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三百二話 歓楽街(高級路線)

 歓楽街(地元向け)を一通り見て回り、十分に観光?を満喫したあと、移動して目的の大本命である、歓楽街(高級路線)に到着した。


 ……なん……だと……。


 目的の歓楽街(高級路線)に到着し、ワクワクしながら歓楽街の入り口を通り抜けると、予想外の光景が広がっていた。


 高級路線ってこういう事なんだ。ジュードさん、先生なら高級路線の方が口が固いからお勧めですって言ってたけど、俺の事をどう思ってるの? 俺の変な噂をバラまくようにお願いしたし、とんでもない誤解を受けている気がする。


 まあ、今更ジュードさんを問いただしに行くのも面倒だ。このままこの高級路線の歓楽街で遊ぶか、地元向けの歓楽街に戻って遊ぶか……重大な選択だな。


 地元向けの方は、猥雑とした雰囲気が嫌いじゃないし、危険はあるが安全な店を選ぶ事ができれば楽しそうだ。というよりも、地元向けでも遊んでみたい。


 そして高級路線は……入り口付近で立ち止まり、周りの様子を観察する。煌びやかではあるものの、洗練された雰囲気をかもし出す街並み。広くとられた道幅を行き交う高そうな馬車。


 お客さんのお見送りに一緒に出てきた女性は、セクシーなドレスを身にまとい、高そうな宝飾品で武装している。


 お客さんが出てくると同時に、店の前に横付けされる馬車。その馬車に乗り込む高そうな服を着たおじさん。ここは、あれだ……俺が想像していた、普通の店よりも倍ぐらい高いお店が集まっている場所ではない。


 日本で言えば、昔の芸能人とかが一晩で何百万とか使うイメージの高級店がひしめき合っている場所……飲みに行った事ないけど銀座の高級クラブって感じか? 明らかに場違い感がハンパない。


 よし、地元向けの歓楽街に戻ろう! くるりと身をひるがえして、その場で足を止める。……そういえば、ジュードさんが言ってたのは、歓楽街の入り口で左に折れて、奥に進んだ一帯だって言ってたな。


 ……なるほど。高級路線の歓楽街にも場所によって違いがあるんだな。俺が見たのは高級路線の歓楽街の、超高級な部分なのかもしれない。そうだよな。ある程度お金があったとしても、みんながみんな、煌びやかな馬車に乗って、贅沢に遊べるわけじゃない。それなら左に曲がってジュードさんお勧めの高級路線に……。


 ここで逃げてしまっていいのか裕太。たしかに地元向けの歓楽街でも、俺なら十分に楽しめるだろう。ジュードさんお勧めの場所もまだ見てないが、満足できるかもしれない。


 ……だが、異世界にきたというのに、目の前の場所が高級そうだからってビビって逃げ出す。本当にそれでいいのか?


 日本にいた頃は、一般的なサラリーマンで、ザギンでシースーでナイトフィーバー的な事は、到底無理だった。でも、今の俺は迷宮素材で潤いまくっている。下手したらそこらで馬車に乗っている人達よりもお金持ちな可能性だってある。成り上がり者として、新たな扉を開くべき時なんじゃないのか?


 ……よし、高級路線の中の高級路線に挑戦しよう。何事もやってみないと分かんないんだし、お金持ちが大金を使って遊ぶんだ。よっぽど楽しい場所なはずだ。だいたい、店が高級っぽかろうが、なんぼのもんじゃい。ファイアードラゴンに比べたら、怖くもなんともない。ビビるな俺!


 覚悟を決めなおし、もう一度振り返り歓楽街の奥にむかって歩く。どうせなら一番高そうな店で遊んでやる。


 一通り歓楽街を流し見しすると、やけに警備兵らしき存在が目に付く。金持ちが沢山来るから警戒が厳重なのかもしれない。まあ、悪い事をするわけじゃないし、俺には関係ない。目星をつけた店に突入……俺の前に立ち塞がる二人のごつい男。


「えーっと、中に入りたいんだけど?」


「ここはお客様が入られる場所だ。仕事がほしいなら裏に回れ。だが、ここは長い歴史を誇る王都一のクラブだ。紹介状がない者は雇ってもらえんぞ」


 ……ガッデム。遊びにきたのに、仕事を探しにきた的な扱いをされてる。しかもクラブって、地元向けの歓楽街を見た時も思ったけど、マジで俺以外の異世界人が関わってるんじゃね?


