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二百八十三話 宿と雑貨屋

 精霊の村のプレオープン。両替所と食堂を体験した。いくつか問題が見つかったが、その為のプレオープンなんだ、見つけた問題点を潰せば本番の村開きは成功するだろう。残りは宿屋と雑貨屋だな。しっかり体験して楽しい精霊の村を作ろう。


 食堂での朝食が終わり、ゾロゾロと宿屋に向かって移動する。ベル達とフクちゃん達のテンションがハンパないが、元は広い部屋にワラのベッドを並べただけだからな。


 サフィが宿に手を入れたって言ってたけど、どうなってるかが少し心配だ。オニキスも自信がありそうだったんだけど……少しドキドキしながらも宿に入る。


「いらっしゃいませ」


 サフィがニコニコと出迎えてくれる。テンションが高いベル達とフクちゃん達が、べっどー等と言いながらサフィに群がる。


「ほら、みんな、一斉に群がったらダメだよ。順番に並んでね」


 食堂まではちゃんと並べてたんだけど、テンションが上がって頭の中から並ぶって行為が抜けてしまったらしい。俺の言葉にその約束を思い出したのか、ワタワタと列を作るベル達とフクちゃん達。なかなか微笑ましい光景だったな。


 もみくちゃになった影響か、ベルが先頭ではなく中盤ぐらいの位置にいる。なんか珍しい光景だ。今回のトップはなんとトゥルだ。いつも控えめのトゥルだから、ただ並ぶという行為でも先頭にいると驚く。こちらの光景もなかなかレアだな。二番目はウリか……土の精霊コンビで一位、二位独占。レースの混戦具合がうかがえる。


 まあ、こんな事が気になってるのは俺だけなんだろうな。トゥルも普段通りの表情だし、ベルもワクワクしながら自分の番を待っている。順番とかどうでもいいようだ。


「宿泊費は五百エルトね、自分で出せる?」


 サフィが優しくトゥルに聞くと、問題ないと頷く。トゥルは首から下げていた財布代わりの布袋を取り出し、銅貨を一枚一枚慎重にカウンターに並べる。なんか少し満足気だ。


 しかし一泊五百エルトか……食堂の定食と同じ値段だな。ベッドを共有で使う予定だから、高いのか安いのか微妙なところだ。


「みんな、こっちよ」


 全員の支払いが終わったので、サフィがベル達とフクちゃん達を手招きしてベッドの方に案内する。こちらから見るとベッドを置いた場所に、背が低い仕切りが設けられてようにしか見えないが、あれがサフィが手を入れた部分なのか? 宿内の遊ぶスペースが少し狭くなってるし、場所は大きめにとってるっぽいな。


「きゃふーー、おへやー」「キュキュー」「たのしそう」「くくーー」「なかなかだぜ!」「……」「「ホー」」「プギュー」「ワフーー」「……」


 先に仕切りの向こうを覗いたベル達とフクちゃん達から歓声が上がる。こちらから見ると地味だが、仕切りの向こうは、子供心をくすぐる光景になっているらしい。俺もちょっとワクワクしてきた。


 期待を胸に仕切りの向こうを覗くと……おお、これはちょっと凄いな。目の前にはベッドと、もう一台ベッドが置けるぐらいのスペースが取られ、ミニサイズの家具や止まり木が並べられている。


 下級精霊や浮遊精霊用の家具だろう。少し大きい家具は中級精霊の家具っぽいな。それでもちっちゃな家具にピッタリ収まったベル達やフクちゃん達の姿は、大変愛らしい。


 ベルとフレアは並んで幼稚園で使われているような椅子に座っている。こちらも可愛らしいが、俺が何気に萌えたのは、ただの窪みだと思っていた場所に、ムーンとプルちゃんがスッポリと収まり、ゆっくりとプルプルしている姿だ。あの感じだと相当落ち着くらしい。


