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三百四話 三人の親切なおじさん

今回のお話と三百五話は歓楽街のお店に入る事になります。

内容的には重いものではありませんが、このような話が苦手な方は申し訳ありませんが、飛ばして頂いた方がいいかもしれません。よろしくお願いいたします。

 下品だが、金に物を言わせてフルオーダーの服を注文した。そのあとはジュードさんお勧めの歓楽街に足を運んだ。まさかこんなに楽しい場所で、こんなに難しい問題にぶつかるとは……。


 ネオン代わりに煌めく様々な色の光球。日頃のストレスを発散とばかりに酒を飲み騒ぐ男達。そんな男達を掌で転がす女達。そんな中で悩み過ぎて身悶えする俺。


「おい、どうしたんだ。飲み過ぎたか? 気分が悪いなら休めるところに連れてってやるぞ」


 声をかけられ、顔を上げると三人のおじさんが俺を心配そうに見つめている。……どうやら身悶えしている俺を心配してくれているらしい。なんだか申し訳ないです。


「い、いえ、ちょっと悩んでただけで、お酒は飲んでないから大丈夫です。ご心配をおかけしました」


「そ、そうなのか? 相当ヤバそうだったが酒飲んでないのか……」


 あれ? ぽそっと酒を飲まねえで、あの動きの方がヤバいけどなって聞こえた気がする。


「それで、なんで悩んでんだ。飲み屋のねえちゃんに入れあげちまったならあきらめろよ。あっちも商売なんだ。本気にしてもろくな事になんねえぞ」


「そうだぞ。お前みたいに思い詰めるタイプが、刃傷沙汰をおこしちまうんだ」


「まだ若いんだし、今度はいい相手がみつかるさ。自分を信じろ」


 ……三人のおじさんが、勝手に俺が飲み屋のお姉さんに入れあげて、苦しんでいると誤解して慰めてくれる。方向性はズレているがいい人達なんだな。しかし、ふと思うがなんで飲み屋の女性を表す時、おねえちゃんって言うんだろうな。


 俺もこのおじさん達も、飲み屋の女性よりも大抵は年上だと思うんだが……様式美ってやつなのか? ……くだらない事を考えている俺を心配そうに見つめるおじさん。いかんな、このおじさん達も楽しみにきてるんだ。邪魔しちゃ悪い。


「大丈夫です。飲み屋のお姉さんに入れあげているわけでもありません。この歓楽街にくるのは初めてなので、どの店がいいか悩んでいただけなんです」


「あはは、そんなんであんな動きをするまで悩んでたのかよ。気になった店に入ればいいじゃねえか」


「面目ないです。でも、久しぶりの歓楽街で、明日を除けば次に遊びにこれるのも間が空きそうですから、できれば最高に楽しみたいんです」


「あー、なるほど若いねー。俺にもそんな時があったよ。まあ、貴重な機会を無駄にしたくないってわけだな。それなら俺達が相談に乗ってやるよ。ここら辺は庭みたいなもんだからな。それでどの店で悩んでるんだ? 俺のお勧めを教えてやろうか?」


「そうだぞ。俺達は常連だからな。役に立つぞ」


「可愛い女の子か? 美人な女の子か? どっちが好みなんだ? それによってお勧めの店は違うからな」


 ……なんか、三人のおじさんが自信満々の顔で聞いてくる。ちょっと高めの歓楽街の常連なのか。気のいい感じのおじさん達なんだけど、お金は持ってるんだな。まあ、相談に乗ってもらえるなら助かるのは事実だ。常連の力、みせてもらおう。


