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三百十一話 全力を出そう

 ブラストさんが何度も戦闘不能になりながらもすぐに復活し、元Bランクの冒険者の盾役を両腕ごとポッキリ粉砕して叩き潰したそうだ。あとで聞いた話だが、高ランクの冒険者が装備していた立派な盾は修復不可能なほどボコボコになっていたらしい。そこまで盾を支えられた冒険者もすごいな。俺だったら一発であきらめている気がする。


 ネッロを倒したあとは、ブラストさんが手下をまとめてネッロのアジトを襲撃。帰ってきた時は荷車を連ねていたので聞いてみると、いい笑顔でネッロのアジトの物を一切合切没収してきたとの返答が返ってきた。ネッロはかなり貯め込んでいたらしく、大儲けらしい。


「先生、すまねえな。全員の治療をしてくれるんだって?」


「まあ、関わってしまいましたし、戦いが終わったからサヨナラってのも気まずいですからね。ですが、俺は夜から用事があるんです。急がないと全員を見れないかもしれないので、テキパキ連れてきてください」


 たとえ死にかけている人がいたとしても、時間になったら俺は帰る。服を受け取ってベリルの宝石でウハウハするんだ。


「えっ、先生帰っちまうのか? 夜は宴会なんだが……」


 ……この人達、夜に酒を飲むつもりだ。何度も刺されたり切られたりで血を流しまくったのに頭がおかしいとしか思えないな。ヴィータに脳の治療もお願いするか?


「お酒かい? これだけ血を流しているんだから、やめておいた方がいいに決まってるけど、この人達に言っても無駄だと思うよ?」


 頭の治療が可能なのかの視線だったんだが、お酒に関する回答が返ってきた。しかも完全に投げやりな回答だ。まあ、ケガが治ったらヒャッハーって飛び出していく人達を、沢山治療したからな。ヴィータも途中から何も言わなくなったし……。


 子は親に似るって言うけど、親分に手下が似るって事もあるのか? ブラストさんが増殖するとか怖いんですけど。なんとなく俺も、すべてをあきらめてヴィータに頷く。


「それはブラストさん達だけで祝ってください。俺は帰ります。では、治療する人達を連れてきてください」


 隣にいたジュードさんが部屋を出て行ったので、ジュードさんが手配をするんだろう。


「お、おう、残念だが用事があるなら仕方がねえか。明日は時間あるか?」


「明日にはベリル王国を出るので時間はないですね」


「そうか、残念だ。あとで礼金を持ってくるから、祝うのは次の時だな。また王都にくるんだろ?」


「んー、まあ、くると思います。あと、お金をくれるのなら、そのお金でスラムでウナギを捕っている子供達のフォローをしてあげてください。俺がスラムにきた目的はウナギですからね。詳細はジュードさんが知っているので、お願いします」


「ウナギ? 変な目的だな。なにに使うんだ?」


 不思議そうにブラストさんが聞いてくる。このやり取り何度目だろうな。もうあきたよ。面倒なので手短に説明する。美味しいって言っても信じないので、明日、料理の仕方を教えるからって納得させた。明日、スラムの歴史が変わるな。それを思うとちょっと楽しみだ。


 ブラストさんの手下が、ネッロの組織の扱いを決めるためにブラストさんを呼びにきた。ふー、シルフィ達はいるけど、やっと一人の時間を持てたな。ほぼ血まみれの男達の相手で休憩もなかったから疲れたよ。


「裕太、夜に用事ってなにするの?」


「えっ?」


「さっきブラストに夜は用事があるから帰るって言ってたじゃない」


 しまった。俺、余計な事言ってシルフィの興味を引いちゃったよ……どうする? こういう場合はできるだけウソをつきたくない。お世話になっているシルフィに、まるっきりのウソを言って遊びに行くと、罪悪感が増して楽しめないからな。


 平常心だ。違和感を与えないように平常心を保て。そして頭を冷静にフル回転させろ。ウソじゃなくてシルフィに怪しまれない言い訳を考えるんだ。


(……ああ、その事か。用事って言ってもいい店を教えてもらったから飲みに行くだけなんだ。ブラストさんの宴会に付き合えない訳じゃないんだけど、あの人達とお酒を飲むのは疲れそうだから遠慮したいからね)


 おおむねウソは言ってない。ただ、王都一の高級クラブで飲むって事を黙ってるだけだしな。それにブラストさんの宴会に参加したくないのも正直な気持ちだ。どれだけ弾けるか分からないが、ろくな事にならない気がする。


「そういう事ね。たしかにあいつらとお酒を飲むのは暑苦しそうだわ」


 俺の正直な気持ちが伝わったのか、シルフィが意外とあっさり納得してくれた。しかし、シルフィってなんとなくブラストさん達に厳しいな。脳筋が苦手なのかもしれない。


 危ない場面を切り抜けて、軽くシルフィとヴィータと雑談をしていると、ジュードさんがケガ人を連れて戻ってきた。ふー、またむさくるしい治療が始まる。詠唱するふり地獄の始まりだな。


 ***


「先生、本当にありがとうございました」


 深々と頭を下げるジュードさん。詠唱するふりが結構大変だったが、基本的にヴィータのおかげだから微妙に困る。


「いえ、まあ、成り行きでしたから気にしないでください。それよりも、抗争にウナギ捕りの子供達は巻き込まれてませんよね?」


 俺にとってそれが一番大切な事だ。もし巻き込まれてウナギが捕れてなかったら、宴会なんて中止させてウナギ捕りに出発させたくなるくらいに大切な事だ。


「ああ、子供達は抗争があった場所の近くには住んでませんので大丈夫です。罠の増産もしていたようですので、明日には十分な数のウナギを捕まえてくると思いますよ」


「それなら、安心です。では、俺はそろそろ帰りますね。ああ、ブラストさんにも言いましたが、俺に渡す予定の礼金はウナギ捕りの子供達のフォローに使ってください。それと、明日はウナギの美味しい食べ方を教えますので、気になるのであれば料理が得意な人を集めておいてください。俺は食べ方や捌き方は知っていますが、自分ではできませんので誰もいなかったらこの話はなしになります」