 俺も子供部屋に同じような家具を設置しよう。自分で作るか? ……そうだな、ノモスやドリーに頼めば簡単なような気がするが、ベル達が使うのなら俺が作るべきだろう。まあ、木材の接合はドリーに頼む事になるんだろうけどな。


 家具を利用して楽し気に遊ぶベル達を見ているとホッコリする。さっきまで酒場がどうとか怪しげな会話をしていたシルフィ達も、微笑ましそうに眺めている事で、この光景の破壊力が分かる。 


「お師匠様、私達の部屋にもあの止まり木や窪みを作れませんか?」


 サラが俺に質問してくる。同じ考えなのが地味に嬉しいな。精霊達に対する愛を感じるぞ。


「うん、俺も作ろうと思ってたんだ。その時に一緒に作ろうか」


「はい、ありがとうございます」


「師匠! あたしもシバの家具を作りたい」


「師匠! おれもつくりたい」「わたしも!」


 サラに続き、ジーナ、マルコ、キッカも参加を希望してきた。時間ができたら師匠と弟子でDIYか……楽しそうだな。


「じゃあ、みんなで一緒に作ろうか」


 喜ぶ弟子達を見て、なんだか俺も嬉しくなる。精霊術の事とは関係ないが、情操教育にはいいイベントだな。


「じゃあ、ジーナ達もどんな家具があるのかよく確認して、参考にさせてもらうといいよ。自分の契約精霊が、どんな家具を好んでいるのかのチェックも忘れずにね」


 俺の言葉に真剣な表情で頷き、自分の契約精霊の元に向かうジーナ達。キッカもマメちゃんが止まっている止まり木を真剣に見ている。まだ小さいのにやるべき事をしっかり理解しているようだ。偉いぞキッカ。


 俺も負けないように観察しないとな。何しろ俺は契約している数が多いから、作るのが大変だ。じっくりとベル達の様子を観察する。


 じっくり観察していると、微妙な違和感を感じる。ちょうど隣にいるし、サフィに質問していみるか。


「ねえ、サフィ、家具を全体的に地味な感じにしているのはわざとなの? 色はともかく飾りぐらいなら加えられるよね?」


 みんな楽しそうに遊んでいるし、大変可愛らしいが部屋自体の華やかさが足りない。こちらの方が広いが、なんとなく漫画喫茶的な印象を受ける。色が華やかになれば、ドールハウス的な楽しみもあると思うんだけどな。


「ふふ、飾りは部屋を利用する子達に任せようと思ってるんです。雑貨屋で自分の好みの物を借りてきてお部屋に置いたら楽しいでしょ?」


 おおー、なんか深いぞ。そしてすごくいい考えのように思える。自分達の部屋は自分達で完成させるって事だな。オニキスが先に宿屋に行った方がいいって言ってたのはこういう事だったのか。ベル達にこの事を伝えたら、大張り切りで雑貨屋に突撃するだろう。エメは忙しくなりそうだな。


「すごく楽しいと思うよ。精霊達の好みも分かるし、いい試みだと思う」


「みんなで考えたので、楽しんでもらえたら嬉しいです」


 ルビー達と色々と話し合って楽しめるように考えてくれたのか。その光景を想像すると、文化祭を思い出す。ルビー達も楽しんで作業してくれたのかもしれないな。


「みんなが色々と考えてくれたから、ベル達やフクちゃん達も大喜びだよ。ありがとうね」


 ニコリと微笑むサフィ。水の精霊だけど、雰囲気としてはドリーに似ているな。落ち着いた人が集団の中に一人でもいると、安心できるから助かる。オニキスも落ち着いていると言えば落ち着いてるけど、ちょっとジャンルが違うんだよな。


 おっと、自分の場所を飾るのなら、そろそろ雑貨屋に行った方がいいか。ベル達はマリーさんの雑貨屋でも色々と観察してたし、自分で自由にできるとなったら時間がかかるだろう。


