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二百八十八話 慰労会

遅れて申し訳ありません。予約を済ませたと勘違いしてました。

 精霊の村の村開き、無限の体力を持つ子供達相手に俺やシルフィ達は防戦一方だった。ディーネが倒れ、ドリーが膝をつく、そんな悲惨な戦場を戦い抜け、俺達は見事に休憩時間にたどり着いた……くだらない妄想をしてないで、見回りを続けよう。


「あっ、師匠」


 ローズガーデンに入ると俺に気が付いたジーナがシバと一緒に走り寄ってきた。今のローズガーデンの担当はジーナらしい。


「ジーナ、シバ、お疲れ様。ローズガーデンの様子はどう?」


「うん、問題ないよ。子供達もローズガーデンを気に入ってくれたみたいで、楽しそうに遊んでるんだ」


 ジーナも自分達で作ったローズガーデンを楽しんでもらえたのが嬉しいのか、公園で子供達の相手をしていた時よりも元気なようだ。頑張ったと言いたげに、俺の顔の前に浮かぶシバを撫で繰り回しながら話を続ける。


「楽しそうならよかったよ。悪いけど、ローズガーデンは頼むね。俺達は軽く見回った後に公園に行くから」


「分かった。任せてくれ」


 どん! っと大きなお胸様を叩いて請け負ってくれるジーナ。眼福なんだけど弟子なんだよなー。


「師匠、どうかしたのか?」


「い、いや、なんでもないよ。じゃあまた後でね」


 シバを放し、ジーナに別れを告げてローズガーデンの見回りに出発する。咲き誇るバラと水路の水が煌めく中を小動物(精霊)が飛び回り、俺やシルフィに気が付くとご挨拶なのか軽く戯れにきてくれる。


 ……ファンタジーはファンタジーなんだけど、俺の場違い感がハンパじゃない。こういう場所は、少女漫画のキラキラした主人公が歩く場所であって、間違っても俺じゃない。


「ほら、みんな待ってるわよ。遊びに行ってきなさい」


 シルフィがじゃれついてきた小鳥の精霊を、軽く撫でて遊びに行くように促す。小鳥はパタパタと羽を振った後「ピー」っと鳴いて飛び去っていく。うん、シルフィにはローズガーデンが似合う。まるで物語のワンシーンを見たようだ。


 俺には似合わない場所かもしれないが、俺以外の全員が似合うのなら問題ないだろう。あっ、ノモスも似合わない気がするから、俺の仲間だな。


「裕太、まだローズガーデンを見て回るの?」


「いや、ここは問題なさそうだから、次は公園にでも行ってみようか」


「分かったわ」


 ローズガーデンが綺麗で精霊達も楽しめる場所だって事は十分に分かった。さっさと公園に向かおう。といっても隣だしすぐに到着するんだけどね。


「……分かりやすくはしゃいでるね」


「そうね。まあ、浮遊精霊や下級精霊は普段から元気いっぱいなのに、今は遊ぶ道具が沢山あって、サラ達とも遊べるんだからしょうがないのかもね」


 なるほど、確かに遊具やサラ達に群がってるな。めったにできない実体化しながらの遊び。子供ならテンションが上がるだろう。赤ん坊が平均台をハイハイで猛ダッシュしているのは心臓に悪いが、どうせ精霊だから大丈夫だ。俺はもう慣れた。


「ゆーたー」「キュー」


 レインにライドオンしたベルが、浮遊精霊や下級精霊を引き連れて突撃してきた。そしてそのまま俺とシルフィを取り囲み、ピトっとしがみついてくる。となりから「きゃ」っとシルフィの声が聞こえたので、同じような状況なんだろう。


「ニャフ」っと俺が食堂で面倒を見ていた子猫が俺の肩に乗る。頭の上に重みを感じると「あうー」っという声と同時にベルよりもさらに小さな手で、ペチペチとおでこを叩かれた。どうやら赤ん坊が俺の頭の上に乗っているらしい。


「ゆーた、おともだちたくさん。べる、たのしー」


 レインの上に乗ったベルが、ニパっと満面の笑みで話しかけてくる。一緒に遊ぶお友達が増えた事が嬉しすぎて落ち着かないのか、レインに乗ったまま両手両足をわちゃわちゃと振り回している。乗られているレインも一緒にヒレをパタパタとしながら「キューキュー」言っている、同じ気持ちなんだろう。