 いままでほとんど他の異世界人の存在を感じなかったのに、夜遊びにきたら感じるとか、少し複雑な心境だ。もしかして、さがしたら異世界人に会えるかも……いや、長い歴史って言ってたし、歓楽街を作るのに関わってたなら、さすがに生きてないだろうな。


「働きにきたんじゃなくて、遊びにきたんだけど」


「ここは最高級のクラブだぞ。店に入るには、常連の方の紹介、もしくは紹介状が必要だ。それ以外では店が客にしたいと思える身分が必要だ。証明できるのか? それに、たとえ証明できたとしてもその服装では他の方の迷惑になる。諦めろ」


 聞き分けのない子に諭すような視線で道理を説くガードマン。ぐうの音も出ないとはこの事だな。たしかにTPOをわきまえていないのは俺の方だ。


「えーっと、服装を何とかしたら遊べますか?」


 納得はできたが、気合を入れて新たな扉を開こうとしたのに、一歩目で躓くのは嫌だ。とりあえず、色々と質問して、計画を練ろう。どうせなら王都一のクラブとやらで遊んでみたい。


「服装を変えただけでは駄目だな。先ほども言ったが身分も大事だ。この店で遊ぶにはそれ相応の格が必要なんだ。ここら辺で遊びたいのなら、入り口から左に曲がった先の一帯で遊べ。あそこなら、金があれば楽しい場所だぞ」


 金があれば楽しい場所。たぶんジュードさんが勧めてくれた場所の事だな。そこももちろん興味があるが、ここで引いたら男が廃る。何とかあがいてみよう。


「Aランクの冒険者とかだと遊べるんですか?」


「あはは、面白いやつだな。まあ、Aランクの冒険者の客がいない事もないから、可能性はあるな。おっと、俺も仕事中だ。お前もあきらめて帰れ」


 うーん、服装をなんとかして、ギルドカードを見せれば何とかなる可能性はある。でも、それをやったら、名前を隠して王都に入った意味の大半を失う。別に遠い国だし絶対に名前を明かせない訳じゃないんだけど、ここまで頑張ったんだし、なんとか内緒のまま頑張りたい。うーん、名前を明かさずに身分を証明できる方法ってないか?

 

 例えばブラストさんに紹介状を書いてもらえたら大丈夫だったり……飲み屋って裏社会とも関係がありそうだし、いけるか?


 でも、飲み屋で門前払いを食らったから、紹介状を書いてくださいって言うのは恥ずかしいな。命の恩人です。何でも言ってください的な事をブラストさんも言ってたから、書いてくれるだろうけど、命の恩人を笠に飲み屋の紹介状って……うん、やめておこう。俺にとってもブラストさんにとっても、悲しい感じになりそうだ。


 あっ、いい事思い出した。これなら何とかなるかも!


「最後にこれだけ教えてください。これなら紹介状の代わりになりますか?」


 いそいそと王様からもらったゴージャスな短剣を魔法の鞄から取り出し、ガードマンに見せる。たしか、国外でもそれなりの効果があるって王様言ってたもんな。もしかしたら、なんとかなるかも。


「なんだ、短剣か? ……おい、これをどこで手に入れた。どう考えても普通の品じゃないぞ!」


 ガードマンの顔つきが変わる。うん、それ、王様からもらった短剣だから、いいものなはずだ。確か王様の庇護下にある的な感じの短剣だった……よな?


 別にこの短剣を使っても問題を起こさなければ、お宅の国王様の短剣を持った人物が、それを身分保障に酒を飲みにきましたとか、問い合わせる事はないだろう。……ないよね? この国のお偉いさんには伝わる可能性はあるが、背格好だけでは人物の特定までは難しいはずだ。


 スラムを調べられたらバレそうな気もするが、国とは距離を置いてる感じだし、嘘くさい噂が蔓延してるから大丈夫だよね。 


「偉い人からもらった短剣です。身元の保証と紹介状の代わりにはなると思うんですけど……」


 短剣を確認したガードマンの二人が、ひそひそと話し始めた。漏れ聞こえる話の内容に、どこかのボンボンとか、おしのびとかそんな単語が聞こえる。確実に誤解されてそうだけど、好都合っぽいし黙ってよう。ちゃんとお金は払うんだし、問題ないはずだ。


「これは私共では判断ができません。少々お待ちいただけますか?」


 ゴージャスな短剣を俺に渡しながら、ガードマンが言う。なんか敬語になったし、状況が好転したっぽいぞ。ガードマンの一人が店に入り、誰かを呼んできた。ピシッとした服を着た、年配の男性。やり手の男って雰囲気をビシバシ感じる。短剣を見せてくれって言われたので、やり手っぽい男性に短剣を渡す。


「お客様、ここではなんですので、奥の部屋にどうぞ」


 短剣を見たあと、やり手っぽい男性の頬が、一瞬ピクッて動いた気がする。ベリル王国はクリソプレーズ王国と敵対関係にはないはずだし、問題はないよな? 俺も質問したいし、中に入ってみよう。


「分かりました」


 やり手っぽい男性に案内され、店の中に入る。おおう、さすが王都一の高級クラブ。店内がゴージャスだ。ただ、ギラギラで派手なわけではなく、洗練されたゴージャスさとでも言えばいいのか、下品さを微塵も感じさせない。


 ヤバい。新たな扉を開くとか言ってたけど、ガチの高級感を見せつけられると、帰りたくなってきた。ファイアードラゴンを引き合いに出したけど、これは違う種類のプレッシャーだよね。足が震えます。


