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三百九話 漢

 ブラストさんの治療を終えて、作戦を提案してみた。名付けて、ブラストさんのゾンビアタック……ゲームでは珍しくない作戦だけど、実際にやるとなると鬼畜な所業だな。


 指揮をとっていたらしいジュードさんが呼び戻され、ブラストさんのゾンビアタックを主軸にした作戦を練る。話を聞いたジュードさんや取り巻きのガラの悪い男達は顔を引きつらせている。……まともな感性をしている人が多くて少し安心だ。当然危険だと反対する人もいたが、ブラストさんがねじ伏せた。


 ブラストさんは自分が一番危険な役割なんだけど、むしろ今回の作戦に喜んでいるように見える。俺が提案した作戦なんだけど、俺が引いてしまいそうだ。


「では先生、弓使える奴は壁際で防衛と援護。ある程度戦える奴らは防御中心で親分が囲まれないようにフォロー。腕利きは親分がピンチになったら撤退支援と、元冒険者のやつら相手に時間稼ぎですね。ケガした奴らは先生のところにドンドン運びますが構いませんか?」


 ジュードさんは腹を決めたのか、淡々と作戦の確認を進める。切り替えが早いな。


「ええ、死ななければ大丈夫ですが、早めに運んでください」


「分かりました」


「よし! 面白くなってきやがったぜ! 元冒険者は残り五人。二人潰せりゃあとは楽勝よ。まずは盾役を潰すぞ!」


 ぶんぶんと楽しそうに腕を振り回すブラストさん。そういえば、元冒険者の事を何も知らないな。ちょっとジュードさんに聞いてみよう。


 ……男六人で、剣二人、槍、盾、弓、盗のパーティーらしい。その中で最初の戦いで潰したのが槍だそうで、次に潰すのは盾って事らしい。


 会議が終わり、にわかに周囲が騒がしくなる。ジュードさんが指示を出し、配置が変更され、ブラストさんは……なんかバカみたいに大きな金棒を装備しだした。あれってトゲトゲがついてたら、鬼が持っている武器だよね。


 俺もハンマーを使うから、同じ鈍器を使うものとして親近感が湧くが、俺の場合はチートで、ブラストさんは筋力……分かり合えないんだろうな。ブラストさんが金棒を素振りしている時の、筋肉の躍動感がハンパない。マッスルスターの面々と会ったら一瞬で仲良くなりそうだ。


 ***


「……ねえ、今からブラストさんが殴り込むんだよね?」


 戦いが見える二階の部屋に案内され、連絡係の俺を迎えにきたガラの悪い男に質問する。 


「そうっす! 今から親分が突撃するっす!」


 当たり前じゃないっすかって顔だ。俺が言いたい事が微塵も伝わっていないらしい。


「じゃあ何で堂々と玄関からでて、準備体操しながらゆっくり歩いてるの? 相手に準備させないためにもゆっくりしないで一気に奇襲をかけるべきなんじゃないの?」


「強い漢はそんな事しないっす!」


 ドヤ顔にこぶしを叩き込みたくなるが、どうやら男の美学的な問題らしい。俺には全く分からない世界だが、任侠的な雰囲気を持つブラストさんだから、譲れない一線があるんだろうな。


「……でも、ジュードさんは隠し通路を利用して背後から奇襲したんだよね?」


「ジュードの兄貴は強いっすけど、親分ほどではないっす。親分くらい強くないと漢とは言えないっす!」


 ……俺とこのガラの悪い男とでは、おとこって言葉に違いがあるらしい。さっぱり分からん。まあ、とりあえずブラストさんクラスになると、堂々と正面からって事なんだろう。


 ブラストさんは子分達を引き連れ、ゆったりと庭を進む。ネッロ側もブラストさんの行動に気がついたのか、臨戦態勢に移行しているようだ。子分が開いた門を堂々と金棒を肩に担ぎながら出ていくブラストさん。俺が思っていた抗争とずいぶん違うな。


 ただ、ネッロ側が酷く騒めいている。たぶんあれだけボロボロにされたブラストさんが、元気に出てきたから戸惑ってるんだろうな。


「おしっ! 元冒険者ども、出てきやがれ! 勝負だ!」


 ぶんぶんと金棒を振り回しながら大声で言うブラストさん。そのブラストさんに向かって無数の矢が放たれる。金棒で飛んでくる矢を弾き飛ばしながら、敵の集団に突っ込むブラストさん。その背後からブラストさんが孤立しないように子分たちが続く。抗争が始まっちゃったな。


「親分、やっちゃうっすー!」


 窓から身を乗り出して応援するガラの悪い男。


「バカなのね」


 隣で見ていたシルフィがボソッと呟き、その隣ではヴィータが苦笑いしている。この無茶苦茶な状況、シルフィなら面白がってもよさそうなんだけど、ちょっと趣味ではないらしい。暑苦しい感じがダメなのかな?