「えーっとですね、ケモミミ達の饗宴。舞い踊る愛の煌めき。大きさこそ正義。乙女達の戦い。THE純朴!の五店で迷っています。どうでしょうか?」


「なるほど、なかなかいい目をしているな」


 おじさんの一人に、格闘漫画の主人公が言われるようなセリフで褒められながら肩を叩かれた。店のチョイス自体はなかなかいいところを突いていたようだ。


「ああ、どこも人気店だな。しかし、全部おねえちゃんが脱いじゃう系の店だな。普通におねえちゃんと会話しながら飲む店はいいのか?」


「一緒に飲むスタイルのお店は、明日行く事が決まっているんです。ですので今日は脱いじゃう系の方が……」


「なるほどな。そうなるとお兄ちゃんの店選びは間違ってねえ。どれも行った事があるが、人気店って事にあぐらをかいてねえいい店ばかりだ。その中の一番となると、たしかに俺でも悩むぜ。だがまあ一番は……」


「大きさこそ正義」

「ケモミミ達の饗宴」

「THE純朴!」


 三人のおじさん達がせーので声を揃えて、違う店の名前を言った。信じられないといった顔で視線をぶつけ合う三人のおじさん。俺のくだらない悩みが、三人のおじさんの長年の友情にヒビを入れた瞬間だった。


「おいおい、お前ら、なに言ってるんだよ。このお兄ちゃんはな、脱いじゃう系の店で目を楽しませたいんだ。それなら大きさこそ正義一択だろうがよ。バインバインでブルンブルンのビタンビタン。これを勧めないでどうするよ!」


 バインバインでブルンブルンは分かるが、ビタンビタンってなんですか? 激しく気になるんですけど。


「お前こそなに言ってるんだよ。様々なケモミミがミミをピコピコ、シッポをフリフリおもてなしが最高なんだろうが。大きければ目を楽しませられるわけじゃねえ。基本を見失うとは、目が曇っちまったな」


 なるほど、ピコピコにフリフリですか。それはそれは素晴らしい光景なのでしょうな。


「目が曇ったのはお前ですー。大きさこそ正義には当然獣人のおねえちゃん達も多数在籍しているんですー。獣人だけにこだわったケモミミ達の饗宴よりも、大きければどんな種族でも受け入れる、大きさこそ正義こそ、正義なのだよ」


 バーンと背景がつきそうな感じで、もう一人のおじさんを追い詰めるおじさん。


「おい、お兄ちゃん。あの二人のいう事は聞かなくてもいいぜ。そんなのよりもTHE純朴!これ一択だ。まだ都会になれていない素朴な女性達が、頬を染めつつ恥じらいながら一枚一枚、想像してみな。最高だろ!」


 言い争いに加わらなかったおじさんが、俺にTHE純朴!を勧めてくる。なるほど、こちらは慣れよりも初心さを勧めてきたわけか。たしかに女性の恥じらう姿と言うのは、それだけで魅力的な……。


「おいおい、抜け駆けしてんじゃねえよ。だいたい、THE純朴!は演技もクオリティも最高だが、いずれは慣れちまうものなんだよ。お前のヒイキのマリンちゃんだって普段はデーハーな格好で王都を謳歌おうかしまくってんだかんな」


「ウソだ! マリンちゃんはな、貧しい農村で頑張って働く両親のために、頑張ってるんだぞ!」


「はい情弱ー。マリンちゃんは頑張って稼いで、両親と妹を王都に呼んで、彼氏もできて幸せ絶好調なんですー」


 マリンちゃんごめんなさい。なぜかあなたの現状が大勢の前でバラされてしまいました。


「な、なんだと……」


 ガックリと膝をつくおじさん。俺のせいで心に傷を負ってしまったんだな。せめて俺が慰めないと。


「うう、マリンちゃん、幸せになれたんだね。よかったね」


 膝をついたおじさんが、呟くようにマリンちゃんの幸せを喜ぶ。あんたいい人すぎるよ! 思わずおれまで涙ぐんでしまいそうになる。


「なあ、話を聞いてたんだが、俺なら乙女達の戦いがいいと思うぞ。あの子達の戦いは胸を熱くしてくれる。ついでに下もな……」


 外野から一人が乱入してきてしまった。しかも、なんか上手い事言ってやったぜ的にドヤ顔をしている。情報はありがたいし、胸が熱くなる戦いも興味はあるけど、乱入者まで現れたら収拾がつかなるなるからやめてほしい。


