとフレア、お土産の中にはお酒もあるけど、フレアには飲ませないからね。


「シルフィ、お願い」


「ええ、戻るわよ」


 気を利かせて止まってくれていたシルフィが、苦笑いをしながら頷く。家に帰ったらのんびりする前に一仕事ありそうだな。一緒に飛んでいる酒樽に興味を示すベル達に、お土産の一部だと説明しながら楽園に入り、家の前に到着する。


 おおう、地面に降り立つと、ディーネ達、ジーナ達、フクちゃん達、ルビー達が出迎えてくれる。なんか凱旋帰国みたいな雰囲気でちょっと照れる。ただ醸造所の精霊達は一人も来ていない。酒造り以外はどうでもいいってブレない姿勢を感じる。


 ***


「えーっと、とりあえず順番に済ませるから、ちょっと待ってね」


 家のリビングに全員集合(醸造所の精霊を除く)して、お土産の分配を開始する。期待させちゃったからちびっ子軍団だけではなく、新しい食材を期待するルビー達の熱い視線も結構なプレッシャーだ。


「まずはベル達とフクちゃん達、ジーナ達用だね」


 おみやげーっと騒ぎだすちびっ子達。子供だからこそお土産の可否は素直に顔に出る。緊張の一瞬だ。見つけた時はこれだって思ったけど、今になると少し自信がなくなってきた。ドキドキしながら一人一人手渡しする。


「ゆーた、これなにー?」


 俺が渡したお土産を見て不思議そうに首を傾げるベル。大きいのは町中にもあったから知ってるはずなんだけど、小さいのを見るのは初めてのようだ。他のちびっこ精霊達も不思議そうにしている。ジーナ達はなんなのか分かってるみたいだな。


「ベル、それをこうやって振ってごらん」


「こう?」


 リーン


 ベルが俺の動作を真似てお土産を振ると、りーんと澄んだ音がリビングに響き渡った。


「ふおぉぉぉぉぉ」


 リーン リーン リンリンリンリーン リーンリーンリーンリンリンリーンリンリーンリーンリーンリーンリンリンリーンリンリーンリーンリーンリーンリンリンリーンリンリーンリーンリーンリーンリンリンリーンリンリーン


 あっ、ヤバい。なんかベルがトリップしてる。更に仕組みが分かったレイン達やフクちゃん達も、一緒になって音を鳴らしだしたから収拾がつかなくなってる。


「はーい、一回落ち着こう。音を鳴らすのをやめてね!」


 音に負けないように大声でベル達に声をかける。……ふー、ようやく暴走が収まったか。


「みんな、よく聞いてね。これはハンドベルって言う楽器なんだけど」


「べる! べる、いっしょー」


 リンリンリーン 


 自分の名前が入っている事に気がついたベルが、興奮して腕を振り回し、ハンドベルの音が響き渡る。


「うん、ベルと同じ鈴って意味だから、一緒なんだよ」


「いっしょーー」


 リンリンリーン


 ベルは喜ぶかなって思ってたけど、予想以上に喜んでくれたな。でも、今は落ち着いてほしい。


「それでね、そのハンドベルは一つ一つ音階があるんだ。練習して順番に音を鳴らせば音楽になるんだよ。明日みんなで練習しようね」


「おんがくーー」「キュキュー」「れんしゅうする」「ククー」「やるぜ!」「……」


 理解しているのか分からないが、ベル達もフクちゃん達も大喜びでハンドベルを鳴らしながら騒ぎ出した。ジーナ達も楽しそうだし、上手くいけば楽園にちびっ子軍団+ジーナのハンドベル楽団が誕生するかもしれない。


 ハンドベルの二十五個セットを発見した時に思ったんだ。可愛い様々なタイプの精霊達とジーナ達のハンドベルでの共演……もうそれだけでドームを満杯にできるんじゃって……。身内びいきが過ぎる気もするが、無敵に可愛い事は間違いないよな。そのまま練習に突入したいが、まずはお土産を配り終わるのが先だろう。


「へー、裕太、面白い楽器を買ってきたわね」


「ほんとねー。お姉ちゃんもみんなの音楽が楽しみだわー」


「ありがとう。シルフィとディーネにそう言われると嬉しいよ」


 シルフィ達にも高評価だな。お土産のセンスが認められた気がしてかなりホッとする。


「じゃあハンドベルは明日練習するからいったん鞄にもどして、次のお土産を配るね」


 ベル達からハンドベルを回収して魔法の鞄に収納する。ベル達が少し悲しそうにしたので心が痛むが、今のままだと音がすさまじいから少し待っていてほしい。


 ハンドベルを回収したあとは、沢山の色付きの玩具や雑貨を取り出し、ベル達とフクちゃん達に一つ選んでもらう。こんなやり方で申し訳ない気もするが、一人一人に選ぶ余裕がなかったから勘弁してほしい。


 大量に買った残りはエメの雑貨屋に陳列予定だ。これでエメの要望にも応えられるし、少し姑息だけどいいアイデアだったはずだ。みんなも沢山の玩具や雑貨の中から楽しそうに選んでいるんだから、いいよね?


