三百五話 幸せな夜
今回は夜のお店に突入ですが、最後の千文字くらいは次に関係する描写があります。
目を通さなくても分からないという事は無いと思いますが、夜のお店に関する話が苦手な方も、
最後だけ目を通して頂けましたら、分かりやすいかもしれません。
よろしくお願いいたします。
俺は大いなる謎である、ビタンビタンを確かめるために大きさこそ正義!に足を踏み入れた。出迎えてくれた女性に、優しくお店のシステムを教えてもらい、奥に足を踏み入れる。
生バンドの演奏が聞こえ、この店も光量が調整された光球が浮いている。店の中を歩き回れるようにお立ち台が設置され、その上をこの店の正義を体現した女性達が歩き回っている。
キョロキョロしながら店の中を歩き回る。軽快な音楽にリズムを取りながら歩き回る女性達に目を奪われて、座る席がなかなか決まらない。うーん、よさげな場所には常連らしき人が陣取ってるし、なかなか難しい。うん? あそこのソファー、一つだけ空いてる。他のソファーは埋まってる事を考えると、いい場所っぽいな。
……なるほど、あの場所はちょっと狭いが、前と後ろにお立ち台が設置されている。ソファーも背もたれがないタイプを設置してあるところを考えると、前後どちらもお楽しみくださいって事なんだろう。どう考えてもお得だ。他の人に奪われる前に素早く席を確保する。
おお、お立ち台が結構近い。座ると見あげる景色が大迫力だ。とくにこの店の正義を下から確認できるアングルが素晴らしい。特に布地が少ないので、正義以外の部分もとても魅惑的だ。ここに住みたい。
「お飲み物はいかがですか?」
おふっ! あー、そういえば席に着いたら注文を取りにくるって言われてたな。目の前の光景に完全に心を奪われてたから、驚いちゃったよ。布地が少ない女性ウエイトレスさんにエールを注文して、大銅貨を渡す。
エールがくるまでじっくりと周りを観察するが、今度は集中しすぎないようにする。エールが運ばれてきた時にまたビクッてなるのは恥ずかしいからな。
***
運ばれてきたエールをチビチビと飲みながら、頭をフル回転させる。魅力的な女性が多すぎるぞ、大きさこそ正義。おじさんの一人が言っていたように、大きければ構わないので様々な種族がいる。
せっかくの異世界なんだし、今回は普通の人間はパスしよう。ネコミミ、イヌミミ、キツネミミ。さまざまなケモミミとシッポの獣人達。褐色の肌で耳が長いダークエルフ。ところどころにウロコが浮いた竜人っぽい女性。よく分からないが知らない種族も結構歩いている。
しかし……エルフらしき女性が一人もいない。この世界のエルフが、全体的にこの店の正義に適合しない存在なのか、それとも適合する存在はいるが偶々店に出ていないだけなのか、気になるな。
まあいい、観察の結果、この店の流れは完璧に把握した。そろそろ俺も行動に移る時だろう。気になっていた女性が近づいてきた時に、右手を軽く上げる。
それに気づいた女性が俺の目の前で立ち止まり、片膝をついて姿勢を低くしてくれる。うむ、絶景です。素早く右手でチップを差し出すと、右手が温かい正義に包まれる。最終的に大銅貨は腰に付けた小袋に収められるんだが、この受け取り方はずるい。何度でもチップを渡したくなってしまう。
「お姉さんは魔族なんですか?」
「ええ、そうよ。魔族を見るのは初めて?」
「いえ、町で見かけた事はあるんです。でも、話すのは初めてですね」
やっぱり魔族なんだな。頭に小さな二本の曲がった角。光沢がある先がとがったシッポ。蝙蝠のような黒い羽。俺が想像する魔族の女性そのものだ。羽のサイズが小さい気がするが、退化したのか大きさを変えられるのかどっちなんだろう?
「あら、私が初めてなんて光栄ね。じゃあたっぷりサービスしないといけないわね」
妖艶に微笑む魔族のおねえさん。シルフィやディーネとは違う、退廃的な雰囲気に頭がクラクラする。どちらかと言うと闇の精霊王のダーク様に近い雰囲気だな。たっぷりなサービスってなんなんでしょう?
