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三百八話 非情な作戦?

 ジュードさんの取り巻きのガラの悪い男に連れられて、隠し通路を抜けてブラストさんの家にたどり着いた。ボロボロになったブラストさんを治療し、別の部屋でその手下達の治療をしていると、ブラストさんが復活。速攻で殴り込みに行く準備をしているらしい。お説教のお時間のようだ。


 ブラストさんの部屋にジュードさんと共に走る。ノックもせずに部屋に入ると、ボロボロになった鎧を身に着けようとするブラストさんと、それを止めようとするエレンさんが口論している。


「親父!」


「おお、ジュードか! 今がチャンスだあいつらぶちのめすぞ!」


 好戦的な微笑みで、ジュードさんに言うブラストさん。全身に包帯を巻かれるくらいボロボロにされたのにこの元気、あきらかに俺と違う人種だな。


「ブラストさん」


「おっ、先生。今回も助かったぜ。この借りは必ず返す。本当にありがとう」


 グイっと近づき俺の両手を持ってお礼を言うブラストさん。感謝しているのは本当なんだろうけど、おとなしくする気はないみたいだ。あと、この種類の人達に借りを返すとか言われたら、ボコボコにされそうな気がする。まあ、さすがにこの場合は違うだろう。


「ブラストさん、前回、俺は数日おとなしくするように言いましたよね?」


「ん? ああ、俺もおとなしくしてたんだが、ネッロの野郎が攻めてきやがって、俺が出ないと危なかったんだ。先生の言葉を守れなかったのは悪いと思ってる」


 おおう、素直に謝られると、お説教に勢いがつかないんだが……。いや、とりあえずしっかりと言い聞かせておかないと、ヴィータにも悪い。あきらめるな。


「でも、今も安静にするように言ったのに、戦いにいこうとしてますよね?」


「む……それはそうなんだが、俺が出なかったら手下達がやられちまうし……」


「それなら、いきなり突っ込むんじゃなくて、ジュードさん達と協力して戦う方法もありますよね? こういう状況ですから、戦うなとは言いません。ですが、無茶をしないで戦う方法を考えましたか? せっかく治療したのに簡単にケガをされるのも、治療した側としては不愉快な事なんですよ」


 俺は別にブラストさんがケガしようが正直構わないんだけど、ヴィータが嫌がってるから言っておかないと。俺としては優しいヴィータが怒る姿とか怖くて見たくないからな。


「先生、申し訳ねえ。でも、俺が的にならねえと、ネッロが雇った元冒険者が散らばっちまうんだ。そうなったら何人死ぬか分からねえ」


 悔しそうに言うブラストさん。そんな状態なの?


「相手の冒険者ってそんなに強いんですか? ブラストさんが相手にして一人倒したんですよね?」


「あいつらが言うには元Bランクの冒険者パーティーらしい。素行が悪くて上がれなかったが、実力はAランクだって自慢してやがった。腹が立つが言うだけの実力はあったな。ジュードでも一人相手にするのが精一杯だろう」


 ……あれ? そんな相手にブラストさんは一人で立ちまわって、大怪我しながらも一人倒してるのか……もしかしてブラストさんって超強いの?


「それって争いが始まると、ブラストさんが出ないと勝てないって事ですよね? 相手も混乱してるって言ってましたけど、ブラストさんが大怪我しているのは分かってるんですから、攻めてこないのはおかしいですね」


 今ならやりたい放題だって相手も分かってるんじゃ?