「そっか、楽しいならよかったね。でも、楽園ではベルとレインは案内する側なんだから、お友達をしっかりおもてなししてあげてね」


「おもてなしー……めいろいくー」「キュー」


 おもてなしと聞いて、ベルは少し悩んだ後、迷路に行くと自信満々に宣言した。ベルの中でおもてなしは迷路に行くことらしい。ベルは迷路の中での追いかけっこが好きだから、他の子達も喜ぶと思ってるんだろう。まあ、迷路は楽しいから間違ってはないな。


「よし! ベル隊員、レイン隊員。お客様である精霊達を迷路でおもてなしせよ!」


「いえっさー」「キュキュッキュー」


 ピコンっと反応したベルとレインが分離し、それぞれ敬礼しながら請け負ってくれた。俺のバカ! せっかく忘れかけてたのに、なんで自分で隊長プレイをやっちゃうかな。


 いや、まあ、いいか。たしか開き直ったんだった。張り切って命令を出してキョトンと無反応の方がよっぽど辛い。偶に遊びでやるぐらい問題ない。あとで少し恥ずかしくなるだけだ。


「みんな! めいろいくー」「キュキュー」


 ベルとレインが号令をかけて、遊びに来た子供達を引き連れ迷路に突撃していく。ベル達はたぶん問題ないだろうし、他の子達の様子をみるか。しがみつかれていたシルフィと顔を見合わせ、お互いに苦笑いをしたあとに、公園の見回りを再開する。


 うん、マルコは鉄棒に片足を掛けてぐるぐる回ってるな。周りの精霊達も飛びながら、マルコと一緒に回ってるから楽しんではいるようだ。


 サラとキッカはグラウンドでボール遊びか。フレアやフクちゃん達も混じってボール目指して走り回っている。トゥルはブレずにタマモや他の動物型のモフモフを追いかけている。……問題ない?っという事にしておこう。他にも見て回る場所は沢山あるからな。


 ***


「今日はお疲れさま。色々大変だったけど、なんとか精霊の村の目途もついた。明日もあるけど、お祝いという事で楽しんでほしい。乾杯!」


 いつものメンバーに加えて、ウインド様とライト様、アルバードさんが宴会に加わっている。精霊王様二人は今晩には戻るって言ってたけど、飲んだ後に帰るらしい。


 子供達は夕食を済ませ、ベル達とフクちゃん達に加えサラ達も一緒に宿屋でお泊りだ。今日は宿屋にルビー達も待機するらしいから、今頃子供同士で楽しんでいるだろう。


 ジーナはあの人数の子供達と一緒に、あの宿は辛いらしいので、一人自分の部屋でお留守番だ。まあ、ちょっと飲みたそうにしていたが、ジーナをウワバミが揃う宴会には参加させたくない。赤ワインを一瓶分とツマミを差し入れたら、嬉しそうににやついてたから、今頃一人で寝酒を楽しんでいるはずだ。


 ゴクゴクとエールやワインを流し込んでいる精霊達。口々に大変だったと言い合っているあたり、今日はサラリーマンの飲み会みたいになりそうだな。


「いやー、こんなに浮遊精霊や下級精霊と接したのはいつ以来だろう。僕達が幼かった頃もあんなだったのかな?」


「うむ、遥か昔ではあるが、妾達もあのようにはしゃいでおったのじゃろう。偶には若い者達と共に過ごすのも悪くないのじゃ」


 ミニドラゴン姿のウインド様と玉兎にしか見えないライト様が、お酒を片手に妙に達観した表情で語り合っている。見た目は可愛いのに妙に年寄り臭いよな。


 その隣ではヴィータとアルバードさんが、今後のシフトについて話し合っている。普段はゆったりと森の動物達の面倒を見ているのに珍しい光景だ。命の大精霊であるヴィータにとっても、はしゃぐ子供達の面倒を見るのは大変だったらしい。


「はは、ガキなんざぁ元気でなんぼだぜ。情けねえな」


 普段から子供達の面倒を見ていたイフが、ヴィータとアルバードさんに発破を掛けている。そういえばイフは上手に子供達をあしらってたな。火山に住んでた頃はフレアにも慕われていたみたいだし、他の大精霊達とは経験が違うらしい。


