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二百八十五話 精霊の村オープン

 精霊の村のプレオープンを無事に終えて、発見した問題点を潰しながら楽園の見回りと、本番の村開きの準備をした。いよいよ今日は精霊の村の村開きだ。


 寝覚めに一杯のコーヒーを飲み、気持ちを落ち着けて部屋から出る。いつも通りベル達の朝の挨拶を受けて、リビングでの朝食……俺だけではなくベル達、ジーナ達、フクちゃん達もどこか落ち着かない雰囲気を漂わせている。ちびっ子軍団+ジーナも村開きと言う事でドキドキしているんだろう。


 普段と変わらないのはシルフィ達だけか。ここら辺は年季の差ってやつなんだろう。精霊の村の村開きの為に色々と考えた。パレードやテープカットなんかも提案してみたが、精霊にそういう面倒なのは合わないと言われて諦めた。


 パレードはともかくテープカットとか、たしかに浮遊精霊や下級精霊だとつまらないだろう。俺だってテープカットの場に招かれたら、面倒だと思うもん。招かれた事ないけど。


 結局、昼間は普通に村を楽しんでもらって、夜に少しだけ宴会っぽい事をする事になった。ここで派手にやると、その話を聞いた他の浮遊精霊や下級精霊が羨ましがっちゃうそうだ。


 浮遊精霊や下級精霊だと、毎回宴会があると誤解する子も確かに出てきそうだよな。年齢は俺よりも年上だが、精神や行動は子供だし勘違いしやすい年頃だ。浮遊精霊や下級精霊に残念がられたら俺の心が凹む。あんまり大袈裟な事はしないで、のんびり精霊の村を楽しんでもらおう。


「シルフィ、たしか二泊三日の予定だったよね?」


「ええ、一泊二日にしようかとも思ったらしいけど、それだと短すぎるって事で二泊三日にしたらしいわ。待ってる子達も多いからバランスに苦労しているみたいね」


 精霊宮の職員さん達、村開きになっても調整で苦労しているらしい。もう少し村が発展すれば調整も楽になるだろうけど、当分は苦労が続くな。入場制限なしで精霊達が気軽に遊びにこられるようになるのは何時になるか……俺、生きてるかな?


「そういえばそろそろ約束の時間ね。表で出迎えるんじゃなかったの?」


 おっと、そうだった。せっかくの村開き、大袈裟な事はしなくてもお出迎えぐらいはちゃんとしないとな。のんびりし過ぎちゃったよ。


「みんな、そろそろお客さんが来るから、外に出てお出迎えするよ」


 リビングでくつろいでいた全員に声を掛けて家から出る。今日は全員が揃ってるから賑やかだな。


「裕太の兄貴、おはようだぞ!」


 家の外に出るとルビー達がすでに待機していた。まだお客さんの精霊達は来てないみたいだな。ちなみに醸造所の精霊達にも声はかけたんだが、いまは一刻も早くお酒を大量かつ美味しく作り上げる事が一番の使命だと断られた。


 ようするにお酒を造る事が一番大事って事だな。恐ろしい事に醸造所にいる精霊達は全員同じ意見らしく、わき目もふらずに動き回ってた。醸造所で酒造りをしている精霊も個性が強いらしい。


 俺が想像していた精霊像って中級精霊ぐらいまでの精霊なんだな。それ以上の位になると、色々と自分の個性が確立されているようだ。俺が会った事がある精霊が、特別個性的なだけって可能性もあるけどな。


「おはようみんな」


 ルビー達と朝の挨拶を交わし、簡単に今日の予定を再確認しておく。うん、ルビー達も気合が入ってるな。今までは料理に興味を持ってもらえなかったらしいし、自分のお店に精霊達が料理を食べにくる事が嬉しいようだ。


「裕太、来たわよ」


 ルビー達と話していると、シルフィがついにお客さんが来たと教えてくれる。シルフィが見ている方向を向くと、小さな点がドンドン大きくなる。


「ねえ、シルフィ、俺、前に同じような光景を見た事があるんだけど……」


「そうね、似たような事があったわね」


「とっても大きなドラゴンだよね。風の精霊王様と同じで鱗の色はライトグリーンだね」


「ええ、風の精霊王様だもの。同じよね」


「なんで、ウインド様がくるの? 大げさな事をしないから、精霊王様は来ない事になったんじゃ?」


「さあ? たぶんじゃあ僕が乗せていってあげるよ!っとか言ってついてきたんじゃない?」


 自分からタクシー代わりになる精霊王様か……精霊達からしたら親しみが持ててよさそうだけど、俺からしたら迷惑な話だ。大会社で新入社員の歓迎会を行おうとしたら、引率で会長が来たって感じか? ……うん、意味が分からん。


「そういう行動は、王様としてありなの?」


「人とは違うもの、ありね。お忙しい方ではあるんだけど、普通の国の王と違って危害を加えられる事もないし、仕事が終われば自由に動かれてはいるわ」


「なるほど……」


 ちょっと迷惑だと思ったのは内緒だ。


 王位を狙うような精霊はいないのか、こういうのを民度が高いって言うのかもな。単に権力に興味がなくて、自由に飛び回ってるかお酒を飲んでるのが好きってだけな気もするけど。


 空を見上げていると前回と同じようにドラゴンが縮んでいく。その後にはワラワラと複数の影が、小さい子が多いな。おっ、降りてきた。ウインド様の事は後にして、とりあえず並んでお出迎えしよう。


 全員で横一列に並び、ウインド様達が降りてくるのを待つ。ベル達やフクちゃん達が楽しそうに降りてくる精霊達に声をかけてはしゃいでいるが、降りてくる精霊達も負けず劣らずにはしゃいでいる。