「次はジーナ、サラ、マルコ、キッカのお土産だ」


 ひとしきりベル達のお土産選びが終了したあと、ジーナ達に声をかける。この子達は割と簡単だった。お土産とはちょっと言い辛いが、十分に喜んでくれるだろう。


「まずはこれだ!」


 魔法の鞄からお土産を取り出し、一つ一つジーナ達の前に並べる。


「……大工道具?」


 あれ? なんかジーナ達が困惑している。結構頑張って選んだんだよ? キッカのための大工道具なんて、職人に弟子入りする子供用の小さいやつをわざわざ譲ってもらったのに……メルに頼んでそれぞれ専用の大工道具を作った方がよかったのか?


「えーっと、ほら、みんなでベル達やフクちゃん達が使う小物を一緒に作ろうって約束したよね。そのために用意したんだけど、嬉しくなかった?」


「あっ、そういう事か! いや、想像していたお土産と全然違ったから、驚いたんだ。でも、そういう事ならすごく嬉しい。師匠、ありがとう!」


「これで、フクちゃん達の小物を作るんですね!」


「じぶんせんよう!」


「キッカ、うれしい」


「喜んでくれてよかったよ。でも、刃物も入ってるからケガしないように注意して使ってね」


 コクコクと頷くジーナ達。……ホッとしました。使い道を理解できてなかったんだな。完全に大喜びすると思ってたから焦ったよ。


「次は、これ!」


 それぞれに普段着に使える服を渡す。自分が服に無頓着だからか、ベリルの宝石で入店を断られて、ようやく自分のミスを理解した。


 子供達は何着か買ったローブを着回しさせてたんだけど、それって保護者として駄目だよね。大慌てで大体のサイズと容姿を伝えて、服屋の店員さんに選んでもらった。


 たしかなサイズが分からないから、少しくらいサイズが合わなくても着られるワンピースとか、ハーフパンツっぽいズボンとかだけど、暑い大陸だし過ごしやすいだろう。ちゃんとした服は今度みんなで買いに行こう。


 ちなみにジーナの服は、露出が多めのを選んでもらおうかと思ったが、たんなる変態師匠になってしまうのであきらめた。


「あたしの服もあるんだな。師匠、あたし、着る服は結構持ってるよ?」


「ジーナは装備品以外の服は、お兄さんのお下がりとかだろ。ジーナも何着かはちゃんとした普段着を持っておいた方がいいよ」


「そうかな?」


 ジーナも過保護なお父さんの悪影響を受けているな。俺も服に疎いから、いっこうにジーナのファッションセンスが改善されてなかった。こっちにきてからはサラ達に合わせて、基本的にローブだったから忘れてたよ。


 サラとキッカは俺達に毒されてない分、自分の服を嬉しそうに確認している。よかった、手遅れになってなくて。マルコは服なんだな、動きやすそう?って感じだ。この年頃の少年は服よりも食べ物だからしょうがないか。


「それで最後はこれ。これは数がなかったからルビー達と共有だけど、ベリル王国の料理の本だよ。湖の魚の調理法が中心だけど面白いと思うよ」


 ウナギの調理法はまったく載ってなかったけどね。


「料理の本!」


「私、読みたいです!」


 ジーナとサラの反応が、いままでで一番大きいな。俺としてはちょっとショックだ。


「ルビー、そんなに食いつきそうな顔で見ないでよ。読む順番はジーナとサラとよく話し合って決めてね」 

「分かったんだぞ! 話し合うんだぞ!」


 ここまで喜ぶのか。おっ、ルビーって意外と頭がいいな。精霊は寝ないで済むから、夜中に本を読めるように交渉している。ジーナもサラも健康的な生活をしているから、二つ返事で交渉がまとまったな。


 ふー、これでちびっ子軍団+ジーナのお土産は配り終わった。次はルビー達に渡すお土産というか店に必要な物資と、シルフィ達に渡すお酒だな。この二つは簡単だし手早く済ませてしまおう。

読んでくださってありがとうございます。

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