「元冒険者の助っ人も、一人しか倒せなかったが、最低でも手傷は負わせたからな。籠城しているこの家に、簡単に攻めてこられるとは思えねえ。だから今が好機なんだ。疲労がとれねえうちにぶちのめす!」


 ……うーん、お説教する空気じゃないな。ブラストさんが出ないと人死にが増えるって言うなら、止め辛い事この上ない。どうしたいいんだ? チラっとシルフィとヴィータを見る。


「裕太、私が手をだせば簡単に終わるわよ。そうする?」


 シルフィがあっさりと解決策を提示してくれるが、それはそれで違う気がするんだよな。ぶっちゃけそこまでする義理もないし、例え俺が手を出したとしても、メンツだなんだの問題でブラストさん達も喜ばない気がする。でも、だからと言ってじゃあ帰りますってのも違うんだよな。難しい。


 考えた末に、シルフィに向かって首を横に振る。うーん、シルフィの風壁をブラストさんにかけてもらうとか? そうしたらブラストさん無双が始まって楽勝で勝てそうだけどな。


「ブラストさん、例えばなんですけど、絶対に傷つかない防御魔法があれば勝てますよね?」


「そりゃあ勝てるだろうが、そんなの戦いじゃなくて虐殺だな」


 嫌そうに言うブラストさん。なにその考え! 安全ならいいじゃん! 素直に喜ぼうよ! 戦いに美学とか必要ないでしょ。……いや、一応俺もできるだけ大精霊の力を借りないで戦おうとしてたし、同じ穴のムジナなのか? 違うな。俺ならケガをした時点でシルフィに泣きついてる。いい考えも浮かばないし、休憩させてもらうか。


「そうですか。ちょっと考えたい事がありますので、一人で休憩させてもらっていいですか? それとその間は、ブラストさんから攻撃に出ないようにしてくださいね」


「でも先生、時間がかかるほどあいつらが元気になっちまうよ」


「そこまで長い休憩じゃないので大丈夫ですよ。考えがまとまれば少しは力になれるかもしれません。我慢してください。エレンさん、ブラストさんが戦いにいかないように見張っておいてくださいね」


 少し不満そうなブラストさんを残して、ジュードさんに使ってない部屋に案内してもらう。なんとかちょうどいい支援方法をみつけて、さっさとこの抗争を終わらせるんだ。じゃないとベリルの宝石に遊びに行くのが間に合わないよ。


 ***


「それで、裕太はどうしたいの?」


 借りた部屋に入り一息つくと、シルフィが質問してきた。


(シルフィの力を借りれば簡単に終わるのは分かってるんだけど、それはそれで問題がありそうなんだよね。シルフィの風壁をブラストさんにかけてもらおうかとも思ったけど、嫌がりそうな感じだし、どうしようか?)


「プライドを持っているのは悪い事じゃないんだけど、巻き込まれると面倒ね。裕太としては見捨てられないんでしょ?」


 シルフィさん、よく分かってらっしゃる。


(簡単に話を聞いただけでも、ブラストさんの方が数段マシなんだよね。ウナギを頼んでいる事もあるし、できればブラストさんがスラムを仕切ってくれた方が気分はいいよね)


 別にネッロって人が仕切っても、ウナギは夜遊びを満喫したあとに、ベル達とベリル湖に取りに行けばいいだけなんだけどね。でも、それはそれで今までの努力が無駄になりそうで気に食わない。


「でも、今のままだと負けそうなのよね?」


(そうだね。ブラストさんが負けたら終わりって状況みたいだし、ヴィータの治療が間に合わなかったらその時点で詰んでたよね。ここからひっくり返すのに、どこまで手を貸すのかが問題なんだ)


 よく考えなくても不利な状況だ。ブラストさんが無理をするのもしょうがないのかもしれない。


「もう、ブラストを突っ込ませたらいいじゃない。ケガをしたらヴィータが治療すればいいわ」


 面倒になったのかシルフィが怖い事を言い出した。そんなことを言ったらヴィータが怒るよ。恐る恐るヴィータの様子を伺う。


「はは、裕太。僕も子供じゃないんだから、これくらいの事で怒りだしたりしないよ。人が争うのは昔から変わらない。楽しい事ではないけど、しょうがない事だよ。裕太が関わるなら協力するよ。まあ、できるだけ死人が出ない方が好ましいけどね」