「みんな、ちょっと集まってくれ」


 自分が泊まる予定の部屋?で遊んでいるベル達とフクちゃん達を呼び集める。なにーって感じでわらわらと集まってくるベル達とフクちゃん達。みんな呼べば素直に集まってくれるのが助かるよな。


「そろそろ雑貨屋に移動するよ。それでサフィに教えてもらったんだけど、雑貨屋で物を借りて自分が泊まるお部屋を飾るんだって。楽しそうだよね」


「かざるー?」


 ベルがコテンと首を傾げる。あんまりよく分ってないようだ。


「ほら、家にもみんなの絵を飾ったり、サラが花瓶を買って花を飾ったりしてるよね。絵があったり花があった方が家が楽しくなった気がするよね。そんな風に雑貨屋で物を借りて、自分が泊まるお部屋を飾るんだよ」


 少しポカンとしたあと、何をするのか理解できたのか、ちびっ子達のテンションが上がる。ワチャワチャと騒ぎながら、早く雑貨屋に行きたいと訴えかけてくる。


「分かったよ。でも雑貨屋の中ではしゃぎ過ぎたらダメだからね」


 一応注意はしたが、元気なお返事が返って不安を誘う。今日は朝からテンションが上がりっぱなしだし、よく見ておこう。はしゃぐベル達にまとわりつかれながら雑貨屋に向かう。


「いらっしゃい!」


 雑貨に入るとエメが元気よく出迎えてくれる。うん、この子は某居酒屋でも働ける声の大きさだ。その元気な声に触発されたのか、ベル達もフクちゃん達もエメに口々にご挨拶している。ベルきたーっとか、きたぜ!っとかが挨拶なのかは疑問だけどね。


「みんなよく来たね! 借りたい物があったらカウンターに持ってきてね。一つ百エルトだよ!」


 俺やシルフィ達が挨拶する前に、エメが大きな声で店の説明をした。それを聞いたベル達とフクちゃん達が店の中に一斉に散らばる。まあ、ちゃんと見てれば大丈夫か。


「エメ、おはよう。騒がしくなっちゃうだろうけどごめんね」


「あはは、気にしないで。本番だともっと沢山くるんだから、いい練習になるよ!」


「そう言ってくれると助かるよ。それで、雑貨屋はどう? なにか困った事はない?」


「んー、まだ分かんないよ。たぶんお客が増えたら何か出てくると思うから、その時になったら頼むね」


 それもそうだな。なにが人気だとか分からないと困りようがない。特にベル達やフクちゃん達が好む物とか難し過ぎる。


「分かった。店を始めて困った事があったらその時に相談してくれ」


「うん、その時になったら頼むね」


「べるこれかりるー」


 エメと話していると、ベルが嬉しそうな声を上げながら飛んできた。両手でしっかりとボールを抱えている。ボールを借りる事は何の問題もないが、部屋に飾る物を探していたんじゃないのか?


「えーっと、べる、なんでそのボールを選んだの?」


「これ、べるとおなじいろー!」


 ベルが自慢げにボールを俺に見せてくれる。同じ色か……たしかにベルの目や髪の色に似た、ライトグリーンの綺麗なボールだ。たぶん魔物の素材を利用してるんだろうな。そしてベルは自分と同じ色に魅かれるらしい。


「そうか、教えてくれてありがとう。いいのを見つけたね」


「いいのみつけたー」


 嬉しそうにボールをカウンターの上に置き、首から下げた布袋から銅貨を一枚取り出しエメに渡す。お金を払う手順をしっかり覚えたみたいだな。少し得意げなベルの頭を、エメが撫で繰り回している。今のベルの仕草がエメのツボにハマったらしい。


「おへやにかざるー」


 たっぷりとエメに撫で繰り回されたベルは、ライトグリーンのボールを持って雑貨屋を飛び出していった。一つ借りたら、すぐに飾りにいくつもりなのか? ベルが楽しいのならそれでもいいんだけど、まとめて借りる事もできると、あとで教えておこう。

読んでくださってありがとうございます。

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