「お姉ちゃんだって、小さい子達と遊んだ事は沢山あるのよー。でも集団になるとあんなに大変だとは思わなかったわー」


 数人の子供と遊ぶのと、幼稚園の先生を同じと考えるのは無理があるよな。やっぱり普段の宴会とは雰囲気が違う。宴会というよりも慰労会って感じだな。


 普段よりも少し愚痴が多い宴会が続く。ああ、ライト様にデザートを差し入れするのを忘れてた。お酒を飲んでいる途中だけど、聞くだけ聞いてみるか。


「ライト様、ルビーが作ったプリンやアイス、クレープがあるんだけど、味見してみない?」


「むっ、プリンじゃと」


 クリンっと丸い体ごとこちらを振り向くライト様。この調子だとお酒を飲んでいるのは関係なさそうだな。


「ああ、レシピ自体は変わらないけど、試してみないかと思ってな」


「う、うむ。よいじゃろう。妾が味を見てやるのじゃ」


 耳をピコピコさせ明らかにソワソワしているのに、頑張って真面目な表情を保っているライト様。可愛い。


「じゃあ頼むね。ウインド様はどうする?」


「んー、僕はお酒の方がいいな。次の機会にでも食べさせてよ」


「了解」

 

 ウインド様はお酒がいいらしいので、ライト様の前にデザートを並べる。


「では、まずはアイスからじゃな」


 アイスに添えたスプーンを魔力で器用に操り、口に運ぶライト様。口では「うむ、まあまあじゃな!」とか言ってるけど、小さな真ん丸尻尾が高速でピコピコしているので、喜んでいるのがまる分かりだ。


 ベル達みたいに天真爛漫に喜んでくれる姿も可愛いけど、こう喜ぶのを我慢しているのに、隠しきれていない玉兎もなかなかいいな。チラリズムに通じるものがあるのかもしれない。


「うむ、なかなかよかったのじゃ。妾としてはこのカラメルじゃったか? この量を増やした方がいいのではないかと思うぞ」


「そうか、ありがとう。ルビーに伝えておくね」


「うむ、また味を見てやろう」


 デザートを全部食べて満足そうなライト様が、一応アドバイスをくれた。デザートが終わったので、再びお酒を「お二方、そろそろ精霊宮に戻る時間です」飲もうと……アルバードさんがウインド様とライト様の背後に仁王立ちして告げる。


「えっ? でもほら、僕なら朝まで飲んでもすぐに戻れるし、仕事もできるからまだ大丈夫だよ」


「夜には戻るとの約束だったはずです」


 ぬんっとウインド様に顔を近づけながら言うアルバードさん。


「で、でもね、アルバード、それは言葉の綾って「約束だったはずです」やつで……はい」


 抵抗を続けようとしたウインド様の言葉に被せて、有無も言わせずに納得させるアルバードさん。いざとなったらちゃんと説得できるんだな、さすが精霊王様の補佐だ。


「じゃあ、裕太、世話になったね。アースも遊びに来たがってたし、また来るよ」


 アース様は食堂に入り浸りそうだけど、そのぶん、手がかからなそうだし別に構わないか。


「遊びに来るのは構わないけど、仕事をさぼってきたらダメだよ。楽園の影響で精霊宮の職員さんに迷惑を掛けてるんだ。サボりの片棒を担ぐ事になったら申し訳ないからね」


「裕太は僕の事をどう思ってるのかな? 仕事をさぼる事なんて極稀なんだよ」


 極稀にはサボるらしい。アルバードさんが首を左右に振っているところを見ると信用し辛いな。アルバードさん達の努力の結果、極稀に仕事をサボる状況なのかもしれない。


「ウインド様、話してないでお戻りください。飲むのもダメです」


 反論しながらもお酒を飲もうとしたウインド様から、カップを取り上げて外に誘導するアルバードさん。巨大化……元の姿に戻ったウインド様は、こちらを何度も振り返りながら帰っていった。本気で飛べば一瞬で見えなくなるはずなのに、せめてもの抵抗をしたかったらしい。ライト様は素直に帰っていったんだけどな。


 アルバードさんがウインド様とライト様を追い返しても宴会は続いた。俺はそろそろ寝ないと明日が持たないぞ。タイミングを見計らって部屋に戻ろう。

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