 引率の精霊から離れないように言われているのか、大きく集団から離れる事はないが、上下左右に踊るように飛び回っている姿が見える。これはあれだ……大騒ぎの予感がするな。


「「「精霊達の楽園、精霊の村にようこそ! (キュー、クー、ホー、プギャ、ワフ、……)」」」


 目の前に降り立った集団に、一斉に歓迎の挨拶をする。まあ、話せない子達は鳴き声だから、バラバラだけど、こういうのは気持ちが大事だから問題ないはずだ。


 現にやってきた精霊達からは、「あそびにきたー」とか「あうー」「キュッ」「ピー」とか楽しそうな反応が返ってきている。大成功だな。


「あはは、歓迎ありがとう。精霊が自由に実体化し遊べる場所。立場上、僕には作る事ができない、まさしく楽園! みんな、裕太に感謝しないとね」


「えっ? うわっ」


 ウインド様が俺達の挨拶に応え、振り向いて一緒にきた集団に俺に感謝するように言うと、一斉にちびっ子達が群がってきた。動物型の子達の鳴き声は分からないが、なんとなく喜んでくれているのは分かる。


 人型の子達は子供の声でありがとーっともみくちゃにしてくれる。囲まれててよく見えなかったが、赤ちゃんみたいな声も聞こえたな。


「みんな、そろそろ戻っておいで」


 ウインド様の声が聞こえると、俺の周りから精霊があっさりと離れていく。そんなにあっさり離れられると少し寂しい。……気を取り直して精霊王様に向き合う……あれだな小さなドラゴンの姿のウインド様に、下級精霊や浮遊精霊が群がっている。背後に立っている男の精霊が本来の引率者かな? 髪の色から風の精霊みたいだな。


 しれっとベル達やフクちゃん達が混ざっているのはいいんだろうか? あっ、もう一つ群がられている集団があると思ったら、光の精霊王のライト様がもみくちゃにされてるな。……どうせなら闇の精霊王様に来てほしかったんだが、それを言ったら本気で怒りそうだから内緒にしておこう。


「ほら、まだお話の途中だから、大人しくしていて」


 ウインド様の指示に大人しくしたがう精霊達。ベル達もフクちゃん達も満面の笑みで戻ってきた。なんかぐだぐだだが、まあ精霊にはこういう緩い感じが合ってるのかもしれない。


「えーっと……そうだった。それで、この精霊が今回の引率だよ」


「風の大精霊、アルバードだ。よろしく頼む」


「あっ、裕太です。よろしくお願いします」


 アルバード、なんか普通の名前だな。名前を付けた契約者が属性とか考えないタイプの人だったのかも。いや、風の精霊だからバードと掛けたとか? むぅ、なかなかセンスが光ってるかも。


「ああ、他の精霊にも言われたと思うが堅苦しくしなくていい。私など本来であれば私がこの子達を運んでくるはずだったのだが、いきなり精霊王に仕事を奪われるような憐れな存在だからな」


「あはは、相変わらずアルバードには自虐癖があるね。心配しなくても僕とライトは夜には帰るんだから、仕事は残ってるよ。元気出して!」


 ウインド様、それは自虐じゃないよ。アルバードさんは明らかに嫌みを言ってるよ。だってアルバードさんのこめかみがヒクついてるもん。たぶんウインド様とライト様、無理やりくっ付いてきたんだろうな。


(シルフィ、あの二人は大丈夫なの?)


 俺が思っていた、精霊のホンワカした関係が消え去りそうな雰囲気なんだけど。


(大丈夫よ。アルバードはウインド様の補佐役の一人なの。真面目だから振り回されてるだけ。いつもの事だから心配ないわ)


 ……ああ、自分で苦労を引き受けて、胃に穴が開いちゃうタイプの精霊なのか。そういう性格って精霊には向いてない気がするな。周りが基本的に自由だから、苦労が倍増してそうだ。


「ふぅーー、それで、だいたいの手順は聞いてるんだが、我々はそのように行動していいのか?」


 アルバードさんが長く怒りを追い出すように息を吐いたあと、こちらに質問してきた。お疲れ様です!


「ええ、基本的に自由に行動してもらって構いません。うちのジーナ達やベル達、フクちゃん達も混ざり込むと思うので、ご容赦頂けましたら助かります」


 っていうか、すでに一緒に遊ぶ気満々だよね。ジーナ達も可愛らしい下級精霊や浮遊精霊にメロメロみたいだし……ん? もしかしたらジーナ達があの子達と仲良くなって、新しく契約したりするかもな。それはそれで楽しみだ。


「敬語は必要ない。この子らにも守るべき事は教えてあるが不慣れ故、迷惑を掛ける事もあるかもしれん。フォローしてもらえれば助かる」


「じゃあ、敬語は止めるね。分かった。うちの子達はだいたいのルールを知ってるから、役に立つと思うよ。それで、一つ質問なんだけど、今回きている精霊に中級精霊がいないみたいだけどどうして?」


 たしか中級精霊も精霊宮に突撃してきたって聞いたんだけど、今回は明らかにちびっ子しかきてない。一番大きくてトゥルぐらいだよな。


「ああ、今回は中級精霊はきていない。自分達はあとでいいから、小さい子等を連れて行ってほしいと言ってな……そんないい子達の気持ちを無下にするように、精霊王ともあろう者達が無理矢理混ざり込んできおって……」


 ヤバい、怒りを再燃させてしまった。しかし中級精霊達はお兄ちゃん、お姉ちゃんとして、小さい子達に順番を譲ったのか。とっても偉いな。それに比べて……。

読んでくださってありがとうございます。

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