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二百九十話 予定確定

 初めて精霊の村にお客さんを迎え入れ、大変ではあったが無事に二泊三日の行程を終えた。先ほどアルバードさんに連れられて精霊達は飛び去り、ベル達は寂しがっているが、俺は無事に終わった事にホッとした。


 ホッとして少しゆったりした時間が流れるはずだったんだが、なぜか俺はイフとオニキスにどちらに酒場を任せるのかと迫られている。精霊なんだからもっと情緒を大切にしてほしい。


「えーっと、別に一人でやらなくてもいいと思うよ。酒場は忙しくなるだろうし最初は二人で始めて、村が発展したらお互いに酒場を出せばいいよ。そうすれば酒場のノウハウも学べるし、自分が作りたい酒場のイメージもできるでしょ?」


 先送りと言うか、玉虫色の回答だけど別に悪い案じゃないと思う。とりあえず争いは収まるしね。


「あっ? 酒場のノウハウとイメージ? そんなもん酒をたらふく準備して、ツマミでも用意すりゃあ十分だろうよ。学ばなくても知ってるぞ」


 あれ? オニキスも頷いてるし酒場って簡単? それと、興奮しているからか、いつもよりもイフのガラが悪い。美人なんだからもう少し色気を大事にしてくれたらいいのに……。


「えーっと、この世界の酒場ってどんなの?」


 よく考えたら俺、この世界で酒場に飲みに行った事がないから、雰囲気とか知らない。興味がなかった訳じゃないし、一応冒険者ギルドとの関係も平和的に解決できた。


 ガッリ親子の事はあるにしても、酒場に飲みに行くぐらいなら問題はない。でも、迷宮都市だと結構有名になっちゃったから、変な事をしたらすぐに噂が広まりそうで怖くて飲みに行けなかったんだよな。うん、有名人は辛いな。サングラスってどこに売ってるんだ?


「あぁ? 酒場? そんなもん食堂で酒を出せば酒場だろ。あと、なんで自慢げな顔してんだ?」


 有名人とか考えてたら自慢げな顔をしていたらしい。今の俺って完全に自意識過剰なんだろうな。とりあえず、調子に乗るのはやめて酒場について考えるか。イフの説明から想像するに、基本的にこの世界の酒場って居酒屋みたいな感じっぽいな。


「自慢げな顔は忘れてくれると嬉しい。とにかく、食堂でお酒を出す感じなんだね……」


 たぶん他にも、女の子が相手をしてくれる飲み屋ぐらいはありそうだけど、デリケートな話題だから、そこら辺をイフとオニキスに確認するのは危険だ。


 コッソリとノモスかヴィータに聞く……いや、もうすぐ一人旅に出かける予定なんだ。ノモスとヴィータは信頼できるけど、バレる可能性は少しでも減らしておくべきだろう。遊びに行った時に自分の目で確認しよう。


「裕太、どうかしたのか?」


「イフ、たぶん裕太の兄貴の世界には沢山の酒場があるんだわ。だからノウハウとかイメージとかの話題が出たのよ」


「なに! おい、裕太。裕太の世界の酒場ってどんなのがあるんだ?」


「あっ、ああ、えーっと……」


 女の子がいる飲み屋から、エッチなお店に妄想を飛ばしていると、イフに胸倉を掴まれた。ついでにオニキス、シルフィ、ディーネ、ノモスも横から俺の顔を覗き込んでいる。ノモスはともかく、他の美女達に迫られるのはまんざらじゃないな……目つきが怖いけど。


「裕太、あなたの世界にはどんな酒場があるの?」


 シルフィから真剣な顔で元の世界の酒場について聞かれた。相当興味があるらしい。イフ、頼むから揺すぶらないで。


「え、えっと、居酒屋とかバーって言うお酒を飲む専用のお店とかあるかな。イフ、苦しいから手を放してくれ」


「あっ、おう。悪い」


 イフが手を放してくれた。ふいー、よく分からないが、ペラペラ話すと墓穴を掘りそうだし、居酒屋とバー推しで乗り切ろう。うっかりキャバクラとか〇〇パブとか話してしまうと、俺の爽やかな……とまでは言わないが、今まで築き上げてきた意外と真面目的なイメージが崩れる。


「それで裕太ちゃん、居酒屋とバーってなんなの? 美味しいお酒が飲めるの?」


 ディーネがワクワクした表情で聞いてくる。……居酒屋とバーって説明が難しいな。


「えーっと、居酒屋はこの世界の酒場に近い感じなのかな? お酒に合う料理がメニューに沢山あって、ワイワイと楽しみながらお酒を飲むお店だね」


「バーは?」


「バーは……バーテンダーっていう、お酒のプロが選りすぐったお酒を並べているお店。薄暗いけど雰囲気がある部屋で、静かに美味しいお酒をゆっくりと楽しむんだ」


 まあ、ダーツバーとかプールバーみたいに雰囲気が違うバーもあるけど、説明が難しい。


「酒のプロじゃと? そいつはうまい酒が造れるのか? どんな酒を造るんじゃ?」


「いや、ノモスが考えている酒造りとは違うと思うぞ。俺がいた世界には数えきれないほどのお酒があるんだ。俺みたいな素人はどのお酒がどんな味なのかとか分からないから、好みをバーテンダーに伝えて美味しいお酒を紹介してもらう感じかな?」


 カクテルに関しては……今教えると蒸留酒の在庫が激減しそうだからダメだな。今でも結構ディーネが飲んでるのに他の大精霊達まで飲みだしたら、蒸留酒を寝かせる暇がない。


「裕太の兄貴、詳しく聞かせてちょうだい。私、バーの雰囲気って好きそうだわ」


 闇の精霊だし、薄暗いってところに魅かれたのか? でも、詳しくって言われてもカクテルを除くとどう話したらいいのか……道具や雰囲気、バー特有の拘りとかか?