「お願いします!」
***
たっぷりのサービス……元々を知らないので、どのくらいたっぷりだったかは分かりませんでしたが、とっても素晴らしかったです。
大銅貨一枚目 目の前でこの店の正義が大暴れします。
大銅貨二枚目 後ろを向いたお姉さんが、桃をフリフリしてくれます。
大銅貨三枚目 小さな布がついた上の紐が取り払われ、大暴れします。
大銅貨四枚目 正義のビンタの執行。ビタンビタンの謎が解明される。
大銅貨五枚目以降 自主規制です。
ふー、改めて思うが、大銅貨を渡す時の温もりも合わせると、この集金システムは恐ろしすぎる。際限なく大銅貨が飛んでいってしまいそうだ。
「うふふ、沢山のチップをありがとう。もう終わりにしておく?」
正直、他の獣人のおねえさんや、ダークエルフのおねえさんにも興味津々だ。だけど、そっちに集中している間にこの魔族のおねえさんがいなくなってたりしたら、泣くに泣けない。
「お話したいんですけど、一緒に飲んでくれませんか?」
「あら……飲むだけなの?」
悪戯っぽく微笑む魔族のおねえさん。……鼻血が出そうです。とりあえずそれも含めて、じっくり相談するという事で隣に座ってもらった。魔族のおねえさんの飲み物も注文し、交渉開始だ!
***
あぁ、異世界に落ちてよかった! 一瞬、楽園で待っている精霊達や弟子たち、日本で心配しているであろう家族や友人の顔がよぎり、罪悪感が湧いたが、こればっかりどうしようもないので即座に意識の片隅に追いやる。だってしょうがないよね。このままだったら爆発しそうだったんだもん。
男の都合のいい言い訳で自分を納得させ、朝と言うには少しだけ遅い時間の歓楽街を歩く。しかし昨日はすごかった……あの魔族のおねえさん、聞いてみたらやっぱり、サキュバスだった。店に勤めているくらいだから大丈夫だとは思ってたけど、一応死ぬまで搾り取られる事があるのかだけは確認した。
軽く笑われたが、そんな事はしないわっとの返事が返ってきた。できないじゃなくてしないって返答に、ちょっとだけひやっとしたが、しないのならできないと同じと割り切って交渉。見事朝までご一緒する権利を勝ち取った。
魔族のお姉さんへの報酬もだが、お店への支払いも合わせると、少し高めの歓楽街だけあって結構な額になったが後悔はしていない。魔族の本職のすごさを存分に見せつけられ、死ぬまで搾り取られる事はなかったが、ごめんなさいと言いたくなるまでは……。
気絶するように眠り、朝、もう一回戦お相手してもらい一緒に朝食を取った。魔族のおねえさんが、ビックリするくらいに艶々になっていたが、それは俺のレベルも関係していたらしい。
……俺って結構な高レベルだよな。その俺が気絶寸前まで……よく考えたら怖くね? まあ、こちらの様子を見ながらコントロールしていたみたいだから、安全なんだろう。別れ際に今度はもっとサービスするから、また来てねっと言われた。
……ぜひともまたお願いしたいが、少しビビっている俺がいる。あれ以上のサービスをされたら、俺、どうなっちゃうんだろう? それに他のお店にも行ってみたいよな。ベリル王国にきてから、幸せな悩みが増えて困ってしまう。
ボケっと先ほどまでの幸せな時間に浸りながら歩いていると、いつの間にか歓楽街を抜けていた。時間もないんだし、そろそろシャンとして買い物にいくか。精霊達のお土産も買わないといけないからあんまり時間がない。
とりあえずシルフィ達のお土産は簡単だな。王都の酒場に片っ端から入って、この国のお酒を買い集めたらそれで満足してくれるだろう。召喚して一緒に酒屋を巡るのもありかもしれないが、そうなると精霊の村のフォローが足りなくなるかもしれないし、ベル達も呼ばないと不公平な気がする。あと一緒に選んだらお土産じゃないよね。
難しいのはベル達、ジーナ達、フクちゃん達のお土産だ。とりあえずベリル湖の魚介で最低限のお土産にはなるだろうけど、それだけだと寂しいから他にも何かを用意したい。