 俺が心配するほど命に対して神経質ってわけじゃないんだな。愉快なわけじゃないだろうけど、長生きしている分だけ色々と経験しているようだ。できるだけって言ってる時点で争いで人が死ぬって事は分かっているんだろう。ある意味、俺よりもよっぽど現実が分かってるんだろうな。


 俺、抗争とか言ってても、どこかで喧嘩みたいな認識でいたもん。ブラストさんが毒を使われてボロボロになぶられてるのにね。とりあえず、ブラストさんとその部下が死なないように頑張ってみるか。相手の事は……そこまで面倒みられないな。


 シルフィの風壁はブラストさんの性格には合わないみたいだし、シルフィが言った事を煮詰めて形にする方がベターっぽいな。頑張ってるとか命を懸けているとか、そういう実感がたぶんブラストさん達には大切なんだろう。俺にはまったく分からない世界だけど。


(うーん、とりあえず元冒険者のパーティーさえ何とかできれば問題なさそうなんだよね。シルフィが言ったようにブラストさんに頑張ってもらうかな。ヴィータには何度も同じ人を治療してもらう事になりそうだけど、構わない?)


「うん、分かった」


「ありがとう。じゃあ戻ろうか」


 休憩に貸してもらった部屋を出て、ブラストさんの部屋に戻る。おうふ、ブラストさんが熊みたいに部屋の中をウロウロしている。怖いんですけど。


「とりあえず、状況を聞いたうえでお力になれそうな案を持ってきました。聞きますか?」


「おう、先生、聞かせてくれ!」


 グイっと顔を近づけてくれるブラストさん。目が血走っていて怖い。


「えーっと、ブラストさんが言っていたように、ブラストさんには的になってもらいます。他の人員は攻めずに防御中心で行動。その後方で救助隊を組織、傷ついたら速攻で俺のところに運んできてください。全部治療します。死なない事を第一に行動してください。それと腕利きの人はブラストさんが傷を負った時の時間稼ぎ要員です。治療してブラストさんが戻ってくるまで、死なないように元冒険者パーティ相手に時間を稼いでください。最終的にブラストさんが元冒険者パーティーを倒せば、あとは大丈夫なんですよね?」


「先生、それって父が勝つまで、治療しながら戦い続けるって事ですか?」


 エレンさんの表情が蒼ざめている。父親でゾンビアタックを実行しようとしているんだ。顔色も悪くなるのもしょうがないか。最初はブラストさんの側にヴィータを配置して、ケガするたびにその場で治してもらおうかとも思ったけど、それはそれでやりすぎだろう。


「そうですね。俺もどうかと思うんですが、この方法が一番人死にが少なくて勝つ確率が上がります。ブラストさんが即死しない限り、勝てますね」


「おもしれえ、俺が死なねえ限り、先生が治してくれるって事だよな?」


「そういう事です。死ななければ全部治しますから、頑張ってくださいね。ただ、死んだら治せませんし、治療が終わっても完璧に体調が戻るわけではありません。あまり無茶をしないで、早めに治療に戻ってきてください」


「おう、先生、恩に着るぜ。よし、ジュードを呼べ。さっさと配置を決めて、ネッロをぶちのめすぞ!」


「父さん、大丈夫なの?」


「おう、俺はあんな奴らに即死させられるほど弱くねえよ。先生の腕は確かだ。死なねえなら治る。勝ったも同然だろうが」


 エレンさんの心配そうな問いかけに、自信満々で答えるブラストさん。この乱暴な作戦を聞いて、喜べる神経が分からないな。まあ、いいや。とりあえず、速攻で勝てばベリルの宝石に行ける。何の問題もない。外で指揮していたらしい、ジュードさんが連れてこられ、作戦会議が始まった。

読んでくださってありがとうございます。

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[良い点] 味方の、なりかたに独自性あり。今の所は面白い。
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