「分かりました。声をかけておきます」


「よろしくお願いします。では、俺は帰りますね」


「はい、ありがとうございました」


 言うだけ言って素早くブラストさんの家から帰る。宴会の準備で周りが騒がしいし、下手にのんびりしていたら一杯だけとか言って引き留められそうだからな。


 素早くスラムの出入り口まで移動し、外の様子を確認する。抗争が終わったのが伝わったのか、だいぶ人数が減った警備兵の目を盗んでスラムを脱出。ローブを脱いで一息つく。


(シルフィ、ヴィータ、今日はありがとうね。今から送還するけど大丈夫?)


「裕太、一つ聞いておきたい事があるけどいい?」


(ん? 構わないけどなにかあった?)


 そんなに真剣な表情で聞かれると、夜遊びがバレそうでなんか怖いんですけど。


「今日も面倒に巻き込まれたでしょ。裕太、ちゃんとお土産は買えたの? ベル達、ものすごく楽しみにしているわよ。ベルなんておみやげーって歌ってるんだからね」


(えーっと、今日の午前中に買い物は済ませてあるんだ。お土産も買ってあるんだけど、そこまで期待されると心配になるね)


 ベルはどこまで期待しているんでしょうか? 一目でこれだ!って思う物を買ったけど、それが気に入ってもらえなかったらどうしよう?


「ああ、買ってあるのなら問題ないわ。あの子達なら裕太が買ってきたものなら何でも喜ぶと思うから。それで、お酒は買ったの?」


 あれ? 本題はそこなの? ベル達の話は前振り?


(お酒は買えるだけ買ったから大丈夫だよ。新しいお酒もあったから楽しみにしてて)


「あら? この国で新しいお酒って言うとミードかしら? 楽しみだわ」


(……シルフィ、そういう事は思っても言わないのが礼儀なんだよ。そうしてお土産を受け取って、思った通りにミードであっても、驚いて喜ぶふりをするのが大人なんだ。そして俺が買ったのはミードだよ)


「えーっと、裕太、なんかごめんね?」


 サプライズがあっさり失敗して落ち込む俺に、ちょっと気まずそうに言うシルフィ。


(いや、まあこの国の名物らしいから分かるよね。次にお土産を選ぶ時には予想もつかない物を探しておくよ)


「う、うん、ありがとう。じゃあ、そろそろ戻ろうかしら。ヴィータは何か裕太に言っておくことはある?」


「僕は何もないよ。裕太、一人旅楽しんでおいで。まあ、明日には帰るんだけどね」


(ありがとうヴィータ。精一杯楽しんでおくよ。じゃあ、また明日ね。シルフィもよろしく)


 今日のお礼を言ってシルフィとヴィータを送還する。別れ際に微妙な雰囲気になったけど、夜はこれからだ。ヴィータにも言われたし、精一杯楽しもう。まずは服を受け取りにいかないとな。


 ***


「うーん、これで十分な気もするんですが、装飾品は必要ですか?」


 すでに服に着られてる感が出てるんだけど、その上装飾品? ビビるんですけど。シンプルだけど高級感漂う黒のジャケット。光沢をもったシルクのようなシャツ。ズボンは……お洒落な言い方だとパンツだったな。えーっと、パンツも少しタイトな黒。靴も黒……うーん黒が多かった気がする。このへんが地味なのか?


 やっぱり店員さんのお勧めの、ガラが入ったのにすればよかったか? でも、お洒落に憶病な俺からしたら、黒が落ち着くんだよね。ジーパンやチノパンがあれば、そっちの方が落ち着くけど。あと、タイトなズボン……パンツとか異世界にきてから初体験だ。俺はだぼだぼでも楽なのが好きだ。


「ベリルの宝石に行かれるのであれば、ある程度価値がある装飾品を身に着けておいた方がいいですね。まず、お店の女性が華やかで、身に着けているものも一級品ですから、目も肥えています。女性にいいところを見せたいのであれば、小物にもこだわらないといけませんね」


 そういう理屈か……個室なんだからある程度のかっこうをすればいいかと思ってたが、女性にモテるためとなれば話は違う。全力を出そう。


「店長さん、ご協力をお願いします」


「はい?」


「とりあえず、どれを身に着けて行けばモテますかね?」


 迷宮で手に入れた財宝の中から、自分でも気に入っていたものと、これは派手だし自分では無理だというものまで、魔法の鞄から取り出して店長さんの前に並べる。


「お、お客様はいったいどういった立場のお方なんですか?」


 目の前に並べられた煌びやかな財宝を見て、戸惑う店長さん。気持ちは分かるよ。俺だって財宝を目の前に並べられたら怖いもん。でも、飲み屋でモテるためならいくらでも身に付けちゃうよ!


「身元不明のお忍びのお金持ちで納得してください。こんなものを見せて言うのは何ですが、騒ぎになるのは嫌なので黙っていてくださいね。それで、どれがいいと思います?」


 時間がないので速やかにアドバイスをください。そして、ベリルの宝石でモテモテになりたいです。

デンシバーズ様にて第5話が公開されています。

どうぞよろしくお願い致します。

デンシバーズ アドレス

http://denshi-birz.com/seirei/


読んでくださってありがとうございます。

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