 よそ見をしていると、ガイン!っと大きな音が聞こえ振り向くと、ブラストさんの金棒が大きな盾に受け止められている。元冒険者達が出てきたようだ。あきらかに他の人達と装備の質が違う。元々高ランク冒険者パーティーってのは本当みたいだな。


 元冒険者達はブラストさんを取り囲もうとするが、それを子分達が邪魔している。元冒険者の盗賊が何かしようとしたところを、ジュードさんが襲いかかった。


 予定通り子分達は防御重視、ブラストさん対元冒険者パーティーって構図になったな。ジュードさんが盗賊を押さえているのは予定になかったが、なんか道具を取り出そうとしてたから押さえて正解だったんだろう。盗賊とか自由に行動させたらろくな事にならないのはテンプレだよね。


「うわぁ……盾を潰すって言葉の通りなんだね……」


 ブラストさんの戦い……巨体から叩きつける金棒の強烈な一撃。それをただひたすら盾役の男に叩きつけている。攻撃はそれのみだ。相手の隙を突こうとか考えてないな。本気で盾ごと叩き潰すつもりらしい。他の元冒険者からの攻撃は……一応避けようとしているのかな?


 死に直結しそうな攻撃は防御しているみたいだけど、中途半端な攻撃は無視して攻撃を優先しているようにも見える。痛いけど、傷はあとで治るから攻撃優先だなっ!とか思ってそうだ。 


 ガイン! ガイン!と広場に響く鈍い音。上から見ていると、ブラストさんの攻撃を受ける度に盾役の男が後ずさっているようにみえる。普通の人間ならあの攻撃を受けたら一発で叩き潰されそうな攻撃を、後ずさりしながらも防いでいるって事は、素行がよければAランクの冒険者ってのも嘘じゃないかもしれない。


「これだけ戦えるのに最初の戦いではボロボロにされたんですよね? 最初に倒した人がよっぽど強かったんですか?」


 応援しているガラの悪い男に聞いてみる。


「うーん、強かったし槍って事で面倒だったのはたしかっすけど、他の奴らとそんなに違いはなかったっす。ただ、あいつら最初はガンガンスキルを使ってきたんで、親分もかなりピンチだったっす!」


 そういえばスキルもあったな。自分もほとんど使わないから、すっかり存在を忘れてた。


「ブラストさんはスキルを使わないの?」


「親分のスキルはこういう場合は使い辛いっす。防御力を上げるスキルと、力を溜めてすげぇ強い一撃をくらわせるスキルっす。最初に使おうとして刺されたって聞いたっす」


 ……たしかにこの状況じゃあ使い辛いスキルだな。力を溜めている間に刺されるよ。ジュードさん達が時間を稼げば……どうなんだろう? 抜けられたら刺されるだけならリスクが大きいか。


「あっ、先生。ケガ人が運ばれてきたっす! そろそろ下にお願いするっす」


 そうだった。上でのんびり観戦しているわけにはいかないんだな。下に降りてケガ人が運ばれてくる予定の部屋に入る。


「先生! お願いします!」


 入ったとたんにケガ人が連れてこられた。おうふ、右腕がザックリ切り裂かれている。ヴィータに目線を送り急いで回復魔術をかけるふりをする。


「うおっ、治った」


 ちょっ、やめて、血まみれの腕を振り回さないで。血が飛ぶから。


「先生助かった。おーし、この傷の落とし前、必ずつけてやるぜ!」


 どたばたと走って出ていく男。……もしかしなくても腕を切りつけた敵にやり返しに行くんだろうな。それからはぽつぽつとケガ人が運ばれてくるようになった。


 一応防御を重視する話は伝わっているのか、死にかけるようなケガ人は少ないが、どうしても首などに傷を負い、血をダバダバ流しながら運ばれてくる人もいる。かなり心臓に悪い光景だ。


 ここからは外の様子は見えないが、シルフィがある程度実況中継してくれるので、なんとか状況は理解できる。今のところ作戦通りに進んでいるようだ。


「あら、ブラストが刺されたわ」


 なんですと!


 ***


「いやー、失敗したぜ。もうちょっとで潰せるところだったんだがな! 先生、すまねえが、急いで頼む! ジュード達が危ねえからな!」


 ……なんだろう、大怪我なのは間違いないんだが、お尻の右側に剣を生やしたブラストさんを見ると、コメディ感が漂っていて力が抜ける。でも顔や腕や背中にも傷が付いている。やっぱり大変な戦いなんだろうな。


「合図をしたら剣を抜いてください」


 付き添いの人に頼み、四つん這いになってお尻を上げているブラストさんに右手をかざす……嫌な絵面だ。詠唱をするふりをして左手で合図を送る。付き添いがお尻から剣を引き抜くと血が噴き出し、それに合わせてヴィータが治療する。


「治りましたよ」


「先生、助かったぜ。礼は必ずするから、部下達の事も頼む」


 ビシッと頭を下げたあと急いで部屋を出ていくブラストさん。お尻が真っ赤なんだけど……威厳的にどうかとも思うが、さすがにこの状況で着替えている時間はないか。


「ブラストが復帰して、相手が悲鳴を上げてるわよ。さんざん金棒を叩き込まれた盾の男とか、もう逃げだしそうな表情だわ」


 シルフィが抗争の状況を教えてくれるが、ブラストさんの二度目の復帰はなかなかの衝撃を与えているようだ。ほかにも倒したはずの相手が続々と復帰しているからな。相手側としたらたまったもんじゃないだろう。


 こちら側は精神的にやられてリタイアしたのは三人。相手側はそこまで治療体制が整っていないようで、軽傷はそのまま戦闘続行。危険なケガであればポーションといった具合らしい。このままなら、ブラストさんが元冒険者パーティーを抑えている間に、復活率の差で決着がつくかもな。

読んでくださってありがとうございます。

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