そういえば精霊の村で頑張ってくれているルビー達にもお土産が必要だな。ルビー達はベリル王国の食材で十分喜んでくれる気がする。まあ、色々と買って帰ろう。そういえばエメがほしがっていた雑貨もお土産として買って帰るか。
他には、うーん、小物が無難だよな。アクセサリー類は精霊には向かないから部屋における小物。ジーナ達にはアクセサリー類でも構わないかもしれないが、マルコは興味がなさそうだし別の物がいいだろう。
魔法の鞄にあるアクセサリーを渡せばいい気もするが、それだと旅行のお土産っぽくないし、財宝だとジーナ達は遠慮する。ちょうどいいランクの物をさがそう。結構沢山買わないと駄目だし、時間がかかりそうだ。さっそく行動しよう。
***
「うあ゛ーー、疲れたーー」
喫茶店のテーブルにベタっと体を押し付けうめく。オープンカフェなので、一瞬道行く人の注目を集めてしまった気がするが、もはやどうでもいい。異世界でお土産を選ぶのってかなり疲れるよ。
この世界は気軽に旅行にいける環境じゃないから、お土産屋なんてない。当然ご当地キーホルダーや、ご当地銘菓なんていう便利なものもない。少人数ならなんとかなるんだが、ベル達、ジーナ達、フクちゃん達と人数が多かったのが辛かった。こうなるとお酒で喜んでくれる大精霊達は、ある意味簡単で助かる。
色々と歩き回りながら酒屋を発見しては、地元のお酒を買い込んでいく。エールやワインはもちろん、ミードというお酒が売られていたので即購入した。
ミードはハチミツから作られたお酒で、水源が豊富で周囲に植物が豊富なベリル王国の名物なんだそうだ。養蜂をしているのかとも思ったが、天然のハチミツが沢山捕れるらしい。どれだけハチがいるんだろう?
沢山いるのなら捕まえて楽園に放そうかなっとも思ったが、一日で植物が実りそのまま刈り取られるような環境に連れて行くのはどうなんだろう? ローズガーデンならなんとかなりそうだが、そこ以外は椿の森くらいしか花が咲かないんだよな。バラのハチミツとか椿のハチミツとか魅かれるものがあるが、ハチを連れて行くのはもう少し自然が増えてからにしよう。
それにしてもハチミツ酒か……地球では最古のお酒って言われてたってのは聞いた事があったが、飲んだ事はなかった。試飲させてもらうと、香り豊かでスッキリと飲みやすいミードと、濃厚で甘みが強いミード、どちらも結構好きな味だった。ただ、意外とアルコールが強そうで、ちょっと驚きだ。
勝手な想像だけど、ファンタジーの世界ではミードって女子供の飲み物だってイメージがあったから、ジュースにちょっとアルコールが入ってるくらいだと思ってたんだよな。飲んだ感じではアルコール度数10以上ありそうだった。飲みやすいからついつい飲み過ぎてしまいそうなお酒だ。コンパに持っていきたい。
まあ、とりあえず、シルフィ達のお土産は大量に買いそろえたから問題ないだろう。ここでも、業者と間違われるくらいに大量に買ったが、王都には偶にしかこれないだろうし、大丈夫なはずだ。
ちびっ子軍団+ジーナには……まあ、色々買ったし喜んでくれるといいな。特に一つ、見つけた瞬間にこれしかないって思ったお土産。これが喜んでもらえれば、楽園が更に楽しくなるはずだ。
それにウナギに突き刺すピックみたいなのも買えたし、疲れたが悪くない買い物だった。グデッとテーブルに伏せて紅茶をすすっていると、不穏な会話が横の席から聞こえてきた。
そのテーブルを見ると警備隊の人達が優雅に紅茶を飲んでいる。いや、話の内容からしたら紅茶を飲んでる場合じゃないだろ。仕事しろよ。
その前に詳しく内容を教えてください。スラムで抗争勃発ってどういう事ですか? ウナギは? ブラストさん何やってるの? 数日はおとなしくしているように言ったよね?
読んでくださってありがとうございます。