 あっ、もう遅かった。俺達の会話を周りで面白そうに聞いていた部外者達も話に参加しだした。自分のお勧めの店を推すのまでは納得できるけど、しれっと店の人まで交ざっているのか、うちの店はっとか言ってる人もいる。


 ***


 ……繁華街の路上で始まった男達の熱い戦い。俺の相談に乗ってくれるはずだった三人のおじさん達も、その戦いの波にのまれていった。激論が交わされ、どこの店が最高だ! どこのなにちゃんが可愛すぎる!などともはや収拾がつかない。


 最終的に警備隊の介入によって、熱い戦いに終止符が打たれた。どうやら騒ぎ過ぎたらしいが、幸いな事に手が出るような争いにはならなかったので、誰も捕まる事なく解散。なぜか満足気な男達は激論を交わした相手と肩を組み、それぞれのお勧めの店に散っていく。とりあえず、俺はどこに行けばいいんだろう?


 ……口々に放り込まれた情報を思い出し、どの店に行くべきか吟味する。どこも楽しそうな内容で、正直全部を回りたい気分だが、時間が足りない。……ならば気になった謎を解き明かしに行こう。そう、ビタンビタンの謎を……。


 覚悟を決めた男の顔で、歓楽街を歩く俺。もはや一片の迷いもなく、胸を張り力強い足取りで進む。


 ***


「いらっしゃいませ。あら、お客さん。この店を選んでくれたんですね。ありがとうございます!」


 店に入ると、女性店員さんがいきなりお礼を言って、体を寄せてきた。……なるほど、大きさこそ正義の名前に偽りはないって事か。この女性の正義も、あきらかに大きい。しかも、身に着けているのは、ほぼ紐に少しの布地。こぼれ出てしまいそうでドキドキする。あれ? 


「……えーっと、俺を知ってるの?」


「やだ、お客さん。表であれだけ騒いだのに、知らないわけないですよー。私も見にいきましたもん。おかげさまで、いままでこのタイプのお店に来なかったお客さんも、興味をもって入ってきてくれてたので、大感謝です」


 ……あー、なるほど。あの三人のおじさん、声が大きくて目立ってたもんな。その中心にいたんだからそれは目立つだろう。それで、脱いじゃう系のお店には入らずに、お話系のお店や本番系のお店に行っていた人達も、気になって店にきたって事か。


 変なところで目立っちゃったな。名前を出してないし、酔っ払いが沢山いたから問題ないと思おう。だいたい、三人のおじさんも最後には俺の存在を忘れてたからな。


「あはは、親切な人が沢山いたので助かりました」


「ふふ、みなさんお好きですものね。それで、お客さんはこのお店のシステムって知りませんよね?」


 システム? そういえばそういう話は出なかったな。 


「ええ、まったく知りません」


「では、ご説明しちゃいますね。まず座る場所ですが、空いている席であればどこにお座りになっても構いません。席にお座りになりますと、お飲み物の注文にお伺いしますので、お好きなお飲み物をご注文ください。値段は一律千エルトで、代金は先払いになります。お釣りはでますが、ここで大銅貨に両替しておくのが便利ですよ。他にも色々便利ですしー」


 千エルトか……結構高いけど、こういうお店ならしょうがないかな?


「他にも色々便利って?」


 俺が質問すると、よくぞ聞いてくれましたって感じで、大きく動く。それと同時に彼女の正義も大きく震える。ごちそうさまです。


「それはですね、中には沢山の踊り子がいます。チップを渡すといい事があるって事ですね。それと、気に入った子がいれば、交渉次第で……ですから頑張ってくださいね」


 えっ? ……って、……って事? つまり、ここで気に入った女性がみつかれば……なるほど。それはそれで素晴らしい。両替をして、詳しく説明してくれた彼女にもチップを渡す。えっ、チップってそうやって受け取るの? あったかいんですけど……。まだ完全に中に入ってないのにすでに楽しい。

読んでくださってありがとうございます。

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