 どうやら、応接室に通されたようだ。うん、さすが高級クラブの応接室。ソファーに座ってもまったく落ち着ける気がしない。慣れたら大丈夫だとは思うんだけど、この豪華さを当然と受け止められるようになるとか、人格が崩壊しそうで逆に怖い。ちょっとドキドキしながらも、楽しめるようになるのがベストって事にしておこう。


 出された紅茶の味に口をつけ、その味におののいていると、やり手っぽい男性がおもむろに口を開いた。


「先ほどは失礼いたしました。私はこのクラブ、ベリルの宝石の支配人を務めております、ジャンニノと申します」


 座る俺の前でビシッと綺麗にお辞儀を決めるジャンニノさん。いきなり偉い人が出てきちゃった。異世界の階級は分からないから、オーナーや俺が知らない役職があるかもしれないが、とりあえず上の方なのは間違いないだろう。


「あっ、はい。よろしくお願いします」


 ……とりあえず、ジャンニノさんが飲みにきていいよって言えば、この店に出入りできるようになるんだよな。頑張らねば。何を頑張ったらいいのか分かんないけど……。


「よろしくお願いいたします。失礼ですが、お名前をお伺いしても?」


 名前……とりあえず本名を名乗るのはなしって事で、名乗るなら偽名だよな。


「えーっと、ですね。太郎と呼んでください」


 ……俺、やっぱり名前を付けるのって苦手だな。なんだよ太郎って、偽名のひねりがなさすぎるぞ。……いや、異世界なんだし、太郎は逆に怪しくないかも。まあ、いいや。ジュードさんが高級店は口が固いって言ってたから、太郎でも大丈夫だと信じよう。


「さようでございますか、では、太郎様と呼ばせて頂いても構いませんか?」


「え、ええ、大丈夫です」


 実際には大丈夫じゃないけどね。偉い男の人から様呼びって罰ゲームか?


「それでは、太郎様、お見せいただいた短剣は、さる王国のやんごとなきお方の、紋章が刻まれた特別な短剣でございました。それはその国が、太郎様の身分を保証したと同じになります。当クラブとしては光栄な事でございますが……」


 少し困った顔で俺を見るジャンニノさん。本当にこんなところでその短剣を出しちゃっていいの?って言いたいんだろうな。しかし、王都一のクラブの支配人って、他国の紋章まで知識があるんだな。しかも、特別って言ってたし、国が保証する効果とも言ってたから……あれだな。王様の短剣だってところまで、分かってるんだろうな。


 でも、国が保証するのか……庇護下って言ってたから、ある程度の権利は保証されると思ってたけど、思った以上に物騒な効果がついた短剣だった。ご老公様ゴッコに使えばいいかとか考えていたけど、さすがに飲み屋に使うのは不味かったか?


 ……まあいい、もしもバレたら、飲み屋に使うなって言われてなかったから、俺のせいじゃない。そんな事は常識で考えれば分かるだろうって言われそうだけど、王様の説明がなってないから、こういう結果になっちゃったんだ。そういう事で押し通そう。


「という事は、身分の証明としては十分と考えてもいいんですよね?」


 ジャンニノさんはそういう事が言いたいんじゃないだろうけど、こうなったらその短剣を使おうが使うまいが変わらないだろう。口が固い一流クラブって。たとえ国であろうとも、お客様の秘密を洩らさないのが王国一のクラブの誇り!って感じだったら嬉しいな。


「はい、この短剣をお持ちのお方であれば、十分な身分の証になります」


「では、俺はこのお店で飲めますか?」


「…………服装をお改め頂き、個室をご利用頂けるのであれば、ご来店をお待ちしております」


 なんかすごく間があったな。このやり手っぽい雰囲気のジャンニノさんでも悩む、ギリギリのラインだったのかもしれない。だから、他の客に迷惑をかけないために個室に隔離したんだろう。普通なら個室の方がVIP用だもんね。


 そこから俺は、迷惑も考えずに質問しまくった。とりあえず、最低限この店で遊べる服を買えるお店の情報を得られたから、バッチリだ。しっかりお店に予約もしたし、服さえなんとかなれば大丈夫なはずだ。


 とりあえず、ジャンニノさんに服屋を教えてもらったお店に直行だな。繁華街の近くの店なので、夜遅くまで対応してくれるそうなので何とかなるはずだ。そのあとは待望の夜のお店だ。


 ……ふと、ここまで苦労して、この店で飲む必要があるのか疑問に思う。……もう、何と言うか理屈じゃなくて意地の問題なんだな。ここまで頑張るんだ、王都一のクラブ、絶対に楽しんでやる。

書籍とコミックの発売日が決まりました。

活動報告に載せますので、ご確認頂けましたら幸いです。

よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
王直々の身分証を夜の店に使う胆力あるならもうギルドカード提示しなよwww
[気になる点] 物語りが進むほど、主人公が嫌いになる、、、 ベル達がいなかったら、とっくに離れてたなぁ、、、
[気になる点] この旅から主人公がイヤななろう主人公になっちゃってる
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