 …………バーについて話せるだけ話した。シルフィやノモス、ドリー、ヴィータには好感触のようだ。じっくりとお酒に向き合うってところに魅かれたらしい。半面、ディーネとイフは騒げないってところが微妙に苦手らしい。


「最低でも蒸留酒が数種類、それに年数が違うお酒も必要だわ。すぐにバーを開くのは難しそうね」


 オニキスがぶつぶつ言いながら考え込んでいる。バーに魅かれてはいるが、現状では無理だと冷静な判断をしているようだ。考え込んだあとにオニキスはイフに話しかけ、居酒屋開設について話し出した。どうやら酒場よりも居酒屋の方向で考えるらしい。数日中に居酒屋を作ろうって言ってきそうだな。


 村に付き添いでくる大人の精霊も増えそうだし、居酒屋があるのは悪くないと思うけど……お酒の補給が問題になりそうだ。精霊貨の両替制限はしっかり確認しよう。


 いつの間にか俺の目の前でシルフィ達とルビー達が集まり、居酒屋についての会議が始まっている。俺はどうしよう……ベル達は完全復活したのかフクちゃん達と元気に飛び回って遊んでいる。


「あー、ジーナ、サラ、マルコ、キッカ。この二泊三日、手伝ってくれてありがとね。とりあえず今日はもう大丈夫だから、好きな事をしてていいよ。遊んでおいで」


「あっ、師匠、それならあたしは料理がしたい!」


「私もです」


 ピシッとジーナが右手を挙げ、サラも続く。ジーナ達も結構忙しかったはずなんだが、今から料理をする元気があるのか。羨ましい若さだ。


「構わないよ。必要な素材が決まったら言ってくれ。マルコとキッカはどうする?」


「うーん、キッカは何かしたいことあるか?」


「キッカおみせにいきたい! ざっかやさん!」


 マルコがキッカに何かしたい事がないかと聞くと、キッカは元気にやりたい事を主張した。自分の意見がハッキリと言えるようになった事はいい事なんだけど……雑貨屋か……。


「あー、キッカ、悪いんだけど雑貨屋の店主があそこで話に交ざってるんだ。雑貨屋はもう少し後にしてあげてくれないか?」


 エメにお客さんだよって言うのは簡単だけど、エメも今回の村開きで頑張ってたし、あの中でエメだけ居酒屋の話に混ざれないのは可哀そうだ。俺が言うとキッカは分かったと頷いてくれた。


「おにいちゃん、キッカこうえんであそびたい!」


「わかったこうえんにいくか! 師匠! おれたちこうえんにいってくる」


「ああ、行っておいで。エメの手が空いたら公園に迎えに行かせるね」


 元気に手を振って走っていくマルコとキッカを見送り、ジーナとサラがお願いしてきた食材を渡して俺は部屋に戻る。今日の晩御飯はジーナとサラの手料理か……ある意味贅沢だな。晩御飯までは時間があるし、俺はコーヒーを飲みながら一人旅に向けての計画を練ろう。


 俺は旅行に行く前にガイドブックを買って熟読するタイプなんだけど、残念ながらこの世界にはないからな。ある程度の指針を決めておかないと、何もできずに終わってしまう。準備は大切だ。


 ***


 うーん、旅行中の計画はすぐに完成した……というよりも情報量が少なすぎて、予定がスカスカだ。切実に検索したい。まあ、不安ではあるが、ない物ねだりをしてもしょうがない。異世界に来ちゃったんだ。ネットやガイドブック頼りの旅行はやめて、未知との出会いを楽しむスタイルに変更しよう。


 昼間はベリル王国の王都をブラついて観光と、迷宮都市では手に入らなかった食材や道具の買い物。この時に忘れないようにウナギを購入しないとな。夜遊びは王都の飲み屋にでも突撃して、現地でお勧めの店を聞けばいいよね。


 出たとこ勝負だけど、王都での遊び方は決まった。あとはいつ遊びに行くかだな。気持ち的には今日にも旅立ちたいところだけど、次の精霊の村にお客さんを迎えるまでは我慢するべきだろうな。次からは付き添いの精霊と中級精霊が増えるんだし、問題なく精霊の村が運営されるのを確認してから旅立とう。


 先に迷宮都市に行ってからとも考えたが、今の俺のテンションで、更に10日以上遊びに行くのが遅れるのは耐えられそうにない。実家の食堂が気になるであろうジーナには悪いが、二泊三日の予定なんだし少し我慢してもらおう。


 うん、決定。予定が決まったのなら、あとは俺がいなくても楽園に問題が起こらないように準備する事と、ジーナ達が退屈しないように、新しい課題を与えておこう。


 新しい課題は。ローズガーデンみたいにあっさり完成する課題じゃなくて、コツコツと時間をかけて精霊達と協力しながら完成するような課題、その上で楽園に役に立つような物がいいな。


 楽園に役に立つか……あったらいいなって思う施設は沢山あるんだけど現実的じゃないし、ちびっ子軍団+ジーナでも作る事ができる施設って考えると、選択肢が少なくて結構難しい。出発までにいいアイデアを思いつかないといけないから、意外と時間がないかもな。

今回で精霊の村開きについては一旦終了になります。閑話的な話を一話挟んで一人旅に出発しますので、よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人間のためとは違う一風変わった施設のオープン、子供達?の反応など心躍る者がありました。主人公もさぞ満足感があった事と思います。酒場のオープンが楽しみです。
[一言] イフは殆ど役にたってないし、生意気だし、他の精霊と契約し直ししたら良いのに。契約者の首は締めるは呆れ藁 シルフィは万能ですね!
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